63 / 116
63、尋問*
しおりを挟む
その後も宣言した通り、ディートハルトはイレーネを抱いて、行為に溺れた。彼は自分ばかりが動くのではなく、イレーネにも動くことを命じた。彼女は言われた通り、仰向けになった彼の身体に跨り、硬く反り返った男根を自ら蜜口にあてがって奥まで押し込んだ。
そして前後に動かして、または尻を持ち上げて、ディートハルトのものを締めつけて、蜜襞を擦らせた。自然と切ない息が口から零れ、身体の奥底から淫水がじんわりと湧き出す。
「――ハインツにも、そうやって腰を振ってやったのか」
目を瞑って心地よいところを探っていたイレーネはぎくりと固まった。目を開くと、ディートハルトがじっと自分を見上げている。
「あ……」
イレーネは忘れていた。本来自分はこんなふうに男に跨って色欲を満たす人間ではないことを。――少なくとも、ディートハルトの前では違った。
(どうしよう……)
彼女は失敗したというように顔を青ざめさせた。一日ならまだしも、何日もディートハルトと二人きりで過ごしてすっかり思考が鈍っていた。
「……いいえ。ただわたしが、そうしたいと思っただけです」
冷静を装ってそう答えたが、ディートハルトは騙されてくれない。
「嘘だな」
そう言って起き上がり、胡坐をかいた膝の上にイレーネを乗せる。至近距離で見つめられ、中のものをきゅっと締めつけてしまう。何度も吸われてひりひりする唇をそっと指でなぞられ、どきどきと胸が高鳴った。甘い恋のそれではなく、ひどいことをされるのではないかという恐怖で。
「ごめんなさい」
「別に責めていない」
唇を舐められ、そのまま舌を入れられる。イレーネは機嫌を取るように招き入れ、舌を絡ませていった。ディートハルトはしばらく夢中で貪ると、やがて顔を離し、イレーネの後頭部を優しく引き寄せて、そっと抱きしめた。額が彼の肩口に当たり、髪を撫でられ――
「他には、どんなことを教えられた?」
イレーネは即座に首を振った。こればかりは絶対に教えたくなかった。でもそんな頑なな態度がますますディートハルトを無表情にさせ、何としてでも言わせようと躍起にさせる。
「なぁ、イレーネ。教えてくれ」
声は不自然なほど優しかった。
「うっ、ぁっ……」
揺さぶられ、またあの甘い地獄に突き落とされる。それでも、イレーネは耐えた。夫婦の閨事を他人に――もう今はディートハルトが自分の夫だとしても、教えたくなかった。大聖堂で愛を誓っても、心の奥底では、イレーネはディートハルトを自分の伴侶だとは認めていないのだ。
ディートハルトはそんなイレーネの気持ちを見抜いている。だからこの七日間で完全に降伏させようとしているのだ。今の方法がだめなら、別の方法を試すまでだと。
「――きみが教えてくれないなら、薬を使おうか」
いつしか後ろから抱き抱えられる体勢になっており、裸になった胸の飾りを執拗に弄りまわされている時だった。か細い声で喘ぎながら必死に抗っていたイレーネはその言葉に衝撃を受ける。振り返れば、ぞっとするほど冷たい目をして彼は自分を見ていた。そのくせ口元には笑みを浮かべているのだからイレーネは震え上がった。
「い、いや……それだけは嫌です……」
「では教えてくれ」
「……」
「俺はきみたちのことが知りたいんだ」
ディートハルトは耳朶を甘く噛んで、指先は蜜で濡れて柔らかくなった花芯をなぞりながら、あくまでもきみが悪いんだぞという口調で諭した。
「俺たちはもう夫婦だ。隠し事はすべきじゃない。妻のことを知りたいと思うのは至極当然の感情だろう」
耳元で低く囁かれる声。くちゅくちゅと鳴らされる水音に思考が溶けそうになりながら、イレーネは首を横に振った。
「あなただって……はぁ、たくさん、わたしに隠していることがあるわ……んっ、わたしだけ、というのは違う……不公平よ……」
「俺のことも知りたいのか? なら、教えよう。マルガレーテといつから付き合って、どんなふうに彼女を抱いたのか、なんで彼女と別れるに至ったのか、ぜんぶ、詳しく教えよう」
知りたくない。そんなの聞きたくない。
イレーネがまた首を振ったので、くすりとディートハルトが笑った。
「ほら。きみは知りたくない。だから俺は教えなかった。――きみは、俺のことは何も知らないでいいと思っている」
「そんなこと、」
「それとも、俺のことを聞けば、流れでハインツのことも聞かれると思っているからか?」
どきりとする。
「死んだ夫のこと――今でも愛している男のことを俺に聞かれたくない。俺に話したくない。だからきみは無関心を貫く。俺たちはいつまでたってもお互いのことを知らない、肉欲を満たすためだけの夫婦だ」
イレーネは沈黙を突き通した。
それでいいじゃないか、という気持ちが湧いた。実際婚約者であった時もディートハルトはそうしてきた。イレーネの身体だけ、望んでいた。余計な詮索を拒んだのは彼の方が先だ。
「なぁ、だが先に俺に身体の関係を持ちかけたのは、きみの方だぞ?」
忘れているみたいだが、と言って、彼はイレーネの家へ招かれた時に薬を盛られたことを思い出させた。初めて、彼に処女を散らされた――
そして前後に動かして、または尻を持ち上げて、ディートハルトのものを締めつけて、蜜襞を擦らせた。自然と切ない息が口から零れ、身体の奥底から淫水がじんわりと湧き出す。
「――ハインツにも、そうやって腰を振ってやったのか」
目を瞑って心地よいところを探っていたイレーネはぎくりと固まった。目を開くと、ディートハルトがじっと自分を見上げている。
「あ……」
イレーネは忘れていた。本来自分はこんなふうに男に跨って色欲を満たす人間ではないことを。――少なくとも、ディートハルトの前では違った。
(どうしよう……)
彼女は失敗したというように顔を青ざめさせた。一日ならまだしも、何日もディートハルトと二人きりで過ごしてすっかり思考が鈍っていた。
「……いいえ。ただわたしが、そうしたいと思っただけです」
冷静を装ってそう答えたが、ディートハルトは騙されてくれない。
「嘘だな」
そう言って起き上がり、胡坐をかいた膝の上にイレーネを乗せる。至近距離で見つめられ、中のものをきゅっと締めつけてしまう。何度も吸われてひりひりする唇をそっと指でなぞられ、どきどきと胸が高鳴った。甘い恋のそれではなく、ひどいことをされるのではないかという恐怖で。
「ごめんなさい」
「別に責めていない」
唇を舐められ、そのまま舌を入れられる。イレーネは機嫌を取るように招き入れ、舌を絡ませていった。ディートハルトはしばらく夢中で貪ると、やがて顔を離し、イレーネの後頭部を優しく引き寄せて、そっと抱きしめた。額が彼の肩口に当たり、髪を撫でられ――
「他には、どんなことを教えられた?」
イレーネは即座に首を振った。こればかりは絶対に教えたくなかった。でもそんな頑なな態度がますますディートハルトを無表情にさせ、何としてでも言わせようと躍起にさせる。
「なぁ、イレーネ。教えてくれ」
声は不自然なほど優しかった。
「うっ、ぁっ……」
揺さぶられ、またあの甘い地獄に突き落とされる。それでも、イレーネは耐えた。夫婦の閨事を他人に――もう今はディートハルトが自分の夫だとしても、教えたくなかった。大聖堂で愛を誓っても、心の奥底では、イレーネはディートハルトを自分の伴侶だとは認めていないのだ。
ディートハルトはそんなイレーネの気持ちを見抜いている。だからこの七日間で完全に降伏させようとしているのだ。今の方法がだめなら、別の方法を試すまでだと。
「――きみが教えてくれないなら、薬を使おうか」
いつしか後ろから抱き抱えられる体勢になっており、裸になった胸の飾りを執拗に弄りまわされている時だった。か細い声で喘ぎながら必死に抗っていたイレーネはその言葉に衝撃を受ける。振り返れば、ぞっとするほど冷たい目をして彼は自分を見ていた。そのくせ口元には笑みを浮かべているのだからイレーネは震え上がった。
「い、いや……それだけは嫌です……」
「では教えてくれ」
「……」
「俺はきみたちのことが知りたいんだ」
ディートハルトは耳朶を甘く噛んで、指先は蜜で濡れて柔らかくなった花芯をなぞりながら、あくまでもきみが悪いんだぞという口調で諭した。
「俺たちはもう夫婦だ。隠し事はすべきじゃない。妻のことを知りたいと思うのは至極当然の感情だろう」
耳元で低く囁かれる声。くちゅくちゅと鳴らされる水音に思考が溶けそうになりながら、イレーネは首を横に振った。
「あなただって……はぁ、たくさん、わたしに隠していることがあるわ……んっ、わたしだけ、というのは違う……不公平よ……」
「俺のことも知りたいのか? なら、教えよう。マルガレーテといつから付き合って、どんなふうに彼女を抱いたのか、なんで彼女と別れるに至ったのか、ぜんぶ、詳しく教えよう」
知りたくない。そんなの聞きたくない。
イレーネがまた首を振ったので、くすりとディートハルトが笑った。
「ほら。きみは知りたくない。だから俺は教えなかった。――きみは、俺のことは何も知らないでいいと思っている」
「そんなこと、」
「それとも、俺のことを聞けば、流れでハインツのことも聞かれると思っているからか?」
どきりとする。
「死んだ夫のこと――今でも愛している男のことを俺に聞かれたくない。俺に話したくない。だからきみは無関心を貫く。俺たちはいつまでたってもお互いのことを知らない、肉欲を満たすためだけの夫婦だ」
イレーネは沈黙を突き通した。
それでいいじゃないか、という気持ちが湧いた。実際婚約者であった時もディートハルトはそうしてきた。イレーネの身体だけ、望んでいた。余計な詮索を拒んだのは彼の方が先だ。
「なぁ、だが先に俺に身体の関係を持ちかけたのは、きみの方だぞ?」
忘れているみたいだが、と言って、彼はイレーネの家へ招かれた時に薬を盛られたことを思い出させた。初めて、彼に処女を散らされた――
302
お気に入りに追加
4,937
あなたにおすすめの小説
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。
ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」
ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。
「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」
一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。
だって。
──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる