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31、同じ気持ち*
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ハインツを止めるために、イレーネが自分の気持ちを打ち明ければ、彼はようやく口を閉ざしてくれた。
「だから……会いにきてくれて、嬉しかったです」
「イレーネ……」
自分から彼の身体に身を寄せるようにすれば、ハインツはかき抱くように抱擁を強め、どちらともなく目が合えば、顔を寄せて口づけした。鼻息荒く貪るようにイレーネの咥内を舐め回し、イレーネも自らハインツの舌に絡ませて水音を響かせた。
互いの身体を押しつけ、背中を支え合いながら、頭の芯が甘く痺れていく。銀糸を垂らしながらイレーネは快感で蕩けた目でハインツを見つめた。彼もまた、今までにないほど欲望を滾らせて、けれどそれだけではない感情も乗せてイレーネの唇を指でなぞった。
二人はいつもそうしていたように寝台の方へ倒れ込もうとしたが、その前に激しく扉が叩かれ、イレーネはびくっと肩を揺らした。
「……時間切れだ」
忌々しそうにハインツが呟く。どういうことかと視線で問えば、彼は肩を竦めた。
「少しの間なら許してやるっていう制限付きだったんだよ。だからもう、帰らねぇといけねぇ」
「そんな……」
ようやく会えたのに。
「そんな顔するなよ。また、来るから……初めからルール破ったら、ほんとに結婚まで会えなくなるだろ。だから、我慢だ」
ハインツはそう言うと、ポケットから何かを取り出し、イレーネの首にかけてきた。彼と一緒に出かけた日、店で目を奪われた雫型のペンダントだった。
「それ、やるよ」
「いいんですか?」
「ああ。よく考えれば、今まで贈り物の一つもしてこなかったし……宝石の類にしようかとも思ったけど、おまえが持っているものの方が高価で、どうしたって見劣りするだろうから……だからそれなら、あんまり持ってなさそうな、おまえが気に入ってそうなそれにしようって……気に入らなかったら、やっぱ宝石の方にするけど」
「いいえ、これがいいです」
イレーネはハインツの瞳の色を思わせるガラスの表面をそっと撫でた。
「誰かにこうして贈り物をいただいたのは初めてなので、とても嬉しいです」
ありがとうございますと、はにかみながらお礼を述べれば、ハインツはなぜか黙り込み、やがてもう一度イレーネを抱き寄せ、深く口づけしたのだった。
――ハインツとの関係は、それ以来確実に変わった気がする。彼が、というより、イレーネの彼に対する気持ちが前とは違ってきたのだ。
具体的にどこかはわからない。でも――
「んっ、」
「はぁ、イレーネ、気持ちいい……」
前は嫌々身体を暴かれて、強制的に快楽を与えられていたけれど、今はそこまで嫌ではないと思う自分がいた。
「イレーネ……おまえのなか、すごく熱い……とろとろいやらしい蜜であふれてさ、ほら、みて」
後ろから抱きしめられ、がっしり腕の中に閉じこまれていても、汗ばんだ肌を感じても、彼の貴族らしい綺麗な指先で蜜壺をかき回され、ふっくらと赤く膨らんだ実にまぶされても、見せつけるように目の前に糸を垂らされても、羞恥心には駆られても、嫌ではなかった。
「ぁっ、ハインツさま、わたし、もう……」
「もう、いっちゃう?」
後ろから顔を覗き込まれ、少年のような悪戯っぽい目で見つめられ、イレーネはこくこくと頷いた。
「いく……いっちゃう……」
「いいよ、いって、イレーネ……たくさん、気持ちよくなれ」
外の見張りに聞こえないよう、声は小さく、囁くように優しかった。イレーネは掠れた声を上げながら、身体を小刻みに震わせた。逃げないようきつく抱きしめられ、うっとりとした眼差しでハインツがイレーネに頬ずりする。
「かわいいよ、イレーネ……」
唇を重ねて、ちゅぱちゅぱと口を吸い合いながら、ハインツは中のものを突き上げ、自分も高みへと昇った。二人は息を乱して、互いの熱を感じ合う。言葉にできない感情が二人の心を深く満たしていく。
「はやく、結婚したい……」
イレーネも、同じだった。以前よりも縮まった距離を感じるには、あまりにも時間が足りなかった。ハインツは名残惜し気に何度もイレーネの身体を弄りながら、しかし規則を破ればもっと恐ろしい罰が待っているので、大人しく帰宅する準備を始める。
「――ハインツ様。きちんと眠っていらっしゃいますか」
乱れた服装を直し、最後に彼の襟元を正してやりながら、イレーネは目の下にできているくまを不安げに見つめた。
「ああ、これは俺の努力の証だから大丈夫」
「努力?」
「そ。俺いま、ちょー頑張ってるの」
ハインツはどこか誇らしげにそう言った。何でも、領主としてすべきことを少しずつ父に教えてもらいながら、必要なことを必死で勉強しているそうだ。
「でも、こんな遅くまで……」
目元のくまを労わるようにそっと撫でると、その指先をハインツが握りしめた。
「今までは頑張っても、どうせ弟には敵わないから、って思ってたけど、今はそういうの、どうでもいいって思える」
おまえのおかげで、とハインツの目は告げていた。
「おまえに苦労させたくない。そう思えば、すげえ頑張れるんだ」
だから早く結婚したい、と同じ言葉でまとめながらハインツはイレーネの胸に顔を埋めた。その頭を撫でてやりながら、イレーネも同じ気持ちだと答えた。
でも、もう少しの辛抱だと思った。あと少しだけ我慢すれば、自分たちは一緒になれる。そうしたら人目も時間も気にせず、愛し合えると――そう、思っていたのに。
「だから……会いにきてくれて、嬉しかったです」
「イレーネ……」
自分から彼の身体に身を寄せるようにすれば、ハインツはかき抱くように抱擁を強め、どちらともなく目が合えば、顔を寄せて口づけした。鼻息荒く貪るようにイレーネの咥内を舐め回し、イレーネも自らハインツの舌に絡ませて水音を響かせた。
互いの身体を押しつけ、背中を支え合いながら、頭の芯が甘く痺れていく。銀糸を垂らしながらイレーネは快感で蕩けた目でハインツを見つめた。彼もまた、今までにないほど欲望を滾らせて、けれどそれだけではない感情も乗せてイレーネの唇を指でなぞった。
二人はいつもそうしていたように寝台の方へ倒れ込もうとしたが、その前に激しく扉が叩かれ、イレーネはびくっと肩を揺らした。
「……時間切れだ」
忌々しそうにハインツが呟く。どういうことかと視線で問えば、彼は肩を竦めた。
「少しの間なら許してやるっていう制限付きだったんだよ。だからもう、帰らねぇといけねぇ」
「そんな……」
ようやく会えたのに。
「そんな顔するなよ。また、来るから……初めからルール破ったら、ほんとに結婚まで会えなくなるだろ。だから、我慢だ」
ハインツはそう言うと、ポケットから何かを取り出し、イレーネの首にかけてきた。彼と一緒に出かけた日、店で目を奪われた雫型のペンダントだった。
「それ、やるよ」
「いいんですか?」
「ああ。よく考えれば、今まで贈り物の一つもしてこなかったし……宝石の類にしようかとも思ったけど、おまえが持っているものの方が高価で、どうしたって見劣りするだろうから……だからそれなら、あんまり持ってなさそうな、おまえが気に入ってそうなそれにしようって……気に入らなかったら、やっぱ宝石の方にするけど」
「いいえ、これがいいです」
イレーネはハインツの瞳の色を思わせるガラスの表面をそっと撫でた。
「誰かにこうして贈り物をいただいたのは初めてなので、とても嬉しいです」
ありがとうございますと、はにかみながらお礼を述べれば、ハインツはなぜか黙り込み、やがてもう一度イレーネを抱き寄せ、深く口づけしたのだった。
――ハインツとの関係は、それ以来確実に変わった気がする。彼が、というより、イレーネの彼に対する気持ちが前とは違ってきたのだ。
具体的にどこかはわからない。でも――
「んっ、」
「はぁ、イレーネ、気持ちいい……」
前は嫌々身体を暴かれて、強制的に快楽を与えられていたけれど、今はそこまで嫌ではないと思う自分がいた。
「イレーネ……おまえのなか、すごく熱い……とろとろいやらしい蜜であふれてさ、ほら、みて」
後ろから抱きしめられ、がっしり腕の中に閉じこまれていても、汗ばんだ肌を感じても、彼の貴族らしい綺麗な指先で蜜壺をかき回され、ふっくらと赤く膨らんだ実にまぶされても、見せつけるように目の前に糸を垂らされても、羞恥心には駆られても、嫌ではなかった。
「ぁっ、ハインツさま、わたし、もう……」
「もう、いっちゃう?」
後ろから顔を覗き込まれ、少年のような悪戯っぽい目で見つめられ、イレーネはこくこくと頷いた。
「いく……いっちゃう……」
「いいよ、いって、イレーネ……たくさん、気持ちよくなれ」
外の見張りに聞こえないよう、声は小さく、囁くように優しかった。イレーネは掠れた声を上げながら、身体を小刻みに震わせた。逃げないようきつく抱きしめられ、うっとりとした眼差しでハインツがイレーネに頬ずりする。
「かわいいよ、イレーネ……」
唇を重ねて、ちゅぱちゅぱと口を吸い合いながら、ハインツは中のものを突き上げ、自分も高みへと昇った。二人は息を乱して、互いの熱を感じ合う。言葉にできない感情が二人の心を深く満たしていく。
「はやく、結婚したい……」
イレーネも、同じだった。以前よりも縮まった距離を感じるには、あまりにも時間が足りなかった。ハインツは名残惜し気に何度もイレーネの身体を弄りながら、しかし規則を破ればもっと恐ろしい罰が待っているので、大人しく帰宅する準備を始める。
「――ハインツ様。きちんと眠っていらっしゃいますか」
乱れた服装を直し、最後に彼の襟元を正してやりながら、イレーネは目の下にできているくまを不安げに見つめた。
「ああ、これは俺の努力の証だから大丈夫」
「努力?」
「そ。俺いま、ちょー頑張ってるの」
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だから早く結婚したい、と同じ言葉でまとめながらハインツはイレーネの胸に顔を埋めた。その頭を撫でてやりながら、イレーネも同じ気持ちだと答えた。
でも、もう少しの辛抱だと思った。あと少しだけ我慢すれば、自分たちは一緒になれる。そうしたら人目も時間も気にせず、愛し合えると――そう、思っていたのに。
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