命を助けてもらう代わりにダンジョンのラスボスの奴隷になりました

あいまり

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第4章:土の心臓編

079 変な感じ

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<猪瀬こころ視点>

「まさか、心臓がカジノの下にあるなんてな~」

 ラシルスの中にあるとある喫茶店の一角にて、フレアはそう言いながら頭の後ろで手を組んで椅子の背凭れに凭れ掛かる。
 それに、リアスが「声が大きいわよ」と静かな声で窘めた。
 あの後、私達はすぐに心臓があるという場所を視察しに行ったところ、そこには巨大な建物が一つ聳え立っていた。
 キッチリしたドレスやタキシードを着こなした多くの人達が激しく出入りしており、心臓を管理する為の施設というわけでは無さそうだったことから情報を集めたところ、あの建物がカジノであることを知った。

「何も知らずに偶然あの場所にカジノが建てちまった……なんてことはねぇだろうなぁ。ダンジョンの入り口に気付かないなんて、ありえないだろ?」
「多分だけど、土の心臓から生まれる鉱物が狙いなんじゃないかしら。鉄なんかは武器の材料になるから売れば金になるし、この国なら岩も建築の材料になる。もし鉱物や宝石、魔石なんかもあれば、売れば大金になるわ。……というか、ダンジョンの壁の破片を売るだけで金になるしね」

 ガタガタと椅子を揺らしながら言うフレアの言葉に、リアスが頬杖をつきつつそう続けた。
 それに、黙って話を聞いていたリートはジュースのような飲み物をストローでズズズッと啜ると、小さく溜息をついた。

「つまり、あのカジノは妾の心臓を利用してぼろ儲けしてる、ということか……」
「カジノの営業には大金が必要になるでしょうし、資金源にしているんでしょうね」
「問題は、どう心臓がある場所に行くか、か……」

 私はそう言いつつ、リートに視線を向けた。
 彼女は自分の心臓が金儲けの道具になっているのが気に食わないのか、イライラした様子でストローを噛んでいる。
 行儀が悪いと注意しようとした時、彼女はソッと口を離し、そのまま言葉を紡ぐ。

「単純に……普通の客として入るのは無理なのか?」
「……え?」

 リートの質問の意図が分からず、つい私は聞き返した。
 それに、彼女は続けた。

「心臓がカジノの中にあるのなら、普通にカジノに入ってしまえば良いではないか。金はあるし、ドレスのレンタルくらいは余裕で出来るはずじゃ。服装さえ気を遣えばあの場で目立つことも無いし、服など忍び込んだ後でいくらでも替えられるであろう?」
「確かに……見たところ、厳重に警備されているわけでも無さそうだったし……ダンジョンの入り口がどうなっているかは分からないけど、そもそもそれはカジノに入れなければ話にならないわね」

 珍しく、リートの提案にリアスが賛同する。
 二人の話を黙って聞いていたフレアは、ガリガリと頭を掻いていたが、やがてその手を止めて口を開いた。

「えっと、つまり……ちゃんとした格好でカジノに潜入するっつーことか?」
「……そういうことよ」

 フレアの問いに、リアスが僅かに苦笑のような笑みを浮かべながらそう答えた。
 それに、フレアは「んー」としばらく呻くような声を上げたが、やがてパンッと膝を叩いた。

「まー小難しいことはよく分かんねーから、お前等に任せるわ」
「……単細胞」
「あ゛ッ!?」

 ボソッと暴言を呟いたリアスに、フレアが声を荒げながらガタッと音を立てて立ち上がる。
 それに、私は「ステイッ! ステイッ!」と声を上げながら慌ててフレアの腕を掴んで座らせようとする。
 ただでさえ人に聞かせられないような作戦会議をしているのに、目立つような行動をするな!
 慌てて止めていると、リートがフイッと視線を私に向けて来た。

