命を助けてもらう代わりにダンジョンのラスボスの奴隷になりました

あいまり

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第6章:光の心臓編

158 罪な人

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 スタルト車の中で今後についての軽い話し合いを終えた後、私達は一度リートとフレアにちゃんとした場所で休息を取らせるべく、近くにあった宿屋の一室を借りることとなった。
 二人を部屋で安静にした後、明日からの移動の準備の為に、リアスとアランは外に買い出しに出掛けた。
 スタルト車を預けてノスタルト車を借りたり等の手続きだったり、単純な買い物での金銭の管理等であれば、動ける中ではリアスが最も適任だ。
 そして単純な腕力ならばアランが一番ある為、荷物持ちとしてリアスに同行することとなり、この二人が出掛けることになった。
 部屋に残ることになった私とミルノは、主にリートとフレアの見守りと、あとは荷物の整理等の簡単な雑用を任された。

「んぐッ……んぐ……ぷはぁッ、生き返るなぁ」

 今日泊まる部屋のベッドの上にて、フレアはそう言いながら空になった容器を口から離し、グイッと豪快に口元を拭った。
 彼女の言葉に、私はふと顔を上げた。

「傷の方はどう? 少しは良くなった?」
「んぁ~……傷自体はそこまで変わってねぇけど、痛みは無くなったな」

 フレアはそう言いながら、回復薬の入っていた容器を軽く振る。
 彼女等の傷に回復薬が通用しないことは分かっていたが、雪上での移動の際に少しでも体の負担を減らせないかと思い、買ってあったものを服用させてみたのだが……どうやら、傷自体を治すことは出来なくとも、ある程度痛みを抑えることは出来るみたいだ。
 効果が一時的なものなのか永続的なものなのかはイマイチ分からないが、これなら明日からの移動でも回復薬を使えば、多少の負担は抑えられるかもしれない。

「しかし、痛みが無い分……無理に、動いて、傷を悪化させるかもしれん……油断、するで、ないぞ……」

 すると、リートが胸を押さえて荒い呼吸を繰り返しながらそう言った。
 彼女にも回復薬を飲ませたのだが……効いていないのか?

「リート、回復薬効いてないの?」
「いや……痛みは治まって、おるから……効いてるとは、思う……」
「だったら、どうして……」
「肺にも、傷を負って、おるからのぅ……傷自体は、治って、おらんから……少し、息がしづらい、だけじゃ……」

 まるで激しい運動をした後のようにぜぇぜぇと喘ぎながら話す彼女の様子に、私は自分の胸が締め付けられるような痛みを感じた。
 私はリートの手に自分の手を重ねつつ、もう片方の手で彼女の背中を軽く撫でた。

「そっか……苦しいなら、あまり無理して話さなくて良いからね?」
「……」

 私の言葉に、リートは何も言わず小さく頷き、ポフッと軽い音を立てて私の体に体重を預けてきた。
 突然の密着に驚いていた時、別室にて荷物の整理をしてくれていたミルノがこちらに歩いてきた。

「あの、こころさん。二人の様子は……?」
「あぁ、うん。回復薬のおかげで痛みは治まったみたい。……と言っても、傷自体は治ってないから、油断は出来ないんだけど」
「なぁ~、筋トレしたらダメか?」
「ダメ」

 ミルノの問いに答えていると、ベッドの上で胡坐を掻いたフレアが呑気な口調でとんでもないことを言ってくるので、私はほぼ反射的に即答した。
 すると、フレアは不満そうに口を噤み、胡坐を掻いたまま体を前後にユラユラと軽く揺らした。
 まぁ、彼女は元々ジッとしているのが苦手な節はあったし、痛みのせいでずっと安静続きだった為に鬱憤が溜まっているのかもしれない。
 とは言え、痛みが無いからと言って無理に動けば傷が開く可能性があるので、出来れば引き続き安静にしておいて欲しいのだが……痛みがあった方が無理に動いたりしないだろうし、彼女には極力回復薬を服用させない方が良いのかもしれないな。

 流石に長いこと行動を共にしていた私はそんな風に呆れる程度の反応で済んだが、まだ一緒に行動するようになったばかりのミルノはそうでも無かったらしい。
 どうやら、動くのもやっとな重傷を負っていながら筋トレがしたいと言い出されて驚いたようで、僅かに目を見開いたポカンとしたような表情を浮かべていた。
 しかし、すぐにハッとしたような表情で慌てて視線を逸らし、すぐに私の腕の中で荒い呼吸を繰り返すリートに視線を向けた。

