命を助けてもらう代わりにダンジョンのラスボスの奴隷になりました

あいまり

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第4章:土の心臓編

101 守れなかった-クラスメイトside

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 城に帰還してきた後、柚子は圭達の部屋で、彼女等にこころについての説明をしていた。
 それに加えて、こころが生きていることを知るまでの経緯なども含めて、これまでの旅についての話をクラスメイト達に話した。
 異世界の国を渡る旅の話は、やはりクラスメイト達には新鮮な話も多く、興味津々と言った様子で柚子の話に聞き入っていた。

「──……っていう経緯で、猪瀬さんと再会して、一緒に城に戻ってきたってわけ」
「へぇ~……それはまた、大変だったね」

 柚子の説明に、圭が感心した様子でそう返した。
 彼女の言葉を皮切りにするように、他のクラスメイト達も次々に労いの言葉を掛ける。
 それに、柚子は小さく笑って「ありがとう」と答えた。

「そっちはどうだった? 私達がいない間、何か変わったこととかは無かった?」
「特に何も。でも、レベルは大分上がって、もうすぐレベル50になるよ。……そしたら、今度は私達も山吹さん達と一緒に心臓の破壊に行けるよ!」

 強く拳を握り締めながら言う圭に、柚子は「そっか」と安心したように笑った。
 その時、廊下の方が何やら騒がしくなる音がした。

「……何だか、外がうるさいね?」
「どうしたのかな……」

 廊下の方から聴こえてくる音に、晴陽と咲綾がそう呟く。
 それに、扉の方に視線を向けた翠が、クスリと小さく笑った。

「もしかして……また殺人事件だったりして」
「縁起でもないこと言わない」

 面白がるような口調で言う翠に、圭がそう注意をする。
 それに柚子は立ち上がり、すぐに扉の方に駆け寄った。

「私が様子見てくるよ」
「待って、私も行く!」

 柚子の言葉に、圭がそう言いながら立ち上がる。
 それに続くように他のクラスメイト達も立ち上がり、結果として全員で様子を見に行くことになった。
 部屋を出て声のする方へと向かうと、城の一階ロビーにて城の使用人らしき人達が集まり、何やら不穏な面持ちで話していた。
 それを見た柚子は驚いた表情を浮かべたが、国王と共に皆を鎮めようとしているクラインを見かけ、すぐに彼の元に駆け寄った。

「クラインさん! 何が起きているんですか!?」
「山吹さん……実は、魔女達が突然攻め込んできまして……」
「魔女が……?」

 クラインの言葉に、柚子は一瞬固まる。
 しかし、すぐにこころと一緒にいた何人かの少女達の顔を思い出す。
 特に、最もこころと距離が近かった……黒い長髪に青い目をした少女を。

「魔女が攻め込んできた、って……大丈夫なんですか!?」
「現在は城の騎士団で相手をしておりますが……正直、どの程度持つか……」
「ッ……」
「山吹さん!」

 クラインの言葉に柚子の表情に緊張が走った時、背後から名前を呼ばれた。
 振り向くと、そこにはこちらに駆け寄ってくる友子の姿があった。
 それに、柚子は「最上さん……」と驚いた表情を浮かべながら呟いた。
 すると、友子は辺りの状況を見つつ、柚子の元に駆け寄って口を開いた。

「これ、どういう状況? 何が起きてるの?」
「実は、この城に魔女が攻め込んできたらしくて……」
「魔女が……!?」
「国王様!」

 柚子の説明に友子が驚いた時、城の中に駆け込んできた一人の騎士が、国王の元に跪く。
 それに、国王は「何だね?」と緊張した面持ちで尋ねた。
 騎士は一度辺りを確認すると国王の耳元に口を寄せ、小声で何かを囁いた。
 すると、国王とクラインが同時に驚いたような反応を示した。

「何……!? それは本当かね……!?」
「はい……調べようにも、騎士団は現在、奴等の相手で手一杯でして……」
「では、私が代わりに探しに行きましょうか?」

 騎士の言葉に、クラインが自分の胸に手を当てながら言った。
 それに、騎士は「そんな……!」と慌てたような反応をした。

「危険ですよ……! それに、宮廷魔術師様の手を煩わせるわけには……!」
「いえ、今は緊急事態ですから。国王様がこの場を離れるわけにもいきませんし、ここは私が行きます」
「ですが……」
「貴方は、ひとまず戦場に戻ってください」

 クラインの言葉に、騎士は少しだけ口ごもるような反応を示したが、すぐに頭を下げて「失礼します!」と言い、城から出て行く。
 すぐにそれに続いてクラインも外に出ようとするので、柚子は慌てて彼の元に駆け寄り、呼び止めた。

「どこに行くんですか!? 一体何が……!」
「……実は、戦いの最中にて、魔女の行方が分からなくなったそうです」
「えッ……!」

 小声で囁くクラインに、柚子は僅かに驚いた反応をした。
 すると、クラインは自分の口元に指を当てて静かにするように示し、小声で続けた。

「私は魔法を使って盗み聞きしましたが、このことはご内密に。使用人等は魔女の存在そのものを知りませんし、他の皆様も、このことを伝えて余計に混乱させたくはありません」
「……分かりました」
「ありがとうございます。私は城内外を探してみますが、山吹さんはここにいて下さい。……何かがあれば、他の皆さんを守ってください」

 クラインの言葉に、柚子は静かに頷いた。
 それに、クラインは安心したように笑い返し、城を飛び出した。

「山吹さん、何があったの?」

 すると、友子がすぐに柚子の元に駆け寄り、そう聞いてきた。
 それに、柚子は少し考え、口を開いた。

「クラインさんも魔女の対処に行くみたい。とりあえず、私達は慌てず、この場で待機しておくように、って」
「そっか……」
「ところで、猪瀬さんは?」

 柚子はそう言いつつ、固まっているクラスメイト達の方に視線を向けた。
 自分達と一緒に来たクラスメイト達はいるが、こころと……花鈴と真凛がいない様子だ。
 何かあったのかと一瞬心配したが、花鈴がここに来ても騒がしいだけだろうし、真凛もそれを察して止めているのかもしれない。
 問題はこころだが……。

「あぁ……こころちゃんは、部屋で待たせてるよ。……危ないから」
「……そっか」

 友子の説明に、柚子はそう呟いた。
 すると、友子は何かに気付いた様子で「あっ、そうだ」と言う。

「私、ちょっとこころちゃんに事情を説明してくるね。……何も知らないと不安だろうから」
「あぁ、うん。そうだね」

 柚子の言葉に友子は頷くと、自分達の部屋がある階に向かうべく、階段を駆け上がっていった。
 それを見つつクラスメイト達の方に行くと、圭がすぐに心配そうに駆け寄ってきた。

「山吹さん、何があったの? さっき、最上さんが慌てた様子でどこかに行ったみたいだけど……」

 心配そうに尋ねる圭に、柚子はクラスメイト達に、先程友子にしたものと同じ説明をした。
 それから、友子は部屋にいるこころに事情を説明しに行ったことも話す。
 全てを聞いた圭は、「そうなんだ……」と小さく呟くように言った。
 すると、その横で話を聞いていた翠が、訝しむような表情で友子が走っていった方に視線を向けた。

「事情は分かったけど……大丈夫なの?」
「大丈夫、って……何が?」

 突然の言葉に、柚子はキョトンとした表情で聞き返した。
 それに、翠は小さく息をつき、続けた。

「普通に考えて、魔女がここに攻め込みにきた理由って、猪瀬さんじゃないの?」
「えっ……」
「あっ、そっか! 猪瀬さん、山吹さん達と再会するまで魔女と一緒に行動していたんだもんね」

 思い出すように言う咲綾に、柚子は僅かに目を見開いた。
 それに翠は頷き、続けた。

「猪瀬さんは奴隷だった、って言ってたらしいけど、もしかしたら魔女との本当の関係を隠す為の嘘かもしれないじゃない?」
「いや……最上さんが、一緒にお風呂に入った時に奴隷の紋様を見たらしい、から……」
「それが本当に奴隷の紋様っていう証拠は? 私達に、一目でその紋様が奴隷の紋様だって分かる?」
「……それは……」

 静かな声で言う翠に、柚子は目を伏せながら口ごもる。
 その時……こころを保護した日の晩、クラインの部屋にて、魔女についての尋問を行った時のことを思い出した。

『ダンジョンの下層で瀕死だったところを、魔女に助けてもらったの。それから治療してもらって……命を助ける代わりに、奴隷になれ、って……』

 魔女との出会いを語る、こころの顔。
 その顔を思い出した瞬間、柚子は息を呑んだ。
 自分を奴隷として扱っていた憎き魔女のことを話しているとは思えないような、優しい口調に、いつもよりワントーン高い声。
 頬を僅かに紅潮させ、どこかはにかんだような笑顔を浮かべながら語る姿。
 友子と一緒にいる時にすら見せなかったあの姿は、正に……──恋する乙女そのものだった。

「ッ……!」

 考えるより先に、体が動いていた。
 柚子はクラスメイト達をかき分け、友子の後を追うように階段を駆け上った。
 ──どうして忘れていたッ! なぜ気付かなかったッ!
 ──魔女がこの城に攻め込む理由など、考えてみれば一つしか無いじゃないッ!
 ──戦いの最中で魔女が行方を眩ませた? 猪瀬さんを探しに向かったに決まっているッ!

 目まぐるしく駆け巡る思考の中、柚子は階段を一段飛ばしで駆け上がり、自分達に割り当てられた部屋のある階を目指す。
 息を切らし、金色の髪を靡かせながら、柚子はさらに思考を巡らせる。
 ──とにかく、最上さんと猪瀬さんを部屋から出そう。
 ──今この状況で二人が魔女と鉢合わせたらマズいッ!

「……間に合って……ッ!」

 掠れた声で言いながら、柚子は部屋に向かって必死に床を蹴り進む。
 目の前に見えた角を曲がると、こころの部屋に当たる扉が開いたままになっていることに気付いた。
 それに、柚子は目を見開いた。

「最上さん……ッ! 猪瀬さん……ッ!」

 必死な声で言いながら、柚子は部屋の中に飛び込んだ。
 そして、一瞬で言葉を失った。

「……はぁッ……はぁッ……はぁッ……」
「……」

 荒い呼吸を繰り返しながら立ち尽くす柚子に、友子は答えない。
 枠組みだけになった窓に、床に散らばったガラスの欠片。
 寺島葵が亡くなった時から電気の点かなくなった暗い部屋で、友子は窓の方を見つめたまま、動かない。
 ……そう。部屋の中には……友子しかいないのだ。

「……猪瀬さんは……?」
「……魔女に……連れて行かれた……」

 呟くように答える友子に、柚子は小さく息を呑んだ。
 すると、友子はフラフラと歩きだす。
 床に散らばったガラスの欠片を踏みしめ、窓に近づき……窓の近くの壁を、ガンッと強く殴った。

「……守れなかった……!」
「ッ……」

 呻くような友子の言葉に、柚子は僅かに肩を震わせる。
 それに気付かない友子は、何度も城の壁を殴りながら、悲壮な声で続けた。

「こころちゃんを守れなかったッ! 私が守らないと……守ってあげないといけないのにッ! こころちゃんには何度も助けられてきたからッ! 今度は私がッ……私がこころちゃんを守ってあげないといけなかったのにッ!」
「最上さん……」
「アイツ……こころちゃんに何したと思う……?」

 静かな声で聞く友子に、柚子は答えられない。
 しかし、まるで答えなど期待していなかったと言わんばかりに、友子は続けた。

「キスしてたんだよ……? こころちゃんと……こころちゃんの首に腕を絡めて、体を密着させて……! こころちゃんは優しいから、逆らえなかったんだよ。こころちゃんの優しさを利用して……あの女は……!」
「最上さん……」
「……殺してやる……」

 友子は低い声でそう呟き、強く拳を握り締める。
 その手でもう一度壁を殴り、彼女は続けた。

「殺してやる……ッ! 殺して、殺して、殺してやるッ! 汚らわしい手でこころちゃんに触れるあの女もッ! あの女と一緒にこころちゃんの優しさを利用してこころちゃんを汚す他の連中もッ! 私が……私がこころちゃんを守るんだッ! こころちゃんを守れるのは、私しかいないからッ! だって、こころちゃんは私に、ずっと一緒にいてくれるって約束してくれたからッ! 本当はあの子だって私と一緒にいたいのッ! 今頃、私に会いたくて震えてるはず……ッ! あぁ、大丈夫だよ、こころちゃん……絶対に私が助けるからね…? 私がずっと、傍にいるから……ッ! 大丈夫……誰にも、私達の邪魔はさせないから……私達の邪魔をする奴等は皆、殺すから……ッ! 例え……」
「例え……クラスメイトであっても?」

 背後から聴こえた声に、友子はハッとした表情で顔を上げた。
 気付けば無意識に顔を覆っていた両手を離し、彼女はすぐさま後ろに振り向く。
 そこには、背後にある扉を後ろ手に閉め、こちらを真っ直ぐ見つめながら立っている柚子の姿があった。

「だから……寺島さんを殺したの?」

 柚子は真っ直ぐ友子を見つめながら、静かな声でそう言った。
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