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第5章:林の心臓編
118 もう誤魔化せない
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フレアとリアスの後ろ姿を見送ったアランは、ムゥッと頬を膨らませた。
──……十分仲良しじゃん。
二人が消えていった方を見つめながら、アランはそんな風に考えた。
リアスが男に絡まれているのを見てすぐさま飛び出していったフレアもそうだし、フレアに助けられて明らかに安堵した表情を浮かべていたリアスもそう。
なぜ否定したのかも正直分からないくらい、二人の仲はかなり良いと思う。
──いっそのこと、こころちゃんのことは諦めて、二人で付き合っちゃえば良いのになぁ。
そんな風に考えながら、アランはフレアから受け取った荷物を抱え直した。
──……そうしたら、ライバルが減るのに……。
「……」
ふと沸き上がった感情に、アランは両手に抱えた荷物を抱く力を強め、少しだけ目を伏せた。
……込み上げてきている感情の正体は、分かっている。
この感情を認めてしまったら、自分が傷付くことになることも分かっている。
──……早く帰ろ。
心の中でそう呟いたアランは、すぐに踵を返し、宿屋に向かって歩き出す。
このまま一人で考え込んでいても、きっと埒が明かない。
それに、こころにべた惚れしているフレアやリアスの空気に当てられて錯覚しただけで、実際に本人を前にしたら変わるかもしれない。
しかも、今宿屋では、こころとリートの二人きり。
実際に二人の相思相愛っぷりを目の当たりにすれば、この気持ちも冷めるだろう。
そんな気持ちから、アランは気持ちが逸るような感覚の中、宿屋に向かって歩を進めた。
この宿屋は大人数での宿泊にも対応しており、五人が泊まる部屋は備え付けの浴室を含めると三部屋からなる構造になっていた。
部屋の扉を開けると、まずそこには大人数でもくつろげそうなそれなりの大きさのある部屋があり、大きめのテーブルや幾つかのベッドが並んでいる。
そこから左手側に浴室があり、右手側に二つ目の部屋がある。
こころが眠っている部屋は右手側にある方の部屋だった為、アランは両手に持った荷物を抱え直し、右手側にある扉を開いた。
「ただいま~! 帰ったよ~」
扉を開けたアランは、そんな風に声を掛けながら部屋に入る。
こちらの部屋は、先程の部屋に比べると二回りほど小さく、ベッドが二つ並んでおりそれぞれに小さな棚が備え付けられているだけの簡素な部屋だった。
部屋に入ってすぐに、奥にある方のベッドの上に、起き上がった体勢になっている人影があることに気付いた。
よく見ると、そのベッドのすぐ傍の床に膝をつき、ベッドに突っ伏す形で眠っている人影もある。
ベッドの上で起き上がっている人物……こころは、突っ伏して眠っているリートの頭を撫でていた手を止めて、顔を上げた。
それから小さく笑みを浮かべ、口元に人差し指を当てた。
静かに、という意味だと判断したアランはすぐに口を噤み、コクコクと頷きながらベッドの傍に近寄った。
「……リートちゃん、寝てるの?」
「うん。……ずっと私の看病してくれてたみたいだから、疲れたんだと思う」
静かな声で尋ねるアランに、こころは柔らかい笑みを浮かべて答えながら、リートの頭を優しく撫でた。
彼女の目は今まで見たこと無い程に優しく、リートのことを誰よりも大切にしているであろうということが窺えた。
赤らんだ頬は、熱のせいなのか……それとも、別の理由からなのか……。
そんな風に考えていた時、ズキリ……と、胸の奥に鈍い痛みが走った。
アランはそれに、すぐにこころから目を逸らし、隣にあるベッドの上に持ち帰った荷物を置いた。
「ところで、アランはどこに行ってたの? 凄い荷物だけど……」
「ん~? まぁ、ちょっとお買い物~。リートちゃんに頼まれて、フレアちゃんとリアスちゃんとの三人で買って来たんだよ~」
「そうなんだ……あれ、他の二人は?」
「なんか、帰る時になってフレアちゃんが買いたい物がある~とか言って、リアスちゃん連れてどっか行っちゃった~」
「どっか行った、って……大丈夫なの? あの二人だけで……」
「うーん……大丈夫だと思うよ~」
どこか投げやりな口調で言うアランに、こころは「思うって……」と呟きながら、げんなりした表情を浮かべる。
ぼんやりとその様子を見ていたアランは、こころの体が汗でびしょ濡れになっていることに気付いた。
「こころちゃん、なんか体が汗だくだね? 暑い?」
「えっ? ……あぁ、うん……まぁ、熱あるし……暑いかな……?」
こころはそんな風に呟きながら、服の胸元を掴んでパフパフと軽く扇いだ。
その際に服の下に着ている肌着や下着が見え隠れし、アランはそれに少し戸惑いつつも静かに顔を背けた。
彼女はすぐにこころの元を離れ、パタパタと小走りで備え付けの浴室に向かい、そこからタオルを一枚取って戻ってくる。
「ダメだよ~そのままにしたら。汗が冷えて、風邪悪化しちゃうよ?」
アランはそう言いながら、こころにタオルを差し出した。
すると、こころは少し驚いた表情を浮かべながらも、タオルを受け取った。
「あぁ、そっか……あはは、ごめん。こんなに酷い熱出したの久しぶりで、なんか忘れちゃってた。……ありがとうね、アラン」
こころはそう言うと、どこか疲れたような、力無い笑みを浮かべた。
彼女に笑みを向けられた瞬間、アランの心臓がドクンッと強く脈打った。
それを皮切りにするように彼女の鼓動は次第に早くなり、顔が熱くなっていくのを感じる。
アランは咄嗟に自分の胸に手を当て、服を強く握り締める。
──えっ、何これ……何、この感じ……!?
突然込み上げてくる感情に動揺するアランに気付かないこころは、受け取ったタオルで首筋を伝う汗を拭った。
アランはその様子を、食い入るように見つめていた。
汗で湿った髪や薄手の服は汗を吸い、ぺったりと肌に張り付いている。
さらに、熱によって紅潮した頬と僅かに上気した呼吸が、何とも言えない色っぽさを醸し出している。
ある程度服から出ている部分の汗を拭い終えると、こころは服の襟首を引っ張り、服の下も拭き始め──。
「わー! 待って待って!」
「ぅえッ!?」
突然両手を出して制止の声を上げるアランに、こころは驚いたような奇妙な声を上げる。
対して、ほとんど何も考えずに止めていたアランも続く言葉を考えておらず、制止した時の体勢のままで口をパクパクさせていた。
それに、こころも困惑したような表情でアランの顔を見上げ、首を傾げた。
「ど、どうしたの……? 何かあった……?」
「ふぇっ? あっ、いや、その……そういうわけでは、ない、けど……」
不思議そうに聞き返すこころに、アランはオロオロと目を泳がせながら、尻すぼみな口調で言う。
誤魔化さなければとは考えるものの、考えれば考える程、頭の中が真っ白になっていく。
両手をオロオロと忙しなく動かしながら口ごもっていた時、リートの肩がピクリと震えた。
「んんぅ……何じゃ、何やら騒がしいのう」
「リート……」
呻くように言いながら顔を上げるリートに、こころは呟くように名前を呼んだ。
すると、リートは声のした方向に顔を向け、目を丸くした。
「おぉ、こころ。目を覚ましたか」
「あぁ、うん……り、リートが看病してくれたおかげだよ」
「ほう? そうか? 妾のおかげか」
感謝を述べるこころに対し、リートはどこか上機嫌な様子で答える。
それを見た瞬間、アランはまたもや自分の胸が痛むのを感じた。
──あぁ、もう……誤魔化せないな……。
ソッと自分の胸に手を当てて、アランは心の中で呟く。
「よーっす、ただいま~」
「戻ったわよ」
すると、部屋の中にフレアとリアスが戻ってくる。
それを見て、アランはバッと顔を上げた。
彼女は火照った顔を隠すように口元を手で覆い、すぐに辺りを見渡す。
すると、隣のベッドの上に置いた袋が倒れており、袋の上の方に入っていた物資が幾つか出てきていることに気付いた。
その内、小さな紙袋から飛び出した一冊の本が目に入る。
「あっ、そういえばリアスちゃんが買い忘れた物ってこれ~?」
アランはそう言いながら、咄嗟にその本を手に取った。
それを見て、リアスは目を丸くした。
「あぁ、それ? それは……」
「何買ったの~? 見たぁい! 見るね~!」
「ちょっと……!」
リアスが制止する声も無視して、アランは本を胸に抱えてフレアとリアスの間を潜り抜け、部屋を飛び出す。
「ッはぁ~~~~……」
後ろ手に扉を閉めると、彼女は扉に背中を預け、大きく溜息をつきながらズルズルとその場にへたり込む。
ペタンと座り込んだ彼女は、本を胸に抱きしめた。
──ちょっと……いや、かなり無理矢理だったよね……。
──変に思われたかな? もしかしたら、リアスちゃん辺りには気付かれたかもしれないな。
そんな風に考えながら、アランは火照る顔を隠すように、手に持った本を顔の高さまで持ち上げた。
──でも、例え気付かれたとしても、もう……隠せない。
「私……こころちゃんのことが、好きだ……」
アランは誰にも聴こえないくらいの声で小さく呟きながら、本の表紙に額を当てた。
──……十分仲良しじゃん。
二人が消えていった方を見つめながら、アランはそんな風に考えた。
リアスが男に絡まれているのを見てすぐさま飛び出していったフレアもそうだし、フレアに助けられて明らかに安堵した表情を浮かべていたリアスもそう。
なぜ否定したのかも正直分からないくらい、二人の仲はかなり良いと思う。
──いっそのこと、こころちゃんのことは諦めて、二人で付き合っちゃえば良いのになぁ。
そんな風に考えながら、アランはフレアから受け取った荷物を抱え直した。
──……そうしたら、ライバルが減るのに……。
「……」
ふと沸き上がった感情に、アランは両手に抱えた荷物を抱く力を強め、少しだけ目を伏せた。
……込み上げてきている感情の正体は、分かっている。
この感情を認めてしまったら、自分が傷付くことになることも分かっている。
──……早く帰ろ。
心の中でそう呟いたアランは、すぐに踵を返し、宿屋に向かって歩き出す。
このまま一人で考え込んでいても、きっと埒が明かない。
それに、こころにべた惚れしているフレアやリアスの空気に当てられて錯覚しただけで、実際に本人を前にしたら変わるかもしれない。
しかも、今宿屋では、こころとリートの二人きり。
実際に二人の相思相愛っぷりを目の当たりにすれば、この気持ちも冷めるだろう。
そんな気持ちから、アランは気持ちが逸るような感覚の中、宿屋に向かって歩を進めた。
この宿屋は大人数での宿泊にも対応しており、五人が泊まる部屋は備え付けの浴室を含めると三部屋からなる構造になっていた。
部屋の扉を開けると、まずそこには大人数でもくつろげそうなそれなりの大きさのある部屋があり、大きめのテーブルや幾つかのベッドが並んでいる。
そこから左手側に浴室があり、右手側に二つ目の部屋がある。
こころが眠っている部屋は右手側にある方の部屋だった為、アランは両手に持った荷物を抱え直し、右手側にある扉を開いた。
「ただいま~! 帰ったよ~」
扉を開けたアランは、そんな風に声を掛けながら部屋に入る。
こちらの部屋は、先程の部屋に比べると二回りほど小さく、ベッドが二つ並んでおりそれぞれに小さな棚が備え付けられているだけの簡素な部屋だった。
部屋に入ってすぐに、奥にある方のベッドの上に、起き上がった体勢になっている人影があることに気付いた。
よく見ると、そのベッドのすぐ傍の床に膝をつき、ベッドに突っ伏す形で眠っている人影もある。
ベッドの上で起き上がっている人物……こころは、突っ伏して眠っているリートの頭を撫でていた手を止めて、顔を上げた。
それから小さく笑みを浮かべ、口元に人差し指を当てた。
静かに、という意味だと判断したアランはすぐに口を噤み、コクコクと頷きながらベッドの傍に近寄った。
「……リートちゃん、寝てるの?」
「うん。……ずっと私の看病してくれてたみたいだから、疲れたんだと思う」
静かな声で尋ねるアランに、こころは柔らかい笑みを浮かべて答えながら、リートの頭を優しく撫でた。
彼女の目は今まで見たこと無い程に優しく、リートのことを誰よりも大切にしているであろうということが窺えた。
赤らんだ頬は、熱のせいなのか……それとも、別の理由からなのか……。
そんな風に考えていた時、ズキリ……と、胸の奥に鈍い痛みが走った。
アランはそれに、すぐにこころから目を逸らし、隣にあるベッドの上に持ち帰った荷物を置いた。
「ところで、アランはどこに行ってたの? 凄い荷物だけど……」
「ん~? まぁ、ちょっとお買い物~。リートちゃんに頼まれて、フレアちゃんとリアスちゃんとの三人で買って来たんだよ~」
「そうなんだ……あれ、他の二人は?」
「なんか、帰る時になってフレアちゃんが買いたい物がある~とか言って、リアスちゃん連れてどっか行っちゃった~」
「どっか行った、って……大丈夫なの? あの二人だけで……」
「うーん……大丈夫だと思うよ~」
どこか投げやりな口調で言うアランに、こころは「思うって……」と呟きながら、げんなりした表情を浮かべる。
ぼんやりとその様子を見ていたアランは、こころの体が汗でびしょ濡れになっていることに気付いた。
「こころちゃん、なんか体が汗だくだね? 暑い?」
「えっ? ……あぁ、うん……まぁ、熱あるし……暑いかな……?」
こころはそんな風に呟きながら、服の胸元を掴んでパフパフと軽く扇いだ。
その際に服の下に着ている肌着や下着が見え隠れし、アランはそれに少し戸惑いつつも静かに顔を背けた。
彼女はすぐにこころの元を離れ、パタパタと小走りで備え付けの浴室に向かい、そこからタオルを一枚取って戻ってくる。
「ダメだよ~そのままにしたら。汗が冷えて、風邪悪化しちゃうよ?」
アランはそう言いながら、こころにタオルを差し出した。
すると、こころは少し驚いた表情を浮かべながらも、タオルを受け取った。
「あぁ、そっか……あはは、ごめん。こんなに酷い熱出したの久しぶりで、なんか忘れちゃってた。……ありがとうね、アラン」
こころはそう言うと、どこか疲れたような、力無い笑みを浮かべた。
彼女に笑みを向けられた瞬間、アランの心臓がドクンッと強く脈打った。
それを皮切りにするように彼女の鼓動は次第に早くなり、顔が熱くなっていくのを感じる。
アランは咄嗟に自分の胸に手を当て、服を強く握り締める。
──えっ、何これ……何、この感じ……!?
