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ヨルク
5、見守っていく
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「ヨルク。おまえのお母様がね、またこちらへ戻ってきたいと言っているそうなの」
以前所用で王宮へ行った時、グリゼルダはヨルクを呼び出し、薄っすらと笑みを湛えながらそう告げた。一度母が里帰りしてからもう二年あまりが過ぎた。手紙も何も送られてこなかったので問題なく過ごしていると思っていたが、そういうわけではなかったらしい。
詳しくは教えてもらえなかったが、城の女官や騎士たちの噂話に耳をそばだてると、王太子がとうとう別の女性に子どもを産ませて、それで嫉妬に駆られたマルガレーテがその女性と子どもに危害を与えようとしたとか――またはマルガレーテが王太子の弟とただならぬ仲になってしまって、その弟の婚約者から顔に傷をつけられたとか――とにかく、人間の醜く、愚かしい振る舞いをこれでもかと具現化した出来事の当事者となってしまったらしい。
それでもう隣国にはいられない、いたくないと、故国へ戻ってきて、またディートハルトとやり直したいと願っているそうだ。以前のことがあったというのに父のもとへ帰りたいとは……よほど置かれている状況が苦痛なのか、あるいは、もう過去のこととして水に流したのか。
わからないが、とにかく母は父との復縁を望んでいる。
「どうしましょうか、ヨルク?」
どうする、とグリゼルダは尋ねておきながら、すでにヨルクの返答を見抜いている口ぶりであった。彼は最終的には父が決めることなので決定的な答えは出せないが、やめておいた方がいいだろうと述べた。
母が帰ってきたいと言っても、父はもうイレーネのことしか考えていないだろうし、彼女のお腹の中にはすでに新たな命が宿っている。ギーゼラの時のように自分以外にイレーネの関心が移ることを、父はきっと危惧して、母に構う余裕などない。
母の居場所はもうどこにもないのだ。せめて愛人でもいい、と譲歩したところで、父は母のもとへ決して通わないだろうし、そんな時間があるならばすべてイレーネに充てるだろう。
でも隣国で針の筵に座らされる母も不憫に思えたので、居候でよければ、別邸に住まうことを父も許してくれるかもしれない。しかしやはりそれも辛いだろうから、別の道を探した方が母の幸せだろうとヨルクは言葉を選びながら自分の考えを伝えた。
グリゼルダはヨルクの答えに大変満足した様子で、ありがとうと何とも美しい表情でお礼を述べた。仮にも異母姉である彼女の態度がどこか愉快に見えたのが気になったが、関わるべきではないと判断してそれ以上深く尋ねることはしなかった。
その後、グリゼルダは父にも同じことを相談したようだが、父の返答もヨルクと同じであった。いや、自分以上に、父の答えは冷淡であった。
王太子の妃として嫁いだならば、最期までその責任を果たすべきだと。
幸せになる道はこちらで用意してやった。選んだのも、母自身だ。だから失敗しても、それはもうきみの責任だと父は突き放した。
非情にも思えるが、父にとって母はもう赤の他人なのだろう。だから手を差し伸べる必要はない。そして自分も――
「ヨルク? どうしたの?」
黙り込んでしまった自分を心配してか、顔を覗き込んできたエミールに、何でもないとヨルクは答えた。
「そろそろ帰ろう」
「うん。ギーゼラも、弟か妹ができるんだから、そろそろ母親離れしないとね」
「慣れるまで俺たちに八つ当たりされそうだな」
「可愛い妹の八つ当たりなら、喜んで引き受けるよ」
暖かな日差しを肌に感じながら、ふとヨルクはエミールやイレーネと会わなかったら今頃自分はどうなっていただろうかと考える。……たぶん、誰にも、どんなことにも関心を持たず、死んだように生きていただろう。そしてそれは父とそっくりの姿だ。
未来が変わったのは、エミールとイレーネのおかげ。だから――
『エミールもヨルクも、この子も、ずっと幸せでいてほしい……』
一緒に眠っている時に、呟くように口にしたイレーネの願いを、叶えてあげたい。エミールやギーゼラたちが平穏無事に暮らせることは自分の幸せでもあるから。
(そして母さんのことも……)
彼女が父のことを、本当のところどう思っているかはわからない。でも、あの昼下がりに無防備な父を眺めていた眼差しは、普通なら受け入れ難い父の人間性もすべて受け入れているように見えた。
狼に懐かれる子羊。
グリゼルダは二人の姿をそう表現したが、ヨルクは違った。
(狼を手懐けた子羊……)
手懐ける、という言葉はイレーネには合わないかもしれない。彼女も別に父のような人間に懐かれたいとは思っていないだろうから。そういう意味では、やはりグリゼルダの表現が相応しいかもしれない。
