命を助けてもらう代わりにダンジョンのラスボスの奴隷になりました

あいまり

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第6章:光の心臓編

155 信じてみよう-クラスメイトside

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「うわぁ~ん! 柚子の分からず屋~!」

 話し合いの後すぐに解散し、自室に戻って早々、花鈴は手近にあったベッドに飛び込んで枕に顔を埋めながら不満を吐き出す。
 それを見た真凛は呆れたように溜息をつき、「それ、私のベッド」と冷淡な口調で呟いた。
 しかし花鈴がその言葉を気にする様子は無く、むしろ枕を抱き締める力を強くし、顔を埋めたまま「う゛ぅ゛~」とくぐもった呻き声を上げる始末だった。
 彼女の様子に真凛はもう一度溜息をつくと、仕方がないので花鈴が寝る予定だったベッドに腰を下ろし、隣のベッドに突っ伏す花鈴に視線を向けた。

「しょうがないよ。私達の能力の都合上、二人ずつで分かれて行動するって決まった時点であの二人の同行はほとんど決まったようなものだったんだから」
「だからって……真凛だって見たでしょ? さっきの友子ちゃん」

 淡々とした口調で言う真凛に、花鈴は枕に埋めていた顔を少し上げて目元のみを覗かせ、くぐもった声で言う。
 彼女の言葉に、真凛は先程のクラインの部屋での話し合いの中で見た友子の姿を思い出す。
 明確な殺意を抱きながら、自分の手で魔女を殺すと言い放った、あの姿を。
 口を噤む真凛に、花鈴は枕を抱き締める力を少し強めながら続けた。

「あんまりこういうこと言いたくないけど……友子ちゃんの様子、普通じゃなかったじゃん。むしろ、前より酷くなってる。あんな状態の友子ちゃんと柚子が二人で行動してるなんて……真凛は心配じゃないの?」
「……心配に決まってるでしょ」

 不安そうな口調で投げかけられた花鈴の問いに、真凛は苦々しげな表情で答える。
 真凛はグッと拳を強く握りしめ、続けた。

「でも仕方ないでしょ。私達の能力のこともあるし……最上さんが柚子と同行することを止められる正当な理由も無いんだからさ」
「でも、最上さんは寺島さんを殺してるんだよ……!? そのことを言えば……!」
「私達が下手なこと言って、最上さんを刺激して逆上させることになるかもしれないでしょ? そうなったら、柚子に危険が及ぶ可能性だってある。最上さんがおかしいこと、柚子は気付いて無さそうだし……今以上に柚子の負担を増やす訳にもいかないでしょ?」
「……でも……」

 淡々と語る真凛に、花鈴は不満そうに声を漏らし、抱き締めた枕に口元を埋めた。
 彼女自身も、今回の柚子と友子の同行は仕方のないことだと、頭では理解していた。
 だからこそ、話し合いの中で柚子を止めようとした際に、何も言えなかったのだから。
 それでもやはり、友子と柚子が一緒にいることで柚子に危険が及ぶ可能性を考えると、どうしても納得できなかった。
 結果、花鈴は今も不満そうに口を噤むことしか出来なかった。
 それを見た真凛は困ったような微笑を浮かべて立ち上がり、花鈴が寝ているベッドの元に歩み寄った。
 真凛はベッドの上で突っ伏す花鈴の傍に腰を下ろすと、枕に顔を埋める彼女の頭にソッと軽く手を乗せ、優しく撫でながら続けた。

「まぁ、柚子の様子を見るに、ずっと二人で行動していても特に問題無かったみたいだったしさ。全く危険が無い訳では無いけど……今のところは、様子見でも良いんじゃないかな」
「……柚子って、本当に最上さんのこと……気付いてないのかな……」

 安心させるように言った真凛の言葉を聞いていたのか否か、不意に花鈴はそんなことを口走った。
 突然の言葉に、真凛は花鈴の頭を撫でる手を止め、頬を引きつらせながら「え……?」と聞き返した。
 それに、花鈴はガバッと勢いよく体を起こし、真凛の方に身を乗り出して続けた。

「だって、さっき合流したばかりの私達でも、最上さんがヤバいってことに気付いたんだよ!? 柚子って別に鈍感とかじゃ無いし、最上さんも別に隠してる様子無かったしッ……ずっと一緒に行動してて、気付かない訳なくない!?」
「それは……」
「もしかして、柚子……気付いてて、一緒にいるんじゃ……?」

 感情に任せて口早に話していた花鈴は、ふと沸き上がった仮説を口から零し、すぐに愕然とした表情を浮かべた。
 四つ這いのような体勢で終始喋っていた彼女は、その言葉を零すと同時にその場に腰を落とし、ペタンと座り込む。
 そんな花鈴の言葉に、真凛は咄嗟に答えることが出来ない。
 言われてみれば、確かにそうだ。
 ついさっき合流し、ほんの数回顔を合わせた程度の自分達ですら、友子の精神状態が悪化していることに気付いたのだ。
 今までずっと友子と行動を共にしてきた柚子が、多少なりとも異変に気付いていないはずが無い。

「そ、そんな訳ないでしょ……? 大体、もし本当に、そうだとして……なんで柚子が、そんなこと……?」

 真凛は掠れた声で聞き返しながら、自分の腕を掴んでいる花鈴の手を反対の手で取り、ソッと離させる。
 それに、花鈴は「それは……私も、分からないけど……」と自信なさそうに答えながら、ベッドのシーツをキュッと握りしめる。
 一体どうして、柚子は友子を庇い、行動を共にする?
 仮に、友子の精神状態のみに気付いているのだとしたら、学級委員長としてクラスメイトのケアをしなければならないという責任感から付き添っているのかもしれない。
 しかし、もし……友子の精神状態どころか、寺島葵殺害事件の真相にも気付いているとしたら……?
 そこまで気付いているのだとしたら、一体どうして、よりにもよってクラスメイトを殺した殺人鬼と共にいることを選ぶ?

「……柚子は、責任感が強いから……きっと、学級委員長としての責任感で、最上さんと一緒にいてあげてるんだよ」

 脳裏に過ぎった嫌な考えを振り払い、真凛はそう答えた。
 その言葉に、花鈴はどこか不安そうな表情を浮かべ、真凛の顔を見つめた。
 彼女の反応に、真凛は小さく笑みを浮かべて続けた。

「ホラ、最上さんは東雲さん達にいじめられていた訳だしさ。もしかしたら、その影響で最上さんが不安定になっているんだと思ってるのかも。だから、学級委員長として、傍で見ていないと……って思ってるんじゃないかな」
「……なんか、自分に言い聞かせてるみたいだね」

 不安そうな表情のまま、花鈴はポツリと呟くように言った。
 それに、真凛はピクッと微かに肩を震わせて硬直した。
 ……彼女の言う通りだった。
 先程の言葉は、花鈴を安心させる為に言っていたようで……柚子に対する不信感を和らげる為に、無意識に自分自身に言い聞かせていたものだった。
 花鈴の言葉によってそのことを自覚した真凛は、咄嗟に言葉を返すことも出来ず、口を噤んでしまった。

 そんな彼女の様子を見た花鈴は、自分の言ったことが、真凛にとって図星であったことを察する。
 しかし、自分も柚子に対して僅かな不信感を抱いてしまっていた為に、真凛の気持ちが理解出来た。
 ──こういうところは……やっぱり、双子だよね。
 良くも悪くも、自分達が双子であるという事実に、花鈴は自嘲するように小さく笑った。
 それから真凛を見て、続ける。

「でも……私も、そうであって欲しいな」

 その言葉に、真凛は目を丸くして顔を上げた。
 花鈴はそれに笑みを返し、続けた。

「きっと、柚子にも何か考えがあるんだと思うし……今は、柚子を信じてみようよ」
「花鈴……」

 若干明るくなった声で言う花鈴に、真凛はキョトンとしたような表情を浮かべながら、彼女の名前を呼ぶ。
 花鈴のその明るい態度が空元気であることが、すぐに分かってしまったから。
 そもそも、不安になっていた花鈴を励ます為に話していたのに、気付いたら自分が励まされてしまっていることに気付いてしまったから。
 自分が情けないと感じるのと同時に、自分も不安な癖に一生懸命にこちらを励まそうとしてくる片割れの様子が微笑ましくて、真凛は自然と頬を緩ませた。
 彼女は口元に微笑を浮かべたまま、花鈴の方に手を差し出し、頭の上にポンッと軽く手を乗せてやる。
 そのまま、愛でるように軽く撫で始めた。

「……? 真凛?」

 急に自分の頭を撫でてくる真凛に、花鈴は不思議そうに聞き返しながら軽く首を傾げる。
 そんな彼女の様子に、真凛はクスリと小さく笑って続けた。

「なんでもない。ただ……私も、柚子を信じてみようと思っただけ」
「真凛……」
「そもそも、もしかしたら本当に最上さんの状態に気付いていないのかもしれないし……例え気付いているとしても、きっと、柚子なりの考えがあるはずだからさ」

 もしかしたら、自分達でも及ばないような考えを、柚子は持っているのかもしれない。
 どうしてそれを話してくれないのか。
 どうして自分達では無く友子選んだのか。
 ……と、疑問や不満は多々ある。
 柚子の持つ意図によっては、その不満は不信へと変わる可能性も十分にある。
 しかし、それでも……──

「今の私達に出来ることは……その考えを信じて、柚子を支えることだよね」

 ──大切な友達を、信じたいと思った。
 柚子を守りたいと願い、彼女を支える為に一生懸命努力してきた。
 しかしその努力は何度も空回り、一度は彼女の信頼を裏切るような真似までしてしまった。
 だからこそ、今度こそは、絶対に彼女をちゃんと支えていかなければならないのだ。
 それなのに彼女のことを信じられないのでは、そもそも話にならない。

 だから、今は柚子の意思を尊重しよう。
 その上で、二人で彼女を支えよう。
 もしも彼女に危害が及ぶようならば、何としてでもそれを阻止する。
 しかし、そうでないならば……出来るだけ近くで、彼女の行動を見守っていよう。
 何かあった時に、すぐに守れるように。
 例えそれが、どのような結果を生むとしても。

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