7 / 29
7. 兄妹
しおりを挟む
懐かしい人が、イレーナを訪ねてきた。
「イレーナ。元気だったか?」
イレーナと同じダークブラウンの髪色をきれいに後ろで撫でつけた青年が微笑んだ。目元はイレーナと違ってほんの少し下がっているので笑うとさらに優しい印象を与える。イレーナの兄、リュシアンであった。
「久しぶりすぎて俺の顔を忘れてしまったんじゃないか?」
朗らかな声に、イレーナは自然と口元に笑みを浮かべていた。
「お兄様ったら。相変わらずお元気そうで何より」
「お前はどうなんだ?」
気遣う眼差しでそっとリュシアンはイレーナの頬を撫でた。
「少し痩せたんじゃないか?」
「いいえ。むしろ食べ過ぎてしまったくらいよ」
「ならいいんだが……お前に結婚は荷が重いんじゃないかと心配だったんだ」
イレーナの性格を兄であるリュシアンはよく知っている。
「お兄様こそ、結婚生活は上手くいっているの?」
「無事に、と建前でも言っておくべきなんだろうな」
疲れたような笑みを浮かべる兄に、イレーナは眉根を寄せる。
「お義姉様と……上手くいっていないの?」
「表では上手くいってるさ」
見えないところでは上手くいっていないらしい。
リュシアンは長い脚を毛の長い絨毯に放り出し、深く長椅子に腰かけた。イレーナの前だけで見せるくつろいだ姿だった。だが今はどこか投げやりにも見え、イレーナを不安にさせた。
「俺には結婚なんか向いてなかったんだろうなってこの頃つくづく思うんだ」
イレーナは兄を慰めるように隣に腰を下ろした。
「そんなことないわ。お兄様はとても優しくて、紳士的じゃない」
実際兄は社交界でいつも異性の視線を独り占めしていた。誰もが彼から結婚を申し込んで欲しいと、妹であるイレーナに近づく令嬢が大勢いたものだ。
「女を見ると、いつもあの人の姿が頭を過るよ」
お前もそうだろう? と乾いた声でリュシアンは言った。そうね、とイレーナは曖昧に頷き、テーブルへと視線を逸らした。
冷めた紅茶に、母を連想した。何かを見るたびに母を思い出す。
「あの人の機嫌を損なわないにはどうしたらいいか、そればっかり考えてきた。おかげで女性の扱いにもすっかり慣れてしまったというわけさ」
母には長いこと子どもができなかった。ようやく宿ったかと思えばそれは女の子で、イレーナだった。母の絶望は大きかった。その後も、女ばかりが生まれた。
家を継ぐのは男。そう決めていた父はある日突然リュシアンを屋敷へ連れてきた。お前たちの兄だと言って。
イレーナよりも三つ上の子ども。なかなか子どもができない母に隠れて、父はきちんと愛人に子を産ませていた。その事実を知った母の心は荒れ狂って、愛人の子だったリュシアンに辛く当たった。
それでも決定的な間違いを起こさなかったのは、彼が跡取り息子だと夫に釘を刺されていたからだ。
非道な父を、母は愛していた。だから代わりに兄が母の憎しみを背負いつつ、その苦痛に耐えながら屋敷で育った。その姿をイレーナはずっと見てきた。
(可哀想なお兄様……)
「でも、おかげでお義姉様のような素晴らしい女性と結婚できたわ」
「そう、素晴らしい女性。俺の本当の母上ように、な」
不安がよぎる。
「違うの?」
「魅力的すぎて、俺一人ではご満足いただけないようだ」
「そんな……」
リュシアンの妻はイレーナもよく知っている。いかにも貞淑で、身持ちが固い女性に見えた。
「お兄様はそれを知って……どうするの?」
「どうもしないさ。見てみぬ振り、知らぬ振り、さ。まあ、子どもができたら考えないといけないけどな」
「……」
「それも俺の子であるか怪しいけどな」
リュシアンがイレーナを見つめ、彼女はその暗さに胸がつまった。辛い立場に負けず、いつも照り返すように輝いていた兄の目。だが今、その輝きはどこにもなかった。
リュシアンとイレーナはたしかに兄妹だ。同じ血が流れている。しかしそれは半分だけだ。しかも母を狂わせた女の血がリュシアンには流れていた。その血に苦しめられ、自分はそうなるまいと兄はずっと逆らい続けてきた。それなのに――
「お兄様……」
「結婚って、人を好きなるって何なんだろうな、イレーナ」
(本当に……)
「お前にばかり辛い思いをさせて……俺だけ安全な所にいて、それに報いるために頑張ってきたつもりだが、人の気持ちばかりは上手くいかない」
俺なんかが兄でごめんな、というリュシアンの言葉があまりにも切なくて、イレーナはそっと手を重ねた。
「時々、俺は本当にお前の兄なのか不安になるんだ。父上の血すら、引いてないんじゃないかって。俺は誰か別の――」
「そんなことおっしゃらないで、お兄様」
たしかに半分だけだ。でもリュシアンは間違いなくイレーナの兄であった。
「お兄様は私の自慢のお兄様よ」
「だが俺は……」
「たとえ確かな証拠がなくとも、どんな生まれであろうと、かけがえのない時を一緒に過ごした、ただ一人の私のお兄様よ」
そう言ってちょうだいな、と懇願するように見つめ返せば、兄は困ったように肩を竦めた。
「そうだな、イレーナ。おまえの言うとおりだ。俺がどうかしていた。俺は間違いなくお前の兄だ」
