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第4章:土の心臓編
076 屈託の無い心-クラスメイトside
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「あっ! 今魚跳ねた!」
「えっ、どこ?」
「見てなかったの!? もぉ~」
船の甲板にてはしゃぐ花鈴と、その相手をする真凛の声を窓の外に聴きながら、友子は小さく溜息をついた。
彼女は船の中の建物のような場所にて、隅の方で膝を抱えて座り込み、俯いていた。
ヴォルノの料理店で見た魔女の写真が──そこに写っていたこころの姿が──網膜の裏に焼き付いたかのように、離れなかった。
──私が別の誰かをこころちゃんと見間違えるはずがない。
──あの顔は、あの笑顔は……こころちゃんのものだった。
──でも……こころちゃんが生きていて、魔女の味方をしているなんて……。
「……訳が分からないよ……」
小さく呟きながら、友子は膝に顔を埋める。
情報量が多すぎて、頭の中で整理し切れなかった。
今までずっとこころは死んだものだとばかり思っていたから、突然生きているかもしれないと知り、脳が混乱していた。
「最上さん」
その時、名前を呼ばれた。
顔を上げた友子は、暗い表情のままで、目の前にいる人物の名を口にした。
「……山吹……さん……?」
「……魔女の仲間についての話なんだけど」
その言葉に、友子は目を見開き、「えっ……?」と声を上げた。
友子の反応に、柚子はコテンと首を傾げて「聞きたい?」と言った。
「さっき、クラインさんから魔女の仲間について聞いてきたの。そしたら、結構色々な話が聞けて……聞きたいかな、って」
「な、なんで……」
「最上さんが落ち込んでるの……猪瀬さんが魔女の仲間かもしれないから、だよね?」
柚子にそう聞かれ、友子は言葉を詰まらせた。
彼女の反応に、柚子は無言でしゃがみ込んで友子と目を合わせ、続けた。
「答えない、ということは肯定として捉えるけど……良いかな?」
「あ……いや……私は……」
「まぁ、クラインさんから聞いた話だと……魔女の味方が猪瀬さんである可能性は高いらしいよ」
柚子の言葉に、友子は「えっ……?」と青ざめた表情で呟いた。
それに、柚子は少し間を置いて、クラインから聞いた話を友子に話した。
魔女の味方がダンジョンで亡くなった三人の内の誰かである可能性が高いこと。
魔女の味方は魔女がダンジョンにいた頃から一緒に行動していた可能性が高いこと。
魔女がダンジョンからいなくなった時期と、三人がダンジョンで亡くなった時期が重なること。
魔女が指輪に細工をしたと仮定したら、反応が途絶えたことにも説明がつくこと。
元々異世界から来た自分達は、この世界の人間よりは魔女に味方をする可能性が高いこと。
全てを話した。
「じゃあ、こころちゃんは実は生きていて……魔女の味方をしているかもしれない、ってこと……?」
「確実とは言えない、けど……可能性は、高いよ」
柚子の言葉に、友子はポカンと口を開けて呆けた表情を浮かべた。
こころが生きている理由はなんとなく分かったが、それでも、やはりすぐに理解出来るようなものではなかった。
何よりも理解出来ないことは……──
「──なんで……こころちゃんは、魔女の味方を……?」
「……なんでって……」
「帰って来るって、約束したのに……友達なのに……なんで、そんな……!」
「落ち着いて」
動揺のあまり捲し立てる友子を、柚子は静かに窘める。
彼女の言葉に、友子はグッと口を噤んだ。
それから一度息をつき、小さく口を開いた。
「……こころちゃんは……私のこと、裏切ったの……?」
「……そうとは限らないよ」
柚子の言葉に、友子はふと顔を上げた。
それに、柚子はすぐに続けた。
