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ディートハルト
31、新しい家族
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イレーネは無事に子を産んだ。無事に、とは産んだ後に言えるもので、陣痛に耐える彼女は死んでしまうのではないかと思うほど苦しそうで、もしどちらかを選ばざるを得ない時は迷わず母親を助けるようディートハルトは産婆に命じていた。
(イレーネ……)
産むのは彼女で、待つ方には何もできない。代わってやりたいと思ってもどうすることもできず、ディートハルトはこの時ほど己の無力さを痛感したことはなかった。
永遠にも思える時間が過ぎ、やがて呻き声が止んだかと思えば、元気な産声が聴こえてきた。まだ入ってはいけないと言われたが、イレーネが死んでいるのではないかと思い、彼は強引に出産部屋へと入り、生まれた我が子よりも母親の容態を確かめた。彼女はひどく疲れ果てた様子であったが、意識もあり、耳元で囁いたディートハルトの言葉に軽く頷いてみせた。
生まれた子どもは女の子だった。皺くちゃで、まだどちらに似ているかもわからなかったが、イレーネに似ればいいとディートハルトは抱き上げながら思った。
「ほら、おまえたちの妹だ」
エミールとヨルクはおっかなびっくりな様子で生まれたばかりの妹に目をやっていた。ヨルクは未知の生き物を見るような観察する目で興味深そうに見ていたが、エミールは妹よりも自分の母親の方が気になるのか、寝台でぐったりと横になっているイレーネの方へ歩いていき、お母さんと弱々しい声で呼びかけていた。
イレーネは目を開けて、微笑みながら何かを呟く。そして泣きそうな息子の頬を手の甲でくすぐっていた。ヨルクもエミールのそばへ行き、何かを言い、それに笑って返され、乳母が赤子を母親の手に委ねると、イレーネは愛おしそうに見つめていた。
赤ん坊はギーゼラと名付けられ、公爵家で可愛がられることとなった。しかしディートハルトはまたもや仕事で屋敷を後にしなければならず、またしばらくの間イレーネと離れなければならないことに不満を覚えた。
「――赤ん坊は無事に生まれた?」
登城すると、グリゼルダはまずそう尋ねてきた。イレーネの体調も大丈夫だと答えれば、そう、と目を細めた。
「将来、女にも爵位を継げるよう法制を整えているの。だからその子の働き次第では、叙爵して、女公爵になるかもしれないわね」
ゆくゆくは自分のそばで働かせたいと言われ、ディートハルトは気が早いのではないかと伝えたが、あら、と彼女は微笑んだ。
「子どもは大人が思うよりずっと聡いのよ。特にあなたの子ならば、知恵も回るでしょうし、将来が期待できるわ」
「まだ私に似るとは限りません」
「イレーネに似てもいいわ。可愛がってあげるから。何にせよ、おめでとうと彼女に伝えておいてちょうだい」
そうしてさっさと本題に入られ、できることならばあまり近づけたくないなとディートハルトは心の中で思うのだった。
細々とした問題を片付けて、また屋敷へ帰ると、出迎えたのは使用人たちだけで、エミールたちはイレーネの腕に抱かれたギーゼラに釘付けになっていた。
「手、すごくちっちゃいのに、すごいぎゅうって握ってくるんだよ」
「あ、笑った!」
「ヨルクの顔見て笑ったのかな」
「エミールだろ」
イレーネはディートハルトの姿に気づくと、驚いた顔をして、少し慌てた顔をした。エミールがお帰りなさいと大きな声で言ったので、赤ん坊がびっくりして泣き出してしまって、ヨルクが声が大きいと責めて、エミールはごめんねとギーゼラに謝っていた。
イレーネはあやしながら、子どもたちに先に食事をしてくるよう言い、入れ替わるかたちでディートハルトがイレーネのそばへ行った。
