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第6章:光の心臓編
177 リアスVS柚子②
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「フッ……フレアッ!?」
後ろに手をついた状態で地面に座り込むフレアを見て、リアスは驚いたように目を見開いてそう声を上げた。
──どうしてここに? リートはどうしたの?
すぐさまそう続けようとしたが、それより先にフレアは彼女の胸倉を掴み、グイッと引っ張る形で顔を近付けて口を開いた。
「テメェ……全然戻ってこねぇから何してんのかと思って来てみれば、こんな所でちんたらしやがって……」
「えッ?」
「何あんなちんちくりんに手こずってんだッ!」
キョトンとした表情で聞き返すリアスに対し、フレアは怒鳴るように言いながら、少し離れた場所でこちらを見ている柚子を指さした。
突然の乱入者に驚いて立ち尽くしていた柚子は、まさか自分を話題に出されると思っていなかったようで、突然指をさされてビクッと僅かに肩を震わせて反応する。
しかし、フレアはすぐにリアスに視線を戻し、こめかみに青筋を浮かべながら続けた。
「あんな奴さっさと倒して戻って来いよッ! 怪我してんのに無理すんなとか言って見守りするっつったのはテメェだろうがッ! だったら責任取って、あんな盾野郎の一人や二人さっさと倒して戻ってこいッ!」
「なッ……そ、それくらい分かってるわよッ! でもあの子は何か企んでいそうだったから慎重に戦っていたのッ! 私は貴方みたいな単細胞と違って色々考えながら動いてるのよッ!」
「ンなこと言って負けてたら元も子もないだろうがッ! さっきだって俺が助けなかったらやられてたくせにッ!」
「あれくらい貴方の助けなんて無くてもどうにか出来たわよッ! それなのに無理して動いてッ……! 傷が悪化したらどうすんのよッ!」
「こんな傷ちょっと悪化したくらいじゃ死なねぇッ! 貧弱なテメェと一緒にすんなッ!」
「はぁッ!? 脳味噌まで筋肉で出来てる貴方と一緒なんてこっちから願い下げよッ! 大体この怪我だって、貴方が考え無しに突っ込んだ結果でしょうがッ!」
「ンだとッ!? ンなこと言ったらテメェだってあの時──」
「……何、この二人……?」
互いに掴みかかりながらギャーギャーと低レベルな言い争いを繰り広げるフレアとリアスを前に、柚子は明らかに呆れた様子で軽く首を傾げながらそう呟いた。
突然フレアが現れた時は、ただでさえ自分が不利な状況でさらに敵が増え、いよいよ万事休すかと思ったのだが……二人は顔を見合わせるなり口論を始め、仕舞には互いの服や髪を掴んで取っ組み合いの喧嘩を始めるではないか。
特に、つい数分前まで自分を追い詰めていたリアスの豹変っぷりに、彼女は盾を構えるのも忘れてその場に立ち尽くすこととなった。
もしも今の柚子の顔をリアスが見れば、今まで全く読めなかった筈の彼女の感情が、手に取るように分かることだろう。
自分達に対する、“呆れ”の感情が。
──……って、こんなことしてる場合じゃないか。
しばし呆然と立ち尽くしていた彼女だったが、ようやく我に返った様子で軽く首を横に振り、音を立てないようにゆっくりと後ずさった。
仲間である筈のリアスとフレアが争っている状況は正直全く理解できないが、ひとまず奴等に隙が出来たことに変わりは無く、こちらからすれば好都合。
今の内にこの場を離れ、友子の元に向かうべきだ。
そう考えた柚子はすぐさま踵を返し、友子とこころがいる方角に向かって駆け出した。
「行かせねぇよ」
「行かせないわよ」
刹那、そんな声がほぼ同時に聴こえると共に両足が動かなくなり、次の瞬間には地面に体を強く打ち付けていた。
体の前面に走る鈍い痛みを感知するよりも前に、盾を装着した左手は強い力で地面に押し付けられ、右手は背中の方で組まされた状態で固定される。
ダメ元で藻掻いてみるが、拘束された両手は疎か、両足すらもまるで腰から下が石になったかのように動かなかった。
「っと、動くなよ。下手に動くと折っちまうぞ」
頭上から降ってきたフレアの言葉に、柚子はビクッと微かに肩を震わせた後、すぐに唇を噛みしめて顔を伏せた。
そんな二人の元に駆け寄ってきたリアスは、先程の取っ組み合いで乱れた髪を手櫛で直しながら、呆れたように嘆息した。
「またそうやって考え無しに突っ込んで……その子が何か企んでいたらどうするのよ」
「ンなこと知らねぇ。……っつーか、それを言うならお前だって、魔法使ったじゃねぇか」
「それはこの子が逃げようとしたからよ」
リアスはそう言いながら、氷魔法で凍らせた柚子の両足を一瞥する。
そんな彼女の言葉に、フレアは呆れたように溜息をつきながらガリガリと自分の頭を掻いた。
「ッたく、いちいちうるせぇ奴だな。大体、企むって……コイツに何ができンだよ? 盾しか持ってねぇ良い子ちゃんだろ」
「そんなのこっちが聞きたいくらいよ。ただ、その子は何だか気味が悪いというか……──」
リアスがそこまで言った時、突如として周囲の空気が凍り付き、背筋に氷の刃を突き付けられたかのような悪寒がした。
彼女は咄嗟にフレアの襟首を掴んで自分の背に隠すように引っ張り、手に持っていた薙刀を構えた。
刹那、彼女の構えた薙刀の刃に、氷を纏った漆黒の刃がぶち当たった。
「くッ……!?」
しかし、ロクに身構えることも出来ないまま攻撃を防ぎきることなど出来る筈も無く、すぐさま彼女の体は後方に吹き飛ばされた。
それを、後ろにいたフレアが何とか受け止める。
「おい、リアス、大丈夫かッ!?」
「私は大丈夫よ。……それより、厄介なことになったわね……」
声を荒げるフレアに対し、リアスはビリビリと痺れる両手で薙刀の柄を握り直しながら、目の前に立つ殺気の主……──友子を見つめた。
友子は漆黒の矛に纏わせた氷を解き、光魔法で両足の氷を溶かしている柚子に視線を落とした。
「……危ない所だったね。怪我は無い?」
「それ、せめて少しくらい感情込めて言ってくれない?」
抑揚のない、明らかに心にも思っていないような声で心配の言葉を述べる友子に対し、柚子は明らかに苛立った様子で答えながらヨロヨロと立ち上がった。
短時間とは言え先程まで完全に凍り付いていた両足は、未だに痺れたような感覚が残っており、上手く力を入れることが出来ないようだ。
──……?
攻撃によって吹き飛ばされた体勢のまま、二人のやり取りを遠目に見ていたリアスは、微かな違和感を覚えた。
突然柚子の態度が豹変したことに驚いた、と言うよりは……先程まで全く感情が読めなかった柚子が、本心からの“苛立ち”を露わにしているように見えた気がしたから。
そんなリアスの反応など知る由も無い友子は、不満を漏らす柚子の言葉に肩を竦めつつ、フレアとリアスの方に視線を戻して口を開いた。
「ごめんね。嫌いな人が苦しんでる姿ほど、面白いものは無いからさ」
「……あのねぇ……」
明らかに自分に対する嫌味を述べる友子に対し、柚子はピクピクと片眉を震わせながら怒りを露わにする。
しかし、そこで友子の表情が目に見えて暗いことに気付き、彼女はすぐにキョトンとしたように目を丸くした。
──そういえば、最上さんは……猪瀬さんと一緒にいた筈だよね?
──あの最上さんが、猪瀬さんより私を優先することなんてある筈無いし……でも、それじゃあ、猪瀬さんと一体何が……──。
静かに思考を巡らせた柚子は、導き出された一つの仮定にその目を大きく見開き、すぐさま友子の手を掴んだ。
「えっ? 山吹さ──」
「聖なる土よッ! 濃密なる砂塵を巻き起こす為、今我に加護を与えてくれ給えッ! サンドストームッ!」
驚いた友子の声を遮るように、彼女はそう詠唱を唱えながらフレアとリアスの方に手を構えた。
直後、二組の間に凄まじい砂嵐が巻き起こり、視界を遮る。
「山吹さん、一体何を……」
「今回は一旦引くよ。……猪瀬さんと何かあったんでしょ?」
軽く手を引きながら言った柚子の言葉に、友子は微かに目を見開き、すぐに暗い表情で俯いた。
柚子はそれを見て小さく嘆息し、彼女の手を引いてその場を離れた。
やがて砂嵐が晴れて視界が開けたリアスは、目の前にいた友子と柚子が消えていることに気付き、すぐに小さく舌打ちをした。
「逃げられたわね。今から追いかければ間に合うかもしれないけど……フレア、どうす──」
「ゲホッ、ガフッ……ごぶぁッ」
