37 / 41
37、ラファエルの見舞い
しおりを挟む
それから一週間経った頃。ついにラファエルとの面会が許された。事前に知らされていなかったイリスは、部屋まで通されたラファエルの姿を目にしてたいそう驚いた。
「イリス!」
彼はイリスを一目見るなり、抱きしめてきた。
「会いたかった……!」
「ラ、ラファエル……」
苦しいと思ったイリスだが、ラファエルの気持ちが痛いほど伝わってきて黙って背中に手を回した。
「……ラファエル様。どうかそのへんで」
コホンと控えめな咳払いがなされ、執事のパトリスが注意した。ラファエルがぱっとイリスから離れる。
「……悪い。もう二度とイリスに会えないと思ったから」
そんなはず、ない。
イリスはそう言いたかったけれど、ラファエルの顔を見ると決して誇張ではないと悟った。彼はイリスが倒れたことを今でも自分の責任だと思っている。
「お茶を淹れてまいりますが、くれぐれもお間違いのないよう、お願い致します」
「わかっている」
では、とパトリスは頭を下げて退室した。イリスのそばについていたメイドも一緒に出て行ったので、おそらく気を利かせてくれたのだと思う。もしもの時のために扉は半分開かれたままだったけれど。
「イリス」
ラファエルが沈黙から口を開く。
「怖い思いさせて、ごめんな」
「いいの。それよりラファエルこそ、頬は大丈夫?」
コルディエ公爵夫人の扇子で叩かれていたのだ。
「大丈夫だ。あれくらい、平気だ」
そんなことより、とラファエルはイリスの顔を心配した様子で見る。
「まだ体調悪いのか?」
「あ、ううん。これは普通に風邪ひいちゃって」
「なんだって?」
「あはは……でも、もう熱は下がったから」
ただまた体調を崩したことで両親に心配され、ベッドで休むよう言われたのだった。ラファエルが客間ではなくイリスの部屋へ通されたのもそういう理由である。
「本当に大丈夫だから、そんな顔しないで」
「けど……」
ラファエルがあまりにも酷い顔をして自分を責めるので、イリスは寝台から手を伸ばして彼の頬へ触れた。彼の言う通り、傷はできておらず、イリスはよかったと安堵した。
「心配させてごめんね。お医者さまも呼んでくれたそうで……ラファエルがいなかったら、もっと大変なことになっていたかもしれないわ」
「俺がいなければ、コルディエ公爵夫人はあんなに突っかかってこなかったかもしれないだろ」
そういえばあの時、やけに夫人はラファエルに対して当たりが強い気がした。
「もしかして、以前王太子殿下を庇おうとして恨みを買ったのが公爵夫人なの?」
「……ああ」
ラファエルは苦い顔をして頷いた。
「何かのパーティーだったと思うが、あまりにも度を越した態度で殿下に迫っていたから、それ以上はやめてくれとあくまでも義務的に言ったつもりだったが、言い方が癪に障ったのか、結局恨みを買う羽目になった」
この件は国王夫妻の耳にも入り、仲の悪い貴族たちからは嘲笑の的とされ、夫人はさらに屈辱的な思いを味わう結果となった。
これもすべてあの時サミュエルを庇った騎士――ラファエルのせいだ。夫人はそう思い、以後ラファエルと会う度に目の敵にするようになったそうである。
「そんなの、ラファエルのせいじゃないでしょう」
完全な逆恨みである。今回のことも先に絡んできたのは夫人の方であり、ラファエルはできるだけ穏便に済ませようとしていた。
「殿下を庇ったのだって、何もラファエルだけじゃないんでしょう?」
「そうだな。他の先輩方もみな同じように接しているはずだが……どうも俺の態度は鼻につくそうだ」
ラファエルは不可解な様子で愚痴を零した。
イリスは夫人の怒った顔を思い出す。扇子で口元が隠して話していたため、じっくりと見たわけではないが、貴婦人らしい高貴な顔立ちをしていた。
そしてラファエルもひどく整った顔をしている。それは夫人以上と言っていいかもしれない。しかし立場的にはラファエルの方がずっと下である。
たいていの者ならば、公爵家の人間を止めることに躊躇が生まれる。美しい女性ならばなおのこと。
けれどラファエルはそういったことに一切躊躇がなかった。サミュエルの護衛として、彼はただ真面目に、いっそ冷たいとも思われる態度で夫人を引き剥がそうとした。
これが他の騎士――自分より容姿の劣った、媚びへつらう様な態度ならば、あるいは公爵家と同等の貴族ならば、きっと夫人は余裕を持って「あら、ごめんなさいね」と謝ることができたのだろう。
しかしラファエルは違った。
ラファエルの美貌が、媚びない態度が、自分より下の身分が、公爵夫人を狼狽えさせ、プライドを傷つけた。
「俺は、騎士に向いていないのかもしれないな……」
「そんなことないわ。あの時、ラファエルはわたしやアナベルさんを庇ってくれたじゃない。立派に騎士として務めを果たしているじゃない」
