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認められない
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アンドリューの目が大きく見開かれ、信じられないと言った顔をする。
「グレイスがそんな残酷なことを思うはずがない……。だってきみは、僕のような人間も見捨てず、ずっと優しい態度で接してくれたじゃないか」
「……わたしも、自分はどちらかと言えば寛大な人間だと自負しておりました」
でも、違った。
「あなたの血を引いた子どもがいると知って、許せないと思いました。はっきり告げましょう。わたしには、あの子を愛することはできません。最初は我慢できても、きっといつか、あの子を傷つけたいと思う残忍な心が生まれるでしょう」
「グレイス……」
戸惑うアンドリューの表情に、グレイスはふっと微笑んだ。
「殿下。わたしがそう思ったのは、あなたを愛しているからなんです」
もしグレイスが第三者の立場であったら、子どもに罪はない、それなのに傷つけようとするなんて恐ろしい人間だと非難するだろう。
しかし、いざ自分が当事者となると、そんな人間がひどく残酷に思えた。
だってそうじゃないか。愛する人が自分ではない相手と子どもを作った。それだけでも耐え難いのに、自分の子として認め、育てなければならないなんて……グレイスには到底無理だ。
「わたしが殿下の隣に立つ未来を選べば、わたしはあの子の幸せを心から願うことはできないでしょう。あの子も、実の母親ではない女性を母と思わなければならない。お互いに、辛い道を歩むだけです」
「最初は、確かにそうかもしれない。でもずっと一緒に暮らしていけば、きっといつか情が生まれるはずだ。僕が、きみに対してそうだったように。だからどうか考え直してくれないか。僕や母上たちも、精いっぱいきみの心に負担にかけないようサポートする。だから……」
グレイスは寂しげに微笑んで、アンドリューから視線を逸らした。
「殿下……その結果わたしがジェイク様を傷つけることはなかったとしても……わたしの心の傷が癒えることはないでしょう」
あえて誰も何も言わないが、ジェイクは幼い頃のアンドリューに瓜二つだ。
恐らくこれからもっと似てくるだろう。彼の姿を見る度に、グレイスはアンドリューがリアナを愛したことを――彼の不貞の証を突きつけられるのだ。
想像するだけで、ゾッとして、胸が軋む。
(もしわたしがすでに殿下と結婚していたら――その時は、覚悟を決めたかもしれない)
でも、まだ彼と結婚はしていない。全員が不幸になる道は避けられるのだ。
「リアナ様を妃として迎えなさいませ。大変かもしれませんが、それが一番、良いでしょう」
アンドリューはしばし呆然としたままグレイスを見つめ、やがて視線を下げてぽつりと呟いた。
「きみは、僕がリアナと結婚しても構わないと言うんだね……」
まるでグレイスがアンドリューを捨てるかのような口ぶりだ。そして、そんなグレイスを彼は責めている。
「殿下……。今は突然のことばかりで、心が落ち着かれないかもしれません。ですが、あなたは今でもリアナ様を愛しているはずです。だから――」
「今の僕が愛しているのは、きみだよ、グレイス」
アンドリューの掌がグレイスの手に重ねられる。
「不甲斐ない僕を、きみは慈悲深い心で支えてくれた。そんなきみだから、僕は過去を振り切り、きみとこの国を背負う覚悟ができたんだ。リアナのことは確かに昔、愛していたさ。でもそれはもう過去の話だ。もう今はきみじゃないと、駄目なんだよ……」
グレイスは首を振り、やんわりと手を外させた。
「あなたと一緒の道を歩むつもりはありません。どうかリアナ様と生まれたご子息のことを大切になさってください」
国王夫妻にも考えを改めるよう説得してほしいと頼めば、アンドリューはふっと笑いを零した。
「殿下?」
「父上たちは認めてくれていないのだろう? なら、このままきみは僕と結婚するしかない」
「殿下……!」
悲鳴を上げるようにグレイスがアンドリューを咎めるが、彼の笑みは深まるだけだった。
「きみに憎まれても構わない。その怒りはすべて、僕に向けてくれ。僕はきみを手放したくない。――きみを愛しているんだ」
◇
人気のない王宮の廊下を、グレイスは沈んだ気持ちと共にとぼとぼと歩いていた。
(殿下があんなことを言うなんて……)
アンドリューが国王夫妻と共にいなかったのは、彼も同じ意見だったからだ。
ただ違うのは、彼はかつての恋人と息子をそばへ置くつもりはなかった。
『きみがどうしても嫌なら、リアナには監視をつけて、遠くへやってもいい。たとえそばに置くことになっても、彼女にはもう指一本触れるつもりはない。あの子も……血の繋がりはあるかもしれないけれど、きみとの子どもより、可愛いとは思えない』
アンドリューの言葉は、グレイスを気遣うものだったかもしれないが、ひどく残酷に聞こえた。
(このまま、殿下と結婚するなんて……)
「おかあさん! おかあさんどこ?」
その時、弱々しく、今にも泣いてしまいそうな声が聞こえた。顔を上げれば、きょろきょろと辺りを見渡す、小さな子どもの姿が目に入る。
(あの子は……)
「お母さんを探しているの?」
努めて優しい声を出したつもりだが、ジェイクはびくりと肩を震わせ、グレイスの方を見た。彼女は微笑んで、腰を屈める。同じ目線になって映る彼の表情は、やはりアンドリューの幼い頃にそっくりであった。
「迷子になってしまったのね」
「……おかあさん、どこ?」
目尻に涙をいっぱい溜めて助けを求める表情が、ふと、遠い記憶の少年と重なる。
『誰も、僕のことを認めてくれない。僕は、いない方がよかったんだ』
「……大丈夫。すぐに会えるわ。わたしが連れて行ってあげる」
ジェイクが瞬きして、涙がほろりと頬を伝って落ちた。
「ほんとう?」
「ええ。だからもう泣かないで」
とは言っても、グレイスが直接リアナのもとへ連れて行けば、双方気まずい思いをするだろう。だからひとまず彼の世話係を任されていた女官を見つけ、彼女に託すことにした。
「きっとあなたのお母さんも、今あなたのことを必死に探しているはずよ。だからもう少しだけ、頑張れる?」
ジェイクは黙り込んだものの、グレイスの言葉にこくんと頷いた。彼女は「ありがとう」と微笑んだ。
「じゃ、行きましょうか」
「ジェイク!」
しかし、探す必要はなかったようだ。
向かい側からリアナと、数人の女官が走って来る。焦っていたリアナの表情は、グレイスを見ると、驚いたものとへ変わり、困惑と、怯えを滲ませた。
「お母さん!」
「ジェイク!」
リアナは胸に飛び込んでくる我が子を力いっぱい抱きしめた。女官の方はジェイクが無事だったことに安堵する気持ちと、グレイスと鉢合わせしてしまったことに焦ったような顔色をする。
「あの、グレイス様……」
リアナはジェイクを抱きしめたまま、相変わらず怯えた眼差しでグレイスを見上げたが、一方でジェイクに何か危害を加えようとしていたのではないかと疑う表情も見せた。
母親が子を守る姿を見て、グレイスはふっと微笑んだ。
「王宮は広い所ですから、目を離してはいけませんよ」
それだけ言うと、背を向けて、先に立ち去ることにした。
◇
「――遅かったな」
「お待たせしてしまって、ごめんなさい」
王宮から外へ出ると、父がすでに馬車に乗って待っていた。
グレイスもすぐに乗ろうとして、不意に動きを止める。
「どうした?」
「あの、お父様。やっぱり先に帰っていてくれませんか?」
「なぜだ」
「殿下に、もう一度お会いしようと思って。実は先ほど、殿下には結婚できないとお伝えしてしまったんです。でも、帰る途中リアナ様とご子息にお会いして……」
「何だと!?」
カッと怒りで目を見開く父を宥めるように、グレイスは朗らかな笑みを浮かべた。
「その時に決めたのです。殿下と結婚しようと」
「おお、グレイス!」
「ですからお父様は先に帰っていてください。きっと少々時間がかかるでしょうから」
「ああ、わかった。何なら泊まっていけばいい。殿下もきっと、おまえの気持ちを受け入れてくれるはずだ。あんな小娘たちなど、しょせんおまえの敵ではない」