「そうよ。しっかりしてくださいな」
「ああ……ありがとう。俺が信じられるのは、もうお前くらいだよ、イレーナ」
「……いつも叱っていた婆やもよ」
違いない、とようやく兄は屈託ない表情で笑ってくれた。
◇
それからひとしきり昔話に花が咲き、外がどっぷりと暗くなった頃、そろそろ帰るかと兄は腰を上げた。もう遅いし泊まっていけば、というイレーナの誘いにもリュシアンは首を振った。イレーナは寂しく思ったものの、いろいろあるのだろうとまた来てねと微笑んだ。
「イレーナ。辛くなったらいつでも帰ってきていいからな」
「お兄様。それでは私が伯爵と別れたがっているみたいよ」
「実際そうだろう?」
お兄様……とイレーナは困ったように兄を見つめた。リュシアンの顔は真剣だった。
「伯爵は俺の訪問を知っているはずだが、とうとう挨拶に来てくれなかったな」
「それは……今は、お忙しい時ですもの」
伯爵の愛するマリアンヌは、社交界では有名な人間だ。兄が知らないわけがない。そもそも知っていながらイレーナは嫁いできた。それは兄の一存というより、イレーナの父が決めたことだった。
「お前には、辛い思いをさせた。もう、怖い思いはさせたくない。父上ももう昔のように若くない。俺が爵位を継げば、誰も文句は言えない……だから、逃げたいと思ったら、いつでも逃げていいんだぞ」
そういって抱きしめてくれた兄に、イレーナは胸が締め付けられた。逃げてもいい。それは兄がずっと誰かに言ってほしかった言葉ではないかと思ったからだ。
「イレーナ。元気だったか?」
イレーナと同じダークブラウンの髪色をきれいに後ろで撫でつけた青年が微笑んだ。目元はイレーナと違ってほんの少し下がっているので笑うとさらに優しい印象を与える。イレーナの兄、リュシアンであった。
「久しぶりすぎて俺の顔を忘れてしまったんじゃないか?」
朗らかな声に、イレーナは自然と口元に笑みを浮かべていた。
「お兄様ったら。相変わらずお元気そうで何より」
「お前はどうなんだ?」
気遣う眼差しでそっとリュシアンはイレーナの頬を撫でた。
「少し痩せたんじゃないか?」
「いいえ。むしろ食べ過ぎてしまったくらいよ」
「ならいいんだが……お前に結婚は荷が重いんじゃないかと心配だったんだ」
イレーナの性格を兄であるリュシアンはよく知っている。
「お兄様こそ、結婚生活は上手くいっているの?」
「無事に、と建前でも言っておくべきなんだろうな」
疲れたような笑みを浮かべる兄に、イレーナは眉根を寄せる。
「お義姉様と……上手くいっていないの?」
「表では上手くいってるさ」
見えないところでは上手くいっていないらしい。
リュシアンは長い脚を毛の長い絨毯に放り出し、深く長椅子に腰かけた。イレーナの前だけで見せるくつろいだ姿だった。だが今はどこか投げやりにも見え、イレーナを不安にさせた。
「俺には結婚なんか向いてなかったんだろうなってこの頃つくづく思うんだ」
イレーナは兄を慰めるように隣に腰を下ろした。
「そんなことないわ。お兄様はとても優しくて、紳士的じゃない」
実際兄は社交界でいつも異性の視線を独り占めしていた。誰もが彼から結婚を申し込んで欲しいと、妹であるイレーナに近づく令嬢が大勢いたものだ。
「女を見ると、いつもあの人の姿が頭を過るよ」
お前もそうだろう? と乾いた声でリュシアンは言った。そうね、とイレーナは曖昧に頷き、テーブルへと視線を逸らした。
冷めた紅茶に、母を連想した。何かを見るたびに母を思い出す。
「あの人の機嫌を損なわないにはどうしたらいいか、そればっかり考えてきた。おかげで女性の扱いにもすっかり慣れてしまったというわけさ」
母には長いこと子どもができなかった。ようやく宿ったかと思えばそれは女の子で、イレーナだった。母の絶望は大きかった。その後も、女ばかりが生まれた。
家を継ぐのは男。そう決めていた父はある日突然リュシアンを屋敷へ連れてきた。お前たちの兄だと言って。
イレーナよりも三つ上の子ども。なかなか子どもができない母に隠れて、父はきちんと愛人に子を産ませていた。その事実を知った母の心は荒れ狂って、愛人の子だったリュシアンに辛く当たった。
それでも決定的な間違いを起こさなかったのは、彼が跡取り息子だと夫に釘を刺されていたからだ。
非道な父を、母は愛していた。だから代わりに兄が母の憎しみを背負いつつ、その苦痛に耐えながら屋敷で育った。その姿をイレーナはずっと見てきた。
(可哀想なお兄様……)
「でも、おかげでお義姉様のような素晴らしい女性と結婚できたわ」
「そう、素晴らしい女性。俺の本当の母上ように、な」
不安がよぎる。
「違うの?」
「魅力的すぎて、俺一人ではご満足いただけないようだ」
「そんな……」
リュシアンの妻はイレーナもよく知っている。いかにも貞淑で、身持ちが固い女性に見えた。
「お兄様はそれを知って……どうするの?」
「どうもしないさ。見てみぬ振り、知らぬ振り、さ。まあ、子どもができたら考えないといけないけどな」
「……」
「それも俺の子であるか怪しいけどな」
