旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ

文字の大きさ
上 下
4 / 29

4. 奇妙な申し出

しおりを挟む

 作戦会議は終わり、その日はそのまま義両親の所に泊まることになっていたのに……なぜ、私はカイナル様に抱き締めれて、自室で寝ているのでしょうか? 

 答えは、深夜私が寝ている部屋に忍込み運んだまま寝たからでした。

 じゃないわよ!! さすがに、これはアウトよ!! アウト!! 年齢的にもね!! それに、婚約をしている状態だけど、結婚するまでは同衾は駄目でしょ!! あ~~外れない。抱き枕みたいに抱え込まれてる!!

「…………また、俺から離れようとするのか? 暴れるほど俺のことは嫌いなのか? だが、俺はどんな手を打ってもシアを離したりはしない。絶対、逃さない。逃がすものか。シアの全ては俺のものだ。なのに、シアは俺以外に肌を見せた。許さない。許さない。許さないよ、シア。ほんとに、シアは悪い子だな。躾をしなくては。でも大丈夫。俺は寛――」

 病み度がさらに進んでる。嫌いって言って飛び出したのが悪化の原因だって、わかってはいるけど、自分の母親にも敵意を顕にするものなの!? 呆れるっていうか、ほんとカイナル様らしいわ。

 私は小さな溜め息を吐くと、ジタバタするのを止めて大人しく抱き枕になることにした。

「離れたりはしませんよ。少し喧嘩をしただけじゃないですか……これから、長い時間を一緒に暮らすのですから、喧嘩ぐらいしますよ。寧ろ、しない方がおかしいですよ」

 永遠に続きそうなので途中で遮った。

「……喧嘩は嫌だ。嫌いだと言われただけで、差し出し手を拒否されただけで、俺の胸は潰れそうに痛む。もう、あんな痛みは味わいたくない」

 切実で悲壮感たっぷりで、ましてや泣きそうな声で、カイナル様は今の気持ちを吐露とろする。

 大陸一の強さを持ち、数々の武運を若くしてあげたこの王国の英雄様――
 
 軍馬にまたがり王都を行進する姿は、本当に美しくて神々しくて、私は一生忘れないと思う。

 あのカイナル様と今のカイナル様、どっちがいいかと訊かれたら、私は今のカイナル様を選ぶかな……病んでる時は厄介だけど、人間味があって温かいの……心も身体もね。カイナル様には絶対言わないけど。

「……カイナル様は、私に怒るなと言いました。カイナル様は怒って、伯爵家と連なる家に制裁を与えたのに」

「俺はシアの身が危険なことはしたくないだけだ!! なぜ、それをわかってくれないんだ」

「カイナル様が私の身を案じてくれたのはわかってます。私は人族ですから。でも、カイナル様が与えてくれた魔法具で、私は常に護られてます」

「だとしても――」

 どう説明したら、カイナル様は気付いてくれるの。私がなぜ、ここまで怒っているのかを。

「私は自分が馬鹿にされて、蔑まれてたことに怒ってない。だってそうでしょ。私は平民なのは間違いなくて、容姿も華やかさなんて持ってないし、子供だし平凡だよ。私が怒ったのは、カイナル様が私のせいで馬鹿にされたから。番である私を非難することは、私を選んだカイナル様を非難することでしょ。だから、私は自分をおとりにしようと思ったの。私が怒るのは、カイナル様が馬鹿にされたからだよ。大事な人を馬鹿にされたからだよ」

 話の途中でそれは違うとか口を挟んできたけど、私は続けて言った。言葉遣いを気にする余裕なんてなかった。

「シア……」

 カイナル様が優しく抱き締めようとした手を私は払い除け、ベッドから身体を起こした。

「だから、怒るななんて言わないで!! 私の感情を否定しないで!! お願いだからしないで……」

 感情が一気に爆発したみたいだった。感情が高ぶりすぎて涙が出てしまう。妄想女が言っていた通り、今の私は馬鹿丸出し。わかってるのに、涙が止まらない。

 すっごく、不細工な顔になってるよね。平凡な顔が益々酷くなってる。カイナル様、硬直してるし。

 これ以上、泣き顔を見られたくなくて、私は寝巻きのまま部屋を飛び出した。カイナル様は追いかけてこなかった。
 
 カイナル様の馬鹿――!!


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

処理中です...