だが醜さや愚かさをありのまま受け入れてくれることは得難いことであり、何気ない優しさ、献身さは、人の心に柔らかく突き刺さるものだ。傷つき、絶望した心も、ゆっくりと静かに、知らないうちに癒されている。気づいた時には、手放したくないと思う自分がいる。どんなに頑なな人間でも……父やグリゼルダのような者でも、いや、彼らのような者たちほど、手放せない。渇望してやまない。
今の父の姿は、間違いなくイレーネが作り上げたものだろう。
彼女が父に向ける感情は、エミールの父親に向けるものとはたぶん違う。それでも、あの父を見る優しい眼差しも、また愛だろうとヨルクは思う。
イレーネのような人間はそう多くはない。父にとって唯一無二の存在だ。自分がそうだったように、父も彼女に会わなければ今頃どうなっていたことか……想像すると、なんだか怖い。
父はもっと己の幸福さを噛みしめるべきなのだろうが、果たして本人がどこまで理解しているのか実に怪しいところだ。
『ヨルク。困ったことや、相談したいことがあったら、遠慮しないで言ってね』
(不幸になんて、絶対にしちゃいけない)
父は、自分も含め子どものことを駒の一つ、道具のように考えている。今でも時々寂しそうに誰かのことを想っているイレーネをこの世に留めるための枷として自分たちを利用するつもりだ。邪魔になれば、捨てるだけ。いや、イレーネの手前、傷つけずに巧妙に事を運ぼうとするだろう。母のように。
それとも、イレーネの子どもだから、子の幸せを願う彼女のために、この先父も変わるだろうか。人間はそう簡単に根本を変えることができる生き物なのか、ヨルクにはまだ判断がつかない。
しかし、仮に父がイレーネを悲しませるようなことをするとしても、きっと今度はそう簡単に上手くいくまい。
なにせ生まれてくる子どもたちはみな父の血を引いているのだ。イレーネのことが好きで、独り占めしたいという血が受け継がれている。嫌われたくないから、傷つけることはしたくない。自分もまた、それは変わらない。
だからもし父が道を踏み外そうとした時は、それがイレーネを傷つけ、苦しませるものだったら――
『味方は多い方がいいでしょう』
「エミールってやっぱ俺より頭いいかも」
何か言った? と呑気に聞き返す彼に、何でもないとヨルクは答えた。
父とイレーネがこの先どんな関係を築いていくかはわからない。変わっていくのか、変わらないままなのか。答えなんてないかもしれないが、明るく、ほんの少し愉快な気持ちで、二人の行く末を見守っていきたい気がした。
「ヨルクってば今度は笑って。一体何を考えているのさ」
「さぁ、何だろうな」
ヨルクはあの時には決してできなかった笑顔を、親友であり、大事な家族でもあるエミールに向けるのだった。
おわり
以前所用で王宮へ行った時、グリゼルダはヨルクを呼び出し、薄っすらと笑みを湛えながらそう告げた。一度母が里帰りしてからもう二年あまりが過ぎた。手紙も何も送られてこなかったので問題なく過ごしていると思っていたが、そういうわけではなかったらしい。
詳しくは教えてもらえなかったが、城の女官や騎士たちの噂話に耳をそばだてると、王太子がとうとう別の女性に子どもを産ませて、それで嫉妬に駆られたマルガレーテがその女性と子どもに危害を与えようとしたとか――またはマルガレーテが王太子の弟とただならぬ仲になってしまって、その弟の婚約者から顔に傷をつけられたとか――とにかく、人間の醜く、愚かしい振る舞いをこれでもかと具現化した出来事の当事者となってしまったらしい。
それでもう隣国にはいられない、いたくないと、故国へ戻ってきて、またディートハルトとやり直したいと願っているそうだ。以前のことがあったというのに父のもとへ帰りたいとは……よほど置かれている状況が苦痛なのか、あるいは、もう過去のこととして水に流したのか。
わからないが、とにかく母は父との復縁を望んでいる。
「どうしましょうか、ヨルク?」
どうする、とグリゼルダは尋ねておきながら、すでにヨルクの返答を見抜いている口ぶりであった。彼は最終的には父が決めることなので決定的な答えは出せないが、やめておいた方がいいだろうと述べた。
母が帰ってきたいと言っても、父はもうイレーネのことしか考えていないだろうし、彼女のお腹の中にはすでに新たな命が宿っている。ギーゼラの時のように自分以外にイレーネの関心が移ることを、父はきっと危惧して、母に構う余裕などない。
母の居場所はもうどこにもないのだ。せめて愛人でもいい、と譲歩したところで、父は母のもとへ決して通わないだろうし、そんな時間があるならばすべてイレーネに充てるだろう。
でも隣国で針の筵に座らされる母も不憫に思えたので、居候でよければ、別邸に住まうことを父も許してくれるかもしれない。しかしやはりそれも辛いだろうから、別の道を探した方が母の幸せだろうとヨルクは言葉を選びながら自分の考えを伝えた。
グリゼルダはヨルクの答えに大変満足した様子で、ありがとうと何とも美しい表情でお礼を述べた。仮にも異母姉である彼女の態度がどこか愉快に見えたのが気になったが、関わるべきではないと判断してそれ以上深く尋ねることはしなかった。
その後、グリゼルダは父にも同じことを相談したようだが、父の返答もヨルクと同じであった。いや、自分以上に、父の答えは冷淡であった。
王太子の妃として嫁いだならば、最期までその責任を果たすべきだと。
幸せになる道はこちらで用意してやった。選んだのも、母自身だ。だから失敗しても、それはもうきみの責任だと父は突き放した。
非情にも思えるが、父にとって母はもう赤の他人なのだろう。だから手を差し伸べる必要はない。そして自分も――
「ヨルク? どうしたの?」
黙り込んでしまった自分を心配してか、顔を覗き込んできたエミールに、何でもないとヨルクは答えた。
「そろそろ帰ろう」
「うん。ギーゼラも、弟か妹ができるんだから、そろそろ母親離れしないとね」
「慣れるまで俺たちに八つ当たりされそうだな」
「可愛い妹の八つ当たりなら、喜んで引き受けるよ」
暖かな日差しを肌に感じながら、ふとヨルクはエミールやイレーネと会わなかったら今頃自分はどうなっていただろうかと考える。……たぶん、誰にも、どんなことにも関心を持たず、死んだように生きていただろう。そしてそれは父とそっくりの姿だ。
未来が変わったのは、エミールとイレーネのおかげ。だから――
『エミールもヨルクも、この子も、ずっと幸せでいてほしい……』
一緒に眠っている時に、呟くように口にしたイレーネの願いを、叶えてあげたい。エミールやギーゼラたちが平穏無事に暮らせることは自分の幸せでもあるから。
(そして母さんのことも……)
彼女が父のことを、本当のところどう思っているかはわからない。でも、あの昼下がりに無防備な父を眺めていた眼差しは、普通なら受け入れ難い父の人間性もすべて受け入れているように見えた。
狼に懐かれる子羊。
グリゼルダは二人の姿をそう表現したが、ヨルクは違った。
(狼を手懐けた子羊……)
手懐ける、という言葉はイレーネには合わないかもしれない。彼女も別に父のような人間に懐かれたいとは思っていないだろうから。そういう意味では、やはりグリゼルダの表現が相応しいかもしれない。
だが醜さや愚かさをありのまま受け入れてくれることは得難いことであり、何気ない優しさ、献身さは、人の心に柔らかく突き刺さるものだ。傷つき、絶望した心も、ゆっくりと静かに、知らないうちに癒されている。気づいた時には、手放したくないと思う自分がいる。どんなに頑なな人間でも……父やグリゼルダのような者でも、いや、彼らのような者たちほど、手放せない。渇望してやまない。
今の父の姿は、間違いなくイレーネが作り上げたものだろう。
彼女が父に向ける感情は、エミールの父親に向けるものとはたぶん違う。それでも、あの父を見る優しい眼差しも、また愛だろうとヨルクは思う。
イレーネのような人間はそう多くはない。父にとって唯一無二の存在だ。自分がそうだったように、父も彼女に会わなければ今頃どうなっていたことか……想像すると、なんだか怖い。
父はもっと己の幸福さを噛みしめるべきなのだろうが、果たして本人がどこまで理解しているのか実に怪しいところだ。
『ヨルク。困ったことや、相談したいことがあったら、遠慮しないで言ってね』
(不幸になんて、絶対にしちゃいけない)
父は、自分も含め子どものことを駒の一つ、道具のように考えている。今でも時々寂しそうに誰かのことを想っているイレーネをこの世に留めるための枷として自分たちを利用するつもりだ。邪魔になれば、捨てるだけ。いや、イレーネの手前、傷つけずに巧妙に事を運ぼうとするだろう。母のように。
それとも、イレーネの子どもだから、子の幸せを願う彼女のために、この先父も変わるだろうか。人間はそう簡単に根本を変えることができる生き物なのか、ヨルクにはまだ判断がつかない。
しかし、仮に父がイレーネを悲しませるようなことをするとしても、きっと今度はそう簡単に上手くいくまい。
なにせ生まれてくる子どもたちはみな父の血を引いているのだ。イレーネのことが好きで、独り占めしたいという血が受け継がれている。嫌われたくないから、傷つけることはしたくない。自分もまた、それは変わらない。
だからもし父が道を踏み外そうとした時は、それがイレーネを傷つけ、苦しませるものだったら――
『味方は多い方がいいでしょう』
「エミールってやっぱ俺より頭いいかも」
何か言った? と呑気に聞き返す彼に、何でもないとヨルクは答えた。
父とイレーネがこの先どんな関係を築いていくかはわからない。変わっていくのか、変わらないままなのか。答えなんてないかもしれないが、明るく、ほんの少し愉快な気持ちで、二人の行く末を見守っていきたい気がした。
「ヨルクってば今度は笑って。一体何を考えているのさ」
「さぁ、何だろうな」
ヨルクはあの時には決してできなかった笑顔を、親友であり、大事な家族でもあるエミールに向けるのだった。
おわり
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