命を助けてもらう代わりにダンジョンのラスボスの奴隷になりました

あいまり

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第4章:土の心臓編

084 上層にて-クラスメイトside

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「かッたぁい!」

 愚痴を零しながら、花鈴は二本の短刀で岩の装甲を纏ったゴーレムのような魔物を殴り切る。
 しかし、魔物はその攻撃に傷一つ付かず、すぐに花鈴に反撃をしようとした……が、直撃する寸前で柚子が魔物と花鈴の間に入り、盾で攻撃を受け止めた。

「ガ……!?」
「ぐッ……真凛ッ!」
「任せてッ!」

 柚子の言葉に応じた真凛が弓矢を構え、標準を魔物に合わせる。
 それから「トルネードアローッ!」と叫び矢を放つと、竜巻を纏った矢が真っ直ぐ飛んで魔物の装甲の隙間に入り込んだ。
 すると、風圧によって装甲が崩れ、そのまま魔物の体は崩れ落ちる。
 それを見た真凛は息をつき、すぐに二人の元に駆け寄った。

「柚子、大丈夫!? 怪我とか無い!?」
「わ、私は大丈夫だよ」

 心配する真凛に、柚子は両手をヒラヒラと振りながら笑って答える。
 それに真凛は安堵の表情を浮かべ、花鈴に視線を向けた。

「真凛~、私は心配してくれないの~?」
「ばかりん」

 ヘラヘラと笑いながら聞く花鈴に、真凛はそう言いながらデコピンを放った。
 ベチッと良い音を立てる自身の額に、花鈴は「うえッ」と声を上げながら僅かに仰け反る。
 しかし、すぐに額を押さえて「何すんのさ~」と文句を言った。
 それに、真凛は花鈴の腕を掴んで引き寄せた。

「ここのモンスターは固くて防御力が高いんだから、アンタの武器じゃ分が悪いって何回も言ってんでしょ!? それなのに馬鹿みたいに正面突破して……せめて頭使って戦いなさいよ」
「だって~、なんか行ける気がしたんだもん」
「アンタそれで行けた試しが無いでしょうが」
「そんなことないよ~」
「……」

 ニコニコと笑いながら言う花鈴に、真凛はジトッと呆れた様子で視線を向けた。
 軽口を叩き合う二人を横目に見つつ、柚子はキョロキョロと辺りを見渡した。
 すると、自分達から離れた所で立ち尽くす友子の姿があった。
 花鈴と真凛のじゃれ合いはいつものことなので、柚子はすぐに駆け出し、友子の元に至った。

「最上さん! 何か見つけ……たの……?」

 声を掛けようとした柚子は、友子の足元に転がる多数の魔物の死体を見て立ち止まる。
 すると、友子は声のした柚子の方に静かに視線を向けて、小さく笑みを浮かべた。

「あぁ、山吹さん。そっちは片付いた?」
「えっと、うん、一応。……あの、これは……」
「……こんな所で立ち止まっているわけにはいかないでしょ? まだ上層だよ?」

 友子の言葉に、柚子はピクッと肩を震わせて硬直した。
 まだここの魔物の防御力に慣れず、苦戦気味ではあるが……まだ上層なのだ。
 ギリスール王国の近くにあったダンジョンを考慮すると、上層、中層、下層と続くはず。
 下に行くにつれて難易度が上がっていくことを考えると、ここで苦戦しているようでは先に進めない。

 ──でも、苦戦しないようにと思って出来るものでも無いよね……?
 柚子は、心の中でそう呟く。
 実は友子のレベルは自分達と比べ物にならない程に高いのではないか、なんて考えて、すぐに振り払う。
 それはありえない。友子と柚子は今までずっと一緒に戦ってきており、寝食を共にしてきた。
 抜け駆けできる程のチャンスは無かった。

 ──考えられるとしたら……精神的な要因、か……。
 内心でそう呟いた柚子は、少し考えて、僅かに苦い顔をした。
 ──仮にそうだとして……上層から吹っ切れすぎでしょ。

「うわ! 友子ちゃんいつの間にこんな倒したの~!?」

 背後から聴こえた花鈴の声に、柚子はすぐに振り返る。
 どうやら真凛との口論は終わった様子で、小走りでこちらに追いついて来る花鈴の姿があった。
 それに、友子は僅かにではあるが、ギョッとしたような表情を浮かべた。
 何も答えない友子に対し、花鈴は少し間を置いてから「あぁ!」と声を上げた。

「なんとなく名前で呼んでみたんだけど、もしかして嫌だった?」

 恐る恐るといった様子で不安そうに言う花鈴に、友子は僅かに目を丸くしたが、すぐに首を横に振って「そんなことないよ」と答えた。

「名前で呼ばれたことがあまり無いから、ビックリしただけ」
「あっ、そっか」
「それより、そろそろ先に進んだ方が良いよね。……ごめんね、花鈴を説教するのに時間掛かって」

 真凛はそう謝りながら、花鈴の後頭部を鷲掴みにした。
 それに、花鈴は「えぇっ!? 私のせい!?」と文句を言う。
 柚子はそれに笑いつつも、すぐに「そうだね」と賛同した。

「ちょっとのんびりし過ぎたかも。……先急ごっか」
「ん……はぁい」

 花鈴は柚子の言葉に頷くと、真凛と共に歩き出す。
 柚子は二人を先行するように前を歩き、皆より前の方にいた友子も必然的に柚子の隣を歩くことになる。
 友子がある程度魔物を倒していたおかげで辺りに魔物はおらず、しばらくは何事も無く歩けそうだった。
 とはいえ、油断大敵とも言うし何が起こるか分からなかったので、辺りを警戒しながら先を急ぐ。

「……ところで、友子ちゃん」
「その呼び方やめて」
「……」

 小さな声で言う友子に、柚子は僅かに目を丸くした。
 しかし、すぐにスッと目を伏せ、「……最上さんは」と続けた。

「あんなにさっさと魔物を倒して……私が知らない内に大量にレベル上げた? 実はもうレベル50越えてる?」
「そんなわけないでしょ。そんなの、一番分かってるくせに」
「やっぱりか……じゃあ、どうやって……」
「こんな上の層の魔物相手に苦戦してる場合じゃない。早く心臓を全部破壊して、こころちゃんを救い出さないといけない。だから……急がないと……」

 前方を見つめたまま言う友子に、柚子は何とも言えないような表情を浮かべた。
 今の彼女には、何か、軌道を修正をするような言葉を投げ掛けてやるべきだ。
 頭ではそう分かっていても、そんな気の利いた上手い言葉が思いつくものではない。
 それに柚子は歯痒い気持ちを抱きつつも、静かに目を逸らした。
 周りを見渡しつつ思考を巡らせていた時、足元からガコンッと鈍い音がしたのと同時に、地面が凹むような感覚があった。
 突然のことに驚いていた時、ドスンッ……とどこからか鈍い落下音がして、次いでゴロゴロと何かが転がってくる音がした。
 その音が徐々に大きくなってくると、背後から聴こえてくることに気付き、柚子はすぐさま盾を構えて音がする方に駆けた。

「柚子!?」
「私より前に出ないでッ!」

 花鈴と真凛よりも前に飛び出した柚子は、そう叫びながら両足を踏ん張って盾を構えた。
 直後、巨大な岩の玉がゴロゴロとこちらに転がってくるのが見えた。
 それを視界に収めた次の瞬間には、柚子の盾に岩の玉がぶつかる。

「ぐッ……!?」
「柚子!? 何を……!」
「早く……! 避けて……!」

 柚子の言葉に、花鈴と真凛は驚いた様子で硬直した。
 しかし、先に真凛が動き出し、すぐに近くにあった横道に向かって花鈴の手を引いて飛び込んだ。

「最上さん! 早く!」
「ッ……!」

 真凛の言葉に、友子はバッと横道の方に視線を向けた。
 彼女は一度柚子に視線を向けたが、すぐに地面を蹴り、横道の中に飛び込んだ。
 それを真凛は受け止めると、柚子に向かって声を上げた。

「柚子! こっち!」
「……っ! うん!」

 友子の言葉に、柚子は頷き、すぐさま盾を構え直した。

「ロックシールドッ!」

 柚子が叫んだ瞬間、地面から岩の壁が生えるように飛び出して岩の動きを一時的に止める。
 ビキビキとひび割れ今すぐにでも崩れそうな壁に、柚子は逃げるように横道に向かって地面を蹴った。
 飛び込んで来た柚子を、近くにいた友子が咄嗟に抱き止める。
 直後、岩の壁が崩れ落ち、巨大な岩がゴロゴロと重々しい音を立てながら道を転がっていった。

「全く……柚子、無茶なことして……!」

 岩が転がっていくのを横目に、真凛は友子の腕の中にいる柚子を叱った。
 それに、柚子は申し訳なさそうに笑いながら「ごめん」と謝った。
 あまり悪びれる様子が無いのでさらに何か言おうとしたが、ここでこれ以上このやり取りを長引かせる必要も無いと判断し、少し溜息をついてから「次からは気を付けてよね」と言った。
 それに、ずっとそのやり取りを無言で見つめていた花鈴はパンッと手を打ち、口を開いた。

「ホラ! こんなところでグズグズしてる場合じゃないよ! 先急ご!」
「……そうだね」

 花鈴の言葉に、一番に同調したのは友子だった。
 それに、花鈴は少し驚いた様子で目を丸くしていたが、すぐに笑顔を浮かべて頷いた。

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