グレイスは何も言わず、上機嫌で父が帰って行くのを確かに見届けた。そして、近くにいた侍従に、馬車を用意してくれるよう頼んだ。
行き先は、もう一人の王子様のもとだった。
「グレイスがそんな残酷なことを思うはずがない……。だってきみは、僕のような人間も見捨てず、ずっと優しい態度で接してくれたじゃないか」
「……わたしも、自分はどちらかと言えば寛大な人間だと自負しておりました」
でも、違った。
「あなたの血を引いた子どもがいると知って、許せないと思いました。はっきり告げましょう。わたしには、あの子を愛することはできません。最初は我慢できても、きっといつか、あの子を傷つけたいと思う残忍な心が生まれるでしょう」
「グレイス……」
戸惑うアンドリューの表情に、グレイスはふっと微笑んだ。
「殿下。わたしがそう思ったのは、あなたを愛しているからなんです」
もしグレイスが第三者の立場であったら、子どもに罪はない、それなのに傷つけようとするなんて恐ろしい人間だと非難するだろう。
しかし、いざ自分が当事者となると、そんな人間がひどく残酷に思えた。
だってそうじゃないか。愛する人が自分ではない相手と子どもを作った。それだけでも耐え難いのに、自分の子として認め、育てなければならないなんて……グレイスには到底無理だ。
「わたしが殿下の隣に立つ未来を選べば、わたしはあの子の幸せを心から願うことはできないでしょう。あの子も、実の母親ではない女性を母と思わなければならない。お互いに、辛い道を歩むだけです」
「最初は、確かにそうかもしれない。でもずっと一緒に暮らしていけば、きっといつか情が生まれるはずだ。僕が、きみに対してそうだったように。だからどうか考え直してくれないか。僕や母上たちも、精いっぱいきみの心に負担にかけないようサポートする。だから……」
グレイスは寂しげに微笑んで、アンドリューから視線を逸らした。
「殿下……その結果わたしがジェイク様を傷つけることはなかったとしても……わたしの心の傷が癒えることはないでしょう」
あえて誰も何も言わないが、ジェイクは幼い頃のアンドリューに瓜二つだ。
恐らくこれからもっと似てくるだろう。彼の姿を見る度に、グレイスはアンドリューがリアナを愛したことを――彼の不貞の証を突きつけられるのだ。
想像するだけで、ゾッとして、胸が軋む。
(もしわたしがすでに殿下と結婚していたら――その時は、覚悟を決めたかもしれない)
でも、まだ彼と結婚はしていない。全員が不幸になる道は避けられるのだ。
「リアナ様を妃として迎えなさいませ。大変かもしれませんが、それが一番、良いでしょう」
アンドリューはしばし呆然としたままグレイスを見つめ、やがて視線を下げてぽつりと呟いた。
「きみは、僕がリアナと結婚しても構わないと言うんだね……」
まるでグレイスがアンドリューを捨てるかのような口ぶりだ。そして、そんなグレイスを彼は責めている。
「殿下……。今は突然のことばかりで、心が落ち着かれないかもしれません。ですが、あなたは今でもリアナ様を愛しているはずです。だから――」
「今の僕が愛しているのは、きみだよ、グレイス」
アンドリューの掌がグレイスの手に重ねられる。
「不甲斐ない僕を、きみは慈悲深い心で支えてくれた。そんなきみだから、僕は過去を振り切り、きみとこの国を背負う覚悟ができたんだ。リアナのことは確かに昔、愛していたさ。でもそれはもう過去の話だ。もう今はきみじゃないと、駄目なんだよ……」
グレイスは首を振り、やんわりと手を外させた。
「あなたと一緒の道を歩むつもりはありません。どうかリアナ様と生まれたご子息のことを大切になさってください」
国王夫妻にも考えを改めるよう説得してほしいと頼めば、アンドリューはふっと笑いを零した。
「殿下?」
「父上たちは認めてくれていないのだろう? なら、このままきみは僕と結婚するしかない」
「殿下……!」
悲鳴を上げるようにグレイスがアンドリューを咎めるが、彼の笑みは深まるだけだった。
「きみに憎まれても構わない。その怒りはすべて、僕に向けてくれ。僕はきみを手放したくない。――きみを愛しているんだ」
◇
人気のない王宮の廊下を、グレイスは沈んだ気持ちと共にとぼとぼと歩いていた。
