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第4章:土の心臓編
099 私の望んだもの
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イブルー港近くにある宿屋で一泊し、翌日もスタルト車で移動した私達は、無事ギリスール王国へと辿り着くことが出来た。
ギリスール王国の城に着く頃にはすっかり日が暮れており、空は夕焼けによって茜色に染まっていた。
城には山吹さん達のグループを含めた二つのグループの内のもう一方が残っており、戻ってきた私達を出迎えてくれた。
一緒に帰って来た私を見て、最初は誰なのか分からないような反応をしていたが、山吹さんの説明で私の正体を知るとかなり驚いていた。
まぁ、そうだよね。死んだことになっていたのだから。
すぐさま質問攻めに遭いそうになったが、山吹さんが他のクラスメイト達を宥めることで、その場は何とか落ち着いた。
そんなことをしている間に西日も落ち、城にいた頃に使っていた部屋に向かうと、窓の外はすっかり夜闇に包まれていた。
「うっわ……暗いな……」
久しぶりに城で使っていた部屋に入った私は、そんな風に呟いた。
私の使っていた部屋は電気も点いておらず、窓から差し込む月光の淡い光に包まれていた。
これ、ひとまず電気とか点けた方が良いんじゃないか……?
そう思って部屋の電気を点けようとしたが、点かなかった。
「あれ……?」
「あぁ、この部屋は寺島さんが死んでから使う人がいなかったから、確か電気を点ける為の魔力が供給されてないんだよ」
不思議に思う私に、部屋の中まで付いて来ていた友子ちゃんがそう説明してくれる。
それに、私は「そうなんだ」と驚いた。
「じゃあ、お城の人に頼みに行かないと、か……クラインさんで良いのかな」
「こころちゃんは何もしなくても良いよ。私が代わりに言っておくから」
「えぇ……?」
やけに食い気味に言う友子ちゃんに、私はつい困惑した。
いや、でもなぁ……私の部屋のことだから、私がちゃんとしないとダメじゃないか……?
そんな風に考えていると、友子ちゃんは私の手を引き、ベッドに座らせた。
「こころちゃんはずっと魔女と一緒に行動してて疲れただろうし、今日はゆっくり休んだ方が良いよ」
「いや、私は大丈夫だから……」
「あっ、クラインさんに頼みに行くついでにお茶淹れてこようか? ご飯もいっそこの部屋で……」
「本当に大丈夫だって!」
まるで病人のように丁重に扱ってくる友子ちゃんに、私は堪らずにそう声を上げた。
すると、友子ちゃんはビクリと肩を震わせ、「そっか……」と呟いた。
「ご、ごめんね……こころちゃんがいることが嬉しくて、なんか、舞い上がっちゃって……」
「あはは……でも、気持ちは嬉しいよ。ありがとう」
そうお礼を言ってやると、友子ちゃんは僅かに目を丸くして、すぐに前髪を弄りながら目を逸らして「そっか」と呟いた。
私はそれに小さく笑いつつ、部屋の中を見渡した。
「それにしても、元々は四人部屋だから、なんか無駄にだだっ広いな……」
「そうだね……」
私の言葉に、友子ちゃんもそう言いながら部屋を見渡した。
元々この部屋を利用していた時は、私だけでなく東雲達もいたから、ぶっちゃけ私の肩身はかなり狭かった。
主に東雲の機嫌を損ねたら潰されると思っていたから、彼女等を極力刺激しないように生活していた結果、この部屋の中で私が自由に使える領域は割り当てられたベッド一つとその周囲の僅かな範囲だけだった。
それが急にこの部屋の全部を自由に使って良いとなると、多すぎて逆に不自由に感じてしまう。
せめて、もう一人くらい誰かが泊まれば……。
「……友子ちゃんもこの部屋に泊まる?」
「……ふぇ?」
私の言葉に、友子ちゃんは気の抜けたような素っ頓狂な声で聞き返してきた。
あれ、また何か変なこと言っちゃったかな……?