突然込み上げてくる感情に動揺するアランに気付かないこころは、受け取ったタオルで首筋を伝う汗を拭った。
アランはその様子を、食い入るように見つめていた。
汗で湿った髪や薄手の服は汗を吸い、ぺったりと肌に張り付いている。
さらに、熱によって紅潮した頬と僅かに上気した呼吸が、何とも言えない色っぽさを醸し出している。
ある程度服から出ている部分の汗を拭い終えると、こころは服の襟首を引っ張り、服の下も拭き始め──。
「わー! 待って待って!」
「ぅえッ!?」
突然両手を出して制止の声を上げるアランに、こころは驚いたような奇妙な声を上げる。
対して、ほとんど何も考えずに止めていたアランも続く言葉を考えておらず、制止した時の体勢のままで口をパクパクさせていた。
それに、こころも困惑したような表情でアランの顔を見上げ、首を傾げた。
「ど、どうしたの……? 何かあった……?」
「ふぇっ? あっ、いや、その……そういうわけでは、ない、けど……」
不思議そうに聞き返すこころに、アランはオロオロと目を泳がせながら、尻すぼみな口調で言う。
誤魔化さなければとは考えるものの、考えれば考える程、頭の中が真っ白になっていく。
両手をオロオロと忙しなく動かしながら口ごもっていた時、リートの肩がピクリと震えた。
「んんぅ……何じゃ、何やら騒がしいのう」
「リート……」
呻くように言いながら顔を上げるリートに、こころは呟くように名前を呼んだ。
すると、リートは声のした方向に顔を向け、目を丸くした。
「おぉ、こころ。目を覚ましたか」
「あぁ、うん……り、リートが看病してくれたおかげだよ」
「ほう? そうか? 妾のおかげか」
感謝を述べるこころに対し、リートはどこか上機嫌な様子で答える。
それを見た瞬間、アランはまたもや自分の胸が痛むのを感じた。
──あぁ、もう……誤魔化せないな……。
ソッと自分の胸に手を当てて、アランは心の中で呟く。
「よーっす、ただいま~」
「戻ったわよ」
すると、部屋の中にフレアとリアスが戻ってくる。
それを見て、アランはバッと顔を上げた。
彼女は火照った顔を隠すように口元を手で覆い、すぐに辺りを見渡す。
すると、隣のベッドの上に置いた袋が倒れており、袋の上の方に入っていた物資が幾つか出てきていることに気付いた。
その内、小さな紙袋から飛び出した一冊の本が目に入る。
「あっ、そういえばリアスちゃんが買い忘れた物ってこれ~?」
アランはそう言いながら、咄嗟にその本を手に取った。
それを見て、リアスは目を丸くした。
「あぁ、それ? それは……」
「何買ったの~? 見たぁい! 見るね~!」
「ちょっと……!」
リアスが制止する声も無視して、アランは本を胸に抱えてフレアとリアスの間を潜り抜け、部屋を飛び出す。
「ッはぁ~~~~……」
後ろ手に扉を閉めると、彼女は扉に背中を預け、大きく溜息をつきながらズルズルとその場にへたり込む。
ペタンと座り込んだ彼女は、本を胸に抱きしめた。
──ちょっと……いや、かなり無理矢理だったよね……。
──変に思われたかな? もしかしたら、リアスちゃん辺りには気付かれたかもしれないな。
そんな風に考えながら、アランは火照る顔を隠すように、手に持った本を顔の高さまで持ち上げた。
──でも、例え気付かれたとしても、もう……隠せない。
「私……こころちゃんのことが、好きだ……」
アランは誰にも聴こえないくらいの声で小さく呟きながら、本の表紙に額を当てた。
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