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ディートハルト
4、成就*
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※注意 ヒロイン以外とがっつりやっています
出征の前日。方々への根回しによって、ディートハルトはマルガレーテの寝室へ足を踏み入れることが叶った。彼女とは何度か、とても短い時間ではあったがすでに会っていた。自分のことを忘れずに覚えていてくれて、感極まったように涙を浮かべた姿に今までの苦労が報われる思いだった。
離れていた間の近況を報告しあうなどの他愛もない話しかできなかったが、それだけで十分心は満たされた。
いちおう監視の目があったので、直接言葉で想いを告げることは控えていたが、手紙や花など、彼女の好みそうなものも渡して自分の気持ちを伝えようとした。
しかし他にもそういう人間は大勢いたので、彼女に飽きられないか、他の者へ気持ちが移ってしまうのではないかと常に不安でもあった。いっそずっとこの鳥籠から出なければいい。あるいは連れ去ってどこかへ逃げてしまいたいと思った自分は間違いなく彼女に執着して、愛している。
「ディートハルト……?」
もう間もなく真夜中になろうとした時刻。侍女に案内され、扉がそっと開かれる。中からは、何度も夢見た少女が美しい女性となって自分を出迎えてくれた。
「マルガレーテ……」
彼は歩み寄るなり、彼女を腕の中に抱きしめ、小さな顔を上げさせると柔らかな唇に口づけしようとした。
「だめよ、ディートハルト」
けれどマルガレーテは顔を背け、彼の胸を押しやろうとする。
「あなたには、婚約者がいらっしゃるのでしょう? こんなこと、許されないわ……」
「俺には貴女しかいない。ずっと貴女だけだった。貴女だけを愛している……貴女は、違うのか」
悲しげな、絶望を含ませた声で問いかければ、はっとマルガレーテは顔を上げて、そんなことないと否定した。
「わたくしもずっと……あの時からあなただけ……ディートハルトだけよ……」
「マルガレーテ……」
ディートハルトは強引にマルガレーテを抱き上げ、彼女の寝室へと足を踏み入れた。そして彼女を寝台の上へ優しく下ろすと、覆い被さって、マルガレーテに今度こそ口づけした。
「ん……だめ……だめよ、ディートハルト……」
だめだと言いながらも、彼女は自分を拒まなかった。愛している、ずっとお慕いしていました、貴女が手に入るなら地獄へ堕ちてもいい……そんな言葉を次から次へと口にして、指を絡めてぎゅっと握りしめて、愛しくてたまらないというように顔中にキスを降らせれば、抵抗はいつしかやみ、ディートハルトを受け入れるように首に腕が回された。潤んだ目が、懇願するように告げる。
「ディートハルト……どうかわたくしを奪って……」
そう言って自ら顔を寄せて口づけされると、ディートハルトの我慢はもう限界だった。彼女の夜着を脱がせると、白く、吸いつくような肌を自制心と戦いながら丁寧に愛撫していく。彼女にだけは優しくしてやりたい。ずっと想い焦がれてきた人だから。自分の傷を癒してくれた人だから。それが愛することだと思ったから。
「あぁ……ディートハルト……んぅ、いい……はぁ、ぁん……」
甘く可愛い声でマルガレーテは子猫のように啼いて、ディートハルトの髪や触れた肌をもっとというように撫でてきた。彼はそれにますます興奮して彼女の秘められた部分を指や舌で傷つけぬよう丁寧に解していった。
「あぁっ、あっ、だめっ、そこっ、ひゃぁっ……」
マルガレーテは思い出したようにだめだと言う。でも数多くの女を抱いてきたディートハルトにはそれがもっとしてくれという催促の声にしか聴こえなかった。だから何度も気をやらせ、従順に快感を得ていくマルガレーテに愛おしさが募った。そしてもう、痛いほど張りつめた己の下半身をどうにかしたかった。
「マルガレーテ……あなたと一つになりたい……」
「でも……」
マルガレーテは直前になって、またディートハルトを拒もうとした。
わたくしは王女で、あなたは公爵で、一緒になれるはずがないとか、それに何より、あなたには決められた人がいて、これは本来なら許されない関係なのだということを、たどたどしく、悩ましい表情でディートハルトに説明した。
しかしそれらもすべて彼には――マルガレーテも心のどこかでそう感じていたのだろう、背徳感を煽る材料にしかならなかった。
自分では嫌だと言いながら、相手が奪ってくれることを望んでいる。卑怯で、厭らしい願望も、今の二人には長い間想い続けてきた愛が叶うための最後のひと押しとなった。
「俺は必ず貴女を手に入れる。そのためなら、誰を敵に回してもいい」
「ぁっ、ディートハルト……!」
ついに彼はマルガレーテの処女を散らした。彼女は痛みで愛らしい顔を苦痛に歪め、涙を浮かべた。しかしそんな表情も美しく、ディートハルトは彼女の中を動きたくてたまらなかった。だが懸命に堪え、優しく甘い声で精いっぱい彼女を慰めながら少しずつ媚肉を擦っていく。
「あなたも、苦しいの……?」
「いいえ。貴女の中がとてもきつくて……幸せなのです」
マルガレーテは恥ずかしそうに頬を上気させたが、汗ばんだディートハルトの身体に柔らかな肢体を押しつけ、囁くように「もっと動いて……」とお願いした。
「姫……!」
「きゃっ、あっ、だめっ、そんなに激しく、つかないでっ……」
