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第4章:土の心臓編
077 ラシルスにて
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<猪瀬こころ視点>
翌日、早朝にステッドを出発した私達は、予定通り約半日程掛けて無事ラシルス国の首都ラシルスに到着した。
ラシルスの町は石造りの建物ばかりで、角ばったような印象が強かった。
全体的に石が白っぽい色だからか、豆腐が並んでいるように見える。
……あぁ、ダメだ。一度そう思ってしまうと、もう豆腐にしか見えなくなってくる。
「ようやく着いたのう」
ぼんやりしていると、私の背中に乗っていたリートが、そう呟きながら私の背中から下りた。
彼女の言葉に、フレアは肩に掛けていたヌンチャクを仕舞いつつ、町を見渡した。
「しっかし、今までの町に比べるとすっげぇ……四角い家ばっかりだな」
「……多分、ここにある心臓の影響じゃないかしら。木もあまり生えていないみたいだし」
フレアの言葉に、リアスが冷静にそう分析した。
……心臓の影響……?
リアスの言葉に、私はしばし思考を巡らせる。
すると、その様子から何かを察したのか、リアスは「あぁ」と声を上げた。
「この町に封じられている心臓は土の心臓だから、多分この辺りは、木よりも岩石とか石の方がよくとれると思うの。だから、石造りの家が多いんだと思うわ」
「……まぁ、土属性って、土というよりは石とか岩とかが多いからね」
リアスの説明に、私はそう呟いた。
土属性は、確かリートの奴隷になる前に私の適性属性にあったものだ。
スキルにあったロックソードなんかはダンジョンで戦った時なんかに重宝していたし、割と愛着のある属性だな。
……ということは、心臓を手に入れたら土属性のスキルが使えるということか?
なんだかんだ以前のスキルには世話になっていたし、また使えるという事実は中々嬉しいものだ。
「……何だか嬉しそうね?」
気持ちが顔に出ていたのか、リアスがどこか見透かしたような笑みを浮かべながら、そう聞いて来た。
彼女の言葉に、私は「そ、そんなことないよ」と言いつつ、誤魔化すように顔を背けた。
すると、急にリートが私の手首を掴んだ。
「ほれ、無駄話をしている場合ではないぞ。早速、妾の心臓がどこにあるか確認せねばな」
「んっ? ……ちょ、ちょっと……!」
リアスの言葉を理解するよりも前に、彼女はグイグイと私の手を引っ張って歩き出す。
私はそれに驚き、引っ張られるがままに歩き出す。
このラシルスという町は中々に栄えている町のようで、道はかなりの人で賑わっていた。
どこを見渡しても人ばかりで、一度誰かとはぐれたらすぐにでも見失ってしまいそうだ。
非力なリートではあっという間に人ごみに流されてしまうと判断した私は、すぐにその場で踏みとどまり、手を掴んでいるリートの手を掴み返して引っ張った。
「うおッ!?」
強引に引っ張ったせいか、彼女は驚きの声を上げながら体勢を崩し、こちらに向かって転びそうになる。
咄嗟にそれを受け止めると、ただでさえ背の低い彼女はそのまま倒れ込み、私の胸に顔を埋める形になる。
予想外の事態に驚くが、周りに人が多くなってきたので、私は咄嗟にリートの腰に腕を回して体を密着させた。
「離れないで。人が多いから危ないよ」
「……」
私の言葉に、リートは答えない。
なんとか立て直したおかげで、今はしっかりと立ち、私の胸よりも少し高い位置に顔が当たっている。
ひとまずフレアとリアスが来るまで待っておかないと……と思っていた矢先に、後頭部をガシッと掴まれた。
「うぇッ」
「見せ付けてんじゃねーよ。何してんだ?」
背後から聴こえた声に顔を上げると、そこではフレアがどこか呆れたような表情を浮かべて立っていた。
その後ろからはフレアが付いてきていたが、追いつくよりも少し前に、ピンクっぽい髪色をした少女にぶつかった。
「うわッ、ごめんなさい!」
「あぁ、大丈夫ですよ」
慌てた様子で謝る少女に、リアスは笑みを浮かべながらそう答えた。
それに少女が何かを言おうとした時に、彼女の腕を誰かが掴んだ。
「何してるの? 早く行くよ?」
「あっ、ちょっと待ってよマリン!」
急かすように言うマリンと呼ばれた少女の言葉に、ピンク髪の少女はそう言いながら早足でどこかに向かって行く。
……マリン、か。
そういえば、この世界に召喚されたクラスメイトの中に、そんな名前の人がいた覚えがある。
確か双子の……望月さん、だったかな?