リュシアンがイレーナを見つめ、彼女はその暗さに胸がつまった。辛い立場に負けず、いつも照り返すように輝いていた兄の目。だが今、その輝きはどこにもなかった。
リュシアンとイレーナはたしかに兄妹だ。同じ血が流れている。しかしそれは半分だけだ。しかも母を狂わせた女の血がリュシアンには流れていた。その血に苦しめられ、自分はそうなるまいと兄はずっと逆らい続けてきた。それなのに――
「お兄様……」
「結婚って、人を好きなるって何なんだろうな、イレーナ」
(本当に……)
「お前にばかり辛い思いをさせて……俺だけ安全な所にいて、それに報いるために頑張ってきたつもりだが、人の気持ちばかりは上手くいかない」
俺なんかが兄でごめんな、というリュシアンの言葉があまりにも切なくて、イレーナはそっと手を重ねた。
「時々、俺は本当にお前の兄なのか不安になるんだ。父上の血すら、引いてないんじゃないかって。俺は誰か別の――」
「そんなことおっしゃらないで、お兄様」
たしかに半分だけだ。でもリュシアンは間違いなくイレーナの兄であった。
「お兄様は私の自慢のお兄様よ」
「だが俺は……」
「たとえ確かな証拠がなくとも、どんな生まれであろうと、かけがえのない時を一緒に過ごした、ただ一人の私のお兄様よ」
そう言ってちょうだいな、と懇願するように見つめ返せば、兄は困ったように肩を竦めた。
「そうだな、イレーナ。おまえの言うとおりだ。俺がどうかしていた。俺は間違いなくお前の兄だ」
「そうよ。しっかりしてくださいな」
「ああ……ありがとう。俺が信じられるのは、もうお前くらいだよ、イレーナ」
「……いつも叱っていた婆やもよ」
違いない、とようやく兄は屈託ない表情で笑ってくれた。
◇
それからひとしきり昔話に花が咲き、外がどっぷりと暗くなった頃、そろそろ帰るかと兄は腰を上げた。もう遅いし泊まっていけば、というイレーナの誘いにもリュシアンは首を振った。イレーナは寂しく思ったものの、いろいろあるのだろうとまた来てねと微笑んだ。
「イレーナ。辛くなったらいつでも帰ってきていいからな」
「お兄様。それでは私が伯爵と別れたがっているみたいよ」
「実際そうだろう?」
お兄様……とイレーナは困ったように兄を見つめた。リュシアンの顔は真剣だった。
「伯爵は俺の訪問を知っているはずだが、とうとう挨拶に来てくれなかったな」
「それは……今は、お忙しい時ですもの」
伯爵の愛するマリアンヌは、社交界では有名な人間だ。兄が知らないわけがない。そもそも知っていながらイレーナは嫁いできた。それは兄の一存というより、イレーナの父が決めたことだった。
「お前には、辛い思いをさせた。もう、怖い思いはさせたくない。父上ももう昔のように若くない。俺が爵位を継げば、誰も文句は言えない……だから、逃げたいと思ったら、いつでも逃げていいんだぞ」
そういって抱きしめてくれた兄に、イレーナは胸が締め付けられた。逃げてもいい。それは兄がずっと誰かに言ってほしかった言葉ではないかと思ったからだ。
250
お気に入りに追加
1,165
あなたにおすすめの小説

妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける
堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」
王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。
クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。
せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。
キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。
クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。
卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。
目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。
淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。
そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。

【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。
火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。
しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。
数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる