旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ

文字の大きさ
上 下
3 / 29

3. 生贄

しおりを挟む
「拙者、アカツキと申す。実は先日、こちらの近くに住む巫女の女性と、お見合いをしたのでござる」

 聞けば、相手の機嫌を損ねてしまったとのことです。

 どうやら、ソナエさんのお見合いの相手とは、アカツキさんのようですね。

 隣のソナエさんを、確認します。

 あー、怒っていますねぇ。

 わたしたちは暗がりにいるのですが、ソナエさんの青筋がくっきりと見えますよ。

 ソナエさんの腕を、ヒジで小突きます。
 態度で示すと、相手にも伝わっちゃいますよ。

 ダメですね、これは。話す気がない模様です。

 ソナエさんがここまで立腹している姿は、初めて見ました。

 よほど、腹にすえかねる物言いをされたのでしょう。

「何を話されたんですか?」
「他愛のない話です。どのような酒を好むか、あてはどれか。拙者は、トマトやチーズだけでも楽しめるというと、相手はたいそう喜んでくださいましたぞ。食事の好みも、ほぼ同じだったので、大丈夫だと思うていたのです」

 よかったじゃないですか。なにが不満だったのでしょう?

「発言に失礼があったか、心当たりはありますか?」
「無礼だったのは、両親です」

 初対面だというのに、お母様がやたらとソナエさんに小言を言ってきたとか。
 相手方の両親ができた人で、そのままことなきを得たと言います。
 お父様まで叱り飛ばしたくらいだとか。

「あなたご自身に、問題があったとのお考えは?」
「思い当たるフシが、何も。おそらく、それも怒らせた原因だったのでござろう。なんてことのない会話で、憤慨されたのでしょう」

 反省は、しているようですが。

 あー、もう。
 ソナエさんブチギレじゃないですか。

 これは、早く解決せねば。

「何を話したか、再現はできますか」


「毎朝、あなたの味噌汁が飲みたいと」


「……あー」



 これは、罪深つみぶかい。



 ダメですね。ダメダメです。これはギルティというしかありません。

 実に罪な発言ですよ、これは。

「おサムライさん。あなたは首をハネられても文句が言えません」
「そこまででござるか!?」
「あなたの中では、朝は眠いのにお味噌汁を作るのは、女性だけなのですね」

 まだわかっていないのか、アカツキさんは黙り込みます。

「あなたは、炊事などの家事を奥様一人に押し付けるおつもりで?」
「……っ!」

 アカツキさんが、ハッと息を呑みました。

 わたしの言わんとしていることが、ようやく飲み込めたようで。

「失念していた。これでは、母と同じではないか!」
「では、その旨をお伝えください。きっと、わかり合えるはずですから」


 シスター・エマと一緒に、お粥のお店で休憩をします。

 
「とにかく、指示に従えって注文が多いんだよ。武家だからかねえ」

 わたしは、とかくその「武家」なるワードがひっかかりました。

 どうもブケというのは、こちらでいう「騎士団」のような役職だそうで。

「ブケ、という家系は、そんなにめんどくさいの?」

 エマからの質問に、ソナエさんは「うんうん」とブンブン首を振ります。

「しきたりには、うるさいかな? 考え方が古いから」

 こちらも、騎士や貴族の中には柔軟な考えの人は少ないかも知れません。

「謎マナーが多いぜ。箸の持ちからや食べ方まで、指図してきやがる」

 めんどうな方みたいですね。

「ですが、お料理が上手じゃないですか。結婚のご意思自体はあるのでは?」
「あたしが食べたいから、料理が勝手にうまくなったんだ。伴侶なんて、考えたこともないさ」

 自分がおいしい晩酌を楽しみたいから、料理の腕を磨いたとのこと。

 なるほど、自分のためならいくらでもおいしいものを作るけど、他人のためとなると話は別だと。


 休憩を終えて、再度ザンゲ室へ。

 今度の方は、お歳をめしたおばあさまのようで。


「実は先日、息子の見合い相手にきつくあたりすぎてしまって」


 へ? 

 今度は、お見合い相手のお母様がいらっしゃったと?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

処理中です...