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第6章:光の心臓編

168 双子だから

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「そぉ~れっ!」

 間の抜けた掛け声を上げながら、アランは両手に持った大槌を振るい、襲い来る魔物達を次々に薙ぎ払っていく。
 光の心臓のダンジョンは基本的に金色に輝く岩で囲まれており、林の心臓のダンジョンのような不安定な足場でも無かった為、上層の魔物相手に苦戦を強いられることは無かった。
 周囲の魔物を軽く一掃したアランは、持っていた大槌を肩に掛けながら一息つき、少し離れた所にある岩に腰掛けたミルノの元に駆け寄った。

「ミルノちゃん、この辺にいた魔物はある程度倒したけど……体調は大丈夫そう?」
「ご、ごめん……もう、平気。……ありがとう、アランちゃん」

 ミルノの前でしゃがんで顔を覗き込むようにしながら訪ねるアランに対し、ミルノは少し青ざめた顔を上げ、疲れたような力無い笑みを浮かべた。
 それを見たアランは、顔の前で軽く手を振りながら「良いって良いって!」と明るく答えた。

「でも、ちょっと残念だなぁ。さっきはあんなにカッコ良かったのにぃ~」
「そ、その話はもうやめてってば! ……恥ずかしいよぉ……」

 不満そうな口調で言うアランに対し、ミルノは頬を赤らめながら言い、自分の顔を両手で覆った。
 普段は内気な彼女にしては珍しく、先程はルミナを前に臆すること無くリートを治療してほしいと懇願して見せた。
 しかし、どうやらそこでかなり精神を消耗していたようで、ダンジョンに入って気が緩んだ瞬間一気に疲労感が込み上げ気分を悪くしてしまったようだ。
 なので、ひとまずミルノを休ませている間にアランが周囲の魔物を倒し、道を開けることにしたのだ。

「別に恥ずかしがることないじゃん。さっきのミルノちゃんはカッコ良かったし、私はすごく助けられたよ?」
「それはッ……あ、アランちゃんが、困ってた、から……助けなきゃって、思って……む、無我夢中、で……」

 コテンと首を傾げながら言うアランに、ミルノは赤らんだ顔の前で両手の指を軽く組みながら目を逸らして言う。
 彼女の言葉に、アランはムゥ、と頬を膨らませる。
 そんな彼女の反応に、ミルノはオロオロと困ったように視線を彷徨わせ……とある一点を見つめて、その表情が強張った。

「……? ミルノちゃ」
「アランちゃんッ! 危ないッ!」

 ミルノは岩から立ち上がりながら地面を強く蹴り、小柄なアランの体を抱き締めて地面を転がる。
 数瞬後、先程までアランがいた場所に、数本の矢が突き刺さった。

「なッ……!?」
「ッ……!」

 驚くアランに対し、ミルノはすぐに自身の武器である弓矢を構えながら、矢が飛んできた方を睨み付けた。
 それに、アランも慌てて体勢を立て直しながら同じ方向に視線を向け──ようとしたところで背後から別の気配を感じ、すぐにそちらに顔を向けた。
 見るとそこには、両手に持った短刀を振り上げ、今にもアランを突き刺さんとする望月花鈴の姿があった。

「ありゃっ、気付かれちゃったか」
「っ……!」

 目を丸くして間の抜けた声を上げる花鈴に対し、アランはほぼ反射的に魔法で作った岩の球を放った。
 花鈴は体を捻る形でそれを紙一重のところでかわし、すぐに手に持った短刀でアランに襲いかかる。

「アランちゃ──くッ!?」

 花鈴との交戦が始まったアランに気を取られそうになったミルノだったが、直後に飛んできた矢に反応し、咄嗟に首を傾ける形でギリギリかわす。
 それを見て、矢を放った主である望月真凛は小さく舌打ちをしつつ、すぐに弓矢を構えた。
 ミルノはそれを見て素早く矢を構え、魔力で生成した三本の矢を真凛に向かって放った。
 真凛はそれに一瞬目を見開いたが、一旦弓矢を構える手を緩め、バックステップの要領で素早くかわす。

「えぇいッ!」

 その間にアランは自分を刺そうとした花鈴の攻撃をかわし、素早く体を捻って彼女の腹に向かって蹴りを放った。
 花鈴は攻撃をかわされた後の体勢が崩れた状態でそれを受けなければならず、咄嗟に自分の腕を盾にしながら後ろに飛ぶことで威力を殺す。
 アランは距離が出来た隙を突いて大槌を構え、両手で勢い良く振るう形で威嚇しつつ、真凛に向かって弓矢を構えるミルノの元に駆け寄った。

「あ、アランちゃん……この人達は……?」
「こころちゃんと同じ世界から来て、リートちゃんの心臓を破壊しようとしてる人達!」
「つ、つまり……私達の、敵って、こと……?」
「そういうこと!」

 武器を構える手を緩めること無く話す二人に対し、花鈴は短刀を構えたまま、ゆっくりと真凛の元に歩み寄る。
 真凛も同様に、弓矢を構えたまま花鈴の方に向かう。
 ミルノは真凛への集中を切らさないまま、ゆっくりと生唾を飲み込む。
 彼女がこの双子と会うのは初めてであり、まだこの二人の実力が測り切れていないのだ。
 とは言え、二人と同じくこころと同じ世界から来たという友子の力量を考えると、目の前の双子にも同程度の能力が備わっている可能性が高い。
 そんな考えからか緊張している様子のミルノに、アランは少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。

