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第4章:土の心臓編

078 ラシルスにて-クラスメイトside

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 海を渡った一行はスタルト車を利用して荒野を移動し、途中で一泊し、翌日無事ラシルスに辿り着いた。
 今まで見たことのない荒野や石造りの町並みに戸惑いつつも、クラインに先導され、町の中を歩く。
 町は大変賑わっており、少しでも気を抜くと人ごみに流されてしまいそうだった。
 柚子は体が小さい分歩幅も短く、すぐにでも人ごみに押し流されてしまいそうになっていた。
 それでも、何とか大股で早歩きで付いて行きながら、彼女はクラインに向かって口を開いた。

「な、なんだか凄く賑わっていますね。お祭りでもあるのんでしょうか?」
「……いえ、そういうわけでは無いのですが……この町には、他の国では滅多にお目にかかれないものがありましてね……首都ラシルスに関しては、いつもこれくらい賑わっているのですよ」
「お目にかかれない……?」
「着きましたよ」

 クラインがそう言って立ち止まったせいで、柚子は彼の背中にぶつかってしまう。
 しかし、すぐに体勢を立て直し、クラインが見上げているものを見た。
 そこには、巨大な石造りの建物があった。
 真っ白な壁をした直方体の巨大な建物が聳え立ち、数多くの人間が建物の中を忙しなく出入りしている。
 出入りする人の大半はキッチリしたタキシードやドレスを着ており、普通の服を着ている人でも、かなりフォーマルな感じの高級そうな服を身につけていた。

「ここって……」
「ラシルス国の首都ラシルスが誇る超巨大カジノ……通称、『カジノ・ラシルス』」

 クラインの言葉に、その場にいた全員が驚いた反応を示した。
 柚子達の知識では、カジノと言えばアメリカのラスベガスなんかにある賭博施設で、ごく普通の女子高生である彼女達にとっては非現実的な存在だった。
 そんなものが目の前に存在しているという事実に、彼女達は少なからず驚きの反応を示した。

「この町には、土の心臓というものが封印されています。町をご覧の通り、この心臓の影響でこの辺りには岩や鉱物が多く、この町の人達はそれを上手く利用して生活しています。このカジノも同様に、心臓の魔力によって生成される金を掘り出し、カジノの財産として活用しているのです」
「それって、危なくないですか!?」

 クラインの説明に、花鈴がそう声を上げた。
 彼女の問いに、クラインは笑みを崩さずに「危ないですよ」と答えた。

「このカジノが作られてから、我々はすぐにこのやり方に反対しました。……ですが、彼等は私達の言葉には耳を貸さず、何十年もの間このカジノを続けています。心臓のことは外部に漏らせないので、真実は話せませんしね」
「……じゃあ、封印されている心臓を破壊することなんて出来ないのでは……?」
「いえ……それに関しては事前に言いくるめていますので、問題は無いです」

 相変わらず笑みを崩さないまま言うクラインに、黙って会話を聞いていた友子は、静かに目を伏せた。
 ──……この国の情勢も、心臓がどんな状態にあるのかも、どうでもいい。
 ──破壊出来る状況にあるのなら、今すぐにでもダンジョンに潜れば良い。
 ──早くしないと……また魔女に先を越されてしまう。

「あの……心臓の破壊には、いつ行くのですか……?」
「実は、予定よりも一日早く着いてしまいまして……カジノには明日ダンジョンに潜ると伝えてあるので、心臓の破壊も明日になりますね」
「……早くすることは出来ないんですか?」
「申し訳ないですが、向こう側の事情もありますので……」

 クラインの言葉に、友子は「そうですか」と言いながら目を伏せ、拳を強く握り締めた。
 強く握り締められた拳には僅かに血管が浮かび、痛みが生じる。
 焦燥感からか苛立ちを露わにする友子の手を、誰かがソッと握った。

「ッ……?」
「最上さん……我慢だよ」

 柚子は小声でそう言うと、友子の指の隙間に自分の指を潜り込ませ、拳を解させる。
 小さな手によって強く握っていた手が緩んでいくのを感じつつ、友子は俯いて「ごめん」と小さな声で謝った。
 それに、柚子はフルフルと首を横に振って「良いんだよ」と答えた。