そんなことを考えつつ、私は続けた。
「ホラ、この部屋無駄に広いし……誰かもう一人くらいいたら、あまり気にならないかと思って」
「えっ、でも……」
「私、友達は友子ちゃんくらいしかいないからさ。もし良かったら、一緒にこの部屋使わない?」
私の言葉に、友子ちゃんはしばらくキョトンとした表情を浮かべていた。
少しして私の言葉を理解できたのか、彼女は目を大きく見開いた。
それに、私は「もしかして嫌だった?」と聞き返す。
すると、彼女はブンブンと首を横に大きく振った。
「嫌じゃない! 全然! 嫌じゃないよ!」
「本当?」
「うん! むしろ、その……凄く嬉しい……」
友子ちゃんはそう言いながら前髪を弄り、ふにゃっと柔らかく笑った。
私はそれに、「良かった」と言いつつホッと安堵の息をついた。
その時、廊下の方が何やら騒がしくなりだしたのが聴こえてきた。
「……? 何か外、うるさくない?」
「……本当だ」
私の言葉に、友子ちゃんもそう言いながら扉の方に視線を向けた。
「私、ちょっと様子見てくるよ。……あっ、こころちゃんは危ないから、この部屋で待っていてね」
「えっ、いや、私も行くよ」
「大丈夫! 私が、こころちゃんを守るから……!」
「でも……!」
「私がこころちゃんを守りたいの!」
強い口調で言う友子ちゃんに、私はビクッと肩を震わせ、反射的に怯んでしまった。
すると、彼女は「あっ……」と小さく声を漏らしながら、静かに目を逸らした。
「ご、ごめん……ちょっと様子見たら、すぐに戻ってくるから……! だから、この部屋……出ないでね……?」
尻すぼみな言い方でそう言うと、友子ちゃんは私に背を向け、部屋を出て行ってしまった。
扉が閉まると、すぐにカチャリと乾いた音が……って、はッ!?
「え、ちょッ……!?」
驚きに声を上げながら、私は部屋の扉のノブに手を掛け、捻ろうとする。
しかし、どれだけ捻ってもガチャガチャと金属音を立てるのみで、それ以上回ることは無かった。
ダメ元で押したり引いたりしてみても、扉はガタガタと鈍い音を立てながら軋むのみで開く気配は無い。
それに、私は「嘘でしょ……?」と小さく声を漏らした。
この世界の鍵の仕組みは、日本と違い、扉の裏表の両方が鍵穴になっている。
つまり、どちらからでも鍵が無いと開かない仕組みになっているのだ。
友子ちゃんが外から鍵を閉めたということは、今、この部屋の鍵は彼女が持っているということだ。
「……ここまでする……?」
小さく呟きながら、私は扉に額を当てた。
私のことを心配してくれるのは嬉しいけど、些か過保護すぎやしないだろうか。
イチかバチか、私は力づくで扉をぶち破ろうとした。
しかし、この城の扉はかなり頑丈に出来ているようで、私の高ステータスを以ってしても傷一つ付かなかった。
どうしたものかと思いつつ、私は固く閉じた扉をジッと見つめた。
廊下からは相変わらず騒がしい声が聴こえ、何やら緊急事態が起こっていることが察知出来た。
部屋を出られない私には、その事態を把握することなど出来ない。
「……はぁ……」
小さく溜息をつきながら、私は扉に背中を預け、その場に座り込んだ。
窓の外に見える満月が、やけに眩しく感じた。
それだけで何だか虚しくなって、私は目を逸らすように俯いた。
……もしも、この世界が誰かの作る物語の世界だとしたら……きっと、私は主人公では無いのだろう。
普通に考えれば、名前の無いモブ。……よくて、主人公を引き立てるサブキャラ。
昔から分かりきっていたことだが、今この瞬間、改めてそれが強く感じさせられた。
もしかしたら、この扉を隔てた向こう側の世界では、今頃物語の展開を大きく揺るがすような大事件が起こっているのかもしれない。
私が主人公だと言うのなら、今頃この部屋を飛び出して、その事件の解決に当たっているはずだ。
こうして、安全な場所で、何も知らないまま守られているはずが無いのだ。
主人公のいない所で大きく動く物語など、存在しないのだから。
……私が望んだのは……こんなこと、なのか……?
ふと、そんな疑問が沸き上がる。
唯一無二の大切な友達に守られることが、私の望んだ結末なのか?
その友達が危険な目に遭っているかもしれない状況で、ただ膝を抱えて蹲っていることしか出来ない現状が、私の望んだことだったのか?
一度生まれた疑惑が、ジワジワと私の心を蝕んでいくのを感じる。
私は自分の胸に手を当て、服を強く握り締めた。
必要とされたかった。
私を必要としてくれる人の傍にいたかった。
その願いは間違っていない。
でも……何かが違う。
私の望んだものは……こんなことでは……。
──妾にとって、お主は必要な存在じゃ。
すると、どこからか聴こえたその声が、鼓膜を震わせた。
それに、私はバッと顔を上げた。
直後、パァンッ! と乾いた破裂音と共に……部屋の窓が、粉砕した。
「なッ……」
咄嗟に、私は立ち上がる。
粉々になった窓ガラスは床に飛び散り、ほぼ枠組みのみになった窓から差し込む月光を反射して、まるで星屑のようにキラキラと輝いていた。
そこからゆっくりと顔を上げると、そこには、窓枠の上でしゃがみ込む体勢でこちらを見つめる一つの影があった。
「ッ……」
その姿を見て、私は静かに息を呑む。
月の光が逆光になっており、その表情を窺うことは出来ない。
ただ、彼女の顔を隠す影の中で、藍色の双眼が真っ直ぐこちらを見つめていることに気付いた。
「迎えに来たぞ。イノセ」
リートはそう言うと、相変わらずの不敵な笑みを浮かべた。
スポットライトのように月光を浴びながら言う彼女の姿は、まるで、ヒロインを迎えに来た主人公のようだと思った。
ギリスール王国の城に着く頃にはすっかり日が暮れており、空は夕焼けによって茜色に染まっていた。
城には山吹さん達のグループを含めた二つのグループの内のもう一方が残っており、戻ってきた私達を出迎えてくれた。
一緒に帰って来た私を見て、最初は誰なのか分からないような反応をしていたが、山吹さんの説明で私の正体を知るとかなり驚いていた。
まぁ、そうだよね。死んだことになっていたのだから。
すぐさま質問攻めに遭いそうになったが、山吹さんが他のクラスメイト達を宥めることで、その場は何とか落ち着いた。
そんなことをしている間に西日も落ち、城にいた頃に使っていた部屋に向かうと、窓の外はすっかり夜闇に包まれていた。
「うっわ……暗いな……」
久しぶりに城で使っていた部屋に入った私は、そんな風に呟いた。
私の使っていた部屋は電気も点いておらず、窓から差し込む月光の淡い光に包まれていた。
これ、ひとまず電気とか点けた方が良いんじゃないか……?
そう思って部屋の電気を点けようとしたが、点かなかった。
「あれ……?」
「あぁ、この部屋は寺島さんが死んでから使う人がいなかったから、確か電気を点ける為の魔力が供給されてないんだよ」
不思議に思う私に、部屋の中まで付いて来ていた友子ちゃんがそう説明してくれる。
それに、私は「そうなんだ」と驚いた。
「じゃあ、お城の人に頼みに行かないと、か……クラインさんで良いのかな」
「こころちゃんは何もしなくても良いよ。私が代わりに言っておくから」
「えぇ……?」
やけに食い気味に言う友子ちゃんに、私はつい困惑した。
いや、でもなぁ……私の部屋のことだから、私がちゃんとしないとダメじゃないか……?
