命を助けてもらう代わりにダンジョンのラスボスの奴隷になりました

あいまり

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第5章:林の心臓編

139 悪い気はしない

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 中層に辿り着くと、辺りを覆っている植物の蔦が全体的に太くなったように感じる。
 元々太かった蔦は一回り太くなったように感じる程度だが、上層では私の指くらいの太さだった細い蔦は、中層では直径十センチくらいの太さになっていた。
 ここまで太くなると足に絡みついてくるようなことは無く、中層ではリアスも問題無く歩くことが出来るみたいだった。
 しかし、足場が不安定なことには変わりなく、むしろ全ての蔦が太くなったことで地面の凹凸は増したように感じる。
 上層では細い蔦が固まっている部分を上から踏みしめればある程度安定した場所を歩けたが、中層ではそういうわけにもいかず、少しでも足をつく場所を見誤るとすぐにバランスを崩して転倒してしまう。
 リートを背負っている為に移動に専念すれば良い私はともかく、戦闘を行っているフレアやアランにとってはかなり大きなハンデになりかねない──

「おらおらァッ! 邪魔だァッ! 死ねッ!」
「あっははは! 皆潰れちゃえ~!」

 ──……と思ったけど、そうでもないな。
 二人は不安定な足場など物ともせず、襲い掛かる魔物を捌いている。
 しかし、やはり上層に比べて中層の魔物は強くなっており、上層にいた時よりも苦戦している様子だった。
 とは言え、二人の顔は疲労しているようには見えず、どちらかと言うと楽しんでいるように見えた。
 まぁ、ギリスール王国からベスティアの町に来るまではほとんどスタルト車の移動だったし、鬱憤が溜まっていたのだろう。
 私は戦闘に参加できないので、二人が楽しんでいるのなら、お互いの利害も一致するので問題は無い。

「はぁッ!」

 そんな風に考えていた時、フレアが思い切りヌンチャクを振るって、目の前に現れた魔物を倒す。
 刹那、壁を覆う太い蔦の隙間から、パシュッと乾いた音を立てて何かが射出された。

「……ッ!?」

 フレアはすぐに音がした方に顔を向けるが、それより先に彼女の前に氷の壁が現れ、その壁に射出された何かが撃ち込まれた。
 見ると、それは先端が鋭く尖った木の枝だった。

「あっぶね……サンキュ」
「別に。……それにしても厄介ね、この罠。この壁も結構頑丈に作ったつもりなのに……」

 礼を言うフレアに、リアスは淡々とした口調でそう言いながら、氷の壁に突き刺さった枝を引き抜いた。
 どうやら枝は壁を貫通していたようで、枝と同じくらいの太さの穴がぽっかりと空いている。

「地面がこんなでは、足元に仕掛けがあるとは思えないし……何が引き金になっているのかも分からんのぅ」

 背負っているリートの言葉に、私は自分の足元を見た。
 確かに、アランのダンジョンの落とし穴や巨大な岩の仕掛けは、基本的に地面にあった。
 しかしこのダンジョンの地面は植物の蔦で覆われている為、少なくとも足場に仕掛けがあるようには見えない。
 だが、そうなると一体何がきっかけになっているのだろうか……。
 不思議に思っていると、リアスは枝と氷の壁に出来た穴を見て小さく息をついた。

「このダンジョンの厄介さ……心臓の守り人の意思が関与しているんだとしたら、このダンジョンの守り人は相当性格が悪いわね」
「え? それお前が言う?」
「うるさい」

 心底驚いたような表情で言うフレアに、リアスは端的に言って手に持っていた枝をフレアの目に突き刺そうとした。
 すると、フレアは慌てて顔を庇うように手を出しながら「やめろって!」と言いつつ後ずさりをする。
 二人のやり取りに呆れているのか、リートは溜息混じりに「確かにそうじゃな」と呟いた。

「地面を覆う植物の蔦に、それによる不安定な足場……そして、この層での罠」

 リートはそう言いながら、何も無い空間で軽く手を振った。
 すると、ある場所で彼女の手が止まる。
 彼女は続けた。

「まるで……妾達が心臓の守り人の元に辿り着く前に殺しておこうと考えているかのような用意周到っぷりじゃな」

 そう言うと同時に、空中で止まっていた手を軽く振った。
 直後、プツンッと何かが切れるような乾いた音がした。
 と思えば、パシュッと乾いた音と共に壁から何かが射出され、私の顔の横を通り過ぎて後ろの壁に突き刺さった。

「ちょっ、リート!?」
「おぉ、すまん。……ちょっと確認したいことがあってな」
「か、確認したいこと……?」

 聞き返す私にリートは頷くと、相変わらず何やら言い争っているフレアとリアスの方に視線を向けた。

「おい、リアス。ここら一帯の空間を全て凍らせることは出来るか?」
「え? 空間全て……って、どれくらいの範囲? まさか中層全部、なんて言わないわよね?」
「できるならそれでも良いが……ここから、向こうに少し行った所くらいまでで構わん」

 言いながら、リートは私達がこれから行こうとしていた方を指さした。
 彼女の言葉に、リアスは「了解」と言って、近くの壁に触れた。
 すると、一気に気温が下がったかのような肌寒さを感じるのと同時に、私達がいる場所から少し先までの通路が全て凍り付いた。
 植物の蔦で覆われた地面、壁、天井……全てが凍り付き、私達の進路を阻むように張り巡らされた細い糸のようなものが露わになる。

