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第4章:土の心臓編
092 アラン⑤
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「そぉ~れ!」
大槌を振りかぶったアランは、暢気な口調で言いながら、リートに向かって大槌を振り下ろした。
私は咄嗟に二人の間に入り、剣を構えた。
「ソードシールドッ!」
叫び、防御力を上げた剣で大槌を受け止めた。
するとガギィッ! と鈍い音を立てて、大槌が止まる。
「おりょ?」
それを見て、アランは気の抜けた声を上げた。
私は何とか剣を動かして大槌をいなし、リートへの攻撃を受け流す。
すぐさま彼女の華奢な体を蹴り飛ばし、距離を取らせようとした。
しかし、彼女の持っている大槌の重みもあり、上手い具合に飛んでいかなかった。
「クソッ……」
「君凄いねぇ~!」
彼女は喜々とした様子ですぐさま体勢を立て直し、大槌を振りかぶってこちらに駆け寄ってきた。
それに身構えた時、フレアが間に入ってヌンチャクで攻撃した。
アランはそれを大槌で弾き、キラキラした目でフレアを見た。
「なになに~? 次は君~?」
「ぶっ潰してやんよォッ!」
フレアはそう叫びながら、アランに向かってヌンチャクを振るった。
しかし、彼女はそれを軽々と躱し、大槌でフレアに殴りかかる。
それをフレアはヌンチャクで弾く形で躱し、火の球を至近距離で放つ。
「おっと」
しかし、アランはそれを仰け反るような形で躱した。
躱された火の球は後ろにあった壁にぶつかり、ジュッと音を立てて消えた。
仰け反る形で火の球を躱したアランは、体勢を立て直すのに時間が掛かりそうだった。
その隙をフレアが見逃すはずも無く、すぐさまヌンチャクを振り下ろす。
「えいっ」
「ぐぁッ!?」
しかし、アランがフレアの顔に向かって泥のようなものを飛ばし、視界を奪う。
それによってフレアのヌンチャクは目標を見失い、アランの顔のすぐ横を通って地面を削った。
ヤバい、助けに行かないと……! と駆け出そうとした瞬間、アランが突然足を滑らせてその場に転ぶ。
よく見ると、彼女の足元が凍っているみたいだった。
「足元に注意、ってね」
リアスはそう言うと、薙刀を構えてアランの元に駆け寄った。
アランはそれを見て慌てて立ち上がろうとするが、足元の氷のせいで上手くいかないみたいだった。
「クッソ……! やりやがったなテメェッ!」
その間にフレアは顔についた泥を拭い、アランに向かって拳を振りかぶる。
凍った地面を踏み抜くが、彼女が踏んだ箇所は炎によって溶け、転ぶことにはならない。
挟み撃ちの形になったアランは、慌てた様子で頭を抱える……が、二人の攻撃がぶつかる寸前でニヤリと笑った。
「えいっ」
そんな声がした瞬間、リアスの動きがガクンッとその場で止まる。
直後、パァンッ! と乾いた音を立てて、フレアの体が大きく仰け反った。
フレアの顎を、岩の弾が撃ち抜いたのだ。
リアスの方をよく見てみると、足が地面に埋まっているみたいだった。
「な、何が……」
「……恐らく沼じゃな」
私の疑問に答えるように、リートが呟く。
それに振り向くと、彼女は氷の壁に凭れ掛かり、戦況を見つめていた。
……暢気ですね。
「沼……?」
「多分、奴はリアスの足元に沼を作って固めたのじゃ。動けぬようにな」
「へぇ……って、ダメじゃん!」
リートの言葉に、私はすぐにリアスの元に駆け出した。
見れば、アランは凍った地面の領域から何とか脱し、リアスに向かって大槌を振りかぶっていた。
「ぐッ……!?」
リアスは足を抜こうとしている傍らで、アランが向かってくる道筋の地面を凍らせる。
しかし、アランは何食わぬ顔で凍った地面の上を歩いていた。
何故なのかを不思議に思っていると、彼女が歩いた地面に丸くて小さい穴が空いていることに気付く。
もしかして、足の底にスパイクを付けたのか……!?
「もうその手には引っ掛からないもんね~! 喰らえ~!」
アランはそう言いながら、リアスに向かって大槌を振りかぶった。
ヤバい、間に合わないッ!
そう焦っていた時、ギチィッと鈍い音を立ててアランの動きが止まる。
「ほぇ?」
「俺のこと忘れてンじゃねぇぞ……」
フレアはアランの大槌の柄にヌンチャクの鎖を引っ掛け、そう言った。
それに、アランは何とか大槌を動かそうとするも、フレアのヌンチャクの鎖がギチギチと鈍い音を立てるだけだった。
「リアスッ!」
私はその間にリアスの元に駆け寄り、足元を見た。
見れば、彼女の足は思っていた以上にガッツリと地面の中に埋まっており、ちょっとやそっとじゃ抜けそうになかった。
「イノセ、取れそう?」
「無理だと思う。ガッツリはまっちゃってるよ、これ。下手に抜いたら足千切れるよ」
「ちょっと、怖いこと言わないでよ」
「うーん……」
「おるぁぁぁッ!」
二人で話し合っていた時、フレアの怒声が聴こえた。
驚いて見てみると、フレアがヌンチャクと大槌ごとアランの体を持ち上げ、背負い投げを喰らわせていた。
「がはぁッ……!」
背中を打ち付ける形になり、アランは目を見開いて声を漏らした。
フレアはそれにフンッと息をつくと、私達の元に駆け寄ってくる。
「お前等は何してんだ?」
「いや、リアスの足が埋まっちゃってて……」
「こんなもんぶっ壊せば良いだろ」
フレアはそう言うと、ヌンチャクを振りかぶる。
それに、私は怯み、咄嗟に数歩後ずさる形で距離を取った。
直後、バゴォッ! と爆音を立ててリアスの足元が爆散する。
「うっし! これで良いだろ」
「うっし、じゃないわよ」
満足そうに言うフレアの頭をベシッと軽く叩き、リアスは不満そうに言った。
それから大きく溜息をつき、体に付いた土埃を払う。
フレアはそれに、ガリガリと頭を掻きながら口を開く。
「何が不満なんだよ? 足が抜けたんだからそれで良いだろ?」
「やり方があるでしょ。本当に考え無しなんだから」
「あ゛ぁ゛ッ!? 文句があるんなら自分で脱出すれば良いじゃねぇか!」
「はぁ? 大体貴方が……」
「二人共喧嘩しない」
口論を始めようとする二人に、私はそう言いながら間に入った。
それから、倒れたまま動かないアランに視線を向けて続けた。
「ねぇ、あの子死んじゃったりしてないよね?」
「んぁ? いや、それは無いだろ」
「というか、あの子、って……私達は皆三百年くらい生きてるからイノセよりは年上よ?」
「……それは分かってるけど……」
揚げ足を取るようなリアスの言葉に、私はそう返した。
その時だった。
「あっはははははははははははははははははははッ!」
爆笑。
いや、狂笑とでも呼べば良いのだろうか。
甲高い笑い声が、突然辺りに響き渡った。
「なッ……何だぁ!?」
突然の笑い声に、フレアはギョッとした表情でヌンチャクを構えた。
その間も、笑い声は止まない。
見れば、倒れたままのアランが、ただ笑い声を上げているのだ。
今の内に、攻撃の一つでもすれば良い話なのだろう。
しかし、私達はその場からピクリとも動くことが出来ず、倒れたまま笑い声を上げるアランを見つめることしか出来なかった。
「あはははははははッ! はははッ、ははッ……」
どれくらい経った頃だろうか。
ようやく、アランの笑い声が止む。
かと思えば、突然ムクリと体を起こし、大槌を拾って立ち上がった。
「……ぁぁぁあああッ! 楽しいなぁもうッ!」
そう叫んだ直後、アランは大槌を地面に向かって振り下ろした。
すると、そこを起点として巨大な亀裂が幾つも走り、その内の一つがこちらに向かって一直線に向かってきた。
「イノセッ!」
すると、フレアがそう叫んで私の体を抱きかかえ、リアスの体を蹴り飛ばしてその衝撃を利用して亀裂を避ける。
フレアの手によってなんとか救われた私は、すぐに体を起こして何が起こったのかを目視した。
「……なッ……」
そこには、まるで世界を二分に切り裂くような深い亀裂が出来ていた。
幅は、大体二メートルくらいはあるように見える。
近付いてみて覗き込むと、亀裂の底は見えなかった。
こんなの、最早崖じゃないか……。
「あはははッ! やっぱりこの程度じゃ死なないかぁ。次は何しよっかなぁ」
アランはそう言いながら、爛々と光る目で私達を一人ずつ値踏みするように見つめてきた。
その言葉に、ゾクリと背筋に寒気が走るのを感じた。
まさか、ついさっきまでの戦いは、全力じゃなかったのか……?