先程まで二人がいた方を見つめたまま呟いた彼女の言葉は、後方からした鈍い咳と、ビチャビチャッという鈍い水音によって遮られる。
すぐさま顔を向けると、そこでは……口から出た血液で赤い血だまりを作り、腹を押さえて蹲るフレアの姿があった。
「フレア……ッ!?」
リアスはすぐさま彼女の元に駆け寄り、何とか体を起こしてやる。
見れば、彼女の着ている服は胸部から下腹部に掛けて赤黒い液体で濡れ、その顔は死人のように真っ青だった。
彼女は口から血液を垂らしながら、「っはは……」と力無く笑った。
「悪ィ……傷が、開いた、みてぇだ……いってぇ……」
「何言ってんのよ、馬鹿ッ! こんなになるまで無理してッ……ホンット馬鹿ッ!」
「デカい声、出すんじゃ、ねぇよ……傷に、響く……」
荒い呼吸を繰り返す度に口から血液が吐き出され、地面に新たな血だまりを増やす。
リアスはそれを見て顔を青ざめさせ、すぐさま彼女の脇に腕を通した。
「とにかく、部屋に戻りましょう。治すことは出来ないけど、せめて手当しなくちゃ」
「ぅ゛ぁ゛……悪ィ……これ、ちょっと、ヤベェかも……」
「無理して話さなくて良いから」
掠れた声で力無く答えるフレアの言葉に、リアスは端的に返しながら肩を貸し、フラフラと立ち上がる。
とにかく部屋に戻って、開いた傷の止血処置をしなければならない。
根本治療にはならないが、アランとミルノが光の心臓を回収して戻って来るまでの辛抱だ。
「二人が戻って来るまで……絶対に死なないでよね……」
ぐったりと脱力するフレアの体を何とか支えながら、リアスは小さな声でそれだけ言い、宿屋に向かってゆっくりと歩き出す。
先程の戦いで友子が参戦してきたということは、こころと友子の話は終わったのだろう。
どういう結果になったのか、どんな話をしたのかは定かでは無いが……先程の友子の顔を見た限り、どんなやり取りをしたのか大方の見当はつく。
しかし、友子が戦いに乱入してきたということは……説得することも、殺すことも出来なかったということ。
こころの性格を考えれば納得の結果とも言えるが……彼女の覚悟を思い返すと、少し腑に落ちない部分もある。
二人のことや、柚子のことなど、気掛かりは山ほどあるが……今は、それどころではない。
リアスはフレアの体を抱え直し、宿屋への歩みを進めた。
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後ろに手をついた状態で地面に座り込むフレアを見て、リアスは驚いたように目を見開いてそう声を上げた。
──どうしてここに? リートはどうしたの?
すぐさまそう続けようとしたが、それより先にフレアは彼女の胸倉を掴み、グイッと引っ張る形で顔を近付けて口を開いた。
「テメェ……全然戻ってこねぇから何してんのかと思って来てみれば、こんな所でちんたらしやがって……」
「えッ?」
「何あんなちんちくりんに手こずってんだッ!」
キョトンとした表情で聞き返すリアスに対し、フレアは怒鳴るように言いながら、少し離れた場所でこちらを見ている柚子を指さした。
突然の乱入者に驚いて立ち尽くしていた柚子は、まさか自分を話題に出されると思っていなかったようで、突然指をさされてビクッと僅かに肩を震わせて反応する。
しかし、フレアはすぐにリアスに視線を戻し、こめかみに青筋を浮かべながら続けた。
「あんな奴さっさと倒して戻って来いよッ! 怪我してんのに無理すんなとか言って見守りするっつったのはテメェだろうがッ! だったら責任取って、あんな盾野郎の一人や二人さっさと倒して戻ってこいッ!」
「なッ……そ、それくらい分かってるわよッ! でもあの子は何か企んでいそうだったから慎重に戦っていたのッ! 私は貴方みたいな単細胞と違って色々考えながら動いてるのよッ!」
「ンなこと言って負けてたら元も子もないだろうがッ! さっきだって俺が助けなかったらやられてたくせにッ!」
「あれくらい貴方の助けなんて無くてもどうにか出来たわよッ! それなのに無理して動いてッ……! 傷が悪化したらどうすんのよッ!」
「こんな傷ちょっと悪化したくらいじゃ死なねぇッ! 貧弱なテメェと一緒にすんなッ!」
「はぁッ!? 脳味噌まで筋肉で出来てる貴方と一緒なんてこっちから願い下げよッ! 大体この怪我だって、貴方が考え無しに突っ込んだ結果でしょうがッ!」
「ンだとッ!? ンなこと言ったらテメェだってあの時──」
「……何、この二人……?」
互いに掴みかかりながらギャーギャーと低レベルな言い争いを繰り広げるフレアとリアスを前に、柚子は明らかに呆れた様子で軽く首を傾げながらそう呟いた。
突然フレアが現れた時は、ただでさえ自分が不利な状況でさらに敵が増え、いよいよ万事休すかと思ったのだが……二人は顔を見合わせるなり口論を始め、仕舞には互いの服や髪を掴んで取っ組み合いの喧嘩を始めるではないか。
特に、つい数分前まで自分を追い詰めていたリアスの豹変っぷりに、彼女は盾を構えるのも忘れてその場に立ち尽くすこととなった。
もしも今の柚子の顔をリアスが見れば、今まで全く読めなかった筈の彼女の感情が、手に取るように分かることだろう。
自分達に対する、“呆れ”の感情が。
──……って、こんなことしてる場合じゃないか。
しばし呆然と立ち尽くしていた彼女だったが、ようやく我に返った様子で軽く首を横に振り、音を立てないようにゆっくりと後ずさった。
仲間である筈のリアスとフレアが争っている状況は正直全く理解できないが、ひとまず奴等に隙が出来たことに変わりは無く、こちらからすれば好都合。
今の内にこの場を離れ、友子の元に向かうべきだ。
そう考えた柚子はすぐさま踵を返し、友子とこころがいる方角に向かって駆け出した。
「行かせねぇよ」
「行かせないわよ」
刹那、そんな声がほぼ同時に聴こえると共に両足が動かなくなり、次の瞬間には地面に体を強く打ち付けていた。
体の前面に走る鈍い痛みを感知するよりも前に、盾を装着した左手は強い力で地面に押し付けられ、右手は背中の方で組まされた状態で固定される。
ダメ元で藻掻いてみるが、拘束された両手は疎か、両足すらもまるで腰から下が石になったかのように動かなかった。
「っと、動くなよ。下手に動くと折っちまうぞ」
頭上から降ってきたフレアの言葉に、柚子はビクッと微かに肩を震わせた後、すぐに唇を噛みしめて顔を伏せた。
そんな二人の元に駆け寄ってきたリアスは、先程の取っ組み合いで乱れた髪を手櫛で直しながら、呆れたように嘆息した。
「またそうやって考え無しに突っ込んで……その子が何か企んでいたらどうするのよ」
「ンなこと知らねぇ。……っつーか、それを言うならお前だって、魔法使ったじゃねぇか」
「それはこの子が逃げようとしたからよ」
リアスはそう言いながら、氷魔法で凍らせた柚子の両足を一瞥する。
そんな彼女の言葉に、フレアは呆れたように溜息をつきながらガリガリと自分の頭を掻いた。
「ッたく、いちいちうるせぇ奴だな。大体、企むって……コイツに何ができンだよ? 盾しか持ってねぇ良い子ちゃんだろ」
「そんなのこっちが聞きたいくらいよ。ただ、その子は何だか気味が悪いというか……──」
リアスがそこまで言った時、突如として周囲の空気が凍り付き、背筋に氷の刃を突き付けられたかのような悪寒がした。
彼女は咄嗟にフレアの襟首を掴んで自分の背に隠すように引っ張り、手に持っていた薙刀を構えた。
刹那、彼女の構えた薙刀の刃に、氷を纏った漆黒の刃がぶち当たった。
「くッ……!?」
しかし、ロクに身構えることも出来ないまま攻撃を防ぎきることなど出来る筈も無く、すぐさま彼女の体は後方に吹き飛ばされた。
それを、後ろにいたフレアが何とか受け止める。
「おい、リアス、大丈夫かッ!?」
「私は大丈夫よ。……それより、厄介なことになったわね……」
声を荒げるフレアに対し、リアスはビリビリと痺れる両手で薙刀の柄を握り直しながら、目の前に立つ殺気の主……──友子を見つめた。
友子は漆黒の矛に纏わせた氷を解き、光魔法で両足の氷を溶かしている柚子に視線を落とした。
「……危ない所だったね。怪我は無い?」
「それ、せめて少しくらい感情込めて言ってくれない?」
抑揚のない、明らかに心にも思っていないような声で心配の言葉を述べる友子に対し、柚子は明らかに苛立った様子で答えながらヨロヨロと立ち上がった。
短時間とは言え先程まで完全に凍り付いていた両足は、未だに痺れたような感覚が残っており、上手く力を入れることが出来ないようだ。
──……?
