途中闇堕ちしますが、愛しの護衛騎士は何度でもわたしを愛します

りつ

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初夜*

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 半年以上の婚約期間を経て、春の季節にリュシエンヌはランスロットと式を挙げた。

 大勢の人間に祝福されて、何時間にもわたっての行事だったが、リュシエンヌは緊張のせいか終始時間の感覚がなく、終わってしまえば実にあっという間な気がした。

 ただ騎士団の正装に身を包んだランスロットの姿や、彼がベールを持ち上げ、自分を目に映した時の驚き、はにかんだ笑みだけは実にはっきりと覚えている。

 たぶんこれからも一生忘れることはない。

(口づけも……)

 カタンと小さく物音が鳴り、リュシエンヌは肩を震わせた。振り返れば、「あ」という顔をしたランスロットが寝室へ入ってくるところだった。

「もう先にいらしてたんですね」
「え、ええ……」
「いやぁ。なんだかあっという間でしたね。朝は死ぬほど早かったのに、もうこんな時間になって」
「そうね……」

 ランスロットはぺらぺらと話し続けながらリュシエンヌのいる長椅子へ近づいてきて、隣に腰かけた。湯を浴びてきた彼の体温を感じる。先ほどまで飽きずに話していた彼は不意に口を噤み、静寂が場を支配する。

(ど、どうして急に黙るの?)

 それとも自分から会話を振った方がいいのか。でも何を話せばいいのか、と軽くパニックになり始めたリュシエンヌの顔を、ランスロットが下から覗き込んできた。

「っ……」

 以前よりも大げさなほど彼女は仰け反った。それを見てふっとランスロットが微笑む。

「ランスロット!」
「すみません。姫様が見るからにガチガチに緊張なさっているので、少し驚かせてリラックスさせようと思いまして」
「そんなこと言って、本当はわたしを揶揄いたいだけでしょう」
「あっ、ばれましたか」
「もう!」

 ひどい、と怒るリュシエンヌをまぁまぁとランスロットが宥める。

「でもほら、おかげで少しリラックスできたでしょう?」

 どうして彼が自分を落ち着かせようとしているのか。その答えを知っているリュシエンヌはぎゅっと夜着を握りしめた。

「……本当に、するの?」

 彼と結婚した。夫婦になった。でもそれは女神アリアーヌに誓っただけでは認められない。

 今夜彼と身体を繋げる必要がある。

 リュシエンヌも白い結婚で済ませられるとは思っていない。

 しかしいざその時が来ると、未知なる体験への戸惑いや恐怖が湧いた。

 まだ先へ進みたくない。我儘が許される子どものままでいたいという気持ちになった。

「俺とするのは、嫌ですか」
「そうじゃなくて……」

 もう少しだけ待ってほしい……。いや、それも違うかもしれない。

 自分でも上手く表現できない感情をリュシエンヌは持て余す。

 そんな彼女をランスロットはしばらくじっと見つめていたが、やがて立ち上がった。幻滅したのかと不安が過れば、彼はリュシエンヌを抱き上げた。

「えっ、な、なに?」
「姫様がまだ俺のことを受け入れられなくても、もう俺の奥さんになったんですから、俺のこと、これから大好きになってもらいます」
「別にあなたのことは……」

 嫌いではない。むしろ……。

 その先を言葉にできずもどかしい気持ちになるリュシエンヌに、ランスロットは笑みを深めて寝台へ上がった。二人分の重みで、ぎしりとスプリングが軋む。押し倒されるかたちで彼に跨られ、見下ろされる。彼の瞳には、もう先ほどのおちゃらけた雰囲気はなく、ただ真剣な思いが込められていた。

「本当に嫌なら、俺のこと殴って逃げても構いませんよ」

 やっぱりランスロットは優しい。そしてずるい。

「そんなこと、しないわ。……わたしはあなたと夫婦になったもの」

 目を逸らしたい誘惑に逆らい、必死で彼を見つめ返す。本当はもっと可愛らしい言葉で彼の想いに応えたいが、今のリュシエンヌにはこれが精いっぱいだった。

 掠れた声で先を進む許可を出した彼女に、ランスロットは柔らかな微笑を返し、ゆっくりと顔を近づけてきた。互いの吐息が感じられ、心臓の鼓動が速まる。

 触れるかどうかの唇の感触に目を瞬くと、今度は強く押し付けられ、唇が重なった。

(柔らかい……)

 ランスロットは何度も角度を変え、啄むようにリュシエンヌに口づけする。彼女は彼の唇が離れた隙を狙って、呼吸をする。でも間をおかずにキスされるので、次第に浅い呼吸となり、口を開いた。

 すると、まるでその瞬間を待っていたかのようにぬるりと何かが捩じ込まれてきた。

「んっ……」

 ランスロットの舌だった。リュシエンヌはびっくりして、身体をびくりと震わせる。

「大丈夫……舌、絡ませてください……」

 どこか熱っぽさを感じる声で言われ、リュシエンヌは小さく頷いた。おずおずと引っ込めていた舌を差し出せば、ランスロットの舌先が絡みついてくる。吸うように奥から前へ舐められ、リュシエンヌは腰を浮かせた。

「んんっ……」

 弄られているのは口の中なのに、なぜか腰やお腹がむずむずしてしまう。息も上手くできなくて、目尻に涙が溜まる。

「っ……ランスロット……、ちょっと、待って……」

 のしかかるように口づけを交わすランスロットの肩口を掴み、切れ切れにリュシエンヌは懇願する。

「……すみません。いきなりがっつき過ぎましたね」

 顔を離したランスロットは、リュシエンヌの呼吸が整うまで待ってくれた。ただその間も一心に見つめてくるので、彼女は恥ずかしく、困った気持ちになった。

「服、脱がせますね」
「あ、だめ……」

 夜着のリボンを解こうとしたランスロットの手を思わずパシッと止めた。目が合い、どうして? と表情だけで尋ねてくる彼にリュシエンヌは焦る。

「あの、今日は服を着たままじゃダメかしら。その、やっぱり恥ずかしくて……」

 それまで少し怖いくらい真剣な表情をしていたランスロットがふっと相好を崩したかと思えば、明るくも呆れた調子で言った。

「記念すべき初夜だというのに服を脱いでくれないなんて……姫様ってば案外鬼畜ですね」
「うっ、だって……」
「夫婦なんですから、気にしなくていいんですよ」
「……じゃあ、せめて部屋を暗くして」

 室内には使用人たちがキャンドルを焚いてロマンチックな雰囲気を作り出していた。

 それは構わないのだが、柔らかい光とはいえ、相手の顔や身体まできちんと見ることができるので、自分の裸もランスロットに見られてしまうことが問題であった。

 なんだかんだ彼はいつも自分のお願いことを聞いてくれるから、きっと希望通りにしてくれると思ったのだが……。

「うーん……。じゃあ、最初はこのままします」
「えっ」

 ランスロットは灯りをつけたまま抱くと言う。まさかの答えに驚くリュシエンヌを放って、彼は隣に寝転んできた。

 そうして腰に手を回して引き寄せたかと思うと、あっちを向いてと、自分の方に向いていたリュシエンヌの身体を反対向きにさせる。彼女は訳がわからず、再度尋ねようとしたが、うなじに柔らかな感触を感じた。これは――

「ひゃっ……」

 ランスロットが唇で肌を吸った。ぞくりと甘美な快感が背中を駆け抜けるも、処女であるリュシエンヌはそれが快感だと知らぬまま、振り返って彼に抗議した。

「ど、どうしてこんなことするの」
「ん? だって姫様は見られるのが嫌なんでしょう? ですから後ろから触ろうと思いまして」
「そうじゃなくて、んっ……」

 またランスロットが唇を寄せた。今度はうなじではなく、リュシエンヌのこめかみにキスした。そのまま耳孔に息を吹きかけ、小さな耳朶をぱくりと咥えてくる。

「や、やだ、そこ……あっ……」

 耳に意識を取られていたリュシエンヌの不意を突くように、ランスロットの手が胸に触れた。膨らみを掌で包み込むように被せ、やわやわと揉みしだいていく。

 自分でさえあまり触れたことのない部位を異性――好きな男性に触れられて、リュシエンヌはかぁっと頬が熱くなった。

(は、恥ずかしい……!)

 やめてほしいわけではないが、非常に居たたまれない気持ちに襲われる。

 リュシエンヌが羞恥と混乱でどうすることもできない間に、乳房全体を揉んでいた彼の掌は、人差し指で円を描くように先をなぞり、親指が何かを探すように先端を掠めていく。丁寧で、時に力強さも感じる胸の愛撫に、リュシエンヌは次第にくすぐったさと他の何かを感じ始める。

(あっ……)

 ランスロットの指先が胸の先端へ触れた。

 いつの間にか薄い夜着の布地を押し上げ、胸の蕾が勃ち上がっていた。それを彼がそっと押しつぶし、または絃を弾くかのように弄ってくる。楽器を鳴らすようにリュシエンヌは身体をくねらせ、夜着の裾を徐々に乱れさせていった。

「んっ……ランスロット……っ」
「大丈夫……。俺は見ていませんよ……」
「そうじゃ、ぁっ……」

 乳房を揉んでいた片方の掌がお腹を撫で、太股の間に滑り込んできた。リュシエンヌは反射的にきゅっと股を閉じたが、ランスロットは可愛い抵抗だと言うように耳元で笑った。

「姫様、いつまでそうなさるおつもりですか」

 ランスロットは一度リュシエンヌの太股に挟まれた手を引き抜くと、裾が捲れて露わになっているリュシエンヌの脚を撫で擦ってきた。

 それまで布越しだったのが、素肌に直接触れられ、リュシエンヌは敏感に感じてしまう。彼の悪戯な手を捕まえようとすれば、今度は臀部の方を撫で回し、もう片方の手で胸の突起を弄って、リュシエンヌを翻弄する。

「はぁ、はぁ……、んっ、だめ……っ、そんなたくさん触っちゃ、あっ……」

 リュシエンヌの意識を他へ逸らしたことで、ランスロットは彼女の堅く閉じていた股を開かせることに成功した。夜着の下には短めのドロワースを着ていたが、股上を縫っておらず、簡単にその奥へ進むことができた。

「ランスロット、そこは……」

 日頃身の回りの世話をしてくれる侍女ですら触ることがない秘めた場所に、ランスロットの指が触れ、リュシエンヌは急に怖くなった。

 ランスロットの方を振り向けば、彼は見たこともない顔――少し怖い表情をしていたが、不安なリュシエンヌの眼差しに、いつもの優しさを浮かべ、頬を寄せてきた。

「姫様。俺はここで貴女と一つになります。でもいきなり貫けば貴女に痛みを与えてしまう。それは、俺の望むことじゃありません。貴女には少しでも、気持ちよくなってほしい。ですからその前に指で触れることをどうかお許しください」
「……わたしが痛い思いをしないために、これは必要なことなの?」
「はい」

 ランスロットはきっぱりと肯定した。

 ……正直、ランスロットの言葉にはよく分からないところもあった。

 しかしこれは必要なことだと、真面目な口調で説明され、リュシエンヌは素直に身を委ねることにした。時々揶揄う時もあるが、彼が自分を傷つける真似は絶対にしない。

 それにリュシエンヌもランスロットと一つになりたかった。
 きちんと夫婦になりたかった。

「……わかったわ。あなたを信じます。……触ってください」
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