あまり関わらなかったので記憶が曖昧だが、あの双子は顔がソックリで、見分けがつかなかったんだよな。
でも性格は結構違ってて、片方がすごく元気で明るくて、もう片方はクールで静かな感じだった気がする。
確か、学級委員長の山吹さんと仲が良くて、この世界に来た時にグループも一緒だったはずだ。
そういえば、指輪の影響で変わった髪色は、確か片方はさっきの少女みたいな赤みがかったピンク色をしていた気がする。
思い出してみると、声とか口調も似ていたような……。
それに、マリン……か……。
「……苦しいぞ」
一人考え込んでいると、未だに私の胸の辺りに顔を埋めたままのリートが、くぐもった声でそう言った。
いつの間にか、腕に力が籠ってしまっていたみたいだ。
慌てて手の力を緩めると、彼女はブハッと大きく息を吐きながら私から体を離し、不満そうにこちらを睨みつけた。
「全く……何をボサッとしておるのじゃ?」
「ご、ごめん……ちょっと、ボーッとしてた……」
リートに聞かれ、私は咄嗟にそう答えた。
すると、リアスは私の顔を見て、「ふぅん……?」とどこか含みのある声で言った。
彼女は少し考える素振りをしてから、口を開く。
「……あまり、人ごみに慣れていないのかしら?」
「えっ? ……あ、うん……そんな感じ……」
「それとも……他に何か理由がある?」
後半の方は、人ごみにかき消されそうな小さな声で言った。
まさかの言葉に、私は「えッ!?」と声を上げた。
すると、彼女はクスッと小さく笑った。
「もしかして、図星?」
「あッ、いや……そんなことは……」
「何を話しておる?」
ヒソヒソと話す私達を不審に思ったのか、リートが訝しむようにそう聞いて来た。
それに、リアスはニコッと笑って「何でも無い」と言い、私の背中を押した。
「ホラ、早く行きましょう? 周りの邪魔になってしまうわ」
「……どの口が言う……」
不自然なくらい満面の笑みを浮かべながら言うリアスに、私は頬を引きつらせながら言った。
しかし、彼女の言ったこと自体は正論だったので、ひとまずそれに従うことにした。
リートとフレアも歩き出すので、仕方なく、私も歩き出そうとする。
そこで、なんとなく後ろ髪を引かれるような感覚がして、私は僅かに歩を緩めた。
「……」
リアスに気取られないように、ソッと後ろを振り向く。
ずっと立ち止まっていたからか、私達がいる場所は人ごみの中で僅かに空洞になっており、道行く人々は皆私達を避けていく。
そんな人ごみの中に先程見た少女の姿は溶けていってしまったようで、私の中に湧いた疑問を確認することは叶わなかった。
「……まさか、ね」
小さく、そう呟く。
そんな偶然、あるはずもないか。
漫画やアニメの世界じゃあるまいし、そんな偶然、起きるはずもない。
ただ、もしも私の疑念が本当だったとしたら……?
……確か、望月さん達のグループには、山吹さんと……。
「イノセ~? はよう来んか~」
立ち止まっていた時、リートがそう声を掛けてきた。
それに、私は慌てて顔を上げる。
気付けば、三人はもうかなり先の方に歩いて行ってしまっており、すぐにはぐれてしまいそうだった。
「あっ……ごめん!」
私はそう謝りながら、三人の方に向かって駆け出した。
……もしもの話は止めよう。
今は、目の前だけのことに集中しよう。
モヤモヤした疑念を払うように、私は地面を蹴った。
翌日、早朝にステッドを出発した私達は、予定通り約半日程掛けて無事ラシルス国の首都ラシルスに到着した。
ラシルスの町は石造りの建物ばかりで、角ばったような印象が強かった。
全体的に石が白っぽい色だからか、豆腐が並んでいるように見える。
……あぁ、ダメだ。一度そう思ってしまうと、もう豆腐にしか見えなくなってくる。
「ようやく着いたのう」
ぼんやりしていると、私の背中に乗っていたリートが、そう呟きながら私の背中から下りた。
彼女の言葉に、フレアは肩に掛けていたヌンチャクを仕舞いつつ、町を見渡した。
「しっかし、今までの町に比べるとすっげぇ……四角い家ばっかりだな」
「……多分、ここにある心臓の影響じゃないかしら。木もあまり生えていないみたいだし」
フレアの言葉に、リアスが冷静にそう分析した。
……心臓の影響……?
リアスの言葉に、私はしばし思考を巡らせる。
すると、その様子から何かを察したのか、リアスは「あぁ」と声を上げた。
「この町に封じられている心臓は土の心臓だから、多分この辺りは、木よりも岩石とか石の方がよくとれると思うの。だから、石造りの家が多いんだと思うわ」
「……まぁ、土属性って、土というよりは石とか岩とかが多いからね」
リアスの説明に、私はそう呟いた。
土属性は、確かリートの奴隷になる前に私の適性属性にあったものだ。
スキルにあったロックソードなんかはダンジョンで戦った時なんかに重宝していたし、割と愛着のある属性だな。
……ということは、心臓を手に入れたら土属性のスキルが使えるということか?
なんだかんだ以前のスキルには世話になっていたし、また使えるという事実は中々嬉しいものだ。
「……何だか嬉しそうね?」
気持ちが顔に出ていたのか、リアスがどこか見透かしたような笑みを浮かべながら、そう聞いて来た。
彼女の言葉に、私は「そ、そんなことないよ」と言いつつ、誤魔化すように顔を背けた。
すると、急にリートが私の手首を掴んだ。
「ほれ、無駄話をしている場合ではないぞ。早速、妾の心臓がどこにあるか確認せねばな」
「んっ? ……ちょ、ちょっと……!」
リアスの言葉を理解するよりも前に、彼女はグイグイと私の手を引っ張って歩き出す。
私はそれに驚き、引っ張られるがままに歩き出す。
このラシルスという町は中々に栄えている町のようで、道はかなりの人で賑わっていた。
どこを見渡しても人ばかりで、一度誰かとはぐれたらすぐにでも見失ってしまいそうだ。
非力なリートではあっという間に人ごみに流されてしまうと判断した私は、すぐにその場で踏みとどまり、手を掴んでいるリートの手を掴み返して引っ張った。
「うおッ!?」
強引に引っ張ったせいか、彼女は驚きの声を上げながら体勢を崩し、こちらに向かって転びそうになる。
咄嗟にそれを受け止めると、ただでさえ背の低い彼女はそのまま倒れ込み、私の胸に顔を埋める形になる。
予想外の事態に驚くが、周りに人が多くなってきたので、私は咄嗟にリートの腰に腕を回して体を密着させた。
「離れないで。人が多いから危ないよ」
「……」
私の言葉に、リートは答えない。
なんとか立て直したおかげで、今はしっかりと立ち、私の胸よりも少し高い位置に顔が当たっている。
ひとまずフレアとリアスが来るまで待っておかないと……と思っていた矢先に、後頭部をガシッと掴まれた。
「うぇッ」
「見せ付けてんじゃねーよ。何してんだ?」
背後から聴こえた声に顔を上げると、そこではフレアがどこか呆れたような表情を浮かべて立っていた。
その後ろからはフレアが付いてきていたが、追いつくよりも少し前に、ピンクっぽい髪色をした少女にぶつかった。
「うわッ、ごめんなさい!」
「あぁ、大丈夫ですよ」
慌てた様子で謝る少女に、リアスは笑みを浮かべながらそう答えた。
それに少女が何かを言おうとした時に、彼女の腕を誰かが掴んだ。
「何してるの? 早く行くよ?」
「あっ、ちょっと待ってよマリン!」
急かすように言うマリンと呼ばれた少女の言葉に、ピンク髪の少女はそう言いながら早足でどこかに向かって行く。
……マリン、か。
そういえば、この世界に召喚されたクラスメイトの中に、そんな名前の人がいた覚えがある。
確か双子の……望月さん、だったかな?