私達との戦いも、所詮は遊びでしか無かった、と……。
……そういえば、リートは無事か?
「……リートッ!」
私はすぐに名前を呼び、リートがいる場所に振り向いた。
するとそこでは、地面にしゃがみ込んで巨大な亀裂の中を覗き込んでいるリートがいた。
彼女はパッと私の方に視線を向けると、「おー、イノセ」と暢気な口調で言った。
私は彼女が無事だったことに安堵しつつ、すぐに駆け寄った。
「ふはは、すごい攻撃じゃったなぁ。ビックリしたわ」
「そんな暢気なこと言ってる場合じゃないよ……とりあえず、怪我は無い?」
「怪我は無いぞ。さっきの攻撃は妾がいた場所を大きく外しておったからのう」
「……それなら良かった……」
いつも通りと言った口調で言うリートに、私は安堵する。
それから、後ろにいる友子ちゃん達の安否を確かめるべく、氷の壁がある方に視線を向けた。
リアスの作った氷の壁はかなり強固で、先程の亀裂でも傷一つ入っていなかった。
どうやら氷の壁は地面の下にもかなり入り込んでいるらしく、亀裂のほとんどは氷の壁に止められており、友子ちゃん達の元まで届いてはいなかった。
「まだまだいっくよ~!」
アランはそう言いながら大槌を振りかぶり、またもや地面に打ち付けた。
すると、今度は地面から鋭い岩のトゲが次々に生え、フレアやリアスに襲い掛かる。
離れた場所にいる私達の元までは来なさそうだったが、次にいつ先程のような大きな攻撃が来るか分かったものではない。
一体どうすれば……と、リートに視線を向けた私は、少しだけ驚いた。
なぜなら、彼女が不敵な笑みを浮かべながら、戦況を見ていたからだ。
「リート……?」
「安心せい、イノセ。……良い作戦を思いついたぞ」
リートはそう言うと、私を見て笑った。
それに、なぜかは分からないけど、何だか嫌な予感がした。
大槌を振りかぶったアランは、暢気な口調で言いながら、リートに向かって大槌を振り下ろした。
私は咄嗟に二人の間に入り、剣を構えた。
「ソードシールドッ!」
叫び、防御力を上げた剣で大槌を受け止めた。
するとガギィッ! と鈍い音を立てて、大槌が止まる。
「おりょ?」
それを見て、アランは気の抜けた声を上げた。
私は何とか剣を動かして大槌をいなし、リートへの攻撃を受け流す。
すぐさま彼女の華奢な体を蹴り飛ばし、距離を取らせようとした。
しかし、彼女の持っている大槌の重みもあり、上手い具合に飛んでいかなかった。
「クソッ……」
「君凄いねぇ~!」
彼女は喜々とした様子ですぐさま体勢を立て直し、大槌を振りかぶってこちらに駆け寄ってきた。
それに身構えた時、フレアが間に入ってヌンチャクで攻撃した。
アランはそれを大槌で弾き、キラキラした目でフレアを見た。
「なになに~? 次は君~?」
「ぶっ潰してやんよォッ!」
フレアはそう叫びながら、アランに向かってヌンチャクを振るった。
しかし、彼女はそれを軽々と躱し、大槌でフレアに殴りかかる。
それをフレアはヌンチャクで弾く形で躱し、火の球を至近距離で放つ。
「おっと」
しかし、アランはそれを仰け反るような形で躱した。
躱された火の球は後ろにあった壁にぶつかり、ジュッと音を立てて消えた。
仰け反る形で火の球を躱したアランは、体勢を立て直すのに時間が掛かりそうだった。
その隙をフレアが見逃すはずも無く、すぐさまヌンチャクを振り下ろす。
「えいっ」
「ぐぁッ!?」
しかし、アランがフレアの顔に向かって泥のようなものを飛ばし、視界を奪う。
それによってフレアのヌンチャクは目標を見失い、アランの顔のすぐ横を通って地面を削った。
ヤバい、助けに行かないと……! と駆け出そうとした瞬間、アランが突然足を滑らせてその場に転ぶ。
よく見ると、彼女の足元が凍っているみたいだった。
「足元に注意、ってね」
リアスはそう言うと、薙刀を構えてアランの元に駆け寄った。
アランはそれを見て慌てて立ち上がろうとするが、足元の氷のせいで上手くいかないみたいだった。
「クッソ……! やりやがったなテメェッ!」
その間にフレアは顔についた泥を拭い、アランに向かって拳を振りかぶる。
凍った地面を踏み抜くが、彼女が踏んだ箇所は炎によって溶け、転ぶことにはならない。
挟み撃ちの形になったアランは、慌てた様子で頭を抱える……が、二人の攻撃がぶつかる寸前でニヤリと笑った。
「えいっ」
そんな声がした瞬間、リアスの動きがガクンッとその場で止まる。
直後、パァンッ! と乾いた音を立てて、フレアの体が大きく仰け反った。
フレアの顎を、岩の弾が撃ち抜いたのだ。
リアスの方をよく見てみると、足が地面に埋まっているみたいだった。
「な、何が……」
「……恐らく沼じゃな」
私の疑問に答えるように、リートが呟く。
それに振り向くと、彼女は氷の壁に凭れ掛かり、戦況を見つめていた。
……暢気ですね。
「沼……?」
「多分、奴はリアスの足元に沼を作って固めたのじゃ。動けぬようにな」
「へぇ……って、ダメじゃん!」
リートの言葉に、私はすぐにリアスの元に駆け出した。
見れば、アランは凍った地面の領域から何とか脱し、リアスに向かって大槌を振りかぶっていた。
「ぐッ……!?」
リアスは足を抜こうとしている傍らで、アランが向かってくる道筋の地面を凍らせる。
しかし、アランは何食わぬ顔で凍った地面の上を歩いていた。
何故なのかを不思議に思っていると、彼女が歩いた地面に丸くて小さい穴が空いていることに気付く。
もしかして、足の底にスパイクを付けたのか……!?
「もうその手には引っ掛からないもんね~! 喰らえ~!」
アランはそう言いながら、リアスに向かって大槌を振りかぶった。
ヤバい、間に合わないッ!
そう焦っていた時、ギチィッと鈍い音を立ててアランの動きが止まる。
「ほぇ?」
「俺のこと忘れてンじゃねぇぞ……」
フレアはアランの大槌の柄にヌンチャクの鎖を引っ掛け、そう言った。
それに、アランは何とか大槌を動かそうとするも、フレアのヌンチャクの鎖がギチギチと鈍い音を立てるだけだった。
「リアスッ!」
私はその間にリアスの元に駆け寄り、足元を見た。
見れば、彼女の足は思っていた以上にガッツリと地面の中に埋まっており、ちょっとやそっとじゃ抜けそうになかった。
「イノセ、取れそう?」
「無理だと思う。ガッツリはまっちゃってるよ、これ。下手に抜いたら足千切れるよ」
「ちょっと、怖いこと言わないでよ」
「うーん……」
「おるぁぁぁッ!」
二人で話し合っていた時、フレアの怒声が聴こえた。
驚いて見てみると、フレアがヌンチャクと大槌ごとアランの体を持ち上げ、背負い投げを喰らわせていた。
「がはぁッ……!」
背中を打ち付ける形になり、アランは目を見開いて声を漏らした。
フレアはそれにフンッと息をつくと、私達の元に駆け寄ってくる。
「お前等は何してんだ?」
「いや、リアスの足が埋まっちゃってて……」
「こんなもんぶっ壊せば良いだろ」
フレアはそう言うと、ヌンチャクを振りかぶる。
それに、私は怯み、咄嗟に数歩後ずさる形で距離を取った。
直後、バゴォッ! と爆音を立ててリアスの足元が爆散する。
「うっし! これで良いだろ」
「うっし、じゃないわよ」
満足そうに言うフレアの頭をベシッと軽く叩き、リアスは不満そうに言った。
それから大きく溜息をつき、体に付いた土埃を払う。
フレアはそれに、ガリガリと頭を掻きながら口を開く。
「何が不満なんだよ? 足が抜けたんだからそれで良いだろ?」
「やり方があるでしょ。本当に考え無しなんだから」
「あ゛ぁ゛ッ!? 文句があるんなら自分で脱出すれば良いじゃねぇか!」
「はぁ? 大体貴方が……」
「二人共喧嘩しない」
口論を始めようとする二人に、私はそう言いながら間に入った。
それから、倒れたまま動かないアランに視線を向けて続けた。
「ねぇ、あの子死んじゃったりしてないよね?」
「んぁ? いや、それは無いだろ」
「というか、あの子、って……私達は皆三百年くらい生きてるからイノセよりは年上よ?」
「……それは分かってるけど……」
揚げ足を取るようなリアスの言葉に、私はそう返した。
その時だった。
「あっはははははははははははははははははははッ!」
爆笑。
いや、狂笑とでも呼べば良いのだろうか。
甲高い笑い声が、突然辺りに響き渡った。
「なッ……何だぁ!?」
突然の笑い声に、フレアはギョッとした表情でヌンチャクを構えた。
その間も、笑い声は止まない。
見れば、倒れたままのアランが、ただ笑い声を上げているのだ。
今の内に、攻撃の一つでもすれば良い話なのだろう。
しかし、私達はその場からピクリとも動くことが出来ず、倒れたまま笑い声を上げるアランを見つめることしか出来なかった。
「あはははははははッ! はははッ、ははッ……」
どれくらい経った頃だろうか。
ようやく、アランの笑い声が止む。
かと思えば、突然ムクリと体を起こし、大槌を拾って立ち上がった。
「……ぁぁぁあああッ! 楽しいなぁもうッ!」
そう叫んだ直後、アランは大槌を地面に向かって振り下ろした。
すると、そこを起点として巨大な亀裂が幾つも走り、その内の一つがこちらに向かって一直線に向かってきた。
「イノセッ!」
すると、フレアがそう叫んで私の体を抱きかかえ、リアスの体を蹴り飛ばしてその衝撃を利用して亀裂を避ける。
フレアの手によってなんとか救われた私は、すぐに体を起こして何が起こったのかを目視した。
「……なッ……」
そこには、まるで世界を二分に切り裂くような深い亀裂が出来ていた。
幅は、大体二メートルくらいはあるように見える。
近付いてみて覗き込むと、亀裂の底は見えなかった。
こんなの、最早崖じゃないか……。
「あはははッ! やっぱりこの程度じゃ死なないかぁ。次は何しよっかなぁ」
アランはそう言いながら、爛々と光る目で私達を一人ずつ値踏みするように見つめてきた。
その言葉に、ゾクリと背筋に寒気が走るのを感じた。
まさか、ついさっきまでの戦いは、全力じゃなかったのか……?
私達との戦いも、所詮は遊びでしか無かった、と……。
……そういえば、リートは無事か?
「……リートッ!」
私はすぐに名前を呼び、リートがいる場所に振り向いた。
するとそこでは、地面にしゃがみ込んで巨大な亀裂の中を覗き込んでいるリートがいた。
彼女はパッと私の方に視線を向けると、「おー、イノセ」と暢気な口調で言った。
私は彼女が無事だったことに安堵しつつ、すぐに駆け寄った。
「ふはは、すごい攻撃じゃったなぁ。ビックリしたわ」
「そんな暢気なこと言ってる場合じゃないよ……とりあえず、怪我は無い?」
「怪我は無いぞ。さっきの攻撃は妾がいた場所を大きく外しておったからのう」
「……それなら良かった……」
いつも通りと言った口調で言うリートに、私は安堵する。
それから、後ろにいる友子ちゃん達の安否を確かめるべく、氷の壁がある方に視線を向けた。
リアスの作った氷の壁はかなり強固で、先程の亀裂でも傷一つ入っていなかった。
どうやら氷の壁は地面の下にもかなり入り込んでいるらしく、亀裂のほとんどは氷の壁に止められており、友子ちゃん達の元まで届いてはいなかった。
「まだまだいっくよ~!」
アランはそう言いながら大槌を振りかぶり、またもや地面に打ち付けた。
すると、今度は地面から鋭い岩のトゲが次々に生え、フレアやリアスに襲い掛かる。
離れた場所にいる私達の元までは来なさそうだったが、次にいつ先程のような大きな攻撃が来るか分かったものではない。
一体どうすれば……と、リートに視線を向けた私は、少しだけ驚いた。
なぜなら、彼女が不敵な笑みを浮かべながら、戦況を見ていたからだ。
「リート……?」
「安心せい、イノセ。……良い作戦を思いついたぞ」
リートはそう言うと、私を見て笑った。
それに、なぜかは分からないけど、何だか嫌な予感がした。
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