「気持ちは分かるからさ。でも、焦っても仕方無いよ。物事には何にでも、順番があるんだからさ」
「それは、そうだけど……私達がゆっくりしている間に、魔女がここの心臓も回収してしまったら、って考えたら、さ……」
「それは……」

 友子の言葉に柚子が答えようとした時、パンパンとクラインが手を叩いた。
 それに皆の視線が集まるのを確認すると、彼はニコッと笑みを浮かべて続けた。

「ひとまず、今日は宿を取っていますので、もうそちらに移動しましょう。その後は自由行動としますが、くれぐれも一人で行動しないように」

 彼はそう言うと、宿の方に向かって歩き出す。
 その背中を追って、一行は歩き出す。
 柚子は大股で歩いて友子の隣に並ぶと、口を開いた。

「……大丈夫だよ」

 その言葉に、友子は目を丸くして柚子に視線を向けた。
 彼女の反応に、柚子は小さく笑みを浮かべて続けた。

「もしも最上さんが心配していることが起きるとしたら、魔女は今、同じ町にいるってことでしょう? 今ここには、私達だけじゃなくてクラインさんもいるんだし……皆で強力すれば、案外倒せるかもしれないよ?」
「……そんな、上手くいくわけ……」
「試してみないと分からないでしょ?」

 珍しく悪戯っぽく笑いながら言う柚子に、友子は苦笑を浮かべた。
 それに、柚子は笑みを緩めて、続けた。

「心配しなくても……きっと上手くいくよ。最上さんはもう、一人じゃないんだよ?」
「……山吹さ……」
「うわッ、ごめんなさい!」

 友子が柚子の名を呼ぼうとした時、前方からそんな声がした。
 視線を向けてみると、そこでは、花鈴が青い髪をした女性にペコペコと頭を下げていた。

「あぁ、大丈夫ですよ」

 ウェーブのかかった青い長髪に同色の目をした女性が、微笑みながらそう言う。
 大人びた雰囲気を漂わせているが、着ている服は露出が多く、どちらかと言うと妖艶な美しさを持っていた。
 胸も大きく、スレンダーな体つきは男を魅了する美しいもので、つい見惚れてしまいそうになる。
 そんな女性に花鈴が何かを言おうと口を開いた時、真凛が彼女の手を掴んだ。

「何してるの? 早く行くよ?」
「あっ、ちょっと待ってよ真凛!」

 驚きの声を上げる花鈴だったが、真凛に引っ張られて仕方なくこちらによってくる。

「さっきの女の人超綺麗じゃなかった!?」

 追いついた途端、花鈴は大きな声でそう言って来た。
 それに、柚子は呆れたような表情を浮かべた。

「何してるのよ……こんな場所で迷子になったらどうするの?」
「ごめんってぇ……でもさ、本当に凄く綺麗な人だったの! なんかこう……瑞々しいというか……海っぽいというか……人魚みたいな人!」
「はいはい、分かった分かった」
「絶対分かってない!」

 適当に流す真凛に、花鈴は両手に拳を作ってそう抗議した。
 それに友子は苦笑しつつも、ソッと視線を逸らした。
 ──一人じゃない、か……。
 極度の人見知りだったせいで、今まで友達もロクにいなかった友子にとって、今の時間は夢のようなものだった。
 きっと、日本にいたままでは、永遠に得られなかったであろう時間。
 ──でも……こころちゃんがいない。
 その事実が、友子の心を締め付ける。
 今がどれだけ恵まれた瞬間だとしても、彼女にとっては、こころの存在が無ければ意味の無いことだった。
 ──早く、救わないと……。

「最上さん? どうかしたの?」

 すると、柚子が不思議そうにそう聞いてくる。
 表情に出ていたのか、ずっと考え込みすぎてしまっていたのかもしれない。
 友子はすぐに首を横に振り、「なんでもない」と答えた。

「ちょっと考え事してただけ」

 そう笑って言い、彼女は誤魔化すように、歩を速めた。

 ……こころ達が歩いて行った方向とは、逆の方向に。

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