あまり関わらなかったので記憶が曖昧だが、あの双子は顔がソックリで、見分けがつかなかったんだよな。
でも性格は結構違ってて、片方がすごく元気で明るくて、もう片方はクールで静かな感じだった気がする。
確か、学級委員長の山吹さんと仲が良くて、この世界に来た時にグループも一緒だったはずだ。
そういえば、指輪の影響で変わった髪色は、確か片方はさっきの少女みたいな赤みがかったピンク色をしていた気がする。
思い出してみると、声とか口調も似ていたような……。
それに、マリン……か……。
「……苦しいぞ」
一人考え込んでいると、未だに私の胸の辺りに顔を埋めたままのリートが、くぐもった声でそう言った。
いつの間にか、腕に力が籠ってしまっていたみたいだ。
慌てて手の力を緩めると、彼女はブハッと大きく息を吐きながら私から体を離し、不満そうにこちらを睨みつけた。
「全く……何をボサッとしておるのじゃ?」
「ご、ごめん……ちょっと、ボーッとしてた……」
リートに聞かれ、私は咄嗟にそう答えた。
すると、リアスは私の顔を見て、「ふぅん……?」とどこか含みのある声で言った。
彼女は少し考える素振りをしてから、口を開く。
「……あまり、人ごみに慣れていないのかしら?」
「えっ? ……あ、うん……そんな感じ……」
「それとも……他に何か理由がある?」
後半の方は、人ごみにかき消されそうな小さな声で言った。
まさかの言葉に、私は「えッ!?」と声を上げた。
すると、彼女はクスッと小さく笑った。
「もしかして、図星?」
「あッ、いや……そんなことは……」
「何を話しておる?」
ヒソヒソと話す私達を不審に思ったのか、リートが訝しむようにそう聞いて来た。
それに、リアスはニコッと笑って「何でも無い」と言い、私の背中を押した。
「ホラ、早く行きましょう? 周りの邪魔になってしまうわ」
「……どの口が言う……」
不自然なくらい満面の笑みを浮かべながら言うリアスに、私は頬を引きつらせながら言った。
しかし、彼女の言ったこと自体は正論だったので、ひとまずそれに従うことにした。
リートとフレアも歩き出すので、仕方なく、私も歩き出そうとする。
そこで、なんとなく後ろ髪を引かれるような感覚がして、私は僅かに歩を緩めた。
「……」
リアスに気取られないように、ソッと後ろを振り向く。
ずっと立ち止まっていたからか、私達がいる場所は人ごみの中で僅かに空洞になっており、道行く人々は皆私達を避けていく。
そんな人ごみの中に先程見た少女の姿は溶けていってしまったようで、私の中に湧いた疑問を確認することは叶わなかった。
「……まさか、ね」
小さく、そう呟く。
そんな偶然、あるはずもないか。
漫画やアニメの世界じゃあるまいし、そんな偶然、起きるはずもない。
ただ、もしも私の疑念が本当だったとしたら……?
……確か、望月さん達のグループには、山吹さんと……。
「イノセ~? はよう来んか~」
立ち止まっていた時、リートがそう声を掛けてきた。
それに、私は慌てて顔を上げる。
気付けば、三人はもうかなり先の方に歩いて行ってしまっており、すぐにはぐれてしまいそうだった。
「あっ……ごめん!」
私はそう謝りながら、三人の方に向かって駆け出した。
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