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気のせい

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 襲われかけた事件は大きな話題となったが、ミランダが落ち着いて対応したこと、またフィリッパたちを身を挺して守ろうとしたことで、ミランダ自身の評価も上がった。

「もう王妃殿下ったらご自分の命が危ないというのに、私たちのことを庇おうとして、とてもかっこよかったのです!」
「私、いろんな意味でドキドキしていましたわ」

 ……というふうに、その場にいた夫人たちがあちこちで語っているらしい。

 おかげでミランダが悪女だという噂は完全に消えつつある。

「よかったですね、姫様」
「ええ、そうね……。それより」

 優雅にお茶を飲んでいたミランダは横目でロジェの方を見る。

「まだ女装ロゼの格好を続けるの?」
「はい。この格好、何だかんだ動きやすいんですよね。ほら、脚蹴りする際も男の時より強烈なのを食らわせることができるんです」
「……そんな格好、女の子がしちゃだめよ」

 動きやすさ重視で女装を続けるな、とミランダが考え直すことをやんわりと勧めても、ロジェの意思は変わらないようだった。ミランダは諦めてため息をつく。

「どうしたのです、姫様。いつもならもっと鋭く指摘なさるではありませんか」
「そうね……なんだか少し疲れてしまって。あと――」
「ミラ!」

 言いかけたミランダの言葉は、どこか嬉しそうに部屋に入って来たディオンの登場によって飲み込まれてしまう。

「どうしました、ディオン様」
「久しぶりにデートしないか」
「デートですか?」

 久しぶりに、と言われて首を傾げる。ついこの間したばかりな気がしたからだ。

 しかしディオンにとっては違うらしく、ずっとミランダと出かけたかったと言う。

「以前言っていただろう? 今度は王立歌劇場に出かけようと。魔女の件もあったから外出するのは控えていたんだが、それも無事に片付いた。羽を伸ばす意味でも、どうだろうか?」

 ディオンの言葉にミランダは内心驚いた。護衛を増やす以外にも彼なりに安全に気を配っていたのだ。

(わたしとのデートもそのために我慢していたなんて……)

 なんだか可愛い、と胸がきゅんとした。

「どうした、ミラ? やはり気が進まないか?」
「いえ、少し胸が締め付けられました」
「なに!? どこか具合でも悪いのか? 医者を呼ぼうか」
「あ、いえ。その必要はございませんので」

 なんだかこんなやり取りを以前もしたような……とミランダは既視感を覚えたが、その前にディオンを引き留め、お誘いの返事をする。

「デート、ぜひ行きたいです。歌劇もディオン様と一緒に観たいです。いつにしますか?」

 ディオンは顔を輝かせ、そうだな……と早速予定を立て始める。

「二人で初めて観るのだから、やはり人気の歌劇がいいだろうな。夕食も食べて行こう。デザートのチョコレートケーキが美味しいと評判なんだ」

 ディオンが楽しそうに今話題の歌劇や劇場内のレストランの話をするので、それを聞いているミランダも次第に同じ気持ちになり、心の片隅に残っていた不安を忘れてしまったのだった。
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