「……お帰りなさい」
「ああ」
隣に座り、じっと娘の顔を覗き込んでいると、抱いてみるかと言われたのでそうしたが、またぐずりだしてしまった。
「敵だと思って、泣いているんだな」
「敵って……」
「きみのことは、自分のことを守ってくれる人間だときちんと認識しているんだ」
しばらくしたら泣き止むだろうかと思ってあやし続けるが、逆に火のついたように泣き始めてしまったので、諦めてイレーネの腕の中に戻してやった。すると先ほどとは打って変わって、あっという間に泣き止んで、すやすやと眠りにも落ちてしまったので、ディートハルトは何だか感心してしまう。普段構ってやれていないのも原因だろうが、やはり母親とは特別な存在なのだろう。
「もう少し大きくなったら、あなたのこともきちんと父親だと理解しますわ」
「だといいが……」
ヨルクの時はどうだっただろう……と振り返ってみるが、変化に気づくほど、そばにいなかったなと思った。いても、あまり関心は抱かなかっただろう。薄情な父親だろうが、自分はそういう性格だ。どうしようもできない。
しかし今回は度々イレーネに会いたいと思うから、ギーゼラの成長もそのついでに見ることができるかもしれない。そんなことを思いながら、ディートハルトはイレーネの零れたおくれ毛を耳にかけてやる。
「顔色があまりよくない。きちんと寝ているか」
「今は、仕方ないですわ」
夜泣きで何度も起こされるという。
「乳母がいるんだ。無理せず、休む時は休んだ方がいい」
「それでも、やっぱり気になりますわ。自分の子ですもの……」
ね、とギーゼラに笑いかけるイレーネの姿にディートハルトはそれ以上言うのをやめた。ただあまり無理はしないように、とだけ伝えた。
イレーネは夜ギーゼラのいる部屋で寝ていたが、ディートハルトが一緒に寝たいというと、困った顔をしつつ、大人しく寝室で横になってくれた。柔らかな彼女の身体を抱きしめて髪に顔を埋めると、家へ帰ってきたなという感覚と彼女を感じたいという劣情が湧き上がってくる。
「ディートハルトさま……まだ……」
雄の象徴を押し当てられ、気まずそうにイレーネが離れようとする。引き寄せて、まだ何もしないと言った。
子ができるまでは彼女と自分を繋ぐものが何もないようで焦燥感があったが、今はもうその必要もない。幾分の余裕が彼の心にはあった。
だからイレーネがその気になるまで……彼女の方からは決して言わないだろうから、医者の許可が下りるまではこうして抱きしめて眠るだけで満足だった。
――そう思っていたのだが……。
ふと夜中に違和感を覚えて目が覚めると、ディートハルトが抱いていたのはイレーネではなく枕であった。身じろぎに気づかぬほど熟睡していたのか、彼女がそれほど巧みに抜け出したのか、ディートハルトは一杯食わされた気分で寝室を後にした。
イレーネはやはり赤ん坊の様子が気になったのか、ギーゼラの部屋にいた。清潔な布に包まれて抱かれた我が子を、愛おしそうに見つめていた。
ディートハルトに気づくと少し気まずそうな顔をしたが、彼が黙ってそばに座って赤ん坊の様子を見ると、さっきまで泣いていたことを小さな声で教えてくれた。
「部屋まで聞こえたのか?」
「いいえ。さすがにそこまでは……でも、何だか気になってきてみたら……」
母親の勘、というやつだろうか。ディートハルトがそう言うと、イレーネはちょっと笑った。
「毎晩、泣いていますから」
「そうか」
イレーネはいつまでもギーゼラのことを見ていたが、ディートハルトはそんなイレーネの横顔をいつまでも飽きずに眺めていた。
彼女が夜更けに抜け出すことはそれからも度々続き、ある夜はギーゼラのそばで眠るイレーネのそばになぜかエミールとヨルクまでいた。母親を赤ん坊にとられたようで寂しがるエミールの気持ちはわかるが、なぜ自分の息子までいるかわからなかったが、たぶんエミールに付き添いを頼まれたのだろう。あるいは、彼自身も寂しさを感じたのか。
実に微笑ましい光景であるのだろうが、ディートハルトの胸に湧いたのは別の感情であった。
(イレーネ……)
産むのは彼女で、待つ方には何もできない。代わってやりたいと思ってもどうすることもできず、ディートハルトはこの時ほど己の無力さを痛感したことはなかった。
永遠にも思える時間が過ぎ、やがて呻き声が止んだかと思えば、元気な産声が聴こえてきた。まだ入ってはいけないと言われたが、イレーネが死んでいるのではないかと思い、彼は強引に出産部屋へと入り、生まれた我が子よりも母親の容態を確かめた。彼女はひどく疲れ果てた様子であったが、意識もあり、耳元で囁いたディートハルトの言葉に軽く頷いてみせた。
生まれた子どもは女の子だった。皺くちゃで、まだどちらに似ているかもわからなかったが、イレーネに似ればいいとディートハルトは抱き上げながら思った。
「ほら、おまえたちの妹だ」
エミールとヨルクはおっかなびっくりな様子で生まれたばかりの妹に目をやっていた。ヨルクは未知の生き物を見るような観察する目で興味深そうに見ていたが、エミールは妹よりも自分の母親の方が気になるのか、寝台でぐったりと横になっているイレーネの方へ歩いていき、お母さんと弱々しい声で呼びかけていた。
イレーネは目を開けて、微笑みながら何かを呟く。そして泣きそうな息子の頬を手の甲でくすぐっていた。ヨルクもエミールのそばへ行き、何かを言い、それに笑って返され、乳母が赤子を母親の手に委ねると、イレーネは愛おしそうに見つめていた。
赤ん坊はギーゼラと名付けられ、公爵家で可愛がられることとなった。しかしディートハルトはまたもや仕事で屋敷を後にしなければならず、またしばらくの間イレーネと離れなければならないことに不満を覚えた。
「――赤ん坊は無事に生まれた?」
登城すると、グリゼルダはまずそう尋ねてきた。イレーネの体調も大丈夫だと答えれば、そう、と目を細めた。
「将来、女にも爵位を継げるよう法制を整えているの。だからその子の働き次第では、叙爵して、女公爵になるかもしれないわね」
ゆくゆくは自分のそばで働かせたいと言われ、ディートハルトは気が早いのではないかと伝えたが、あら、と彼女は微笑んだ。
「子どもは大人が思うよりずっと聡いのよ。特にあなたの子ならば、知恵も回るでしょうし、将来が期待できるわ」
「まだ私に似るとは限りません」
「イレーネに似てもいいわ。可愛がってあげるから。何にせよ、おめでとうと彼女に伝えておいてちょうだい」
そうしてさっさと本題に入られ、できることならばあまり近づけたくないなとディートハルトは心の中で思うのだった。
細々とした問題を片付けて、また屋敷へ帰ると、出迎えたのは使用人たちだけで、エミールたちはイレーネの腕に抱かれたギーゼラに釘付けになっていた。
「手、すごくちっちゃいのに、すごいぎゅうって握ってくるんだよ」
「あ、笑った!」
「ヨルクの顔見て笑ったのかな」
「エミールだろ」
イレーネはディートハルトの姿に気づくと、驚いた顔をして、少し慌てた顔をした。エミールがお帰りなさいと大きな声で言ったので、赤ん坊がびっくりして泣き出してしまって、ヨルクが声が大きいと責めて、エミールはごめんねとギーゼラに謝っていた。
イレーネはあやしながら、子どもたちに先に食事をしてくるよう言い、入れ替わるかたちでディートハルトがイレーネのそばへ行った。
「……お帰りなさい」
「ああ」
隣に座り、じっと娘の顔を覗き込んでいると、抱いてみるかと言われたのでそうしたが、またぐずりだしてしまった。
「敵だと思って、泣いているんだな」
「敵って……」
「きみのことは、自分のことを守ってくれる人間だときちんと認識しているんだ」
しばらくしたら泣き止むだろうかと思ってあやし続けるが、逆に火のついたように泣き始めてしまったので、諦めてイレーネの腕の中に戻してやった。すると先ほどとは打って変わって、あっという間に泣き止んで、すやすやと眠りにも落ちてしまったので、ディートハルトは何だか感心してしまう。普段構ってやれていないのも原因だろうが、やはり母親とは特別な存在なのだろう。
「もう少し大きくなったら、あなたのこともきちんと父親だと理解しますわ」
「だといいが……」
ヨルクの時はどうだっただろう……と振り返ってみるが、変化に気づくほど、そばにいなかったなと思った。いても、あまり関心は抱かなかっただろう。薄情な父親だろうが、自分はそういう性格だ。どうしようもできない。
しかし今回は度々イレーネに会いたいと思うから、ギーゼラの成長もそのついでに見ることができるかもしれない。そんなことを思いながら、ディートハルトはイレーネの零れたおくれ毛を耳にかけてやる。
「顔色があまりよくない。きちんと寝ているか」
「今は、仕方ないですわ」
夜泣きで何度も起こされるという。
「乳母がいるんだ。無理せず、休む時は休んだ方がいい」
「それでも、やっぱり気になりますわ。自分の子ですもの……」
ね、とギーゼラに笑いかけるイレーネの姿にディートハルトはそれ以上言うのをやめた。ただあまり無理はしないように、とだけ伝えた。
イレーネは夜ギーゼラのいる部屋で寝ていたが、ディートハルトが一緒に寝たいというと、困った顔をしつつ、大人しく寝室で横になってくれた。柔らかな彼女の身体を抱きしめて髪に顔を埋めると、家へ帰ってきたなという感覚と彼女を感じたいという劣情が湧き上がってくる。
「ディートハルトさま……まだ……」
雄の象徴を押し当てられ、気まずそうにイレーネが離れようとする。引き寄せて、まだ何もしないと言った。
子ができるまでは彼女と自分を繋ぐものが何もないようで焦燥感があったが、今はもうその必要もない。幾分の余裕が彼の心にはあった。
だからイレーネがその気になるまで……彼女の方からは決して言わないだろうから、医者の許可が下りるまではこうして抱きしめて眠るだけで満足だった。
――そう思っていたのだが……。
ふと夜中に違和感を覚えて目が覚めると、ディートハルトが抱いていたのはイレーネではなく枕であった。身じろぎに気づかぬほど熟睡していたのか、彼女がそれほど巧みに抜け出したのか、ディートハルトは一杯食わされた気分で寝室を後にした。
イレーネはやはり赤ん坊の様子が気になったのか、ギーゼラの部屋にいた。清潔な布に包まれて抱かれた我が子を、愛おしそうに見つめていた。
ディートハルトに気づくと少し気まずそうな顔をしたが、彼が黙ってそばに座って赤ん坊の様子を見ると、さっきまで泣いていたことを小さな声で教えてくれた。
「部屋まで聞こえたのか?」
「いいえ。さすがにそこまでは……でも、何だか気になってきてみたら……」
母親の勘、というやつだろうか。ディートハルトがそう言うと、イレーネはちょっと笑った。
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「そうか」
イレーネはいつまでもギーゼラのことを見ていたが、ディートハルトはそんなイレーネの横顔をいつまでも飽きずに眺めていた。
彼女が夜更けに抜け出すことはそれからも度々続き、ある夜はギーゼラのそばで眠るイレーネのそばになぜかエミールとヨルクまでいた。母親を赤ん坊にとられたようで寂しがるエミールの気持ちはわかるが、なぜ自分の息子までいるかわからなかったが、たぶんエミールに付き添いを頼まれたのだろう。あるいは、彼自身も寂しさを感じたのか。
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