(殿下があんなことを言うなんて……)
アンドリューが国王夫妻と共にいなかったのは、彼も同じ意見だったからだ。
ただ違うのは、彼はかつての恋人と息子をそばへ置くつもりはなかった。
『きみがどうしても嫌なら、リアナには監視をつけて、遠くへやってもいい。たとえそばに置くことになっても、彼女にはもう指一本触れるつもりはない。あの子も……血の繋がりはあるかもしれないけれど、きみとの子どもより、可愛いとは思えない』
アンドリューの言葉は、グレイスを気遣うものだったかもしれないが、ひどく残酷に聞こえた。
(このまま、殿下と結婚するなんて……)
「おかあさん! おかあさんどこ?」
その時、弱々しく、今にも泣いてしまいそうな声が聞こえた。顔を上げれば、きょろきょろと辺りを見渡す、小さな子どもの姿が目に入る。
(あの子は……)
「お母さんを探しているの?」
努めて優しい声を出したつもりだが、ジェイクはびくりと肩を震わせ、グレイスの方を見た。彼女は微笑んで、腰を屈める。同じ目線になって映る彼の表情は、やはりアンドリューの幼い頃にそっくりであった。
「迷子になってしまったのね」
「……おかあさん、どこ?」
目尻に涙をいっぱい溜めて助けを求める表情が、ふと、遠い記憶の少年と重なる。
『誰も、僕のことを認めてくれない。僕は、いない方がよかったんだ』
「……大丈夫。すぐに会えるわ。わたしが連れて行ってあげる」
ジェイクが瞬きして、涙がほろりと頬を伝って落ちた。
「ほんとう?」
「ええ。だからもう泣かないで」
とは言っても、グレイスが直接リアナのもとへ連れて行けば、双方気まずい思いをするだろう。だからひとまず彼の世話係を任されていた女官を見つけ、彼女に託すことにした。
「きっとあなたのお母さんも、今あなたのことを必死に探しているはずよ。だからもう少しだけ、頑張れる?」
ジェイクは黙り込んだものの、グレイスの言葉にこくんと頷いた。彼女は「ありがとう」と微笑んだ。
「じゃ、行きましょうか」
「ジェイク!」
しかし、探す必要はなかったようだ。
向かい側からリアナと、数人の女官が走って来る。焦っていたリアナの表情は、グレイスを見ると、驚いたものとへ変わり、困惑と、怯えを滲ませた。
「お母さん!」
「ジェイク!」
リアナは胸に飛び込んでくる我が子を力いっぱい抱きしめた。女官の方はジェイクが無事だったことに安堵する気持ちと、グレイスと鉢合わせしてしまったことに焦ったような顔色をする。
「あの、グレイス様……」
リアナはジェイクを抱きしめたまま、相変わらず怯えた眼差しでグレイスを見上げたが、一方でジェイクに何か危害を加えようとしていたのではないかと疑う表情も見せた。
母親が子を守る姿を見て、グレイスはふっと微笑んだ。
「王宮は広い所ですから、目を離してはいけませんよ」
それだけ言うと、背を向けて、先に立ち去ることにした。
◇
「――遅かったな」
「お待たせしてしまって、ごめんなさい」
王宮から外へ出ると、父がすでに馬車に乗って待っていた。
グレイスもすぐに乗ろうとして、不意に動きを止める。
「どうした?」
「あの、お父様。やっぱり先に帰っていてくれませんか?」
「なぜだ」
「殿下に、もう一度お会いしようと思って。実は先ほど、殿下には結婚できないとお伝えしてしまったんです。でも、帰る途中リアナ様とご子息にお会いして……」
「何だと!?」
カッと怒りで目を見開く父を宥めるように、グレイスは朗らかな笑みを浮かべた。
「その時に決めたのです。殿下と結婚しようと」
「おお、グレイス!」
「ですからお父様は先に帰っていてください。きっと少々時間がかかるでしょうから」
「ああ、わかった。何なら泊まっていけばいい。殿下もきっと、おまえの気持ちを受け入れてくれるはずだ。あんな小娘たちなど、しょせんおまえの敵ではない」
グレイスは何も言わず、上機嫌で父が帰って行くのを確かに見届けた。そして、近くにいた侍従に、馬車を用意してくれるよう頼んだ。
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