虐げていた姉を身代わりに嫁がせようとしましたが、やっぱりわたしが結婚することになりました

りつ

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グランディエ国

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「なに? ジュスティーヌ王女が嫁ぐ予定が、結局ミランダ王女がやってくるのか?」

 グランディエ国、王の間。メナール国へ送り込んでいる諜報員からの報告に、国王ディオンは驚きを隠せなかった。

「はい。そのようです」
「……花嫁というのはそんなにコロコロ変えていいものなのか?」
「そんなはずがないでしょう! 殿下! メナール国は我々を馬鹿にしているのです!」

 真っ赤になって怒るのは、ディオンの祖父の代から仕えてくれているクレソン公爵である。白髪のふさふさした髪がトレードマークの未だ元気な老人であるが、たまに忠誠心が暴走しそうなところに手を焼いている。

「落ち着け、クレソン卿。そんなに怒るとまた血圧が上がるぞ。それから俺はもう王子ではない」

 国王の指摘にクレソンはやや落ち着きを取り戻したようで、失礼いたしましたと眉根を下げる。

「ですが陛下。メナール国が我々を侮っているのは間違いないでしょう。こんな直前になって花嫁を入れ替えるなど……!」
「もともとミランダ王女が花嫁候補でしたが、それも王女の我儘でジュスティーヌ王女に押し付けられていたのです」
「なんだと!? そんな女が我が国の王妃になるというのか!?」

 せっかく冷静さを取り戻したクレソンが部下の言葉でまた顔を真っ赤にさせた。怒りの矛先はディオンに向けられる。

「陛下! そんな女を本当に王妃になさるつもりですか!」
「これはすでに決まったことであり、もともとこちらから打診した話だ。嫁いでくれるのならば、どちらの王女でも構わない」

 先ほどクレソンが我が国を侮っている、と言ったが、それは正しい。侮るだけの力がメナール国にはある。対してグランディエ国は自分の代でようやく平和になったが、まだまだ国としては非力であった。

 だから安定した国力を持つメナール国と友好を深めることは――それによる恩恵は何としても得たい。そのために王女との結婚は必要なのだ。

 それに、とディオンは諭すように静かな口調で続けた。

「何かやむを得ぬ事情があったのかもしれぬ。我が国に嫁ぎたくないというだけでミランダ王女が王妃に相応しくないと決めつけるのは早計だ」
「陛下……」

 国王の言葉に臣下はみな納得しそうになるが、報告をした密偵の一人がぽつりと呟く。

「しかし、ミランダ王女がジュスティーヌ王女を嫌って嫌がらせしていたのは間違いないようです」

 幼い頃から見守ってきた王子の成長に感動し、ハンカチで鼻を噛んでいたクレソンがぎょろりと目を動かし、どういうことだと発言者を詰問した。

「いえ……そんな大したことではないのですが、自分が着ないドレスをおさがりとして下げ渡したり、廊下で会った際もちょくちょく嫌味を言ってはジュスティーヌ王女を困らせており……そもそも彼女は国王の先妻の娘で、再婚した後に寂れた離宮に監禁されるかたちで暮らしていたようです」
「なんと! それもすべてミランダ王女の仕業だと!?」
「あ、いえ。それは国王夫妻が放置した結果で……おそらく両親が虐待に近いかたちで放置しているのを見て、ミランダ王女も何をしてもいい存在だと判断したのでしょう」
「なんと、なんと……悪女ではないか!」

 陛下! と今度は顔を青ざめさせたクレソンがディオンに訴えかける。

「本当に、本当に、ミランダ王女を妃になさるおつもりですか!」
「……決定事項だ」
「私は不安でございます! 我が国は一度、魔女によってこの国を乗っ取られそうになりました。もしまた同じようなことが起こるかと考えますと、胸が潰れる思いでございます」
「魔女とミランダ王女は違う人間だ。混同するな」

 クレソンは未だ納得しきれず不安を口にしようとするが、ディオンが不意に微笑んだのでぎくりとする。

「案ずるな。もしミランダ王女がこの国に不利益をもたらすような女性ならば――容赦はしない」

 ディオンの祖父はかつて悪女にこの国を乗っ取られそうになった。父も立て直しのため辛酸をなめてきた。そんな二人の苦労を幼い頃から見てきており、かつ若くして即位した自分もまた、一筋縄ではいかぬ男だと自負している。

「我が花嫁がどういう態度をとるか、実に楽しみだな」

 実に太々しい笑みを王は浮かべるのだった。
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