14 / 51
寝言
しおりを挟む
くれぐれもお気をつけください、と扉の前までついてきたクレソンを追い払い、ディオンは控え目に扉をノックした。
しかし返答がない。もう一度繰り返しても反応がないので、ディオンは開けるぞと断って中へ入った。
「ミランダ?」
そっと寝台へ近づくと、小さく身体を丸めてすやすやと眠るミランダの姿があった。
「疲れて眠ってしまったか……」
それもそうか、と思う。体力のあるディオンですら疲労を覚えているのだから、ミランダはなおさら疲れたことだろう。
(こうしてみると、まだ少女なのだな……)
年齢はようやく十八になったばかり。背も自分より低く、手足も容易く折れるほどの細さでなんだか心配してしまう。
考えてみれば、遠い地からこの国へ訪れてまだひと月も経っていない。何でもないと思っていても、疲労が蓄積されているはずだ。
(今夜はこのまま寝かせておいてやろう)
わざわざ起こして初夜を実行するのも可哀想だと、ディオンは羽毛の掛布をかけてやり、ミランダの隣に横になった。
「んん……ジュスティーヌ、ねえさま……」
むにゃむにゃと何か寝言を呟くので、思わず笑みが零れた。
(しかし、ねえさま、か……)
ミランダは姉のジュスティーヌに嫌がらせをしていたという。つまり嫌っているわけだが、今のミランダの顔はとても幸福そうで、どうしてもジュスティーヌを疎んでいるようには見えない。
それとも意地悪することで悦びを見出すタイプなのだろうか……。
(あまりそうは見えないが……)
なんて思う自分にディオンは少し驚いた。
自分はまだこの少女について何も知らないというのに、理由もなく大丈夫だと信じ始めている。
(勘だろうか……)
それとも初めて会った時に見せてくれた、はにかんだ笑顔のせいだろうか。
つい魅入ってしまって、とっさに脅すような言葉をかけてしまったが、ミランダの怯えた顔を見てすぐに罪悪感を覚えた。
(クレソンに知られれば、まずいな……)
今もおそらくディオンが無事かどうか、はらはらしながら待機しているはずだ。今日は何もないから安心してくれと伝えに行かなくては……。
(ああ。だがその前に少しだけ横になりたい……)
仰向けになっていたミランダがごろりと寝返りを打ち、ディオンのすぐ目の前に寝顔を晒す。
幸せそうな笑みを浮かべている表情をディオンはぼうっと眺めているうちに瞼が重たくなり、やがてミランダと同じ夢の世界へ旅立っていった。
しかし返答がない。もう一度繰り返しても反応がないので、ディオンは開けるぞと断って中へ入った。
「ミランダ?」
そっと寝台へ近づくと、小さく身体を丸めてすやすやと眠るミランダの姿があった。
「疲れて眠ってしまったか……」
それもそうか、と思う。体力のあるディオンですら疲労を覚えているのだから、ミランダはなおさら疲れたことだろう。
(こうしてみると、まだ少女なのだな……)
年齢はようやく十八になったばかり。背も自分より低く、手足も容易く折れるほどの細さでなんだか心配してしまう。
考えてみれば、遠い地からこの国へ訪れてまだひと月も経っていない。何でもないと思っていても、疲労が蓄積されているはずだ。
(今夜はこのまま寝かせておいてやろう)
わざわざ起こして初夜を実行するのも可哀想だと、ディオンは羽毛の掛布をかけてやり、ミランダの隣に横になった。
「んん……ジュスティーヌ、ねえさま……」
むにゃむにゃと何か寝言を呟くので、思わず笑みが零れた。
(しかし、ねえさま、か……)
ミランダは姉のジュスティーヌに嫌がらせをしていたという。つまり嫌っているわけだが、今のミランダの顔はとても幸福そうで、どうしてもジュスティーヌを疎んでいるようには見えない。
それとも意地悪することで悦びを見出すタイプなのだろうか……。
(あまりそうは見えないが……)
なんて思う自分にディオンは少し驚いた。
自分はまだこの少女について何も知らないというのに、理由もなく大丈夫だと信じ始めている。
(勘だろうか……)
それとも初めて会った時に見せてくれた、はにかんだ笑顔のせいだろうか。
つい魅入ってしまって、とっさに脅すような言葉をかけてしまったが、ミランダの怯えた顔を見てすぐに罪悪感を覚えた。
(クレソンに知られれば、まずいな……)
今もおそらくディオンが無事かどうか、はらはらしながら待機しているはずだ。今日は何もないから安心してくれと伝えに行かなくては……。
(ああ。だがその前に少しだけ横になりたい……)
仰向けになっていたミランダがごろりと寝返りを打ち、ディオンのすぐ目の前に寝顔を晒す。
幸せそうな笑みを浮かべている表情をディオンはぼうっと眺めているうちに瞼が重たくなり、やがてミランダと同じ夢の世界へ旅立っていった。
486
お気に入りに追加
1,083
あなたにおすすめの小説
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる