わたしを捨てたはずの婚約者様からは逃げられない。

りつ

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3、残酷な男*

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 ディートハルトはしばらくイレーネの動向に目を光らせていたが、彼女が約束を守り、また不平不満を零さず従順であったので、それから彼の気が向いた時に度々抱かれるようになった。イレーネも父の機嫌を損なわないためにディートハルトに身を委ねた。

「ぁっ、んっ、ん」

 ディートハルトは女の身体を知り尽くしていた。イレーネのいいところなど、とっくに見抜かれ、手早くいかせたい時はそこを集中的に攻められる。

「はぁ、うっ、もう……」
「もう、いく?」

 後ろから抱え込まれ、肌蹴た胸の頂きをくりくりと弄られながら、ディートハルトが耳元で問いかける。

 ろくに愛撫もせず挿入されて、呆気なく達しようとするイレーネの淫乱さを嘲笑う響きを込めていながら、囁く声は低く掠れて、それすら快感を煽る要因になって、イレーネは弓なりに腰を反らせ、くぐもった声をあげながら体を震わせた。

 中が激しく収縮し、淫水がどっと溢れ出すのがわかった。心地よい疲労が、頭の中を空っぽにして、この瞬間だけは、すべての悩みや苦痛から解放される。イレーネにとって、唯一安らぐ時でもあった。

「ぁんっ、」

 しかし未だ居座っている中のものがぐんと奥を突いたことで、また地獄へと引き戻される。溢れ出した愛液のおかげでさらに粘着質な音を響かせ、ディートハルトは硬く大きな肉杭でイレーネの中をかきまわすように蹂躙していく。

「や、もう、はぁ、いやぁっ……」

 達したばかりでひどく敏感になっていた彼女はまたあの頭が真っ白になるほどの悦楽を味わわされることを恐れ、首を横に振った。

「ディ、ディート、ハルトさま、どうか、もう、お許しを、んぅ、」
「俺はまだ、いってない」

 暴れるイレーネを後ろからしっかりと押さえつけ、ディートハルトは容赦なく下から肉棒を突き上げ、イレーネに嬌声を上げさせた。

「あっ、あぁっ、だめっ、またっ、あ、あ、んっ――」

 ディートハルトはイレーネを人形のように揺さぶると、勢いよく射精した。

「あ、はぁ、はぁ……」

 二人して荒い息を吐く。小刻みに震えるイレーネの身体はディートハルトによって支えられており、もし今彼が手を離せば、寝台の縁に座って抱え上げられている自分は床へ無様に転げ落ちるだろう。

 だが今日は体勢的に途中で引き抜くことが難しかったため、そのまま中へどくどくと注ぎ込まれていく。彼の逞しい腕はイレーネを離さないままであった。

「汗だくだな……」

 後ろで髪をまとめているイレーネのうなじを見ながら、あるいは触れている体温が熱いからそう思ったのか、とにかくディートハルトはぽつりと呟いた。がっしりとした腕で自分を抱えている彼の身体も、またひどく熱かった。

 相手が身じろぎしたので、イレーネも彼の膝の上から下りようとした。白濁をすべて吐き出した男根が自分の中から出て行きほっとするも、だらりと残滓が腿を伝っていく感触に急に虚しさが襲う。

「こちらを向いて」

 ふらふらになりながら立ち上がったイレーネの手を掴み、ディートハルトは己の方へ振り向かせた。一瞬まだするのかと不安になったが、彼はイレーネの秘所へ伸ばし、指を差し込んできた。

「んっ」

 ぐちゅぐちゅと音を立てながら掻き出しているのは精液だろう。

「あっ、ん……」

 細長い指がたっぷりと溢れ出した蜜壺の中をひっかく。精液と共に愛液もかき出され、ぼとぼと床へ染みを落としていく。イレーネは恥ずかしくてたまらず、また彼の指使いに子宮の奥が疼き、熱い息を零しながら腰をくねらせてしまう。

「じっとしていて」

 身じろぎするイレーネに命じるディートハルトの声はどこまでも淡々としていた。彼としては夕食の席に招待され、そのまま寝室へ案内されて、怪しまれないよう義務まで果たした。疲れて一刻も早くここを立ち去りたいと思っているはずだ。

「……」

 指を引き抜き、布でべとべとになった指を拭うと、彼はそっと手にいつもの薬を握らせた。部屋の外には使用人が待機しており、監視されているので、言葉にはしなかった。イレーネはその場で口にしてこくりと飲み込んだ。

 彼は衣服を整えると、そのまま立ち上がり、帰ることを告げた。せめて部屋を出るまでは見送ろうとしたが、彼はそれも制止した。

「きみはここで寝ているといい」

 その方が怪しまれない。イレーネは素直に従い、またお待ちしていますと別れの挨拶を代わりに口にした。

 彼がちらりと振り返る。紫の瞳にはこちらを憐れむような色を浮かばせていたが、やはり言葉にはせず、そのまま出て行った。

 部屋の外からもう帰るのですかという父の驚いた声が聴こえてくる。

『いいか、イレーネ。ディートハルトを籠絡しろ。やつの子どもを孕むのだ』

 イレーネはごろりと寝返りをうち、目を閉じた。

 父は子さえ孕めばどうにかできると考えているみたいだが、イレーネからすれば甘い考えだ。きっと子ができても、ディートハルトは自分の子と認めない。強硬に迫っても、マルガレーテとの幸せに邪魔だと判断すれば、イレーネの子など始末するだろう。それでイレーネが命を落としても、仕方がないと考える。

 彼はそういう人間だ、と彼女は冷静に思った。

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