わたしを捨てたはずの婚約者様からは逃げられない。

りつ

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64、暴いて、塗り替える*

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「違う。あれは、わたしじゃない……!」
「そう。きみじゃない。きみの父親が、俺の飲み物や食べ物に媚薬を仕込んだ。――だが、きみは気づいていたんじゃないか」
「違う。知らなかったの。本当よ……」

 気づいた時には、もう手遅れだった。

「でも、逃げることはできなかった?」
「できなかった。だって……」

 ディートハルトはイレーネよりも身体が大きくて、力が強くて、逆らえなかった。暴れると、もっと酷いことをされそうで怖かった。

「そうだな。きみは弱くて、親の言うことにも逆らえない従順な娘だった。男に何をされるかということも、本当の意味ではわかっていなかった」

 今も、と弱いところを中に入った肉棒で擦られ、イレーネは身体を震わせた。

「でもあの時の俺は、きみも父親と共犯なのだと思った。他の女たちと同じように無理矢理抱かせて、身体から篭絡しようと……生娘の振りをして、陰で本当はたくさんの男たちと遊んでいるのだと……」

 そんなふうに思われていたのだと知り、イレーネはショックを受けた。そんな彼女を慰めるようにディートハルトはぎゅっと抱きしめてくる。ぐっぐっと剛直を押し上げてくる。逃げようとしても、逃げられない。

「でも違った。本当にきみは何も知らない、可哀想なくらい、無垢な娘だった。俺に何度も抱かれて、痛みに耐えうる顔が次第に快感を拾い始めて……」
「ぅ、あぁっ……」

 ぷしゅっと透明な液体が結合部から飛び散り、身を仰け反らせた。潮を吹いたのだとわかり、顔が熱くなり、目から涙が零れた。

「こんなにいやらしくなって……あの男の前でも、こんな淫らな姿を見せていたんだろう」

 嫉妬を感じさせる声で呟くと、ディートハルトはイレーネの身体をさらに激しく揺さぶって、奥を突き上げた。陰核も一緒に刺激されて、彼女は悲鳴を上げて、また達してしまった。強い快感に目の前がチカチカする。あと何回この地獄のような快楽を味わわされるのだろう。

「イレーネ。薬を飲めば、もっと心地よい気分になれるぞ」

 なかなか折れないイレーネに、ディートハルトは焦ることなくゆっくりと追いつめてくる。

「いや……もうやめて……」
「俺だって嫌だった。でも、俺はもう気づいたら飲まされていた。おかしくなっていた。薬が効いている間は理性が吹き飛んで、目の前の女が好きな女に見えた。きみも飲めば、俺がハインツに見えてくるかもしれない」
「そんなのいや……こわい……」
「大丈夫だ。副作用はほとんどない。貴族の連中はみんな一度や二度使っている。好きでもない相手を抱くのは辛いからな。きみも、俺ではなく、ハインツに抱かれたいだろう?」
「いや、いやっ、あなたはハインツ様じゃないっ、彼はもう……いないもの……」
「イレーネ……」

 声を震わせて泣くイレーネをディートハルトが抱きしめて、すまないと謝る。顎を掬われ、振り向かされると優しく口づけして、きみの夫に嫉妬したんだと言われる。でも、それもぜんぶ嘘で、彼が頭の中でこうなったらいいなと思っている流れだ。

 ディートハルトは残酷な事実をわざとイレーネに言わせた。そうして慰めようとしている。それでイレーネが自分を受け入れるように。

「イレーネ。俺も薬が抜けた時、目の前にいる人間が、夢で抱いていた人間と違うとわかった瞬間、とても絶望した。虚しくて、たまらなかった。きみにそんな思いはさせたくない。だからきみの意思で、きみの口から教えてほしい」

 ハインツにどうやって抱かれた。どんなふうに身体を愛撫され、どんな言葉をかけられた。何を言わされた。きみはどんな気持ちになった?

「きみが教えてくれないなら、薬を使う。嫌なら、きみが言うまで、快楽を与え続ける。エミールたちが帰って来るまでずっとだ。それにきみが耐えられるのならば、そうしよう」

 どうしたい、イレーネ?

 ――イレーネは結局、ディートハルトに屈した。

 ほんの少しだけ……と思っても、ずるずると全てを吐かされた。ハインツに抱かれた同じ体位で、ハインツが言った言葉をディートハルトが口にして、イレーネがハインツに捧げた言葉を今度はディートハルトに言わなくてはならなくて……

「それで――ハインツはここからどうした?」

 息を吹きかけるように話され、イレーネは腰を揺らした。今、ディートハルトの眼前に臀部を晒している。じっと視線を注がれている状況に、泣きたくなった。

「イレーネ」

 わかっているくせに、イレーネに指示させて、ハインツと同じことをさせようとしている。

「……あそこを、舐めてくれました……」
「あそこって? わからないから指で教えて」

 そしてハインツにもしなかったことを交えてさらに辱めを与える。

「イレーネ……」
「んっ、はぁ……ここに……」

 ディートハルトの身体に跨った状態で、イレーネは下半身へと手を伸ばし、蜜を垂らしている花唇を指で左右に広げた。よく見えないと言われ、泣きそうになりながらさらに大きく広げた。

「もうこんなに濡れて……」
「ふぅ、う……」

 ディートハルトの荒い息がかかる。指でずぶずぶと遊ばれ、蜜をかき出される。舐めないでほしいと思っているのに、中途半端に刺激を与えられると早くほしいとねだりたくなる。

 じっと耐えているイレーネに気づいたディートハルトが手を止める。

「イレーネ。きみも、俺のものを舐めるんだろう?」

 ああ、そういえばハインツもそうやって自分を促したのだった。そんなことまで、自分は話してしまったのか……もうわからなくなってきた。

 ディートハルトの昂りを舐めながら激しく花芯に吸いつかれたことも、たっぷり焦らされたあとの快感が天にも昇るほどの気持ちよさだということも、力が入らなくなってそのまま身体にのしかかって問答無用で舐められ続けたことも、

「あぅ、んっ、だめっ、あっ、あぁぁっん……」

 はしたない声をひっきりなしに上げたことも、何がハインツと一緒で、ディートハルトと違うのか、すべて混ざり合って、ぐちゃぐちゃになって、何度も頭の中が白く弾け飛んだ。

「――イレーネ」

 数え切れないほど気をやって、もう無理だと泣いても優しい言葉で高みに昇らされ、疲れ果てて眠ってしまった。目を覚ましても、また同じ景色と人物に、イレーネは絶望して目を閉じた。

「あなたなんか、きらい……」

 重い身体が覆い被さってきて、抱きしめられる。

「ハインツ様じゃなくて、あなたが……」

 傷つけたくて、せめて一矢報いたくて言おうとした言葉は、言えなかった。だがディートハルトには伝わったようで、ぎゅっと腕の力が強まった。

「きみが俺を殺したいほど憎くてもかまわない。きみはもう俺のものだ」

 死んだ男のことを想うのも許さない。

 ハインツへの想いも、記憶もすべて、ディートハルトは塗り替えようとした。

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