わたしを捨てたはずの婚約者様からは逃げられない。

りつ

文字の大きさ
上 下
81 / 116
ディートハルト

4、成就*

しおりを挟む
 ※注意 ヒロイン以外とがっつりやっています


 出征の前日。方々への根回しによって、ディートハルトはマルガレーテの寝室へ足を踏み入れることが叶った。彼女とは何度か、とても短い時間ではあったがすでに会っていた。自分のことを忘れずに覚えていてくれて、感極まったように涙を浮かべた姿に今までの苦労が報われる思いだった。

 離れていた間の近況を報告しあうなどの他愛もない話しかできなかったが、それだけで十分心は満たされた。

 いちおう監視の目があったので、直接言葉で想いを告げることは控えていたが、手紙や花など、彼女の好みそうなものも渡して自分の気持ちを伝えようとした。

 しかし他にもそういう人間は大勢いたので、彼女に飽きられないか、他の者へ気持ちが移ってしまうのではないかと常に不安でもあった。いっそずっとこの鳥籠から出なければいい。あるいは連れ去ってどこかへ逃げてしまいたいと思った自分は間違いなく彼女に執着して、愛している。

「ディートハルト……?」

 もう間もなく真夜中になろうとした時刻。侍女に案内され、扉がそっと開かれる。中からは、何度も夢見た少女が美しい女性となって自分を出迎えてくれた。

「マルガレーテ……」

 彼は歩み寄るなり、彼女を腕の中に抱きしめ、小さな顔を上げさせると柔らかな唇に口づけしようとした。

「だめよ、ディートハルト」

 けれどマルガレーテは顔を背け、彼の胸を押しやろうとする。

「あなたには、婚約者がいらっしゃるのでしょう? こんなこと、許されないわ……」
「俺には貴女しかいない。ずっと貴女だけだった。貴女だけを愛している……貴女は、違うのか」

 悲しげな、絶望を含ませた声で問いかければ、はっとマルガレーテは顔を上げて、そんなことないと否定した。

「わたくしもずっと……あの時からあなただけ……ディートハルトだけよ……」
「マルガレーテ……」

 ディートハルトは強引にマルガレーテを抱き上げ、彼女の寝室へと足を踏み入れた。そして彼女を寝台の上へ優しく下ろすと、覆い被さって、マルガレーテに今度こそ口づけした。

「ん……だめ……だめよ、ディートハルト……」

 だめだと言いながらも、彼女は自分を拒まなかった。愛している、ずっとお慕いしていました、貴女が手に入るなら地獄へ堕ちてもいい……そんな言葉を次から次へと口にして、指を絡めてぎゅっと握りしめて、愛しくてたまらないというように顔中にキスを降らせれば、抵抗はいつしかやみ、ディートハルトを受け入れるように首に腕が回された。潤んだ目が、懇願するように告げる。

「ディートハルト……どうかわたくしを奪って……」

 そう言って自ら顔を寄せて口づけされると、ディートハルトの我慢はもう限界だった。彼女の夜着を脱がせると、白く、吸いつくような肌を自制心と戦いながら丁寧に愛撫していく。彼女にだけは優しくしてやりたい。ずっと想い焦がれてきた人だから。自分の傷を癒してくれた人だから。それが愛することだと思ったから。

「あぁ……ディートハルト……んぅ、いい……はぁ、ぁん……」

 甘く可愛い声でマルガレーテは子猫のように啼いて、ディートハルトの髪や触れた肌をもっとというように撫でてきた。彼はそれにますます興奮して彼女の秘められた部分を指や舌で傷つけぬよう丁寧に解していった。

「あぁっ、あっ、だめっ、そこっ、ひゃぁっ……」

 マルガレーテは思い出したようにだめだと言う。でも数多くの女を抱いてきたディートハルトにはそれがもっとしてくれという催促の声にしか聴こえなかった。だから何度も気をやらせ、従順に快感を得ていくマルガレーテに愛おしさが募った。そしてもう、痛いほど張りつめた己の下半身をどうにかしたかった。

「マルガレーテ……あなたと一つになりたい……」
「でも……」

 マルガレーテは直前になって、またディートハルトを拒もうとした。

 わたくしは王女で、あなたは公爵で、一緒になれるはずがないとか、それに何より、あなたには決められた人がいて、これは本来なら許されない関係なのだということを、たどたどしく、悩ましい表情でディートハルトに説明した。

 しかしそれらもすべて彼には――マルガレーテも心のどこかでそう感じていたのだろう、背徳感を煽る材料にしかならなかった。

 自分では嫌だと言いながら、相手が奪ってくれることを望んでいる。卑怯で、厭らしい願望も、今の二人には長い間想い続けてきた愛が叶うための最後のひと押しとなった。

「俺は必ず貴女を手に入れる。そのためなら、誰を敵に回してもいい」
「ぁっ、ディートハルト……!」

 ついに彼はマルガレーテの処女を散らした。彼女は痛みで愛らしい顔を苦痛に歪め、涙を浮かべた。しかしそんな表情も美しく、ディートハルトは彼女の中を動きたくてたまらなかった。だが懸命に堪え、優しく甘い声で精いっぱい彼女を慰めながら少しずつ媚肉を擦っていく。

「あなたも、苦しいの……?」
「いいえ。貴女の中がとてもきつくて……幸せなのです」

 マルガレーテは恥ずかしそうに頬を上気させたが、汗ばんだディートハルトの身体に柔らかな肢体を押しつけ、囁くように「もっと動いて……」とお願いした。

「姫……!」
「きゃっ、あっ、だめっ、そんなに激しく、つかないでっ……」

 お互いにちゅぱちゅぱと唇を吸い合い、くぐもった呻き声と甘い声を響かせ、一つの生き物になったかのように四肢を絡めながら、二人は高みへと昇った。

 幸せだった。ようやく幼い頃の初恋が成就した。その達成感があまりにも途方もなく大きかった。だから、――こんなものか、という心の奥底で湧いた声も、かき消えてしまった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」  ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。 「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」  一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。  だって。  ──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

処理中です...