お互いにちゅぱちゅぱと唇を吸い合い、くぐもった呻き声と甘い声を響かせ、一つの生き物になったかのように四肢を絡めながら、二人は高みへと昇った。
幸せだった。ようやく幼い頃の初恋が成就した。その達成感があまりにも途方もなく大きかった。だから、――こんなものか、という心の奥底で湧いた声も、かき消えてしまった。
出征の前日。方々への根回しによって、ディートハルトはマルガレーテの寝室へ足を踏み入れることが叶った。彼女とは何度か、とても短い時間ではあったがすでに会っていた。自分のことを忘れずに覚えていてくれて、感極まったように涙を浮かべた姿に今までの苦労が報われる思いだった。
離れていた間の近況を報告しあうなどの他愛もない話しかできなかったが、それだけで十分心は満たされた。
いちおう監視の目があったので、直接言葉で想いを告げることは控えていたが、手紙や花など、彼女の好みそうなものも渡して自分の気持ちを伝えようとした。
しかし他にもそういう人間は大勢いたので、彼女に飽きられないか、他の者へ気持ちが移ってしまうのではないかと常に不安でもあった。いっそずっとこの鳥籠から出なければいい。あるいは連れ去ってどこかへ逃げてしまいたいと思った自分は間違いなく彼女に執着して、愛している。
「ディートハルト……?」
もう間もなく真夜中になろうとした時刻。侍女に案内され、扉がそっと開かれる。中からは、何度も夢見た少女が美しい女性となって自分を出迎えてくれた。
「マルガレーテ……」
彼は歩み寄るなり、彼女を腕の中に抱きしめ、小さな顔を上げさせると柔らかな唇に口づけしようとした。
「だめよ、ディートハルト」
けれどマルガレーテは顔を背け、彼の胸を押しやろうとする。
「あなたには、婚約者がいらっしゃるのでしょう? こんなこと、許されないわ……」
「俺には貴女しかいない。ずっと貴女だけだった。貴女だけを愛している……貴女は、違うのか」
悲しげな、絶望を含ませた声で問いかければ、はっとマルガレーテは顔を上げて、そんなことないと否定した。
「わたくしもずっと……あの時からあなただけ……ディートハルトだけよ……」
「マルガレーテ……」
ディートハルトは強引にマルガレーテを抱き上げ、彼女の寝室へと足を踏み入れた。そして彼女を寝台の上へ優しく下ろすと、覆い被さって、マルガレーテに今度こそ口づけした。
「ん……だめ……だめよ、ディートハルト……」
だめだと言いながらも、彼女は自分を拒まなかった。愛している、ずっとお慕いしていました、貴女が手に入るなら地獄へ堕ちてもいい……そんな言葉を次から次へと口にして、指を絡めてぎゅっと握りしめて、愛しくてたまらないというように顔中にキスを降らせれば、抵抗はいつしかやみ、ディートハルトを受け入れるように首に腕が回された。潤んだ目が、懇願するように告げる。
「ディートハルト……どうかわたくしを奪って……」
そう言って自ら顔を寄せて口づけされると、ディートハルトの我慢はもう限界だった。彼女の夜着を脱がせると、白く、吸いつくような肌を自制心と戦いながら丁寧に愛撫していく。彼女にだけは優しくしてやりたい。ずっと想い焦がれてきた人だから。自分の傷を癒してくれた人だから。それが愛することだと思ったから。
「あぁ……ディートハルト……んぅ、いい……はぁ、ぁん……」
甘く可愛い声でマルガレーテは子猫のように啼いて、ディートハルトの髪や触れた肌をもっとというように撫でてきた。彼はそれにますます興奮して彼女の秘められた部分を指や舌で傷つけぬよう丁寧に解していった。
「あぁっ、あっ、だめっ、そこっ、ひゃぁっ……」
マルガレーテは思い出したようにだめだと言う。でも数多くの女を抱いてきたディートハルトにはそれがもっとしてくれという催促の声にしか聴こえなかった。だから何度も気をやらせ、従順に快感を得ていくマルガレーテに愛おしさが募った。そしてもう、痛いほど張りつめた己の下半身をどうにかしたかった。
「マルガレーテ……あなたと一つになりたい……」
「でも……」
マルガレーテは直前になって、またディートハルトを拒もうとした。
わたくしは王女で、あなたは公爵で、一緒になれるはずがないとか、それに何より、あなたには決められた人がいて、これは本来なら許されない関係なのだということを、たどたどしく、悩ましい表情でディートハルトに説明した。
しかしそれらもすべて彼には――マルガレーテも心のどこかでそう感じていたのだろう、背徳感を煽る材料にしかならなかった。
自分では嫌だと言いながら、相手が奪ってくれることを望んでいる。卑怯で、厭らしい願望も、今の二人には長い間想い続けてきた愛が叶うための最後のひと押しとなった。
「俺は必ず貴女を手に入れる。そのためなら、誰を敵に回してもいい」
「ぁっ、ディートハルト……!」
ついに彼はマルガレーテの処女を散らした。彼女は痛みで愛らしい顔を苦痛に歪め、涙を浮かべた。しかしそんな表情も美しく、ディートハルトは彼女の中を動きたくてたまらなかった。だが懸命に堪え、優しく甘い声で精いっぱい彼女を慰めながら少しずつ媚肉を擦っていく。
「あなたも、苦しいの……?」
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幸せだった。ようやく幼い頃の初恋が成就した。その達成感があまりにも途方もなく大きかった。だから、――こんなものか、という心の奥底で湧いた声も、かき消えてしまった。
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