「しかし、容姿のせいで変な異名までつけられて、相手をかえって激昂させたら意味がない」
変な異名、と称したあたり、やはり「氷の騎士」というあだ名は好きではないのだろう。
「殿下の護衛は、常に影のように寄り添い、決して目立ってはいけない。俺のせいで殿下に何かあったら、本末転倒だろう」
いつになく弱気な発言であった。イリスが倒れてしまったことで、追いつめられてしまったようにも見えた。
「……ねぇ、ラファエル。目立つなら、逆に利用してやればいいって、あなた以前王宮で言っていたじゃない」
イリスの誤解を解くためにわざわざサミュエルのもとへ連れて行った。変な噂が流れても、気にしないと涼しい顔をして答えたラファエル。イリスはその時の彼をとてもかっこよく思えたのだ。
「守り方は一つじゃないと思うわ。普通じゃないやり方だとしても、結果的に王太子殿下を守ることに繋がるなら、ラファエルは立派な騎士だよ」
「イリス……」
彼の瞳が揺るぎ、グッと堪えるように俯いた。
「だがそれで今回お前を傷つけることになった」
「傷ついてないわ。その前にあなたが守ってくれたじゃない」
まだ反論しようとするラファエルに、イリスは素早く答えた。
「それにわたし、あの時自分が倒れたおかげで周囲の注目が集まって、夫人が逃げてくれて、結果的によかったと思うの」
もしイリスがあのまま意識を保っていたとしても、夫人の剣幕に恐れをなしたまま、ぼうっと突っ立ていることしかできなかったと思う。コリンヌ嬢はさらに激しく責められ、アナベルや自分が再度標的とされ、ラファエルは自分たちを庇うためにさらに頬を叩かれていたかもしれない。
……と考えれば、あれはイリスなりの突破口であったのだ。
「……それは少し、強引すぎる解釈だろ」
「うっ……と、とにかく! もう気にしないで! そんなに落ち込まれちゃ、わたしも自分の弱さが恥ずかしいし、情けないわ!」
イリスが強引に納得させようとすると、ラファエルは呆れた眼差しをして、少し笑った。彼がやっと笑顔を見せてくれたことで、イリスも安心する。
「あのね、ラファエル。わたしも今回のことを踏まえて、自分を変えようと思うの」
「変える?」
「そう。夫人の剣幕にも耐えられるよう、もっと自分を鍛えるわ」
「……具体的にはどうやって?」
「それは……そうね、とにかくお茶会にたくさん参加して、怖いと噂される貴族の方ともお付き合いを重ねて……あとは、うーん……あ、ラファエルにわざと怒られて、免疫をつけるっていうのはどうかしら?」
イリスは必死に頭を回転させて解決策を捻りだせば、ラファエルは呆気にとられた様子で、しかしやがて我慢できないというように笑い声をあげた。
「いけないかしら?」
「いや……いいと、思うぞ。くくっ……イリスらしい、名案だ。特に最後の提案は」
「……ラファエル。あなた馬鹿にしているでしょう?」
「そんなことない。イリスが逃げずに戦うという道を選んだのが意外だったんだ」
なんだかやっぱり馬鹿にしている気がする。
「酷いわ、ラファエル。人が真面目に考えているのに」
「悪い。イリスがあまりにも違う方向に突っ走るから」
もう、とイリスは腹を立てたが、ラファエルが笑ってくれたのでまぁいいかと許した。口元に手の甲を当てて笑いを堪えていたラファエルはやがて深く息を吐いて、自信に満ちた笑みをイリスに向けた。
「イリスのおかげで元気出た。ありがとな」
「わたしは何もしていないけれど……」
「そんなことない。俺はイリスがいるからいつも……」
とそこで彼ははたと何かに気づいたように言葉を切った。
「そうか。俺にとってはイリスだったのか」
「え?」
「生きる活力ってやつ。俺にとってはイリスなんだ」
「ええ?」
それはちょっと……とイリスは思った。
「なんだよ、だってそうだろう。辛いことがあっても、イリスと会って話すと、また頑張ろうって思えるんだから」
「そ、それは……でも、別に素敵とか、そういうのは思わないでしょう?」
「可愛いとは思っている」
さらりと言われた言葉にイリスは一瞬固まった。けれど言った本人も恥ずかしいのか、そっぽを向いた。
「……自分で言って照れないでよ」
「仕方ないだろ。こういうの、殿下と違って俺は言い慣れていないんだ」
確かに日頃から息を吐くように女性を褒めているサミュエルとは経験の差が大きいだろう。けれど、イリスはそれに何だかひどく安心した。
彼がそんなことを言うのは自分だけなのだ。
(恥ずかしいけど、やっぱり嬉しい……)
えへへ、とだらしない笑みを浮かべていると、ラファエルが「なんだよその顔は」と指摘してくる。
「ラファエルに可愛いって言ってもらえて嬉しいの」
「……嬉しいのか」