「クラインさんが言ってたの。魔女が何かを吹き込んで騙している可能性もあるし……魔女は闇魔法が使えるから、洗脳魔法で操っている可能性もある、って」
「じゃあ、こころちゃんが自分の意思で魔女の味方をしているってわけでは無いの?」
「か、確実ではないけど……でも、その可能性は高いと思うよ」
柚子の言葉に、友子の表情が徐々に明るくなっていく。
彼女は膝を抱え直し、「そっか」と安堵の表情を浮かべた。
「そう、だよね……こころちゃんが、私を裏切るわけ、無いよね……」
「……猪瀬さんのこと、すごく信頼しているんだね」
どこか自分に言い聞かせるように呟く友子に、柚子はそう聞いた。
すると、友子はパッと顔を上げ、すぐに笑みを浮かべて「うん」と頷いた。
「信じてるよ。……だって、こころちゃんは大切な友達だし……私が苛められてる時も、唯一普通に接してくれた人だもん」
「……そっか……」
「だから、こころちゃんが魔女の味方をしているかもしれないってなった時はビックリしたけど……山吹さんの話を聞いて、安心した」
「わ、私の話も、確実にそうとは言えないけど……」
柚子の言葉に、友子は僅かに表情を曇らせた。
しかし、彼女はソッと目を伏せて、続けた。
「ううん、絶対そうだよ。……こころちゃんは優しいから、騙されてるだけ……操られてるだけなんだよ。自分から魔女の味方につくなんて……そんなこと、ある筈無い」
「……最上さんがそう言うなら、そうなのかもね」
友子の言葉に、柚子はそう言って小さく笑った。
実際のところは、本人に確認してみなければ分からない。
しかし、こころの友達である友子の言葉なら、少なくとも自分で考えるよりは信憑性があると判断したのだ。
──……何より、クラスメイトのことを見れていない私が……クラス内のイジメにすら気付けない私が、今までほとんどまともに話したことがない猪瀬さんのことを推し測るなんて、出来るはずもないし。
「まぁ、何にせよ良かったね。猪瀬さんが生きてたんだから」
一瞬湧いた暗い思考を隠し、笑みを浮かべて柚子は言った。
彼女の言葉に、友子はハッとした表情で「……あっ、そっか」と呟く。
魔女の味方の件について意識が持っていかれてしまっていたせいで、こころが実は生きていたという重大な事実を忘れていた。
友子はすぐにクシャッと笑い、「そっか……」と小さく呟いた。
「こころちゃんが……生きてるかもしれないんだ……」
「……良かったね」
柚子の言葉に、友子は大きく頷く。
今までは、ただがむしゃらに強くなることを目指して戦ってきた。
こころを失った悲しみを埋めるように……こころを失う原因となった、弱い自分を殺す為に。
しかし、こころが生きているとなると、今まで自分が戦ってきた意味がようやく見出せた気がした。
──魔女を殺せば、こころちゃんを救って日本に帰ることが出来る。
──今すぐは難しいかもしれないけれど、それならもっと強くなればいい。
──今まで助けて貰った分、今度は私がこころちゃんを救い出して見せる。
「とにかく、今は……一刻も早く、魔女を倒そう」
そう言う友子の目には、決意の炎が燃えていた。
柚子はその言葉に、僅かに目を丸くした。
しかし、すぐに表情を引き締め、「うん」と頷いた。
「日本に帰る為にも……猪瀬さんを取り戻すためにも、ね」
「……取り戻す、って言い方は嫌だな」
友子の言葉に、柚子はキョトンとした表情を浮かべた。
それに、友子は薄く笑って続けた。
「取り戻すって言い方は、人に取られたものをまた自分のものにする時に使う言葉でしょ? ……こころちゃんは、取られてなんかないよ」
「……?」
「だって、こころちゃんは操られているだけで、魔女のものになったわけじゃない」
首を傾げる柚子に、友子はそう言うと、自分の胸に手を当てた。
それから、彼女は屈託の無い笑みを浮かべて、続けた。
「だって、こころちゃんは私の友達だもん」
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「あっ! 今魚跳ねた!」
「えっ、どこ?」
「見てなかったの!? もぉ~」
船の甲板にてはしゃぐ花鈴と、その相手をする真凛の声を窓の外に聴きながら、友子は小さく溜息をついた。
彼女は船の中の建物のような場所にて、隅の方で膝を抱えて座り込み、俯いていた。
ヴォルノの料理店で見た魔女の写真が──そこに写っていたこころの姿が──網膜の裏に焼き付いたかのように、離れなかった。
──私が別の誰かをこころちゃんと見間違えるはずがない。
──あの顔は、あの笑顔は……こころちゃんのものだった。
──でも……こころちゃんが生きていて、魔女の味方をしているなんて……。
「……訳が分からないよ……」
小さく呟きながら、友子は膝に顔を埋める。
情報量が多すぎて、頭の中で整理し切れなかった。
今までずっとこころは死んだものだとばかり思っていたから、突然生きているかもしれないと知り、脳が混乱していた。
「最上さん」
その時、名前を呼ばれた。
顔を上げた友子は、暗い表情のままで、目の前にいる人物の名を口にした。
「……山吹……さん……?」
「……魔女の仲間についての話なんだけど」
その言葉に、友子は目を見開き、「えっ……?」と声を上げた。
友子の反応に、柚子はコテンと首を傾げて「聞きたい?」と言った。
「さっき、クラインさんから魔女の仲間について聞いてきたの。そしたら、結構色々な話が聞けて……聞きたいかな、って」
「な、なんで……」
「最上さんが落ち込んでるの……猪瀬さんが魔女の仲間かもしれないから、だよね?」
柚子にそう聞かれ、友子は言葉を詰まらせた。
彼女の反応に、柚子は無言でしゃがみ込んで友子と目を合わせ、続けた。
「答えない、ということは肯定として捉えるけど……良いかな?」
「あ……いや……私は……」
「まぁ、クラインさんから聞いた話だと……魔女の味方が猪瀬さんである可能性は高いらしいよ」
柚子の言葉に、友子は「えっ……?」と青ざめた表情で呟いた。
それに、柚子は少し間を置いて、クラインから聞いた話を友子に話した。
魔女の味方がダンジョンで亡くなった三人の内の誰かである可能性が高いこと。
魔女の味方は魔女がダンジョンにいた頃から一緒に行動していた可能性が高いこと。
魔女がダンジョンからいなくなった時期と、三人がダンジョンで亡くなった時期が重なること。
魔女が指輪に細工をしたと仮定したら、反応が途絶えたことにも説明がつくこと。
元々異世界から来た自分達は、この世界の人間よりは魔女に味方をする可能性が高いこと。
全てを話した。
「じゃあ、こころちゃんは実は生きていて……魔女の味方をしているかもしれない、ってこと……?」
「確実とは言えない、けど……可能性は、高いよ」
柚子の言葉に、友子はポカンと口を開けて呆けた表情を浮かべた。
こころが生きている理由はなんとなく分かったが、それでも、やはりすぐに理解出来るようなものではなかった。
何よりも理解出来ないことは……──
「──なんで……こころちゃんは、魔女の味方を……?」
「……なんでって……」
「帰って来るって、約束したのに……友達なのに……なんで、そんな……!」
「落ち着いて」
動揺のあまり捲し立てる友子を、柚子は静かに窘める。
彼女の言葉に、友子はグッと口を噤んだ。
それから一度息をつき、小さく口を開いた。
「……こころちゃんは……私のこと、裏切ったの……?」
「……そうとは限らないよ」
柚子の言葉に、友子はふと顔を上げた。
それに、柚子はすぐに続けた。
「クラインさんが言ってたの。魔女が何かを吹き込んで騙している可能性もあるし……魔女は闇魔法が使えるから、洗脳魔法で操っている可能性もある、って」
「じゃあ、こころちゃんが自分の意思で魔女の味方をしているってわけでは無いの?」
「か、確実ではないけど……でも、その可能性は高いと思うよ」
柚子の言葉に、友子の表情が徐々に明るくなっていく。
彼女は膝を抱え直し、「そっか」と安堵の表情を浮かべた。
「そう、だよね……こころちゃんが、私を裏切るわけ、無いよね……」
「……猪瀬さんのこと、すごく信頼しているんだね」
どこか自分に言い聞かせるように呟く友子に、柚子はそう聞いた。
すると、友子はパッと顔を上げ、すぐに笑みを浮かべて「うん」と頷いた。
「信じてるよ。……だって、こころちゃんは大切な友達だし……私が苛められてる時も、唯一普通に接してくれた人だもん」
「……そっか……」
「だから、こころちゃんが魔女の味方をしているかもしれないってなった時はビックリしたけど……山吹さんの話を聞いて、安心した」
「わ、私の話も、確実にそうとは言えないけど……」
柚子の言葉に、友子は僅かに表情を曇らせた。
しかし、彼女はソッと目を伏せて、続けた。
「ううん、絶対そうだよ。……こころちゃんは優しいから、騙されてるだけ……操られてるだけなんだよ。自分から魔女の味方につくなんて……そんなこと、ある筈無い」
「……最上さんがそう言うなら、そうなのかもね」
友子の言葉に、柚子はそう言って小さく笑った。
実際のところは、本人に確認してみなければ分からない。
しかし、こころの友達である友子の言葉なら、少なくとも自分で考えるよりは信憑性があると判断したのだ。
──……何より、クラスメイトのことを見れていない私が……クラス内のイジメにすら気付けない私が、今までほとんどまともに話したことがない猪瀬さんのことを推し測るなんて、出来るはずもないし。
「まぁ、何にせよ良かったね。猪瀬さんが生きてたんだから」
一瞬湧いた暗い思考を隠し、笑みを浮かべて柚子は言った。
彼女の言葉に、友子はハッとした表情で「……あっ、そっか」と呟く。
魔女の味方の件について意識が持っていかれてしまっていたせいで、こころが実は生きていたという重大な事実を忘れていた。
友子はすぐにクシャッと笑い、「そっか……」と小さく呟いた。
「こころちゃんが……生きてるかもしれないんだ……」
「……良かったね」
柚子の言葉に、友子は大きく頷く。
今までは、ただがむしゃらに強くなることを目指して戦ってきた。
こころを失った悲しみを埋めるように……こころを失う原因となった、弱い自分を殺す為に。
しかし、こころが生きているとなると、今まで自分が戦ってきた意味がようやく見出せた気がした。
──魔女を殺せば、こころちゃんを救って日本に帰ることが出来る。
──今すぐは難しいかもしれないけれど、それならもっと強くなればいい。
──今まで助けて貰った分、今度は私がこころちゃんを救い出して見せる。
「とにかく、今は……一刻も早く、魔女を倒そう」
そう言う友子の目には、決意の炎が燃えていた。
柚子はその言葉に、僅かに目を丸くした。
しかし、すぐに表情を引き締め、「うん」と頷いた。
「日本に帰る為にも……猪瀬さんを取り戻すためにも、ね」
「……取り戻す、って言い方は嫌だな」
友子の言葉に、柚子はキョトンとした表情を浮かべた。
それに、友子は薄く笑って続けた。
「取り戻すって言い方は、人に取られたものをまた自分のものにする時に使う言葉でしょ? ……こころちゃんは、取られてなんかないよ」
「……?」
「だって、こころちゃんは操られているだけで、魔女のものになったわけじゃない」
首を傾げる柚子に、友子はそう言うと、自分の胸に手を当てた。
それから、彼女は屈託の無い笑みを浮かべて、続けた。
「だって、こころちゃんは私の友達だもん」
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