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第3章:水の心臓編

067 明日に向けて

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「ふふっ……中々大漁じゃったな」

 夜。宿屋の一室にて、金貨が大量に詰まった小袋を両手で持ちながら、リートは上機嫌に言った。
 あの後、そういえば金が心配だから壁の石を持ち帰って売ろうという話をしていたのを思い出し、戦いの中で出来た瓦礫を持ち帰って質屋で売ったのだ。
 フレアの言っていたことは間違っていなかったようで、壁の石はそれなりに高額で売れた。
 と言うのも、どうやらダンジョンの壁にはリートの心臓から出た魔力が籠っているようで、その破片などは魔道具を作る為の魔石として使うことが出来るらしい。
 特に、私達が売った石は一番リートの心臓に近い部屋のものだった為に、籠っている魔力もかなり濃厚だった為、相場よりも高い値で売れた。

 そういえばこれは余談だが、私やリート達がダンジョンに入れたのは、リアスに操られていた時の私がダンジョンに入る為に地面を切り裂いて作った亀裂のおかげらしい。
 リートとフレアはその修復作業中に強引に侵入してきたらしく、脱出した後で町の人に注意されていた。
 ちなみに、ダンジョンの出口は封鎖されておらず、町から出てすぐの場所にあった。
 私とリアスがリート達と共に町の人達の前に出ると色々と厄介だと判断し、二人が注意を受けている間は影に隠れていた。
 人騒がせな……と呆れたいところだが、そもそも先に迷惑を掛けたのは私だったので、ここは何も言わないことにしておいた。

 本当なら、金を手に入れ次第すぐにでも次の町に向かいたいところではあったのだが、質屋を出るとすでに辺りが暗くなってしまっていた為に、一晩休んで明日の朝に出発することにした。
 手近な宿屋に入ったところ、四人部屋というものが無かったため、二人部屋を二部屋借りて眠ることにした。
 少し話し合って、私とリート、フレアとリアスに分かれて泊まることとなった。

「それだけあったら、しばらくはお金の心配はいらなそうだね」
「そうじゃのう……じゃが、リアスが増えたことを考えると、これからどうなるか分からぬ。油断禁物じゃ」
「まぁ、そうだね。お金が足りなくなったら困るし」
「それにお主のことじゃから、これからまた同行者が増えるかもしれんしのう」
「……否めない」

 どこか呆れた様子で言うリートに、私はそう答えながら目を逸らした。
 流石に二人もの心臓の守り人の同行を認めてしまっていると、今更否定することなんて出来ない。
 実際、今後も他の心臓の守り人に会った時に、同じような流れで同行を認めてしまうのが目に見えてるし。
 リートもそれを感じているのか、呆れたように溜息をつきながら、道具袋に金の入った小袋をしまった。

「まぁ良い。……あやつらのことを放っておけないという気持ちは、分からなくもないからのう」
「……リートがそんなこと言うなんて、なんか意
外」

 どこかしんみりした様子で言うリートに、私はついそう答えてしまった。
 すると、彼女はムッとした表情を浮かべ、「妾を何だと思っておる」と言った。
 何って……ワガママな女王様?
 って、正直に答えても怒らせるだけだろうし、何と答えるのが正解なのだろうか。

「……まぁ、あやつらが──たのは、妾のせいじゃからな」

 すると、リートは俯きながら、どこか暗い感じの声でそう呟いたのが聴こえた。
 小さな声だったので、途中がよく聴こえなかったな。
 私はすぐにパッと顔を上げて、「何?」と聞き返してみる。
 すると、彼女も同じように顔を上げ、不思議そうな表情をして私を見て来た。

「何、とは……何じゃ?」
「いや、さっき何か呟いたみたいだったから……何て言ったのかと思って」
「……別に大したことではない。気にするな」

 リートはそう言うと、静かに目を背けた。
 気にするな、って……気にするでしょう。
 中途半端に言葉が聴こえてしまったから、余計に何を言ったのか気になって仕方が無い。
 もやもやした気持ちを抱えていると、リートはハッとした表情を浮かべ、「そういえば」と言う。

「何かを忘れているような気がするが……何じゃったかのう」
「……?」

 一人呟くリートに、私はひとまず首を傾げて見せた。
 夕食は食べたし、風呂も入ったし、後はもう寝るだけだ。
 何かやっていないことなんてあったっけ……? と不思議に思っていると、リートがパッと私に視線を向けて来た。
 彼女はしばし私の顔を見つめた後で「そうじゃ」と言ってベッドから立ち上がり、こちらに向かって歩いて来た。

「えっ、ちょっ……!?」

 突然の接近に、私は驚きの声を上げながら、咄嗟に仰け反る。
 しかし、彼女はそんな私の反応などお構いなしに近付いてきて、肩を掴んで顔を近付け──「んんッ……!?」──唇を奪ってくる。
 突然の接吻に驚いたのも束の間、仰け反った体勢から立て直すことが出来ず、私はそのままバフッと仰向けの体勢でベッドに沈みこんだ。