「えっ、これって……」
「……どうやら、これが罠の引き金のようじゃな」

 驚きながら呟いた私にそう言いながら、リートはすぐ目の前にある凍った糸に触れた。
 すると、彼女の指が触れた途端、その糸は音も立てずに粉々になった。
 それを見て、リアスが「なるほどね」と小さく呟くように言った。

「糸……いえ、これは極細の蔦かしら。これが切れたり引っ張られることで、あの枝で出来た矢を放つ罠が作動する仕組みになっていたというわけね」
「恐らく、ではあるがな……まぁ、ほぼ確定と言っても良いであろう」

 二人のやり取りを聴きながら、アランが恐る恐ると言った様子で凍った糸に触れた。
 先程リートが触れた時と同様に粉々になる糸を見て、彼女はパァッとその目を輝かせた。

「じゃあじゃあ、こうやって凍らせておけば罠に掛からないってこと!?」
「それもそうじゃが……しかし、もしもこの罠が下層まで続いているとしたら、ずっと魔法で凍らせるというのも難しいのぅ。妾とリアスの二人でも、魔力が持つかどうか……」
「そうね。さっきのでも結構魔力使ったし……正直、中層だけでもかなり怪しいわ」
「……? じゃあ俺の魔法でこの糸全部焼き払っちまうか?」

 重々しい声で言うリートとリアスに、フレアはキョトンとした表情で首を傾げながら言った。
 すると、リアスはギョッとしたような表情を浮かべた。

「ちょっと……それ本気で言ってるの?」
「あ? そうだけど……なんか問題あんのか?」
「大ありよ! こんな場所で炎なんて使って周りの植物に燃え移ったりしたら、ダンジョン攻略どころじゃなくなるでしょう!?」

 怒鳴るように言うリアスに、フレアは吟味するような間を置いた後で「あー! そっか!」と納得した様子で言いながらポンッと軽く手を打った。
 いや、分かってなかったのか……。
 呆然としていると、リアスも呆れたように溜息をつきながら額に手を当てた。

「てっきり分かっていて火魔法を使わないようにしてるのかと思っていたのに……」
「あー……いや? 俺元々魔法はそんなに得意じゃねぇからよ」
「本当にこの単細胞は……」
「あ?」

 いつものように喧嘩を始めようとする二人を視界の隅に収めつつ、私は溜息をついた。
 つまり、原因が分かってもこの罠を回避する術は無いというわけか……。

「っつーか、火も氷もダメってことは、もう俺らに出来ることなんてねぇじゃねぇか。土魔法でも闇魔法でも出来ることなんてねぇし……だったら、さっさと下層に向かっちまった方が良いだろ」

 すると、フレアがガリガリと頭を掻きながらそう言った。
 なんて投げやりな……と呆れそうになったが、言われてみれば彼女の言う通りだ。
 この罠については万策尽きたのだし、ここで他にどうにかする方法は無いかと話し合っているよりは、前に進んだ方が得策と言える。
 幸いにも、私達は罠が発動してからでも対処できる程度の力はあるのだから。

「それもそうだね~。じゃあさっさと行こ~!」
「あっ、待って……!」

 明るい声で言いながら先に進もうとするアランを見て、私は咄嗟にそう声を掛けた。
 すると、彼女はクルリとこちらに振り向いた。

「こころちゃん? どうかした?」
「あっ、いや、その……先に進むことには、賛成なんだけど……もう少し、慎重に行った方が良いと思う……」

 上層で感じた胸騒ぎのこともあるし、この先何が起こるか分からない。
 私は少し間を置いて続けた。

「何かあってからじゃ遅いし……罠の仕掛けは分かってるんだから、さっきよりは回避しやすくなっていると思うんだ。だから……もう少し用心した方が、良いと思う……」
「……私もこころに賛成ね」

 私の意見に賛同したのは、意外にもリアスだった。
 彼女は腕を組んで続けた。

「貴方達は勢い任せに進み過ぎよ。もう少し用心して進んだ方が良いわ」
「え~! でも私の武器大きいから避けにくい~」
「じゃあ弾けば良い……というか、その大槌を盾にすれば良いではないか」

 不満そうに言うアランに、リートが冷静な口調で言った。
 それにアランが不満そうに頬を膨らませるのを見ていた時、ポンッと頭に手を置かれた。

「当然、妾もお主に賛成じゃ。……急ぐ必要もあるまいし」
「……リート……」
「……もぉ~分かったよ~。ゆっくり進めば良いんでしょ~」

 賛同してくれたリートの言葉につい嬉しくなっていると、アランが不満そうに言いながら大槌を肩に掛けた。
 それを見て、先頭を歩いていたフレアがガリガリと頭を掻きながら溜息をついた。

「よく分かんねぇけど……要は、あんま突っ走らないようにして、罠に気を付けて進めってことか?」
「え? ……まぁそんな感じ、かな……」
「ん~……りょーかい。極力頑張るわ」

 軽い口調で言いながらヌンチャクを肩に掛けるフレアに、私は思わず面食らった。
 なんというか……思っていたよりも、あっさりと皆が同意してくれて……上手く言えないけど、なんか……変な気分だ。
 けど……悪い気はしない。

「うん。……ありがとう、皆」

 私はそう礼を言いながら、一歩踏み出した。
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