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12、グリゼルダ
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「イレーネ」
去っていった王太子の後ろ姿をぼんやり見ていたイレーネは、グリゼルダの言葉にゆっくりと振り向き、ふらりとその場に座り込んだ。グリゼルダは後ろの侍女たちに視線をやり、彼女たちを後ろへ下がらせると、扇を閉じて腰を屈め、イレーネの顔を上げさせた。
それは兄のヴィルヘルムと全く同じ態度だったが、彼と彼女が違うのは異性か同性かで、イレーネの主かどうかであった。
「危ないところだったわね」
「姫様……」
イレーネの目からぽろりと涙が零れ落ちた。
「あら、まぁ」
グリゼルダは深い青の瞳を丸くして、手袋をした指の先でイレーネの涙を拭った。高貴な人、しかも自分の主人にそんなことをさせてはいけないのに、全身の力が抜けてしまって、イレーネは呆けたように涙を流し続けた。
「泣くほど兄様に抱かれるのが嫌だったの」
嫌だ。嫌に決まっている。
でも正直に述べるのは王太子に失礼であろうし、彼はグリゼルダの肉親でもある。恐怖で上手く声が出なかったこともあり、イレーネはただこくりと頷いた。
「そう」
グリゼルダは怒ることはせず、むしろどこか面白がるように大きな目を細めた。
「おまえは可愛い子ね、イレーネ」
猫を可愛がるように、両頬を柔らかな掌で包まれる。
「私の飼い猫はみな、あの顔と下半身しか取り柄のない男に喜んで尻尾を振ったというのに、おまえはきちんと拒んでくれたのね」
拒むことができたのだろうか……。
「姫様。わたしは姫様に助けてもらわなければ、きっと姫様を裏切ることになっていたでしょう……わたしにはもう、姫様のもとで働く資格はないと思います……」
イレーネがそこまで言うと、グリゼルダは声を立てて笑い始めた。
ちょうどそばを通り過ぎようとしていた役人の一人がぎょっとこちらを見るも、グリゼルダは気にせず腹の底から笑った。イレーネはその様を、地面に座り込んだまま、呆気にとられた顔で見上げた。
グリゼルダは気のすむまで声を上げ、ようやく笑うのを止めると、立ったままイレーネを見下ろした。
「イレーネ。おまえがそこまで忠義心厚いとは思わなかったわ」
「わたしは……」
「安心しなさい。私はおまえを気に入っているの」
立ちなさい、と命じられ、膝がふらつきながらも言われたに通りする。イレーネの背はグリゼルダよりも少し高かったが、自然と縮こまって身を丸めてしまうので低く見えるだろう。
俯くイレーネの顎を、グリゼルダは閉じた扇の端で上げさせた。そして怯えて見つめるイレーネの姿に口の端を吊り上げると、顔を寄せてくる。甘い匂いが強く香り、どきりとした。
「他の子たちは何か一つの用事を言いつけて部屋を出て行く度、寄り道でもしているのかいつも帰りが遅くなってしまうの。おまけに違う主の臭いを漂わせてね。でも、あなたは違う」
するりと頬を撫でられ、イレーネは自身の心臓を鷲掴みにされた心地がした。
「用事を手早く済ませたら、いつも真っすぐに私のもとへ帰ってきてくれる。たまに遅くなってしまう時もあるけれど、その時も真っ青で、泣きそうな顔をしている。まるで盗人にでも出くわしたかのような、悲痛に満ちた表情で」
……ディートハルトに呼ばれた時だろう。彼は基本的に仕事中イレーネと行為には及ばない。ただ例外はある。いちおう手短に済ませてくれるが、イレーネは仕事をさぼった罪悪感と誰かにばれてしまうのではないかという恐怖で怯えていた。
ぜんぶ、グリゼルダにはお見通しだったのだ。
「姫様。申し訳ありません」
「あら。別に私は責めているわけじゃないわ。年頃の娘に一人や二人恋人がいてもおかしくないでしょうし、その相手が婚約者であるならば、なおのこと理性は抑えられないと思うわ」
でも、とグリゼルダはイレーネの目を覗き込んでくる。
「あなたはそうじゃないのね、イレーネ」
婚約者に会っても、嬉しくない。むしろその逆だ。
「そんなこと……」
誤魔化さないでいいのよ、と歌うように彼女は囁いた。
「私はおまえのそういう――美しい外見に惑わされず、囚われることもなく、中身は醜悪な化け物であるということを、きちんと見抜いているところ、とても気に入っているの」
それは、ディートハルトのことだろうか。それとも――
「私はね、ああいう男も、それに惹かれる女も大嫌いなの」
ねぇ、と毒を流し込むように彼女の声は甘美で、イレーネはごくりと唾を飲み込んだ。
「おまえはマルガレーテのことを可哀想だと思う?」
唐突に出てきた王女の名前に、イレーネは何と答えるのが正しいかわからなかった。
マルガレーテ。国王が寵愛していた女性の娘。辺境伯で育てられた、ディートハルトの初恋の人。今でも想い焦がれてやまない最愛の女性。
「わたしは、」
イレーネは今まで彼女のことを考えないようにしてきた。考えても仕方がないからだ。自分よりも雲の上の人で、絶対に敵わない相手。嫉妬すら抱くことのできない存在だ。
「よく、わかりません……」
「嫉妬しないということ?」
嫉妬。自分はディートハルトのことが好きなのだろうか……。
「いいえ。ただ……不憫な境遇だとは、思います……」
「へぇ。可哀想だってこと?」
迷いながらも、頷く。
客観的に見れば、そうだろう。
「私はそうは思わないわ」
グリゼルダはそう言うと、イレーネの手を引っ張り、ついてきてと歩き出した。長い廊下を歩き、中庭へ出ると、扇である方角を差した。他の建物よりも新しく建造された白亜の宮殿だ。
「あれはね、もともとマルガレーテの母親が住んでいた宮殿よ。マルガレーテを王都へ呼び戻す際に改築して、さらに頑丈にしたの」
たしかに容易には入れない迫力が遠目からでも感じられた。
「お父様はかつて最愛の女性を傷つけられたから、今度は何が何でも守りたいと思ったのでしょうね」
宮殿からグリゼルダの顔を見る。彼女はイレーネの顔をじっと見ていた。
「私の母はね、マルガレーテを産んだ女が大嫌いだったの。夫の愛を独占する娼婦が殺したいほど憎かったの。だから、彼女に恨みを持つ女や、彼女が欲しくてたまらない男たちと一緒にあの宮殿へ押し入った」
そこからどうなったと思う? と無邪気な笑顔で尋ねてくるグリゼルダにイレーネは血の気が引く思いがした。
「まぁ、結果的に母は塔に幽閉されて、その他の人間は処刑されたのだけれどね。マルガレーテの母親も、もう死んだ方がましという状況だったそうよ」
王妃が精神に異常をきたして亡くなったというのは噂で聞いていた。だがそんな残酷な話が隠されているとは思いもしなかった。
その時グリゼルダは、いくつだったのだろう。最愛の夫を奪った女に復讐した自分の母をどんな気持ちで見ていたのだろう。
「私からすれば、マルガレーテはどんな些細な悪にも触れさせぬよう、大事に大事に鳥籠の中で世話されてきた小鳥よ。可哀想だから可愛がられて、悪に染まることなく成長することができた」
あの宮殿はおそらく、グリゼルダの母や、彼女自身から守るために存在している。グリゼルダはそう言いたいのだ。
「鳥籠で飼われた小鳥は可愛いわよね。綺麗な声で歌ってくれる。だからみんなが注目する。閉じ込められている籠から出してあげたいと正義感に駆られた愚かな人間が次から次へと湧いて出てくる。いつか貴女に自由を、広い世界を見せてあげます。触れることはできずとも、この心は貴女のもの、貴女に捧げます……そんな愛の告白を、うんざりするほど贈られて。ねぇ、一体これのどこが可哀想だというの?」
グリゼルダの青い目が怒りや憎しみで強く輝いた。だがそれもほんの少しの間で、王族らしく、彼女はすぐにいつもの感情の読めない表情に戻った。
「お父様は私の母を悪魔だとおっしゃったけれど、私からすればおまえこそ、という気分だったわ。大勢の女性を弄んで、たった一人の女性が好きになったから他の女たちはあっさりと捨てて、恐ろしい心を芽生えさせて……その自覚すらないなんて、本当に救いがたい愚か者よ」
マルガレーテの母親を殺したのは国王だと、グリゼルダはきっぱり告げた。
「……姫様。どうしてわたしにそんな話を聴かせてくれたのですか」
グリゼルダはちょっと微笑み、元きた道を戻ろうとくるりと背を向けた。
「本当に可哀想なのはどういうことなのか、あなたなら一番よく知っているんじゃないかと思って」
イレーネは何も言えず、その場に立ちすくんでしまう。グリゼルダはそのまま自分を放っておくかと思ったが、気づいてわざわざ戻ってきてくれた。そうして途方に暮れたイレーネの頬に触れて、流れてもいない涙を拭うように優しく撫でてくれた。
「私の父や、兄、そしてあなたの婚約者、他にも数え切れない男たちがマルガレーテの虜になっている。でもね、イレーネ。私が男だったら、きっとおまえに心を囚われていたわ」
「姫様……?」
「そう。私が王になれるものならば、おまえをただ一人の王妃に据えて、一生、誰の目にも触れさせない……私だけを、いつまでも想わせるわ……」
言葉を失うイレーネに、ふふ、とグリゼルダは面白そうに笑みを零し、顔を離した。
「私も案外、あの男たちと変わらぬということね」
行きましょう、と何食わぬ顔で王女は歩き始めたのだった。
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「姫様……」
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「あら、まぁ」
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「そう」
グリゼルダは怒ることはせず、むしろどこか面白がるように大きな目を細めた。
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「わたしは……」
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「他の子たちは何か一つの用事を言いつけて部屋を出て行く度、寄り道でもしているのかいつも帰りが遅くなってしまうの。おまけに違う主の臭いを漂わせてね。でも、あなたは違う」
するりと頬を撫でられ、イレーネは自身の心臓を鷲掴みにされた心地がした。
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……ディートハルトに呼ばれた時だろう。彼は基本的に仕事中イレーネと行為には及ばない。ただ例外はある。いちおう手短に済ませてくれるが、イレーネは仕事をさぼった罪悪感と誰かにばれてしまうのではないかという恐怖で怯えていた。
ぜんぶ、グリゼルダにはお見通しだったのだ。
「姫様。申し訳ありません」
「あら。別に私は責めているわけじゃないわ。年頃の娘に一人や二人恋人がいてもおかしくないでしょうし、その相手が婚約者であるならば、なおのこと理性は抑えられないと思うわ」
でも、とグリゼルダはイレーネの目を覗き込んでくる。
「あなたはそうじゃないのね、イレーネ」
婚約者に会っても、嬉しくない。むしろその逆だ。
「そんなこと……」
誤魔化さないでいいのよ、と歌うように彼女は囁いた。
「私はおまえのそういう――美しい外見に惑わされず、囚われることもなく、中身は醜悪な化け物であるということを、きちんと見抜いているところ、とても気に入っているの」
それは、ディートハルトのことだろうか。それとも――
「私はね、ああいう男も、それに惹かれる女も大嫌いなの」
ねぇ、と毒を流し込むように彼女の声は甘美で、イレーネはごくりと唾を飲み込んだ。
「おまえはマルガレーテのことを可哀想だと思う?」
唐突に出てきた王女の名前に、イレーネは何と答えるのが正しいかわからなかった。
マルガレーテ。国王が寵愛していた女性の娘。辺境伯で育てられた、ディートハルトの初恋の人。今でも想い焦がれてやまない最愛の女性。
「わたしは、」
イレーネは今まで彼女のことを考えないようにしてきた。考えても仕方がないからだ。自分よりも雲の上の人で、絶対に敵わない相手。嫉妬すら抱くことのできない存在だ。
「よく、わかりません……」
「嫉妬しないということ?」
嫉妬。自分はディートハルトのことが好きなのだろうか……。
「いいえ。ただ……不憫な境遇だとは、思います……」
「へぇ。可哀想だってこと?」
迷いながらも、頷く。
客観的に見れば、そうだろう。
「私はそうは思わないわ」
グリゼルダはそう言うと、イレーネの手を引っ張り、ついてきてと歩き出した。長い廊下を歩き、中庭へ出ると、扇である方角を差した。他の建物よりも新しく建造された白亜の宮殿だ。
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「私からすれば、マルガレーテはどんな些細な悪にも触れさせぬよう、大事に大事に鳥籠の中で世話されてきた小鳥よ。可哀想だから可愛がられて、悪に染まることなく成長することができた」
あの宮殿はおそらく、グリゼルダの母や、彼女自身から守るために存在している。グリゼルダはそう言いたいのだ。
「鳥籠で飼われた小鳥は可愛いわよね。綺麗な声で歌ってくれる。だからみんなが注目する。閉じ込められている籠から出してあげたいと正義感に駆られた愚かな人間が次から次へと湧いて出てくる。いつか貴女に自由を、広い世界を見せてあげます。触れることはできずとも、この心は貴女のもの、貴女に捧げます……そんな愛の告白を、うんざりするほど贈られて。ねぇ、一体これのどこが可哀想だというの?」
グリゼルダの青い目が怒りや憎しみで強く輝いた。だがそれもほんの少しの間で、王族らしく、彼女はすぐにいつもの感情の読めない表情に戻った。
「お父様は私の母を悪魔だとおっしゃったけれど、私からすればおまえこそ、という気分だったわ。大勢の女性を弄んで、たった一人の女性が好きになったから他の女たちはあっさりと捨てて、恐ろしい心を芽生えさせて……その自覚すらないなんて、本当に救いがたい愚か者よ」
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「……姫様。どうしてわたしにそんな話を聴かせてくれたのですか」
グリゼルダはちょっと微笑み、元きた道を戻ろうとくるりと背を向けた。
「本当に可哀想なのはどういうことなのか、あなたなら一番よく知っているんじゃないかと思って」
イレーネは何も言えず、その場に立ちすくんでしまう。グリゼルダはそのまま自分を放っておくかと思ったが、気づいてわざわざ戻ってきてくれた。そうして途方に暮れたイレーネの頬に触れて、流れてもいない涙を拭うように優しく撫でてくれた。
「私の父や、兄、そしてあなたの婚約者、他にも数え切れない男たちがマルガレーテの虜になっている。でもね、イレーネ。私が男だったら、きっとおまえに心を囚われていたわ」
「姫様……?」
「そう。私が王になれるものならば、おまえをただ一人の王妃に据えて、一生、誰の目にも触れさせない……私だけを、いつまでも想わせるわ……」
言葉を失うイレーネに、ふふ、とグリゼルダは面白そうに笑みを零し、顔を離した。
「私も案外、あの男たちと変わらぬということね」
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