『レベルUP!
 猪瀬こころはレベル95になった!』

 直後、そんな文字が目の前に表示される。
 私はそれに一瞬驚くが、すぐにステータスを表示させて、確認してみる。

 名前:猪瀬こころ Lv.95
 武器:奴隷の剣スレイヴソード
  願い:リートの奴隷になりたい。
  発動条件:リートを守っている間のみ力を発揮できる。
 HP:9500/9500
 MP:9010/9010
 SP:7700/7700
 攻撃力:9500/500
 防御力:9500/500
 俊敏性:9500/500
 魔法適性:0/0
 適合属性:火、水、土、林、風、光、闇
 スキル:ソードシールド(消費SP5)
     ファイアソード(消費SP7)
     ウォーターソード(消費SP7)
     ダークソード(消費SP7)
     ファイアボール(消費SP9)
     ウォーターボール(消費SP9)
     コンフューズソード(消費SP9)
     バーンスラッシュ(消費SP15)
     フローズンソード(消費SP15)
     ファントムソード(消費SP15)
     フレイムソード(消費SP20)
     アイスブレード(消費SP20)
     バニシングソード(消費SP20)
     ボルケイノソード(消費SP25)
     アクアウィップ(消費SP25)
     シャドウタック(消費SP25)
     グレネードスラッシュ(消費SP25)
     ブリザードウィンド(消費SP25)
     ダークネスリマイン(消費SP25)
     インプションキャノン(消費SP30)
     ウォーターロック(消費SP30)
     ディスピアーブレイク(消費SP30)
     サンシャインブラスター(消費SP40)
     アイスロックボム(消費SP40)
     スピリットディストラクション(消費SP40)

「……なるほど……」

 ステータス画面を見つめながら、私はそう小さく呟いた。
 フレアを倒した時にもやった、魔力を送ってくるやつだろう。
 伸びたステータスや増えたスキルなどをある程度確認した私は、ステータス画面を閉じ、目の前に立つリートを見つめた。
 彼女はそれに、どこか不敵な笑みを浮かべて口を開いた。

「妾を心配させた罰じゃ」

 ……罰になってないんだよなぁ。
 すんでのところまで出かけたその言葉を、私は口に出す直前で飲み込み、目を逸らした。
 そんな私の反応に気付いているのか否か、リートはクルリと踵を返し、部屋の電気を消しに行く。
 私はベッドの上に倒れたまま、電気が暗くなるのをぼんやりと眺めつつ小さく息をつき、額に手を当てた。

 キスが罰になってない、と考えるのは……おかしいことなのだろうか?
 前にされた時も、特段嫌な感情は湧かなかった。
 あの時も罰だと言っていたが、罰にしては別に嫌な気分にはなっていないし、ステータスやスキルが増えている分を踏まえると、むしろご褒美だ……って、この言い方だと、なんか変態みたいだな。
 しかし、前回のキスが嫌でなかったのは事実だし、今回はむしろ……──。

「イ~ノセっ」
「ん……? ……うぐぇぁッ」

 私の思考を遮るような声に反応した時、突然体の上に何かが覆い被さってきた。
 突然の出来事に私は驚き、変な声を上げてしまう。
 その間に、覆い被さって来た何かはモゾモゾと動き、暗い中で私の顔を覗き込んで来た。
 ……いや、何か、というか……誰か、か……。

「何をボサッとしておるのじゃ? 寝ないのか?」
「いや……あのさ……」

 あの、キスで魔力を送ってくるシステムって何とかならないの?
 そう聞こうとして、やはり寸前で飲み込んでしまう。
 なんで言えなかったのかは分からないが、なんとなく、言いたくないと思ったのだ。
 私は少し考えて目を逸らし、「何でも無い」と続けた。
 すると、リートは少し間を置いてから「ほう……」と溜息のように呟いた。

「それは、何かある奴の言うことではないのか?」
「揚げ足取らないでよ……本当に何でも無いから」

 私はそう言いながら、リートの体を軽く押し返すようにした。
 すると、彼女は私の手を掴み、「たまには良いではないか」と言ってきた。

「これも罰の続きだと思え。折角の二人きりなのじゃからな」
「いや、これのどこが罰に……ていうか、ダブルベッドじゃないから狭いし……」
「一々うるさいのう。奴隷に拒否権は無いぞ?」
「うわ、久々に聞いたそれ」

 文句のように言いつつも、リートのその言葉に私はめっぽう弱いのと今日の疲れがあり、すぐに抵抗する気力を失ってしまった。
 私は諦めたように溜息をつき、リートの体を抱き、二人で枕の上に頭を置くように体勢を整えた。
 一人分のベッドの上に二人で乗ると、重さのせいか、少し動くだけでギシギシと軋むような音がした。
 私はともかく、リートは華奢だから大丈夫かと思ったけど……そうでもないか。

「ふふ、明日からは次の心臓がある町までの長距離移動じゃからな。充電じゃ」

 しかし、当の本人は特に気にしていないみたいで、私の体を抱き枕のように抱きしめながらどこか上機嫌な口調でそう言った。
 ……まぁ、彼女が楽しそうで何よりです。
 そんな風に考えつつ、ふと気になったことがあり、私は口を開いた。

「そういえば、次の心臓はどこにあるの? ……また海を渡るの?」
「うん? いや、同じ大陸の中にあるから、今回は海を渡る必要は無いぞ」
「そうなんだ」
「次は、ここから東に行った所にある、ラシルスという国じゃ。そこに……三つ目の、心臓がある」

 リートはそう言って大きく欠伸をして、目を瞑った。
 それからすぐに、寝息を立て始めた。
 ……疲れすぎてしまったみたいだ。
 私は彼女の頭に手を置き、ポンポンと軽く撫でてやる。
 すると、リートは「んんッ……」と小さく呻き、私の服をキュッと強く握り締めた。
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