わたしを捨てたはずの婚約者様からは逃げられない。

りつ

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21、蹂躙*

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(ひどい……)

 自分はそんなことしない。あなたとは違う。ユリウスはそんな人じゃない。

「もう、やめてください」

 起き上がり、強張った声で告げた。ディートハルトは膝を掴んだまま、無表情でイレーネを見上げた。

「きみもそんな顔をするんだな」
「こんな辱しめは、あんまりです」

 イレーネが決死の思いでそう非難すれば、彼はふっと微笑んだ。

「……どうして笑うのですか」

 今のどこに笑う箇所があったのだと、イレーネは続けて彼の振る舞いを咎めた。

「いや。きみは本当に、何も知らないのだなと思って」

 どういう意味か、と尋ねようとして、彼の顔が再度股の間に埋められた。また指でいかせるのかと思えば、生暖かい息がかけられる。ぴくりと尻が震えた。

(なに――?)

 ざらついた感触が蜜口に触れた。指ではない。だったら一体何かというと――

「ひっ、」

 まさかと思って身を引こうとすれば、すでに予期していたとばかりに膝を掴まれて難なく引き戻される。そしてぴちゃぴちゃと音を立てて舐められ始めた。彼の舌で。いつも大きな肉杭が埋め込まれて出入りする場所を。

「やっ、やめてっ、いやぁっ、……」

 こればかりは我慢できないとディートハルトの髪を掴んで、引き剥がそうとした。だが彼は意に介さず、すでに蜜で柔らかく溶けきっていた花びらに吸いついてくる。生き物のように舌を動かし、べろべろと容赦なく花弁を舐めてきた。

「ぁっ、はぁ、だめ……んっ、ぁっ、あっ……」

 イレーネは必死で抵抗を試みた。気持ち悪いとも思った。だがディートハルトが絶え間なく与えてくる舌の感触は今までのどの刺激とも違い、甘美なものだった。

 特に花芯のすぐ上の箇所に実っている蕾を少し突かれるだけで頭の中がおかしくなる。すでに一度いかされてふっくらと膨らんでいた実をディートハルトによって剥かれ、舌で執拗に舐められると、もう彼を引き剥がすことはできなくなっていた。

 むしろもっと欲しいというように彼の髪をくしゃくしゃにかき混ぜ、花園へ押しつけていた。そうするとくぐもった声を上げながら、ディートハルトはさらにむしゃぶりついてくる。

(いゃぁ、わたし、こんなの、嫌なのにっ……)

 どうして逆らえないのだろう。ディートハルトが相手だといつもこうだ。嫌だと思う行為も快楽で塗り替えられ、抵抗する意欲を奪われていく。

「んっ、ふっ、うっ、あっ、あっ、だめっ、いっ――」

 じゅうっと花びらごと吸いつかれたイレーネは尻を浮かせ、震わせながら達してしまった。ディートハルトはそれでもやめず溢れてきた蜜を花芯や蕾に塗りたくり、中をかき回すように舌を動かしてくる。そしてさらに二度、三度イレーネを絶頂させて、ようやく顔を上げたのだった。

 その頃にはもう、イレーネは何も考えられず、ただ気持ちよくて、けれど何かが足りないような物足りなさを覚えていた。

 それはディートハルトにしか埋められない。彼は痛いほど屹立していた陰茎をイレーネの蜜口にあてがい、焦らすように滑らせてくる。我慢のできない彼女は尻を振って、それを飲み込ませようとしていた。でもディートハルトは決して許さず、イレーネはすすり泣く。

「欲しいか」
「……ほしい、です……」

 自分を見下ろす瞳に、降伏した。もう手首を拘束される必要はない。従順に主に従う。そのことがわかったディートハルトは満足げに笑みを浮かべると、望みのものをくれてやった。

「あ、ぅ――」

 根元まで容赦なく飲み込ませると、ディートハルトは性急な動きでがつがつと奥を抉ってきた。いつもなら痛いと思う刺激も、散々気をやったイレーネには強い快感としかなりえなかった。

 彼はイレーネをいかせるよりも、自分の欲を吐き出すために激しい抽挿を繰り返し、イレーネが追いつめられてあと少し、という前に白濁を中へ吐き出した。

(あ……)

 じんわりと奥へ出される感触に、我に返る。早く掻きださないと。そうしないと実を結んでしまうかもしれない。

「抜いて……ディートハルトさま、抜いてください……」

 イレーネは顔を上げて、じっと俯いているディートハルトの腕に触れた。もう彼も欲を出しきったのだからイレーネの役目は終わったはずだ。

 だが彼はぐっ、ぐっと萎えたそれを押し付ける。絡みついてくる蜜襞を擦り始める。

「ディートハルトさま? ……やだ、ぬいて、ぬいてくださいっ……!」

 逃げだそうとするイレーネの腰を掴んで引き寄せると、体重をかけてのしかかってくる。大きな身体に塞がれてイレーネは逃げ場を失った。

 ディートハルトは顔をイレーネの胸元に埋め、その匂いを嗅いでくる。豊かな二つの実りを堪能するように頬をすり寄せる。片方の手で胸を揉みしだき、やがて布越しがもどかしいというように絹地の夜着を思いきり引き裂いた。

「いやぁっ――」

 その下に着ていた下着も同様にして剥ぎ取ると、こぼれ出た白く豊かな双丘の間に再び顔を埋め、ちろちろと舌を這わせた。イレーネが身を捩っても、乳房で挟まれた彼の頬に柔らかな感触を与えるだけで、赤い実を舌で嬲られ、赤ん坊のように吸われてしまう。

(ぁ、やだ、また……)

 欲を吐き出したはずの男根がまた硬く芯を持ち、凶器となってイレーネの中を蹂躙し始めた。イレーネはいやいやと首を振って逃れようとしたが、ディートハルトは快楽ですべて捻じ伏せてくる。

「あっ、あん……はぁ、あ、あっ……」

 また媚びるような声が自分の口から発せられる。一度射精したからか、今度の動きはじっくりと中を味わうような、イレーネが気持ちいいと思う箇所を攻めてくるものだった。ずちゅ、ぬちゃ、と粘着質な水音を立てながら、イレーネの嬌声とディートハルトの吐息が絡み合う。

 ふと、イレーネはディートハルトがこちらをじっと見ていることに気づいた。ふ、と顔が近づいてくる。口づけされると思ったイレーネは反射的にそれを避けていた。彼が驚いたのがわかった。突き刺さるような視線を感じても、彼女は無視した。

 口づけだけは、ディートハルトとしたくなかった。

(――今までだって、してこなかった)

 騎士の訓練でたまに気持ちが昂った時だけ。理性を保って抱く時は、彼は決してイレーネに期待させるようなことはしなかった。おそらく他の女性も同じだ。例外があるとすれば、マルガレーテだけ。彼女はディートハルトのただ一人の女性だから。

 でも、違ったのだろうか。それともイレーネの反抗的な態度が気に入らなかったのか。

 ディートハルトはイレーネの顎や頬に口づけを落とし、唇にも重ねた。そして中をこじ開けようと舌で舐めてくる。イレーネは必死で耐えた。開けろという瞳が怖いから、目を閉じて諦めてくることを待った。だが――

「んっ、ん――ぁ、あんっ――んむぅっ」

 弱い箇所を執拗に攻められ、とうとう声を上げてしまった。すかさず舌が捩じ込まれてくる。逃げ惑う舌を捕まえ、滅茶苦茶に貪られる。ディートハルトの荒い息がすぐ近くで感じる。互いの唾液を飲み込まされ、呼吸するのも苦しくて、イレーネの目から涙があふれた。

『イレーネ。きみが、好きだ』

 ――ああ、この行為は簡単に許してはいけなかった。心から愛している者でなければ、差し出してはいけなかったのだ。

(ユリウス様……)

 もしあの時、初めてディートハルトに抱かれた時、抵抗していれば何か変わっていただろうか。彼は薬を飲まされていたけれど、やめてほしいと必死に訴えていれば、やめてくれただろうか。その時は仕方なくても、その後に拒んでいれば、何か違っていたのではないだろうか。

 少なくとも、自分の心だけは――ユリウスへの想いだけは守れたのではないだろうか。

 イレーネはそう思ったが、もう何もかも手遅れだった。

「んっ、んぅ、はぁ、あっ、ぁあんっ」

 ぱん、ぱんと激しく肉がぶつかり合い、ディートハルトが荒々しい息を吐きながら、イレーネの奥を突いてきた。ディートハルトの肌は燃えるように熱く、額から流れ落ちた汗がイレーネの肌を濡らした。そして彼女も白い肌を赤く染め、覆い被さるディートハルトの腰や背中に手足を巻きつけ、しっとりと汗ばんだ肌を押し付けていた。

 二人は互いをきつく抱きしめ合い、高みへ昇った。それは一度ではなく、夜が白むまで、ディートハルトは何度もイレーネの中へ精を注ぎ込み、彼女を離さなかった。

 イレーネには、彼の考えていることがわからなかった。どうしてマルガレーテを抱いた身体で自分を抱くのか――まだ処女であった彼女の身体を気遣って、代わりに自分で中途半端に燻った欲を発散しようとしたのか。

 そんな残酷なことがどうしてできるのか、イレーネには理解できなかった。

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