攻撃によって吹き飛ばされた体勢のまま、二人のやり取りを遠目に見ていたリアスは、微かな違和感を覚えた。
突然柚子の態度が豹変したことに驚いた、と言うよりは……先程まで全く感情が読めなかった柚子が、本心からの“苛立ち”を露わにしているように見えた気がしたから。
そんなリアスの反応など知る由も無い友子は、不満を漏らす柚子の言葉に肩を竦めつつ、フレアとリアスの方に視線を戻して口を開いた。
「ごめんね。嫌いな人が苦しんでる姿ほど、面白いものは無いからさ」
「……あのねぇ……」
明らかに自分に対する嫌味を述べる友子に対し、柚子はピクピクと片眉を震わせながら怒りを露わにする。
しかし、そこで友子の表情が目に見えて暗いことに気付き、彼女はすぐにキョトンとしたように目を丸くした。
──そういえば、最上さんは……猪瀬さんと一緒にいた筈だよね?
──あの最上さんが、猪瀬さんより私を優先することなんてある筈無いし……でも、それじゃあ、猪瀬さんと一体何が……──。
静かに思考を巡らせた柚子は、導き出された一つの仮定にその目を大きく見開き、すぐさま友子の手を掴んだ。
「えっ? 山吹さ──」
「聖なる土よッ! 濃密なる砂塵を巻き起こす為、今我に加護を与えてくれ給えッ! サンドストームッ!」
驚いた友子の声を遮るように、彼女はそう詠唱を唱えながらフレアとリアスの方に手を構えた。
直後、二組の間に凄まじい砂嵐が巻き起こり、視界を遮る。
「山吹さん、一体何を……」
「今回は一旦引くよ。……猪瀬さんと何かあったんでしょ?」
軽く手を引きながら言った柚子の言葉に、友子は微かに目を見開き、すぐに暗い表情で俯いた。
柚子はそれを見て小さく嘆息し、彼女の手を引いてその場を離れた。
やがて砂嵐が晴れて視界が開けたリアスは、目の前にいた友子と柚子が消えていることに気付き、すぐに小さく舌打ちをした。
「逃げられたわね。今から追いかければ間に合うかもしれないけど……フレア、どうす──」
「ゲホッ、ガフッ……ごぶぁッ」
先程まで二人がいた方を見つめたまま呟いた彼女の言葉は、後方からした鈍い咳と、ビチャビチャッという鈍い水音によって遮られる。
すぐさま顔を向けると、そこでは……口から出た血液で赤い血だまりを作り、腹を押さえて蹲るフレアの姿があった。
「フレア……ッ!?」
リアスはすぐさま彼女の元に駆け寄り、何とか体を起こしてやる。
見れば、彼女の着ている服は胸部から下腹部に掛けて赤黒い液体で濡れ、その顔は死人のように真っ青だった。
彼女は口から血液を垂らしながら、「っはは……」と力無く笑った。
「悪ィ……傷が、開いた、みてぇだ……いってぇ……」
「何言ってんのよ、馬鹿ッ! こんなになるまで無理してッ……ホンット馬鹿ッ!」
「デカい声、出すんじゃ、ねぇよ……傷に、響く……」
荒い呼吸を繰り返す度に口から血液が吐き出され、地面に新たな血だまりを増やす。
リアスはそれを見て顔を青ざめさせ、すぐさま彼女の脇に腕を通した。
「とにかく、部屋に戻りましょう。治すことは出来ないけど、せめて手当しなくちゃ」
「ぅ゛ぁ゛……悪ィ……これ、ちょっと、ヤベェかも……」
「無理して話さなくて良いから」
掠れた声で力無く答えるフレアの言葉に、リアスは端的に返しながら肩を貸し、フラフラと立ち上がる。
とにかく部屋に戻って、開いた傷の止血処置をしなければならない。
根本治療にはならないが、アランとミルノが光の心臓を回収して戻って来るまでの辛抱だ。
「二人が戻って来るまで……絶対に死なないでよね……」
ぐったりと脱力するフレアの体を何とか支えながら、リアスは小さな声でそれだけ言い、宿屋に向かってゆっくりと歩き出す。
先程の戦いで友子が参戦してきたということは、こころと友子の話は終わったのだろう。
どういう結果になったのか、どんな話をしたのかは定かでは無いが……先程の友子の顔を見た限り、どんなやり取りをしたのか大方の見当はつく。
しかし、友子が戦いに乱入してきたということは……説得することも、殺すことも出来なかったということ。
こころの性格を考えれば納得の結果とも言えるが……彼女の覚悟を思い返すと、少し腑に落ちない部分もある。
二人のことや、柚子のことなど、気掛かりは山ほどあるが……今は、それどころではない。
リアスはフレアの体を抱え直し、宿屋への歩みを進めた。
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