「イノセはどうじゃ? この作戦……反対か?」
「……?」

 思いがけないリートの言葉に、私は一瞬動きを止める。
 しかし、その間にフレアがリアスに殴りかかりそうだったので慌てて止めつつ、私はリートに顔を向けて口を開いた。

「どうせ断っても、奴隷に拒否権は無いとか言うくせに」
「……ふふ、ご明察じゃ」

 私の言葉に、リートはどこか悪戯っぽい感じの笑みを浮かべながらそう言った。
 こうして、三つ目の心臓を入手する為に、私達は動き出した。

~~~~~~

「……で、まさかタキシードを着ることになるとは……」
「本当に申し訳ございません!」

 袖を軽く直しながら呟く私に、店員のお姉さんがそう謝ってきた。
 それに、私は「大丈夫ですよ」と慌てて窘めた。
 元々私の身長は女子にしては高い方である上に、この町ではカジノに行く為にドレスをレンタルする客が多いらしく、私に合うサイズのドレスが無かったのだ。
 この世界のドレスコードは性別に関してルーズな部分があるようで、女がタキシードを着たり、男がドレスを着たりすることも割とあるらしい。
 そのこともあり、仕方が無いのでタキシードを着ることになったのだが……。

「……変な感じだなぁ」
「ほう? 似合っておるではないか」

 背後から聴こえた声に、私は慌てて振り向いた。
 するとそこには、黒いドレスを着たリートが立っていた。
 今まで見たこと無い彼女の姿に動揺し、そのまま言葉を詰まらせてしまう。
 そんな私の反応に気付いているのか否か、彼女は私の体を上から下に舐めるように見て、やがてクスッと小さく笑った。

「本当に似合っておるわ。……妾の召使のようじゃな」
「……あながち間違いではないよね」
「あら、二人共着替え終わったのね」

 リートと話していた時、そんな風に声を掛けられた。
 視線を向けるとそこでは、青いドレスを着たリアスが立っていた。
 彼女のドレスはロングドレスになっていて、ドレススカートが足首の少し上まである。
 しかし、そのスカートの横の辺りがパックリ切れており、綺麗な足が丸見えになっていた。
 肩もほぼ丸出し状態で、豊満な胸の谷間が見え隠れし、何と言うか目のやり場に困るものだった。

「そんなに見つめちゃって……私の姿に見惚れちゃった?」

 すると、突然リアスがそんな風に聞いてきた。
 それに、私は「うぇッ!?」と間抜けな声を上げてしまう。
 無意識の内にガン見してしまっていたようだ。

「いや、そんな、ジッと見るつもりは……ご、ごめ……」
「ふふ、良いのよ。……イノセなら、ね」

 リアスはそう言うと、ニコッと笑みを浮かべた。
 ……どういう意味だ?
 不思議に思っていた時、ずっとカーテンの閉まっていた試着室が開く。

「……クッソ、動きにくいなぁこれ」

 キッチリしまった首元の部分を指で軽く引っ張りながら、フレアは言う。
 ……そう。彼女も私のように、タキシードを着ることになったのだ。
 理由としては、ドレスが絶望的に似合わなかったことと、フレアがドレスよりはタキシードが良いと希望したからだ。
 まぁ、戦いが大好きな彼女にとって、戦闘に不向きなドレスはあまり着心地が良いものでは無いだろう。
 タキシードもキッチリして動きにくいと思うが、まぁドレスよりはマシという感じかな。
 フレアは私程ではないが背は高い方だし、髪が短くボーイッシュな方だから似合ってはいる。

「あら、悪くはないじゃない。馬子にも衣裳とはこのことね」
「あ? 孫? いつから俺はお前の孫になったんだ」
「……本当に馬を引かせてあげようかしら?」
「はぁ?」

 リアスの皮肉が伝わらなかった様子で、フレアは間の抜けた声で聞き返す。
 それに、リアスはニッコリと笑って「何でも無いわ」と答えた。
 流石に、店員も見ているところでこれ以上フレアを煽って騒動を起こすわけにはいかないと判断したのだろう。
 賢明な判断だ。

「ふむ、皆悪くないのう。では、これをレンタルしたいのだが」
「……あっ、はい! かしこまりました! では、レンタル手続きの為の資料を持ってきますね!」

 リートの言葉に、店員のお姉さんはそう言うとそそくさとどこかに走っていった。
 ……なんか、少し呆気に取られていた感じだったな。
 まぁでも、仕方が無いか。
 三人の個性が強すぎて、驚いてしまったのだろう。
 私はもう慣れたから何とも思わないけど、初対面の人からしたら割と凄い団体だよな……申し訳ない。

「……イノセ」
「ん?」

 名前を呼ばれ、私はパッと視線を向けた。
 するとそこでは、リートが不満そうな表情で私を見上げていた。
 何だろうかと不思議に思っていると、彼女はドレスのスカートを軽く摘まみ、クルッと軽く回って見せた。

「妾のドレスはどうじゃ? 似合っておるか?」
「……? 似合ってるけど……急にどうしたの?」

 突然の質問に驚きつつも、そう聞き返した。
 いやホントに、急にどうしたんだ?
 私の反応に、リートはしばし考える素振りをした後で「いや」と続けた。

「お主がリアスのドレスはジッと見ていたくせに、妾のドレスはあまり見てくれていなかったみたいじゃったからのう。あまり似合っておらんのかと思ったのじゃ」
「そんなことないよ。ただ……」

 そこまで言って、すんでのところで私は言葉を詰まらせた。
 今、私は……何を言おうとしていた?
 ただ……あまりに似合っていて、緊張して直視出来なかった?
 いや、これは事実だ。見慣れないドレス姿に驚いたのもあるが、リートのドレスはよく似合っていて、見てるとなんだか緊張してしまう。
 リアスも似合っているが、こちらは見ていても特に何も無い。
 似合ってるなぁ、くらいしか感じることは無いが……。

「……ただ……?」
「ただ……その……えっと……」

 何とか誤魔化そうとするが、続く言葉が出てこない。
 動揺からか心臓がバクバクと高鳴り、頭の中が真っ白になる。
 それでも何か言わないと怪しまれると思い、私は思考を必死に巡らせて慌てて口を開いた。

「なっ、なんでもない! とにかく、リートのドレスは普通に似合ってるから、安心して良いよ」
「……それなら良いが……」

 私の言葉に、リートはどこか不服そうな様子でそう言った。
 ……怪しまれたかな。
 しかし、本当のことを言うのは何だか憚られてしまい、こうやって誤魔化すことしか思いつかなかった。
 ……なんか、変な感じだな……。
 私は自分の首に手を当て、溜息をついた。
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