「そんなに緊張しなくても……この二人は、前のトモコちゃん程強くないよ」
「……えっ?」

 隣にいる自分にしか聴こえない程の小さな声で呟くアランに、ミルノは驚いた様子で聞き返した。
 すると、アランは近付いた双子の方を顎で示しながら「あの武器」と続けた。

「二人共、前に戦った時と武器が全然変わってないんだ。こころちゃんと一緒に来た人達には、レベルがある程度上がって強くなるとオーバーフローっていう現象が起こって、その人の願いに応じて武器が強くなるの。実際、トモコちゃんやユズちゃんも、それで強くなって武器が変わってた」
「つ、つまり、あの二人、には……ま、まだ、オーバーフローが来て、無くて……あんまり、強くないって、こと……?」

 恐る恐ると言った口調で聞き返すミルノに、アランは大槌を構え直しながら大きく頷き、大槌に魔力を込めた。
 以前、自分の心臓が封印されていたダンジョンで戦った時よりも強くなっているとは思うが、トモコと戦った時程の圧倒的な力量差は感じなかった。
 これなら、あまり苦戦せずに勝てるだろう。

「やっぱり、“あの力”を使わずに心臓の守り人を倒すのは、難しそうだね」

 それに対し、花鈴は短刀を構えたまま、苦い顔でそう呟いた。
 彼女の言葉に、真凛は弓矢を構えたまま小さく頷いた。

「だね。一筋縄ではいかないとは思ってたけど……でも、このダンジョンの守り人もいるし、短期決戦でいこう」
「オッケー、真凛」

 真凛の呟きに花鈴は頷き、短刀を構えていた右手を真凛の方に伸ばす。
 それに真凛は弓矢の構えを解き、素早く花鈴の方に左手を伸ばした。

「今だッ!」

 その隙を見逃さなかったアランは大槌を振りかぶり、地面に向かって思い切り振り下ろした。
 すると、彼女が大槌で殴った箇所から花鈴と真凛の方に向かって巨大な岩の棘が砂煙を巻き上げながら勢いよく突き出し、双子がいた場所を直撃してそのまま壁にぶち当たって停止する。

「あ、アランちゃん……!? 流石にやりすぎなんじゃ……!」
「うあッ、勢いに任せてつい……! 死んじゃったかな!?」

 ギョッとした表情で言うミルノに、アランはオロオロと慌てた様子で言いながら、連なる岩の棘によって出来た岩壁を見つめる。
 しかし、岩の棘を出した際に上がった濃厚な砂煙によって先が見えず、双子の安否を確認することが出来ない。
 声も聴こえないし、流石に死んだか……? と、不穏に思った時だった。

 パァンッ!

 突然どこからか鳴り響いた破裂音が、二人の耳を劈いた。
 一瞬間を置いて、アランの右頬に赤い線ができ、そこからツー……と一筋の赤い雫が流れ落ちる。
 呆けた表情を浮かべていたアランは、自分の頬に鋭い痛みが走るのを感じ、咄嗟に頬に指を当てる。
 それからその手を視線の先に持っていくと、指先が赤い液体で汚れているのが目に入った。

「……え……?」

 掠れた声で呟いたアランは、頬に出来た傷が真凛の矢によるものでは無いかと予想し、咄嗟に自分の背後に振り向いた。
 しかし、そこには金色の岩で出来た壁があるのみで、矢が刺さっている様子は無い。
 ただ、何かがぶつかったかのような、円状のヒビが走っているのみだった。

「あ~あ、これ使うと疲れるから、出来れば心臓の守り人まで温存しておきたかったんだけどな~」

 すると、砂煙の向こうから、そんな能天気な声が聴こえてきた。
 その声にアランはハッとした表情を浮かべながらも大槌を構え、バッと勢いよく振り向く。
 見れば、砂煙の中に立ち上がる、誰かの人影があった。
 人影はユラユラと体を横に軽く揺らしながら、ゆっくりとこちらの方に向かって歩いてきた。

「仕方ないでしょ。まさかこんな上層で心臓の守り人に出くわすなんて思って無かったし。ま、早く片付けて、先を急ごう」
「そうだね。ここで時間使い過ぎたら、後が大変だもん」

 そんな呑気なやり取りをしながら、人影がゆっくりと砂煙の中から姿を現した。
 露わになった人物の姿を目にした瞬間、アランとミルノは大きく目を見開いた。

「ま、まさか……そんな、ことって……!」
「嘘でしょ……!? そんなの、アリ……!?」

 砂煙の中から現れたのは……一人の少女だった。
 赤みの強い桃色と、青と緑の中間色のような明るい色が丁度半分ずつになったようなメッシュのツインテール。
 二色の髪と同色のオッドアイをしており、その両目の下にはそれぞれ泣きぼくろがあり、両手には二丁拳銃が握られている。

「時間に余裕が無いからって、突っ走り過ぎて私の足引っ張んないでよね。花鈴」
「それを言ったら、真凛の方こそちゃんと私に付いてきてよ?」
「ま、心配なんてしてないけど」「まぁ、そんな心配いらないか!」

 少女は一人二役で独り言のように呟き、最後は完全に二重になった声でそう言いながら、持っていた二丁拳銃の銃口をアランとミルノの方に向けた。
 彼女はニヤリと余裕の笑みを浮かべ、続けた。

「「だって私達、双子だからね」」


名前:望月花鈴・望月真凛 Lv.58
武器:双生の二丁拳銃ツインズピストル
 願い:柚子を守りたい
 発動条件:柚子の邪魔をする相手にのみ力を発揮できる。
HP 12080/12080
MP 6230/6230
SP 3400/3400
攻撃力:8250 /870
防御力:5230/730
俊敏性:9140/1030
魔法適正:560
適合属性:火、土、林、風
スキル:---
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