そんな風に考えていると、友子ちゃんは私の手を引き、ベッドに座らせた。
「こころちゃんはずっと魔女と一緒に行動してて疲れただろうし、今日はゆっくり休んだ方が良いよ」
「いや、私は大丈夫だから……」
「あっ、クラインさんに頼みに行くついでにお茶淹れてこようか? ご飯もいっそこの部屋で……」
「本当に大丈夫だって!」
まるで病人のように丁重に扱ってくる友子ちゃんに、私は堪らずにそう声を上げた。
すると、友子ちゃんはビクリと肩を震わせ、「そっか……」と呟いた。
「ご、ごめんね……こころちゃんがいることが嬉しくて、なんか、舞い上がっちゃって……」
「あはは……でも、気持ちは嬉しいよ。ありがとう」
そうお礼を言ってやると、友子ちゃんは僅かに目を丸くして、すぐに前髪を弄りながら目を逸らして「そっか」と呟いた。
私はそれに小さく笑いつつ、部屋の中を見渡した。
「それにしても、元々は四人部屋だから、なんか無駄にだだっ広いな……」
「そうだね……」
私の言葉に、友子ちゃんもそう言いながら部屋を見渡した。
元々この部屋を利用していた時は、私だけでなく東雲達もいたから、ぶっちゃけ私の肩身はかなり狭かった。
主に東雲の機嫌を損ねたら潰されると思っていたから、彼女等を極力刺激しないように生活していた結果、この部屋の中で私が自由に使える領域は割り当てられたベッド一つとその周囲の僅かな範囲だけだった。
それが急にこの部屋の全部を自由に使って良いとなると、多すぎて逆に不自由に感じてしまう。
せめて、もう一人くらい誰かが泊まれば……。
「……友子ちゃんもこの部屋に泊まる?」
「……ふぇ?」
私の言葉に、友子ちゃんは気の抜けたような素っ頓狂な声で聞き返してきた。
あれ、また何か変なこと言っちゃったかな……?
そんなことを考えつつ、私は続けた。
「ホラ、この部屋無駄に広いし……誰かもう一人くらいいたら、あまり気にならないかと思って」
「えっ、でも……」
「私、友達は友子ちゃんくらいしかいないからさ。もし良かったら、一緒にこの部屋使わない?」
私の言葉に、友子ちゃんはしばらくキョトンとした表情を浮かべていた。
少しして私の言葉を理解できたのか、彼女は目を大きく見開いた。
それに、私は「もしかして嫌だった?」と聞き返す。
すると、彼女はブンブンと首を横に大きく振った。
「嫌じゃない! 全然! 嫌じゃないよ!」
「本当?」
「うん! むしろ、その……凄く嬉しい……」
友子ちゃんはそう言いながら前髪を弄り、ふにゃっと柔らかく笑った。
私はそれに、「良かった」と言いつつホッと安堵の息をついた。
その時、廊下の方が何やら騒がしくなりだしたのが聴こえてきた。
「……? 何か外、うるさくない?」
「……本当だ」
私の言葉に、友子ちゃんもそう言いながら扉の方に視線を向けた。
「私、ちょっと様子見てくるよ。……あっ、こころちゃんは危ないから、この部屋で待っていてね」
「えっ、いや、私も行くよ」
「大丈夫! 私が、こころちゃんを守るから……!」
「でも……!」
「私がこころちゃんを守りたいの!」
強い口調で言う友子ちゃんに、私はビクッと肩を震わせ、反射的に怯んでしまった。
すると、彼女は「あっ……」と小さく声を漏らしながら、静かに目を逸らした。
「ご、ごめん……ちょっと様子見たら、すぐに戻ってくるから……! だから、この部屋……出ないでね……?」
尻すぼみな言い方でそう言うと、友子ちゃんは私に背を向け、部屋を出て行ってしまった。
扉が閉まると、すぐにカチャリと乾いた音が……って、はッ!?
「え、ちょッ……!?」
驚きに声を上げながら、私は部屋の扉のノブに手を掛け、捻ろうとする。
しかし、どれだけ捻ってもガチャガチャと金属音を立てるのみで、それ以上回ることは無かった。
ダメ元で押したり引いたりしてみても、扉はガタガタと鈍い音を立てながら軋むのみで開く気配は無い。
それに、私は「嘘でしょ……?」と小さく声を漏らした。
この世界の鍵の仕組みは、日本と違い、扉の裏表の両方が鍵穴になっている。
つまり、どちらからでも鍵が無いと開かない仕組みになっているのだ。
友子ちゃんが外から鍵を閉めたということは、今、この部屋の鍵は彼女が持っているということだ。
「……ここまでする……?」
小さく呟きながら、私は扉に額を当てた。
私のことを心配してくれるのは嬉しいけど、些か過保護すぎやしないだろうか。
イチかバチか、私は力づくで扉をぶち破ろうとした。
しかし、この城の扉はかなり頑丈に出来ているようで、私の高ステータスを以ってしても傷一つ付かなかった。
どうしたものかと思いつつ、私は固く閉じた扉をジッと見つめた。
廊下からは相変わらず騒がしい声が聴こえ、何やら緊急事態が起こっていることが察知出来た。
部屋を出られない私には、その事態を把握することなど出来ない。
「……はぁ……」
小さく溜息をつきながら、私は扉に背中を預け、その場に座り込んだ。
窓の外に見える満月が、やけに眩しく感じた。
それだけで何だか虚しくなって、私は目を逸らすように俯いた。
……もしも、この世界が誰かの作る物語の世界だとしたら……きっと、私は主人公では無いのだろう。
普通に考えれば、名前の無いモブ。……よくて、主人公を引き立てるサブキャラ。
昔から分かりきっていたことだが、今この瞬間、改めてそれが強く感じさせられた。
もしかしたら、この扉を隔てた向こう側の世界では、今頃物語の展開を大きく揺るがすような大事件が起こっているのかもしれない。
私が主人公だと言うのなら、今頃この部屋を飛び出して、その事件の解決に当たっているはずだ。
こうして、安全な場所で、何も知らないまま守られているはずが無いのだ。
主人公のいない所で大きく動く物語など、存在しないのだから。
……私が望んだのは……こんなこと、なのか……?
ふと、そんな疑問が沸き上がる。
唯一無二の大切な友達に守られることが、私の望んだ結末なのか?
その友達が危険な目に遭っているかもしれない状況で、ただ膝を抱えて蹲っていることしか出来ない現状が、私の望んだことだったのか?
一度生まれた疑惑が、ジワジワと私の心を蝕んでいくのを感じる。
私は自分の胸に手を当て、服を強く握り締めた。
必要とされたかった。
私を必要としてくれる人の傍にいたかった。
その願いは間違っていない。
でも……何かが違う。
私の望んだものは……こんなことでは……。
──妾にとって、お主は必要な存在じゃ。
すると、どこからか聴こえたその声が、鼓膜を震わせた。
それに、私はバッと顔を上げた。
直後、パァンッ! と乾いた破裂音と共に……部屋の窓が、粉砕した。
「なッ……」
咄嗟に、私は立ち上がる。
粉々になった窓ガラスは床に飛び散り、ほぼ枠組みのみになった窓から差し込む月光を反射して、まるで星屑のようにキラキラと輝いていた。
そこからゆっくりと顔を上げると、そこには、窓枠の上でしゃがみ込む体勢でこちらを見つめる一つの影があった。
「ッ……」
その姿を見て、私は静かに息を呑む。
月の光が逆光になっており、その表情を窺うことは出来ない。
ただ、彼女の顔を隠す影の中で、藍色の双眼が真っ直ぐこちらを見つめていることに気付いた。
「迎えに来たぞ。イノセ」
リートはそう言うと、相変わらずの不敵な笑みを浮かべた。
スポットライトのように月光を浴びながら言う彼女の姿は、まるで、ヒロインを迎えに来た主人公のようだと思った。
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