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「まぁ、素敵なお庭ですわね」
ミランダはディオンのエスコートで王家の庭園を案内されていた。
グランディエ国の神話に出てくる神や動物の像を囲むように噴水が作られ、四季に応じた花壇が広がっている。
メナール国の庭園は秩序を重視したものだが、グランディエ国はあえて規則性の感じられない自然を感じさせる庭園に見えた。どちらもそれぞれの良さがあり、金と手間暇をかけている。
(庭園は王宮と会わせて、国の権威を示すものね)
そんなことを考えていると、ふとディオンが立ち止まり、真剣な表情でミランダを見つめてきた。
「ミラ。あなたに話しておかなければならないことがある。黙っておく方が正しいかもしれないし、今も正解が何かわからない。だが俺は正直に打ち明けておきたい」
「何でしょうか?」
「あなたは疑われている」
ミランダは目を瞬いた。
「それは全員に、でしょうか」
彼女の声があまりにも落ち着いていたからか、ディオンの方が動揺したようだった。
「……怒らないのか」
「余所からきた人間を信用できないのは、仕方がないことだと思います。特に陛下……ディオン様は、今の地位に即くまでいろいろとあったと思いますから……余計に心配なのでしょう」
「しかし……」
それに、とミランダは微笑んだ。
「これまでのわたしの振る舞いでは、悪女と見なされて当然ですもの」
悪女の自覚があること、それを自分の口から告げたことに驚きを隠せない様子でディオンはまた瞠目する。……意外と表情豊かな人なのねとミランダは思った。
「……ミラ。あなたがそこまで言うのならばもう正直に尋ねるが、あなたの姉君であるジュスティーヌ殿に嫌がらせをしていたというのは本当か?」
「ええ、本当ですわ」
ミランダは迷うことなく肯定した。その潔さが逆にディオンに疑問を与えたようだ。てっきり不愉快な顔をされると思っていたのに、彼は困惑した様子である。
「なぜ? 噂ではあなたはご家族にとても大切に育てられていたと聞く。ジュスティーヌ殿に対して嫉妬を抱く必要はなかったのではないか?」
(嫌がらせをしていたと言っても、陛下はわたしに事情があると思ってくれるのね)
優しい方だわ、とミランダは胸の内で感激した。
……しかし、どうしようか。本当のことを打ち明けてしまおうか。
(でも、お母様の目を誤魔化すためにわざと嫌がらせするつもりでお姉様を助けていました……って言って信じてもらえるかしら)
それに母がジュスティーヌのことを嫌っているということも、あまり口にしたくはなかった。ミランダにとっては母も大事な人なのだ。
などといろいろ考えた結果、ミランダはまだ自分がディオンのことを信じられていないことに気づく。
恐らく悪い人ではない……こうして話を聞いてくれるのだから良い人なのだろうが、彼は国王である。背後には臣下たちの思惑がある。
悪女ではない、と訴えた自分の発言を素直に受け止めるか――ディオンの側近たちを含めてどういう出方をするか、確認したい思いがあった。
(うーん……まだ様子見、でもいいかしら)
「……陛下は嫉妬を抱く必要はないとおっしゃいましたが、そんなことありませんわ。ジュスティーヌお姉様はとても美人で、気立てもよくて、わたしなんかにもそれはもうお優しくて――」
「ミラ?」
なぜかジュスティーヌの良い所を述べ始めたミランダにディオンがどうしたのだと困惑する。いけない、とミランダは咳払いし、とにかく、と話を締めくくった。
「わたしはお姉様に嫉妬して数々の嫌がらせをしていましたの」
「……そうか」
ミランダの答えに、ディオンはどこか落胆した様子を見せる。もっと軽蔑した表情を見せると思っていたミランダは肩透かしを食らった気分だった。
(いえ、内心は軽蔑しているかもしれないわ)
それにがっかりさせてしまったことに変わりはない。王妃がこんな性格をしていては、彼だってこの先いろいろと不安になるだろう。そう考えると、ミランダは申し訳なく思い、こう付け加えた。
「ディオン様。わたしは確かに今まで悪い女でした。でも、この国に嫁いできたからには、心を入れ替えて、あなたの妻に相応しくあれるよう努力いたします。すぐには信じてもらえないかもしれませんが、今しばらく、様子を見守っていただけませんか」
ミランダからの提案に、ディオンは感情の読めぬ顔をして、やがて「……わかった」と重々しい口調で了承したのだった。
「ありがとうございます」
ミランダは微笑んでお礼を述べた。
ミランダはディオンのエスコートで王家の庭園を案内されていた。
グランディエ国の神話に出てくる神や動物の像を囲むように噴水が作られ、四季に応じた花壇が広がっている。
メナール国の庭園は秩序を重視したものだが、グランディエ国はあえて規則性の感じられない自然を感じさせる庭園に見えた。どちらもそれぞれの良さがあり、金と手間暇をかけている。
(庭園は王宮と会わせて、国の権威を示すものね)
そんなことを考えていると、ふとディオンが立ち止まり、真剣な表情でミランダを見つめてきた。
「ミラ。あなたに話しておかなければならないことがある。黙っておく方が正しいかもしれないし、今も正解が何かわからない。だが俺は正直に打ち明けておきたい」
「何でしょうか?」
「あなたは疑われている」
ミランダは目を瞬いた。
「それは全員に、でしょうか」
彼女の声があまりにも落ち着いていたからか、ディオンの方が動揺したようだった。
「……怒らないのか」
「余所からきた人間を信用できないのは、仕方がないことだと思います。特に陛下……ディオン様は、今の地位に即くまでいろいろとあったと思いますから……余計に心配なのでしょう」
「しかし……」
それに、とミランダは微笑んだ。
「これまでのわたしの振る舞いでは、悪女と見なされて当然ですもの」
悪女の自覚があること、それを自分の口から告げたことに驚きを隠せない様子でディオンはまた瞠目する。……意外と表情豊かな人なのねとミランダは思った。
「……ミラ。あなたがそこまで言うのならばもう正直に尋ねるが、あなたの姉君であるジュスティーヌ殿に嫌がらせをしていたというのは本当か?」
「ええ、本当ですわ」
ミランダは迷うことなく肯定した。その潔さが逆にディオンに疑問を与えたようだ。てっきり不愉快な顔をされると思っていたのに、彼は困惑した様子である。
「なぜ? 噂ではあなたはご家族にとても大切に育てられていたと聞く。ジュスティーヌ殿に対して嫉妬を抱く必要はなかったのではないか?」
(嫌がらせをしていたと言っても、陛下はわたしに事情があると思ってくれるのね)
優しい方だわ、とミランダは胸の内で感激した。
……しかし、どうしようか。本当のことを打ち明けてしまおうか。
(でも、お母様の目を誤魔化すためにわざと嫌がらせするつもりでお姉様を助けていました……って言って信じてもらえるかしら)
それに母がジュスティーヌのことを嫌っているということも、あまり口にしたくはなかった。ミランダにとっては母も大事な人なのだ。
などといろいろ考えた結果、ミランダはまだ自分がディオンのことを信じられていないことに気づく。
恐らく悪い人ではない……こうして話を聞いてくれるのだから良い人なのだろうが、彼は国王である。背後には臣下たちの思惑がある。
悪女ではない、と訴えた自分の発言を素直に受け止めるか――ディオンの側近たちを含めてどういう出方をするか、確認したい思いがあった。
(うーん……まだ様子見、でもいいかしら)
「……陛下は嫉妬を抱く必要はないとおっしゃいましたが、そんなことありませんわ。ジュスティーヌお姉様はとても美人で、気立てもよくて、わたしなんかにもそれはもうお優しくて――」
「ミラ?」
なぜかジュスティーヌの良い所を述べ始めたミランダにディオンがどうしたのだと困惑する。いけない、とミランダは咳払いし、とにかく、と話を締めくくった。
「わたしはお姉様に嫉妬して数々の嫌がらせをしていましたの」
「……そうか」
ミランダの答えに、ディオンはどこか落胆した様子を見せる。もっと軽蔑した表情を見せると思っていたミランダは肩透かしを食らった気分だった。
(いえ、内心は軽蔑しているかもしれないわ)
それにがっかりさせてしまったことに変わりはない。王妃がこんな性格をしていては、彼だってこの先いろいろと不安になるだろう。そう考えると、ミランダは申し訳なく思い、こう付け加えた。
「ディオン様。わたしは確かに今まで悪い女でした。でも、この国に嫁いできたからには、心を入れ替えて、あなたの妻に相応しくあれるよう努力いたします。すぐには信じてもらえないかもしれませんが、今しばらく、様子を見守っていただけませんか」
ミランダからの提案に、ディオンは感情の読めぬ顔をして、やがて「……わかった」と重々しい口調で了承したのだった。
「ありがとうございます」
ミランダは微笑んでお礼を述べた。
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