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大団円
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さぁ、とロジェは言うが、ミランダもディオンも当然そうした気持ちにはなれず、ミランダの方は未だ目の前で起きた出来事が受け止めきれず、呆然とロジェの顔を見つめた。
「ロジェ……。あなた、いきなりあんな二階から飛び降りるなんて……というか、今までどこに……」
すっかり伸びてしまったドニが護衛の者たちに連行されていく姿も目に入らず、ミランダは疑問を口にする。
「二階から発砲音が聞こえたでしょう? ですからこっそり二階へ行き、この男の仲間たちを一人一人片付けていたのです」
「あ、あなた一人で?」
「いえ。私の部下と一緒に」
「部下?」
「はい。向こうから何人か連れてきていて……ああ、こちらで新たに作ったのもいますが。とにかくその者たちを客席に紛れ込ませて、逃げ惑う客の振りをして、こう一気に……。途中で弓を引く男がいたので、私が単独で締め上げて、ドニ・ルフェーブルに止めを刺す機会をうかがっていたのです」
なんてことのないようにロジェは淡々と報告する。
そう言えばいつの間にか銃声は聞こえなくなっていた。まさかロジェ(とその部下)が陰で動いていたからだったとは……。
口の利けないミランダに代わり、ディオンが疑問に思ったことを訊く。
「きみはミランダの護衛だろう。彼女のそばを離れたのはなぜだ」
「ディオン様ならば、必ず姫様を守ってくださると思ったからです」
「それは……違う。守ってもらったのは結局俺の方だ。ミランダは身を挺して……もしあと少しでずれていたら、俺の代わりに彼女が怪我を……命を落としていたかもしれない」
守るべき存在に守られてしまったとディオンは悔しそうな顔をする。きつく握りしめられた彼の拳にミランダはそっと触れた。
「ディオン様。わたしはディオン様に守っていただきましたよ」
恐れることなくドニと一対一で剣で戦い、見事彼を追いつめた。
(それに……)
『ミランダと貴様を同じにするな。彼女が悪女を演じていたのは、彼女の大事な姉君のためだ。誰かを傷つけることを目的する貴様と断じて同じではない!』
激昂するほど、ディオンはドニの言葉を否定した。ミランダがどうして悪女を演じていたのか、その理由をきちんとわかってくれていた。
そのことが、ミランダはとても嬉しかった。
「あなたがわたしのことを守りたいとおっしゃってくれたように、わたしもあなたのことを守りたいと思ったのです。だから、怖かったけれど、共に舞台に上がることができた。ですからどうか、そんな顔をなさらないで」
「姫様のおっしゃる通りです。結果的にあなたたち二人は無事です。今はその喜びを噛みしめるべきでしょう」
ディオンはミランダをじっと見つめ、一歩を踏み出したかと思うと、彼女をひしと抱きしめた。
「ミラ、俺を救ってくれてありがとう。あなたの優しさと強さで、俺は魔女の生き残りに打ち勝つことができた」
「ディオン様……」
ミランダは胸がいっぱいになり、ただ彼の背中に腕を回し、涙を流すことしかできなかった。
しかしそれで十分だったのか、客席から拍手が起こった。
「国王夫妻、万歳!」
「お二人の愛の力が、悪を打ち倒したんだ!」
残っていた観客の何人かがそんなふうに言って、賛同するように拍手が大きくなった。
「ロジェ……。あなた、いきなりあんな二階から飛び降りるなんて……というか、今までどこに……」
すっかり伸びてしまったドニが護衛の者たちに連行されていく姿も目に入らず、ミランダは疑問を口にする。
「二階から発砲音が聞こえたでしょう? ですからこっそり二階へ行き、この男の仲間たちを一人一人片付けていたのです」
「あ、あなた一人で?」
「いえ。私の部下と一緒に」
「部下?」
「はい。向こうから何人か連れてきていて……ああ、こちらで新たに作ったのもいますが。とにかくその者たちを客席に紛れ込ませて、逃げ惑う客の振りをして、こう一気に……。途中で弓を引く男がいたので、私が単独で締め上げて、ドニ・ルフェーブルに止めを刺す機会をうかがっていたのです」
なんてことのないようにロジェは淡々と報告する。
そう言えばいつの間にか銃声は聞こえなくなっていた。まさかロジェ(とその部下)が陰で動いていたからだったとは……。
口の利けないミランダに代わり、ディオンが疑問に思ったことを訊く。
「きみはミランダの護衛だろう。彼女のそばを離れたのはなぜだ」
「ディオン様ならば、必ず姫様を守ってくださると思ったからです」
「それは……違う。守ってもらったのは結局俺の方だ。ミランダは身を挺して……もしあと少しでずれていたら、俺の代わりに彼女が怪我を……命を落としていたかもしれない」
守るべき存在に守られてしまったとディオンは悔しそうな顔をする。きつく握りしめられた彼の拳にミランダはそっと触れた。
「ディオン様。わたしはディオン様に守っていただきましたよ」
恐れることなくドニと一対一で剣で戦い、見事彼を追いつめた。
(それに……)
『ミランダと貴様を同じにするな。彼女が悪女を演じていたのは、彼女の大事な姉君のためだ。誰かを傷つけることを目的する貴様と断じて同じではない!』
激昂するほど、ディオンはドニの言葉を否定した。ミランダがどうして悪女を演じていたのか、その理由をきちんとわかってくれていた。
そのことが、ミランダはとても嬉しかった。
「あなたがわたしのことを守りたいとおっしゃってくれたように、わたしもあなたのことを守りたいと思ったのです。だから、怖かったけれど、共に舞台に上がることができた。ですからどうか、そんな顔をなさらないで」
「姫様のおっしゃる通りです。結果的にあなたたち二人は無事です。今はその喜びを噛みしめるべきでしょう」
ディオンはミランダをじっと見つめ、一歩を踏み出したかと思うと、彼女をひしと抱きしめた。
「ミラ、俺を救ってくれてありがとう。あなたの優しさと強さで、俺は魔女の生き残りに打ち勝つことができた」
「ディオン様……」
ミランダは胸がいっぱいになり、ただ彼の背中に腕を回し、涙を流すことしかできなかった。
しかしそれで十分だったのか、客席から拍手が起こった。
「国王夫妻、万歳!」
「お二人の愛の力が、悪を打ち倒したんだ!」
残っていた観客の何人かがそんなふうに言って、賛同するように拍手が大きくなった。
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