「えっと……フレアさんは、元気そう、だけど……リートさんは……?」
「リートも痛みは無いみたい。だけど、肺に傷を負っているみたいだから、呼吸は苦しいままみたいなんだよね」

 私はそう答えながら、腕の中にいるリートの頭を軽く撫でてやる。
 そんな私の様子を見ていたミルノは、「そう……なんだ……」と小さく呟きながら目を逸らした。
 ……? どうしたんだろう? 何だか、含みのある言い方に感じるような……?

「ミルノ……?」
「あっ……か、回復薬の効果、いつ切れるか、分からないし……追加の分、取ってくるね……!」

 聞き返そうとした私の言葉を遮るように、ミルノは慌てた様子でそう言うと、バタバタと荷物が置いてある隣の部屋に駆け込んでいった。
 ……? 急にどうしたって言うんだ……?

「……まさか、あやつも……?」

 すると、リートはミルノが出て行った扉の方を見つめながら掠れた声でそう呟いた。
 彼女の言葉に、私は腕の中にある彼女の頭頂部に視線を落としながら「リート……?」と聞き返す。
 私の反応に、彼女は姿勢を正すように僅かに身じろぎをしながら、「……いや……何でもないわ」と答えた。

「……ったく、罪な奴だよなぁお前は」

 すると、私達のやり取りを見ていたフレアが呆れたような口調で言いながら、ガリガリと自分の頭を掻いた。
 二人して、一体何だと言うんだ……?

「たっだいま~!」

 不審に思っていた時、バンッ! と大きな音を立てながら扉が開き、元気よく挨拶をしながらアランが入室してくる。
 彼女は肩に自分の体と同等かそれ以上の大きさの袋を軽々と担ぎ、意気揚々と部屋の中に入って来る。
 その後ろから続くように、片手に紙袋を提げたリアスが入室し、アランが開け放った扉を静かに閉めた。
 アランは大きな袋を床に置くと、ベッドの上にいる私とリートを見て「あ~!」と声を上げた。

「リートちゃんとこころちゃんがイチャイチャしてる~! ズル~い!」
「いッ、イチャイチャッ……!?」
「うるさいぞ、アラン。……頭に響く……」

 アランの口から出たイチャイチャと言う言葉に、私は反射的に聞き返しながらリートの頭を撫でる手を止めた。
 それに対し、リートは煩わしそうに答えながら首を軽く横に振る。
 彼女の反応に、私はすぐに我に返り、静かに息をついた。

 いやいや……何を動揺しているんだ、私は……。
 別にこれは、リートが少しでも楽になればと思ってやったことで、別に邪な気持ちがあったわけではない。
 しかし、一度イチャイチャとか言われてしまうと、途端に今のリートとの距離感を意識してしまう。
 彼女の体調を思って咄嗟にしたことだったが、言われてみると確かに、かなり密着してるよな……リートの体温とか、鼓動の音とか、荒い呼吸によって揺れる体の震動が直接伝わってきて……って、こんな時に何を考えているんだ。不謹慎だぞ。

「……えっ、と……リートが苦しそうだったから、少しでも楽になるようにこうしてるだけで、別にイチャイチャとかそういうのではないよ?」

 動転する思考を押し殺しつつそんな風に返してやると、アランはどこか納得のいっていないような表情で「ふーん……」と返しながら目を逸らした。
 ……何だその不満そうな反応は。
 まさか、私の考えに気付いて……? いやいや、リアスじゃあるまいし、流石にそれはないか……。

「あっ……二人共、帰って来たん、だね……」

 すると、両手に回復薬を抱えたミルノが、そんな風に言いながら隣の部屋から出てくる。
 彼女の言葉に、アランはパッと明るい笑みを浮かべた。

「ミルノちゃん! えっへへ~、ただいま!」
「ふふっ、おかえりなさい。……こころさん。追加の、回復薬……ど、どこに、置いとけば、良いかな……?」

 アランと朗らかにやり取りをした後、ミルノはオズオズとそんな風に聞きながら、こちらに歩いてきた。

「あぁ、えっと……とりあえず、この棚の上にでも置いといてくれる?」

 私はそう答えながら、リートの頭を撫でていた手でベッドの傍にある棚を示した。
 ミルノはそれに「わ、分かったっ」と小さく答えながら棚の方に歩み寄り、回復薬の器を置いた。

「ありがとう。助かるよ」

 あまり力が無い方だろうに、隣の部屋から液体が詰まった容器を大量に抱えて持ってきてくれたミルノに、私はそう礼を言った。
 すると、彼女はギョッとしたような表情を浮かべるとすぐにわたわたと両手を彷徨わせ、視線を右往左往に泳がせながら答えた。

「そ、そんな……! わ、私は、な、仲間として、当然のことをしたまでで……! べ、別に、そんな、お礼を言われるようなことは……!」

 彼女はそこまで言うと、途端にカァァッと頬を赤らめ、すぐに小走りで私の元を離れてしまった。
 そのまま逃げるようにアランの元に駆け寄ると、彼女の袖を摘まんでミルノは口を開いた。

「あ、あの……アランちゃん……! ちょ、ちょっと、話したいことが、あって……! こ、こっち来て……!」
「ふぇ? ……あっ、ちょっと……!」

 突然の誘いにアランは不思議そうな反応を示したが、彼女が承諾するよりも先にミルノは掴んでいた腕を引っ張り、隣の部屋に引き込んだ。
 急にどうしたんだろう……?
 ミルノは一緒に行動するようになったばかりだし、彼女のことはまだ全然分からないからな……これから分かっていければ良いのだが。

「ミルノは静かな方だと思っていたけど……周りの環境に影響されやすいタイプなのかしらね」

 すると、リアスは呆れたような口調で言いつつ、ベッドの傍の棚の上に紙袋を置いた。
 彼女の目は全てを見透かしているようで、私はつい頬を引きつらせながらも、「どうだろうね」と笑い返す。
 ……やっぱり、彼女は私の気持ちに気付いていそうだな……。
 私の反応にリアスはクスッと小さく笑いつつ、ミルノが置いていった回復薬の瓶を手に取りつつ、奥のベッドの上で胡坐を掻いてユラユラと揺れているフレアに視線を向けた。

「そういえば、誰かさんは凄く元気そうだけど……回復薬は効いたの?」
「おー。そうそう、それのおかげで痛みがすっかり無くなったんだよ。傷自体は治ってないけどな」

 リアスの問いに、フレアはそう答えながら服を捲り、胸元から鼠径部に掛けて斜めに走った深い傷を見せた。
 今まで服で隠れていた痛々しい傷に、リアスはギョッとしたような表情を浮かべ、すぐに視線を逸らした。

「ちょっと、わざわざ見せなくて良いから……服、早く戻しなさいよ」
「あ~、はいはい」

 気の抜けた返事をしながら、フレアは捲った服を戻す。
 するとリアスは溜息をつき、私の腕の中で荒い呼吸を繰り返すリートに視線を落とした。

「リートは苦しそうだけど……痛みは無いの?」
「う、うん。リートが苦しそうなのは肺に傷があるせいで、痛みは無いらしいよ」

 私の言葉に、リアスは「そう」と小さく答えながら僅かに目元を緩めた。
 彼女の反応に、私は「それより」と聞き返しながら、アランが持って帰って来た大きな袋に視線を向けた。

「随分大きな荷物だけど……あれは何?」
「あぁ、あれは全員分の防寒具よ。……一応、必要な物は全部買えたし、ノスタルト車も明日の早朝に予約しておいたわ。回復薬で二人の体調にも心配が無いなら、夜明けにはすぐに出発出来ると思うわよ」
「おっ、いよいよ出発か」

 リアスの言葉に、フレアはどこか上機嫌な口調で言いながら、両足の裏でパンパンと軽く拍手をする。
 傷の痛みが消えたからか、随分機嫌が良いらしい。
 その様子に、リアスは呆れた様子で「貴方は安静にしてなさい」と咎める。
 雪が積もっていると聞いた時はどうなることかと思ったが、これなら何とかなりそうだな。

「じゃあ、今日はもう早めに休んで、明日に備えた方が良いね。……出来るだけ急いだ方が良いし」

 私はそう言いながら、リートの頭に手を置き、彼女の後頭部に顔を埋める。
 ……特に障害が無いなら、それに越したことは無い。
 リートの怪我を少しでも早く治せるのならば……それ以上、他に望むことなど無いのだから。
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