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初夜*

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 披露宴はレイモンドの屋敷――レディング公爵家の庭で行われることとなった。

 王宮ほどではなくても、一般住宅と比べればとても広い敷地と大きな屋敷がグレイスのこれからの家となる。大聖堂からバルーシュ型の馬車に乗って帰ってきた新郎新婦を大勢の使用人たちが頭を下げて出迎えてくれた。

「私の妻となる女性だ」

 レイモンドがどこか誇らしげにそう告げたのが、印象に残っている。

 その後国王夫妻やバートラム、グレイスの兄妹と、最低限の人数であったが、食事や会話を楽しんだ。兄が泣きながらグレイスの幼い頃を語り、熱心に聞き入るレイモンドをよそに歌を歌い始めた時はひやひやしたが……全てが終われば、とてもよい思い出となった言える一日だった。

(とりあえず、なんとか終わってよかったわ……)

 湯浴みを済ませて寝室の広い寝台の端に腰かけて、グレイスはそっと息を吐いた。

 国王夫妻や王太子、司祭の前で夫婦であることを認められた。これで父やアンドリューたちもグレイスを連れ戻すのは諦めるはずだ。

(大丈夫なはず、だけれど……)

 一つ不安というか、気にかかっていることがあるとすれば――

「あ……」

 ガチャリと扉を開けて入ってきたのはレイモンドである。彼はなぜかグレイスの姿に目を丸くして、その場に突っ立っている。グレイスは反射的に立ち上がった。

「ごめんなさい。こちらで待つようメイドに案内されて……別の部屋で休んだ方がよろしいでしょうか」

 シュンと困った顔でグレイスが述べれば、どこか呆然としていたレイモンドはハッと我に返り、慌てて謝ってきた。

「いや、その必要はない。すまない。貴女がここにいるのが夢のようで、本当に結婚したんだと……感動していた」

 彼はグレイスの前まで来ると、緊張した面持ちで告げた。

「貴女はここで休んでもらって構わない。……もう、俺の妻なのだから」
「……はい、わかりました」

 そこで沈黙が落ちた。休んでもいいと言われたので横になればいいのだが、どちらも立ったまま、何も言わない。グレイスも妙に緊張してしまい、視線を下げて、一度心の準備をする。

「あの、レイモンド様」
「グレイス、俺は」

 ちょうど二人は同時に口を開き、互いに顔を見合わせた。

「す、すまない。何だろうか」
「あ、いえ。わたしの方こそごめんなさい。どうぞレイモンド様が先におっしゃってください」

 グレイスに譲られ、レイモンドは戸惑ったものの、意を決したように口を開く。

「貴女には、白い結婚でも構わないと言った。だが俺は……できることなら、貴女と本当の夫婦になりたい。もちろん今すぐにとは言わない。貴女の心の準備ができるまでいくらでも待つつもりだ。だから――」
「レイモンド様」

 グレイスはレイモンドに微笑んでいた。彼の言葉に安堵したのだ。

「わたしもレイモンド様と同じ気持ちです」

 レイモンドの目が見開かれる。

「ほ、本当か?」
「はい。わたしもあなたと本当の夫婦になりたい。……妻になりたいのです」
「っ……グレイス!」

 感極まった様子でレイモンドはグレイスを抱きしめた。彼女は驚いたものの、彼の背中に腕を回し、互いの温度を感じ合う。

(この方に、すべてを捧げよう……)

 グレイスの心の声が聴こえたように、抱擁が解かれ、恋い焦がれる瞳でレイモンドが見つめてくる。

「いいか?」
「はい……」

 端正な顔が近づいてくると目を瞑り、唇を重ねた。離れていく唇に合わせて目を開くと、レイモンドの瞳に射貫かれる。

(なんて綺麗な瞳なのだろう……)

 光のさじ加減で、青にも緑にも見える瞳の色にグレイスは心を奪われた。だがそれもほんの数秒のことで、またレイモンドの口づけに意識を持っていかれる。

「ん……んっ……」

 彼はまるで何かに追い立てられるかのように、どんどん間隔を狭めてグレイスの口に自分の唇を重ねてくる。頬に添えられた掌が熱い。乱れた呼吸が口から漏れて、グレイスが薄く口を開いた時、分厚い舌が押し込められるように入りこんできた。