「嬉しいよ。好きな人に言ってもらえるんだもん」
イリスがそう言うと、ラファエルはなぜか押し黙った。
「イリスは」
「うん?」
「イリスは俺のこと、どう思っているんだ」
「ラファエルのこと? もちろんかっこいいって思っているよ」
「……あの騎士よりもか?」
「イリス!」
彼はイリスを一目見るなり、抱きしめてきた。
「会いたかった……!」
「ラ、ラファエル……」
苦しいと思ったイリスだが、ラファエルの気持ちが痛いほど伝わってきて黙って背中に手を回した。
「……ラファエル様。どうかそのへんで」
コホンと控えめな咳払いがなされ、執事のパトリスが注意した。ラファエルがぱっとイリスから離れる。
「……悪い。もう二度とイリスに会えないと思ったから」
そんなはず、ない。
イリスはそう言いたかったけれど、ラファエルの顔を見ると決して誇張ではないと悟った。彼はイリスが倒れたことを今でも自分の責任だと思っている。
「お茶を淹れてまいりますが、くれぐれもお間違いのないよう、お願い致します」
「わかっている」
では、とパトリスは頭を下げて退室した。イリスのそばについていたメイドも一緒に出て行ったので、おそらく気を利かせてくれたのだと思う。もしもの時のために扉は半分開かれたままだったけれど。
「イリス」
ラファエルが沈黙から口を開く。
「怖い思いさせて、ごめんな」
「いいの。それよりラファエルこそ、頬は大丈夫?」
コルディエ公爵夫人の扇子で叩かれていたのだ。
「大丈夫だ。あれくらい、平気だ」
そんなことより、とラファエルはイリスの顔を心配した様子で見る。
「まだ体調悪いのか?」
「あ、ううん。これは普通に風邪ひいちゃって」
「なんだって?」
「あはは……でも、もう熱は下がったから」
ただまた体調を崩したことで両親に心配され、ベッドで休むよう言われたのだった。ラファエルが客間ではなくイリスの部屋へ通されたのもそういう理由である。
「本当に大丈夫だから、そんな顔しないで」
「けど……」
ラファエルがあまりにも酷い顔をして自分を責めるので、イリスは寝台から手を伸ばして彼の頬へ触れた。彼の言う通り、傷はできておらず、イリスはよかったと安堵した。
「心配させてごめんね。お医者さまも呼んでくれたそうで……ラファエルがいなかったら、もっと大変なことになっていたかもしれないわ」
「俺がいなければ、コルディエ公爵夫人はあんなに突っかかってこなかったかもしれないだろ」
そういえばあの時、やけに夫人はラファエルに対して当たりが強い気がした。
「もしかして、以前王太子殿下を庇おうとして恨みを買ったのが公爵夫人なの?」
「……ああ」
ラファエルは苦い顔をして頷いた。
「何かのパーティーだったと思うが、あまりにも度を越した態度で殿下に迫っていたから、それ以上はやめてくれとあくまでも義務的に言ったつもりだったが、言い方が癪に障ったのか、結局恨みを買う羽目になった」
この件は国王夫妻の耳にも入り、仲の悪い貴族たちからは嘲笑の的とされ、夫人はさらに屈辱的な思いを味わう結果となった。
これもすべてあの時サミュエルを庇った騎士――ラファエルのせいだ。夫人はそう思い、以後ラファエルと会う度に目の敵にするようになったそうである。
「そんなの、ラファエルのせいじゃないでしょう」
完全な逆恨みである。今回のことも先に絡んできたのは夫人の方であり、ラファエルはできるだけ穏便に済ませようとしていた。
「殿下を庇ったのだって、何もラファエルだけじゃないんでしょう?」
「そうだな。他の先輩方もみな同じように接しているはずだが……どうも俺の態度は鼻につくそうだ」
ラファエルは不可解な様子で愚痴を零した。
イリスは夫人の怒った顔を思い出す。扇子で口元が隠して話していたため、じっくりと見たわけではないが、貴婦人らしい高貴な顔立ちをしていた。
そしてラファエルもひどく整った顔をしている。それは夫人以上と言っていいかもしれない。しかし立場的にはラファエルの方がずっと下である。
たいていの者ならば、公爵家の人間を止めることに躊躇が生まれる。美しい女性ならばなおのこと。
けれどラファエルはそういったことに一切躊躇がなかった。サミュエルの護衛として、彼はただ真面目に、いっそ冷たいとも思われる態度で夫人を引き剥がそうとした。
これが他の騎士――自分より容姿の劣った、媚びへつらう様な態度ならば、あるいは公爵家と同等の貴族ならば、きっと夫人は余裕を持って「あら、ごめんなさいね」と謝ることができたのだろう。
しかしラファエルは違った。
ラファエルの美貌が、媚びない態度が、自分より下の身分が、公爵夫人を狼狽えさせ、プライドを傷つけた。
「俺は、騎士に向いていないのかもしれないな……」
「そんなことないわ。あの時、ラファエルはわたしやアナベルさんを庇ってくれたじゃない。立派に騎士として務めを果たしているじゃない」
「しかし、容姿のせいで変な異名までつけられて、相手をかえって激昂させたら意味がない」
変な異名、と称したあたり、やはり「氷の騎士」というあだ名は好きではないのだろう。
「殿下の護衛は、常に影のように寄り添い、決して目立ってはいけない。俺のせいで殿下に何かあったら、本末転倒だろう」
いつになく弱気な発言であった。イリスが倒れてしまったことで、追いつめられてしまったようにも見えた。
「……ねぇ、ラファエル。目立つなら、逆に利用してやればいいって、あなた以前王宮で言っていたじゃない」
イリスの誤解を解くためにわざわざサミュエルのもとへ連れて行った。変な噂が流れても、気にしないと涼しい顔をして答えたラファエル。イリスはその時の彼をとてもかっこよく思えたのだ。
「守り方は一つじゃないと思うわ。普通じゃないやり方だとしても、結果的に王太子殿下を守ることに繋がるなら、ラファエルは立派な騎士だよ」
「イリス……」
彼の瞳が揺るぎ、グッと堪えるように俯いた。
「だがそれで今回お前を傷つけることになった」
「傷ついてないわ。その前にあなたが守ってくれたじゃない」
まだ反論しようとするラファエルに、イリスは素早く答えた。
「それにわたし、あの時自分が倒れたおかげで周囲の注目が集まって、夫人が逃げてくれて、結果的によかったと思うの」
もしイリスがあのまま意識を保っていたとしても、夫人の剣幕に恐れをなしたまま、ぼうっと突っ立ていることしかできなかったと思う。コリンヌ嬢はさらに激しく責められ、アナベルや自分が再度標的とされ、ラファエルは自分たちを庇うためにさらに頬を叩かれていたかもしれない。
……と考えれば、あれはイリスなりの突破口であったのだ。
「……それは少し、強引すぎる解釈だろ」
「うっ……と、とにかく! もう気にしないで! そんなに落ち込まれちゃ、わたしも自分の弱さが恥ずかしいし、情けないわ!」
イリスが強引に納得させようとすると、ラファエルは呆れた眼差しをして、少し笑った。彼がやっと笑顔を見せてくれたことで、イリスも安心する。
「あのね、ラファエル。わたしも今回のことを踏まえて、自分を変えようと思うの」
「変える?」
「そう。夫人の剣幕にも耐えられるよう、もっと自分を鍛えるわ」
「……具体的にはどうやって?」
「それは……そうね、とにかくお茶会にたくさん参加して、怖いと噂される貴族の方ともお付き合いを重ねて……あとは、うーん……あ、ラファエルにわざと怒られて、免疫をつけるっていうのはどうかしら?」
イリスは必死に頭を回転させて解決策を捻りだせば、ラファエルは呆気にとられた様子で、しかしやがて我慢できないというように笑い声をあげた。
「いけないかしら?」
「いや……いいと、思うぞ。くくっ……イリスらしい、名案だ。特に最後の提案は」
「……ラファエル。あなた馬鹿にしているでしょう?」
「そんなことない。イリスが逃げずに戦うという道を選んだのが意外だったんだ」
なんだかやっぱり馬鹿にしている気がする。
「酷いわ、ラファエル。人が真面目に考えているのに」
「悪い。イリスがあまりにも違う方向に突っ走るから」
もう、とイリスは腹を立てたが、ラファエルが笑ってくれたのでまぁいいかと許した。口元に手の甲を当てて笑いを堪えていたラファエルはやがて深く息を吐いて、自信に満ちた笑みをイリスに向けた。
「イリスのおかげで元気出た。ありがとな」
「わたしは何もしていないけれど……」
「そんなことない。俺はイリスがいるからいつも……」
とそこで彼ははたと何かに気づいたように言葉を切った。
「そうか。俺にとってはイリスだったのか」
「え?」
「生きる活力ってやつ。俺にとってはイリスなんだ」
「ええ?」
それはちょっと……とイリスは思った。
「なんだよ、だってそうだろう。辛いことがあっても、イリスと会って話すと、また頑張ろうって思えるんだから」
「そ、それは……でも、別に素敵とか、そういうのは思わないでしょう?」
「可愛いとは思っている」
さらりと言われた言葉にイリスは一瞬固まった。けれど言った本人も恥ずかしいのか、そっぽを向いた。
「……自分で言って照れないでよ」
「仕方ないだろ。こういうの、殿下と違って俺は言い慣れていないんだ」
確かに日頃から息を吐くように女性を褒めているサミュエルとは経験の差が大きいだろう。けれど、イリスはそれに何だかひどく安心した。
彼がそんなことを言うのは自分だけなのだ。
(恥ずかしいけど、やっぱり嬉しい……)
えへへ、とだらしない笑みを浮かべていると、ラファエルが「なんだよその顔は」と指摘してくる。
「ラファエルに可愛いって言ってもらえて嬉しいの」
「……嬉しいのか」
「嬉しいよ。好きな人に言ってもらえるんだもん」
イリスがそう言うと、ラファエルはなぜか押し黙った。
「イリスは」
「うん?」
「イリスは俺のこと、どう思っているんだ」
「ラファエルのこと? もちろんかっこいいって思っているよ」
「……あの騎士よりもか?」
57
お気に入りに追加
680
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】8年越しの初恋に破れたら、なぜか意地悪な幼馴染が急に優しくなりました。
大森 樹
恋愛
「君だけを愛している」
「サム、もちろん私も愛しているわ」
伯爵令嬢のリリー・スティアートは八年前からずっと恋焦がれていた騎士サムの甘い言葉を聞いていた。そう……『私でない女性』に対して言っているのを。
告白もしていないのに振られた私は、ショックで泣いていると喧嘩ばかりしている大嫌いな幼馴染の魔法使いアイザックに見つかってしまう。
泣いていることを揶揄われると思いきや、なんだか急に優しくなって気持ち悪い。
リリーとアイザックの関係はどう変わっていくのか?そしてなにやら、リリーは誰かに狙われているようで……一体それは誰なのか?なぜ狙われなければならないのか。
どんな形であれハッピーエンド+完結保証します。
不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない
かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」
婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。
もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。
ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。
想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。
記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…?
不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。
12/11追記
書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。
たくさんお読みいただきありがとうございました!
月が隠れるとき
いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。
その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。
という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。
小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。
望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】
男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。
少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。
けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。
少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。
それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。
その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。
そこには残酷な現実が待っていた――
*他サイトでも投稿中
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている
百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……?
※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです!
※他サイト様にも掲載
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる