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第4章:土の心臓編
073 くだらないこと
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<猪瀬こころ視点>
翌朝から私達はスターゼの町を出発し、荒野地帯を進み始めた。
ラシルスに行くまでに、私達は二つ程の国を経由していくことになる。
これだけ聞くとかなり日数がいるように感じるが、レルギーはあまり大きな国では無い為に、半日から一日程あれば抜けられるらしい。
その後に続くモニウムという国は二日程で抜けられ、さらに一日程歩いて三つ目の心臓がある町に辿り着くとのことだ。
あくまで目安なので、実際の所どうなるかは分からないが、三、四日程で次の町に着きそうだ。
「……スタルト車とか使ったら、もっと早く着くと思うんだけどなぁ」
「何じゃ? 文句でもあるのか?」
なんとなくぼやいた言葉に、リートがそう反応してきた。
それに、私は「ありません」と言いながら目を伏せつつ、リートを背負い直して歩き続ける。
荒野地帯は、森に比べると比較的歩きやすかった。
草木が少ないので木の根や雑草に足を取られることも無く、地面も乾いて固まっている為、足場もしっかりしていた。
どうやらラシルスまでは荒野続きらしいので、もしかしたらリートの推測よりも早く辿り着くことが出来るかもしれない。
そんな風に考えていた時、近くの地面に転がっていた岩の一つがゴロリと不自然に動いた。
「イノセ止まれ」
障らぬ神に祟り無しと速やかにその場を離れようとしたが、リートがそう言いながら私の首を軽く締めてきた為に、足を止めざるを得なかった。
それに、私たちよりも前を歩いていたフレアが足を止め、こちらに振り返った。
「んぁ? イノセどうした?」
「いや……さっき、岩が動いたように見えて……」
「岩ぁ?」
私の言葉に、フレアはそう言いながら、私の見ている岩に視線を向けた。
直後、突然その岩が一気に膨張した。……否、私に向かって飛んできた。
「うわッ!?」
驚きの声を上げながらも、私は体を捩って一度その攻撃を避ける。
すると、岩は地面に着地し、その姿を露わにする。
ただの岩だと思っていたそれは、石のような甲羅を持ったアルマジロだった。
「……魔物……?」
リアスは小さくそう呟きながら、薙刀を構える。
フレアもヌンチャクを軽く振り回し、アルマジロに向き直る。
「おるぁぁぁぁッ!」
直後、彼女はすぐさまヌンチャクを振り上げ、アルマジロのような見た目の魔物に向かって駆け出した。
助走に加えて遠心力も付けて、彼女はアルマジロに向かってヌンチャクを振り下ろす。
それに対し、アルマジロは動きを止め、丸まって元の岩のような見た目になった。
かと思えば見た目にそぐわない俊敏な動きでフレアのヌンチャクを躱し、甲羅が僅かに砕ける程度でダメージを抑える。
それにフレアは舌打ちをしつつ、すぐさまヌンチャクを構えなおした。
僅かに甲羅が削れたアルマジロは、しばらく辺りをゴロゴロと転がった後、こちらの様子を伺うように静かに停止した。
「……止まった……?」
「……動かないなら、今のうちに行きましょう。このまま相手をしていても時間の無駄よ」
私の呟きに対し、リアスがそう言いながら、ヌンチャクを構えたまま魔物を睨むフレアの背中をポンッと叩いた。
それに、フレアは「何……!?」と声を上げた。
「まだアイツ倒してねぇだろ!? 諦めろって言うのか!?」
「別にあの魔物を無理に倒す必要は無いでしょう? それよりも、先を急いだ方が良いわ」
「嫌だね。あの魔物を殺してから行く」
フレアの言葉に、リアスはどこか苛立った様子の表情を浮かべた。
……普段飄々としているリアスのこんな表情、何気に初めて見たかもしれない。
僅かに驚いていると、彼女は溜息をつき、薙刀を軽く振って水を纏わせた。
「分かった……さっさと終わらせるわよ」
リアスはそう言って薙刀を振るい、水の鞭をしならせて魔物に向かって打ち付けた。
直後、素早く薙刀を振り、魔物の体を上空に打ち上げた。
宙に浮かされることで、魔物は身動きを取ることが出来ず、驚いた様子で防御を崩していた。
「フレアッ!」
「ッ……! おう!」
リアスに名前を呼ばれ、フレアはすぐにヌンチャクを振り上げ、空中にいる魔物に狙いを定める。
まるで野球のバットのように両手でヌンチャクを横薙ぎに振るい、落ちて来た魔物にヌンチャクをぶつけた。
すると、固い岩の甲羅は粉々に砕け、その内側にいた魔物の体が歪に拉げる。
そのままヌンチャクに吹き飛ばされる形で魔物の体は地面にぶつかり、ゴム毬のように何度か地面の上をバウンドして、歪な形で停止した。
「ふぃぃ……手間取らせやがって」
フレアはそう言いながら肩にヌンチャクを掛け、一つ息をつく。
それに、リアスも小さく息をつき、薙刀を肩にポンッと置いた。
「全く……さっさと諦めて進めば良かったのに。無駄なタイムロスになったわ」
「すぐに倒せたんだから良いじゃねぇか。それに、倒せなかったら何かモヤモヤするだろ?」
「別に何とも思わないわ。たかが魔物一匹ぐらいで」
「はぁッ? そのたかが一匹を諦めるのが嫌なんじゃねぇか。悔しいだろ?」
「魔物一匹ぐらいで悔しいだの何だの……馬鹿なの? そんなことで会う魔物全部相手にしてたらキリが無いじゃない」
「馬鹿じゃねぇし! 魔物くらい全部倒せば良いだろ!? 大体……」
折角魔物を倒したというのに、なぜか二人は口論を始めてしまった。
仲間になったばかりの時と言い、フレアはどうしてこうすぐに誰かと喧嘩を始めてしまうのだろう。
リートと争っていた時は、二人共中身が幼い部分があるので子供の喧嘩のようなものだと納得していたが、リアスとの口論は少し予想外だった。
割と大人びているリアスのことだから、無難に流せるだろうに……なんで食って掛かるのだろう。
フレアはフレアで負けず嫌いだから引かないし……ってか、そもそもリアスを仲間にしようって言ったのはフレアなんだから、少しくらい仲良くすればいいのに。
止めるべきかと悩んでいると、リートがポンポンと私の肩を叩いて来た。
「あの二人は気にせずに先を急いではどうじゃ?」
「え? でも……」
「あやつらは勝手に付いて来ている分際なのじゃから、妾達が気を遣う必要はあるまい。付いて来れなかったのであれば、それはあやつらの責任じゃ」
リートはそう言うと、催促するように私の背中をポンポンと叩いた。
……まぁ、少し薄情のようにも聞こえるが、彼女の言うことにも一理ある。
何より彼女の言葉は遠回しに「あの二人置いてさっさと行こうぜ」と言っているようなもので、奴隷である私には、遠回しとは言え彼女の命令に逆らう権利など無い。
仕方なく、私はリートを背負い直し、ラシルスへの道を歩き始めた。
「ちょっと、何勝手に先行こうとしてるのよ」
しかし、ポンッと肩に手を置かれる感覚と共に、耳元でそんな声がした。
それに私は「ひゃぁッ!?」と情けない声を上げながら、バッと顔を上げた。
するとそこには、クスクスと楽しそうに笑うリアスがいた。
「フフッ、可愛い声ね。ひゃぁッ、ですって」
「わ、笑いごとじゃないよ……ビックリしたぁ……」
私の反応に、リアスは増々楽しそうに笑い出す。
それに呆れていた時、反対の肩に手が置かれた。
「しっかしひでぇなぁ……俺達を置いて行こうとしたのか?」
「いや、それは……」
「お主等が何やら言い争いをしていたからじゃろう。全く、どの口が先を急ぐだのほざくか」
フレアの言葉に答えられずにいると、リートがどこか呆れたような口調でそう言った。
……また言い争いを始める気じゃないだろうな……?
今の状況だと私が囲まれる形になるので、結構怖いのだが……。
「……まぁ、良いわ。くだらないことで言い争いをしていたのは事実だもの」
しかし、リアスが先に折れた。
彼女はヒラヒラと軽く両手を振り、私を見て小さく笑った。
「イノセが居心地悪そうにしているし、ね」
「ッ……」
緩く笑みを浮かべながら言うリアスに、私は息を呑んだ。
……気付いていたのか。
いや、彼女は割とこういう感情面では敏い部分があるし、当然と言えば当然なのかもしれないけど……。
「……バレてたんだ」
「えぇ。貴方のことなら何でも」
「あはは……ありがとう」
満面の笑みで言うリアスに、私は苦笑しながらもお礼を言っておいた。
まぁ、色々としんどかったのは事実なので、それに気付いてもらったことはありがたいだだだだだだ。
突然肩に激痛を感じ、私は顏を顰めた。
見ると、リートが強く私の肩を握り締めていることに気付いた。
「先を急ぐのであろう? 早く行くぞ」
「あ、あの、リートさん……? 何を……」
「行くぞ!」
不満そうに言いながら後頭部を叩いて来るリートに、私は「はいッ!」と情けなく返事をしつつ、大股で歩き出した。
翌朝から私達はスターゼの町を出発し、荒野地帯を進み始めた。
ラシルスに行くまでに、私達は二つ程の国を経由していくことになる。
これだけ聞くとかなり日数がいるように感じるが、レルギーはあまり大きな国では無い為に、半日から一日程あれば抜けられるらしい。
その後に続くモニウムという国は二日程で抜けられ、さらに一日程歩いて三つ目の心臓がある町に辿り着くとのことだ。
あくまで目安なので、実際の所どうなるかは分からないが、三、四日程で次の町に着きそうだ。
「……スタルト車とか使ったら、もっと早く着くと思うんだけどなぁ」
「何じゃ? 文句でもあるのか?」
なんとなくぼやいた言葉に、リートがそう反応してきた。
それに、私は「ありません」と言いながら目を伏せつつ、リートを背負い直して歩き続ける。
荒野地帯は、森に比べると比較的歩きやすかった。
草木が少ないので木の根や雑草に足を取られることも無く、地面も乾いて固まっている為、足場もしっかりしていた。
どうやらラシルスまでは荒野続きらしいので、もしかしたらリートの推測よりも早く辿り着くことが出来るかもしれない。
そんな風に考えていた時、近くの地面に転がっていた岩の一つがゴロリと不自然に動いた。
「イノセ止まれ」
障らぬ神に祟り無しと速やかにその場を離れようとしたが、リートがそう言いながら私の首を軽く締めてきた為に、足を止めざるを得なかった。
それに、私たちよりも前を歩いていたフレアが足を止め、こちらに振り返った。
「んぁ? イノセどうした?」
「いや……さっき、岩が動いたように見えて……」
「岩ぁ?」
私の言葉に、フレアはそう言いながら、私の見ている岩に視線を向けた。
直後、突然その岩が一気に膨張した。……否、私に向かって飛んできた。
「うわッ!?」
驚きの声を上げながらも、私は体を捩って一度その攻撃を避ける。
すると、岩は地面に着地し、その姿を露わにする。
ただの岩だと思っていたそれは、石のような甲羅を持ったアルマジロだった。
「……魔物……?」
リアスは小さくそう呟きながら、薙刀を構える。
フレアもヌンチャクを軽く振り回し、アルマジロに向き直る。
「おるぁぁぁぁッ!」
直後、彼女はすぐさまヌンチャクを振り上げ、アルマジロのような見た目の魔物に向かって駆け出した。
助走に加えて遠心力も付けて、彼女はアルマジロに向かってヌンチャクを振り下ろす。
それに対し、アルマジロは動きを止め、丸まって元の岩のような見た目になった。
かと思えば見た目にそぐわない俊敏な動きでフレアのヌンチャクを躱し、甲羅が僅かに砕ける程度でダメージを抑える。
それにフレアは舌打ちをしつつ、すぐさまヌンチャクを構えなおした。
僅かに甲羅が削れたアルマジロは、しばらく辺りをゴロゴロと転がった後、こちらの様子を伺うように静かに停止した。
「……止まった……?」
「……動かないなら、今のうちに行きましょう。このまま相手をしていても時間の無駄よ」
私の呟きに対し、リアスがそう言いながら、ヌンチャクを構えたまま魔物を睨むフレアの背中をポンッと叩いた。
それに、フレアは「何……!?」と声を上げた。
「まだアイツ倒してねぇだろ!? 諦めろって言うのか!?」
「別にあの魔物を無理に倒す必要は無いでしょう? それよりも、先を急いだ方が良いわ」
「嫌だね。あの魔物を殺してから行く」
フレアの言葉に、リアスはどこか苛立った様子の表情を浮かべた。
……普段飄々としているリアスのこんな表情、何気に初めて見たかもしれない。
僅かに驚いていると、彼女は溜息をつき、薙刀を軽く振って水を纏わせた。
「分かった……さっさと終わらせるわよ」
リアスはそう言って薙刀を振るい、水の鞭をしならせて魔物に向かって打ち付けた。
直後、素早く薙刀を振り、魔物の体を上空に打ち上げた。
宙に浮かされることで、魔物は身動きを取ることが出来ず、驚いた様子で防御を崩していた。
「フレアッ!」
「ッ……! おう!」
リアスに名前を呼ばれ、フレアはすぐにヌンチャクを振り上げ、空中にいる魔物に狙いを定める。
まるで野球のバットのように両手でヌンチャクを横薙ぎに振るい、落ちて来た魔物にヌンチャクをぶつけた。
すると、固い岩の甲羅は粉々に砕け、その内側にいた魔物の体が歪に拉げる。
そのままヌンチャクに吹き飛ばされる形で魔物の体は地面にぶつかり、ゴム毬のように何度か地面の上をバウンドして、歪な形で停止した。
「ふぃぃ……手間取らせやがって」
フレアはそう言いながら肩にヌンチャクを掛け、一つ息をつく。
それに、リアスも小さく息をつき、薙刀を肩にポンッと置いた。
「全く……さっさと諦めて進めば良かったのに。無駄なタイムロスになったわ」
「すぐに倒せたんだから良いじゃねぇか。それに、倒せなかったら何かモヤモヤするだろ?」
「別に何とも思わないわ。たかが魔物一匹ぐらいで」
「はぁッ? そのたかが一匹を諦めるのが嫌なんじゃねぇか。悔しいだろ?」
「魔物一匹ぐらいで悔しいだの何だの……馬鹿なの? そんなことで会う魔物全部相手にしてたらキリが無いじゃない」
「馬鹿じゃねぇし! 魔物くらい全部倒せば良いだろ!? 大体……」
折角魔物を倒したというのに、なぜか二人は口論を始めてしまった。
仲間になったばかりの時と言い、フレアはどうしてこうすぐに誰かと喧嘩を始めてしまうのだろう。
リートと争っていた時は、二人共中身が幼い部分があるので子供の喧嘩のようなものだと納得していたが、リアスとの口論は少し予想外だった。
割と大人びているリアスのことだから、無難に流せるだろうに……なんで食って掛かるのだろう。
フレアはフレアで負けず嫌いだから引かないし……ってか、そもそもリアスを仲間にしようって言ったのはフレアなんだから、少しくらい仲良くすればいいのに。
止めるべきかと悩んでいると、リートがポンポンと私の肩を叩いて来た。
「あの二人は気にせずに先を急いではどうじゃ?」
「え? でも……」
「あやつらは勝手に付いて来ている分際なのじゃから、妾達が気を遣う必要はあるまい。付いて来れなかったのであれば、それはあやつらの責任じゃ」
リートはそう言うと、催促するように私の背中をポンポンと叩いた。
……まぁ、少し薄情のようにも聞こえるが、彼女の言うことにも一理ある。
何より彼女の言葉は遠回しに「あの二人置いてさっさと行こうぜ」と言っているようなもので、奴隷である私には、遠回しとは言え彼女の命令に逆らう権利など無い。
仕方なく、私はリートを背負い直し、ラシルスへの道を歩き始めた。
「ちょっと、何勝手に先行こうとしてるのよ」
しかし、ポンッと肩に手を置かれる感覚と共に、耳元でそんな声がした。
それに私は「ひゃぁッ!?」と情けない声を上げながら、バッと顔を上げた。
するとそこには、クスクスと楽しそうに笑うリアスがいた。
「フフッ、可愛い声ね。ひゃぁッ、ですって」
「わ、笑いごとじゃないよ……ビックリしたぁ……」
私の反応に、リアスは増々楽しそうに笑い出す。
それに呆れていた時、反対の肩に手が置かれた。
「しっかしひでぇなぁ……俺達を置いて行こうとしたのか?」
「いや、それは……」
「お主等が何やら言い争いをしていたからじゃろう。全く、どの口が先を急ぐだのほざくか」
フレアの言葉に答えられずにいると、リートがどこか呆れたような口調でそう言った。
……また言い争いを始める気じゃないだろうな……?
今の状況だと私が囲まれる形になるので、結構怖いのだが……。
「……まぁ、良いわ。くだらないことで言い争いをしていたのは事実だもの」
しかし、リアスが先に折れた。
彼女はヒラヒラと軽く両手を振り、私を見て小さく笑った。
「イノセが居心地悪そうにしているし、ね」
「ッ……」
緩く笑みを浮かべながら言うリアスに、私は息を呑んだ。
……気付いていたのか。
いや、彼女は割とこういう感情面では敏い部分があるし、当然と言えば当然なのかもしれないけど……。
「……バレてたんだ」
「えぇ。貴方のことなら何でも」
「あはは……ありがとう」
満面の笑みで言うリアスに、私は苦笑しながらもお礼を言っておいた。
まぁ、色々としんどかったのは事実なので、それに気付いてもらったことはありがたいだだだだだだ。
突然肩に激痛を感じ、私は顏を顰めた。
見ると、リートが強く私の肩を握り締めていることに気付いた。
「先を急ぐのであろう? 早く行くぞ」
「あ、あの、リートさん……? 何を……」
「行くぞ!」
不満そうに言いながら後頭部を叩いて来るリートに、私は「はいッ!」と情けなく返事をしつつ、大股で歩き出した。
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