 グレイスが反射的に身体を後ろに引こうとすれば、抱擁が強まり、ますます勢いづいたように咥内を舐め回してくるので、彼女は苦しくなり、目に涙を浮かべる。

「はぁ……グレイス……」

 レイモンドは口づけの間に何度も熱っぽくグレイスの名前を呼ぶ。あまりにも激しいキスと抱擁の強さに、グレイスは力が抜けて、寝台に座ったかと思えば、そのままレイモンドに押し倒された。

「はぁ……はぁ……」

 ようやく彼がキスをやめてくれたので、思う存分酸素を吸いながら、グレイスはぼうっとした頭で顔を横に向けて、胸を大きく上下した。

 そして幾分余裕を取り戻し、ふとレイモンドはどうしたのだろうと彼の方へ視線をやれば、食い入るように自分を見ていたので、恥ずかしいような、困った気持ちになった。

「レイモンドさま……」

 来て、というように両腕を伸ばせば、ごくりとレイモンドが生唾を飲み込んだ。

「グ、グレイス……」

 上擦った声で彼はそう呼ぶと、俊敏な動きでグレイスに覆い被さってきて、また激しく唇を貪ってくる。

(口づけが、お好きなのかしら……)

 唇を舐めて、舌を吸われて、余すところなくレイモンドはグレイスを味わおうとする。

「はぁ、はぁ……レイモンドさま……そろそろ、触ってください……」

 レイモンドの手を取り、いつの間にか前が開けていた夜着の上にそっと被せれば、彼の手が震えるのがわかった。

「わ、わかった」

 そう言うと、彼は息を吐いて、それはもう恐る恐るグレイスの胸を揉んだ。

「や、柔らかい……」

 感触を確かめるようにやわやわと揉みしだき、徐々に指先に力を込めていく。はぁはぁと興奮した彼の吐息が肌に吹きかけられ、グレイスはくすぐったくなる。

「ん……レイモンド様」
「……! すまない! きみの胸があまりに柔らかくて、つい夢中で……いや、何でもない。痛かったか?」

 夢中で胸を揉んでいたと言われ、グレイスは頬を染めながらも緩く首を振る。

「いいえ、大丈夫です。あの……よろしかったら、こちらも触ってください」

 今なお覆い被さっている彼の手を今度は反対側の乳房へ誘導すると、彼はまたごくりと唾を飲み込み、「わ、わかった」と先ほどと同じ返事をし、熱心に揉んでいく。

「グレイス、痛くないか?」
「はい、痛くありませんわ……」
「そうか……。両手で揉んでも、いいだろうか?」

 生真面目な口調で尋ねる彼が少しおかしくて、グレイスはくすりと笑って了承した。

「ええ、たくさん触ってください」
「ありがとう」

 掠れた声で律儀にお礼を述べて、レイモンドはグレイスの豊かな胸を掌全体で揉みしだき、その柔らかさを堪能していく。

 それはかなり執拗で、もうそろそろ……とグレイスが思い始めた頃、手汗で夜着が彼の掌にくっつき、布地がはらりと肌蹴て、桃色の乳輪とちょこんとのっている可愛らしい蕾が見えてしまった。

 レイモンドの動きが止まり、まじまじと胸の先を凝視される。

「レイモンド様、そんなに見られると、さすがに恥ずかしいですわ……」
「す、すまない!」

 グレイスが指摘すると、慌ててレイモンドが視線を逸らす。だがすぐにまた視線を戻し、グレイスの胸を視姦するように見つめ始めたので、彼女は手で隠そうとしたが、レイモンドに手首を掴まれてしまう。

「頼む。見せてくれ……」

 懇願するように頼まれ、グレイスは迷ったものの、こくりと頷き、彼の望むままにさせた。ただ凝視する彼の顔を見るのは恥ずかしかったので、顔を背け、ぎゅっと目を瞑る。そしてどれくらい時間が過ぎただろうか……。

(そろそろ、いいかしら……)

 グレイスが薄目でレイモンドの方を見れば、彼はまだ微動だにせず……いや、先ほどよりも目元を赤くして、息も荒くしていた。

「あの、レイモンド様……」
「グレイス。ここに、キスしていいだろうか」
「え? あ、はい。どうぞ……」
「ありがとう」

 先端を避けて、レイモンドの口づけが落ちる。彼の頭でいつ触れたのか見えないので、グレイスは自然と身構え、ちゅっと触れる感触にぴくんと身体が震える。

「ん……」

 下から掬い上げるように乳房を持ち上げ、レイモンドはちゅっちゅっと、リップ音を立ててグレイスの胸にキスしていく。そのうちグレイスは胸が熱くなり、呼吸が速くなっていく。

「グレイス……先っぽを、舐めてもいいだろうか?」
「はぁ……は、はい。どうぞ、レイモンド様のお好きなようになさって……あっ、ん……」

 グレイスに許可をもらうなり、レイモンドはさっそく舐めてきたので、彼女は甘い声と共に胸を揺らしてしまう。

「可愛い……」

 一体今のどこに可愛らしさがあったのかわからぬまま、レイモンドはまた蕾を舐めて、今度はぱくりと咥えてきた。ざらりとした舌先で丹念に転がされ、グレイスは思わず彼の髪をくしゃりと掴んでしまう。

「レ、レイモンド様、それは少しお待ちに、やぁ、んっ……」

 いきなりちゅうっと吸いつかれ、グレイスはまたもや甘い声で啼いてしまう。

「はぁ、たまらない、グレイス……」

 グレイスの一挙手一挙動に右往左往していた態度はどこへやら、今やレイモンドはむしゃぶりつく勢いで胸の蕾を舐めては吸ってくる。

「はぁ、んっ……、そんなに、強く吸われたら、わたし、変な気持ちに、あっ、ん……」

 びくびくと身体を震わせるも、レイモンドの大きな身体に圧し掛かれていては逃げ出すことも敵わない。結局彼女はレイモンドの気が済むまで胸を舐められ続け、ようやく彼の唇が離れた時には、蕾はピンと勃起しており、唾液でいやらしく濡れていた。

「はぁ……はぁ……」

 まだ胸だけの愛撫なのに、グレイスはすでに息絶え絶えになっていた。この調子で本当に最後まで完遂することができるのだろうか。

「グレイス……」

 自分の愛撫によって肌を上気させ、目をとろんとさせているグレイスの姿にレイモンドは何やら堪えきれないような表情をしている。まるで犬が餌を前にしてはぁはぁと涎を垂らして待っているような姿で……。そのことに気づいた彼女は少しまずい気がして、ひとまず彼を落ち着かせようとした。

「レイモンド様。少し、深呼吸を――」
「もう、だめだ。我慢できない……挿入いれたい……しかしまだグレイスは……そうだ。まずは潤滑油で……いや、その前に俺が……」
「あの、レイモンド様? ひゃっ」

 ぶつぶつと独り言を述べる彼にいよいよ危機感を覚えたグレイスが身を起こして止めようとした瞬間、彼にぐいっと腰を引かれ、ぱかりと両膝を大きく左右に開かれた。

 そしてあろうことか、レイモンドはグレイスの股の間に顔を埋めた。すでに寝るだけで、初夜ということもあり、下着はつけていなかった。

 つまりむき出しの状態で、グレイスの花園がレイモンドの眼前に晒されている。

「待って、レイモンド様、そこはさすがに、あぁっ……」

 ちゅっと柔らかい感触が触れて、一瞬何なのか理解できなかった。

(うそ、そんな……)

 レイモンドがグレイスのふっくらとした陰唇に口づけした。そして舌で舐めている。

「やっ、だめっ、レイモンド様が、そんなことしちゃ、あ、んっ……」

 グレイスの制止が聞こえているのか聞こえていないのか、レイモンドは無我夢中で花びらを舐め回し、とろとろと零れてくる蜜をはしたない音を立てて啜っていく。
 これでは本当に犬のようだ。

(わたし、自分の夫になんてことをさせて……)

 妻が夫に奉仕することはあっても、その逆はあり得ない。そう思っていたグレイスは、たとえレイモンドが自ら進んで行ったことだとしても、罪深い気持ちになった。

「ふっ、んっ……レイモンドさま、もうおやめに、はぁっ、ん……あなたがこんなことしては、ひゃぁっ……」

 止めようとしても、レイモンドの舌戯にグレイスは翻弄される。

「んっ……グレイス……貴女はなんて可愛いんだ……はぁ、こんなに俺を興奮させて……」

 レイモンドを止めることはもはやグレイスには無理だった。彼の舌先はさらに奥へと捩じ込まれ、溢れ出た淫水をかき出してくる。その度にグレイスは尻を浮かせ、ぞくぞくとした快感に追い詰められていく。

(やっ、もう、だめっ……わたし、わたしもう……っ)

「っ――――」

 ピンと膝から足の爪先まで力を入れて、グレイスは声にならない悲鳴を上げた。頭の中が強制的に白く塗り替えられ、何も考えられなくなる。高みへ昇った後は、ゆっくりと落ちていくような感覚に襲われ、全身の力を抜いてぐったりとシーツに身体を沈めた。

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