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第3章:水の心臓編
064 リアス③
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「リー……ト……?」
「イノセ……こんな、所に……いたの、か……」
リートは荒い呼吸を繰り返しながら、途切れ途切れな言葉でそう言ってくる。
……疲れすぎじゃないか……?
よく見ると、彼女の服は裾が少しボロボロになっていたり、所々に焦げ跡があるみたいだ。
一体何を、と困惑していた時、リートの背後から赤髪の少女が駆けこんできた。
「おいリートッ! 急に一人で行くんじゃ……ねぇ……?」
怒鳴るように言いながら入ってきたフレアは、壁に磔にされている私に顔を向けると、すぐに動きを止めた。
しばらく固まっていた彼女は、やがてパッとその表情を輝かせると、「おぉ!」と声を上げた。
「イノセこんな所にいたのかッ! 心配したんだぞッ!」
「へ? 心配……?」
「全く、あまり心配を掛けるでないぞ。大体なんでこんな……」
言いながらリートがこちらに歩み寄ってこようとした時、私と二人の間に、一人の影が立った。
それが誰なのか理解するより先に、その人は薙刀のような武器をどこからか取り出し、リートに向かって刃先を向ける。
「感動の再会のところ悪いけど……そう素直に通すと思った?」
リアスはそう言いながら、薙刀をしっかりと構え、刃をリートの喉元に突き付ける。
それに、リートはピタッと足を止め、目を丸くしてリアスを見つめた。
しかし、すぐにその目をジトッと細め、続けた。
「……やはりお主の仕業か、水の心臓」
「それは私が守っているものの名称でしょう? 私には、リアスっていうちゃんとした名前があるんだから」
「そんなことに興味は無い。……妾の邪魔をするなら、容赦はせんぞ」
ドスの効いた声で放たれたその言葉に、私は息を呑んだ。
ゾクッとした寒気が背筋を走り、冷や汗が頬を伝う。
……忘れていた。
最近一緒に過ごしていて気を許していたが、リートもリアスやフレアと同じで、元は一つのダンジョンの最奥に巣食うラスボスだったのだ。
リートはリアスを睨みながら、左手に炎を纏わせた。
それに、リアスは薙刀の柄を握り締め直す。
「はぁぁぁッ!」
静寂を破り、先制攻撃を行ったのは……フレアだった。
ヌンチャクに炎を纏わせ、薙刀を構えるリアスに向かって振るう。
それに、リアスはリートから薙刀の刃先を外し、フレアに応戦する。
リアスはすぐさま薙刀の刃に水を纏わせ、フレアが振るったヌンチャクに打ち付けるように振るった。
火と水が二人の間でぶつかり合い、水蒸気を発しながら金属音を響かせる。
二人が激しくしのぎを削っている間に、リートがリアスの隣を擦り抜けて、私の元に駆け寄ってこようとした。
「イノセッ……──ッ!?」
私に手を伸ばそうとしたその時、リアスの持っていた薙刀の柄が、リートの体を殴り上げる。
直後、彼女の表情は痛みに歪み、そのまま後ろに吹っ飛ぶ。
華奢な体がくの字に曲がり、岩の壁にぶち当たって崩れ落ちる。
その光景に、私は言葉を失った。
「リートッ!」
フレアはすぐに戦闘を中断し、リートの元に駆け寄ろうとする。
しかし、リアスが間髪を入れずに薙刀に纏わせた水を鞭のようにしならせて、フレアに攻撃をする。
そのせいでフレアがリートに近付くことが出来ず、迎撃に精一杯となってしまう。
リートは地面に突っ伏したまま、痛みに呻いている。
「リート……ッ!」
名前を呼びながら、私は彼女の元に駆け寄ろうとする。
しかし、手枷や足枷のせいで、磔状態から身動きを取ることが出来なかった。
どれだけ力を込めても枷がギシギシと軋む音を立てるのみで、全く動けない。
「ッ……リート……ッ! しっかりして……ッ!」
壁に磔にされたまま、私はそう叫んだ。
すると、リートはビクッと肩を震わせ、腹を押さえたまま顔を上げて私を見つめた。
痛みに歪んだ彼女の表情に、私は僅かに息を呑んだ。
こんなに苦しそうな彼女の顔、初めて見た……。
一人怯んでいると、彼女は腹を押さえたままフラフラと立ち上がり、ゆっくりと口を開いた。
「大、丈夫……じゃ……この、くらい……掠り傷、じゃ……」
「リートッ! 避けろッ!」
フレアの言葉に、リートは咄嗟にその場にしゃがみ込んだ。
直後、彼女の頭があった場所に、幾つもの氷の刃が突き刺さり壁を削った。
何とか直撃は免れたか……と安堵したのも束の間、リートが肩を押さえて呻いたのが分かった。
「り、リート……!?」
「だ……大丈夫じゃと、言っているで、あろう……! じゃから、そんな……」
リートが何かを言いかけた時、どこからか飛んできた水の球が、彼女の頭に直撃した。
パァンッ! と破裂音のような音を立て、彼女の華奢な体はグラリと大きく揺れ、その場に倒れた。
「リートッ!?」
「……話は済んだ……?」
どこからか聴こえた声に、私はバッと顔を向ける。
そこには、リートの方に手を向けたままのリアスが、緩く笑みを浮かべながら立っていた。
彼女の体には所々に火傷があり、服も至る所に焦げ跡があった。
よく見れば、彼女の前には、氷の刃のようなもので滅多刺しにされて突っ伏したフレアの姿があった。
倒れても尚、彼女の手はヌンチャクをしっかりと握り締めていた。
「……なん……で……」
「流石に二人を相手にすると、骨が折れるわね。……思っていたよりも、苦戦したわ……」
言いながら、リアスは前髪を掻き上げる。
リートはともかく、フレアは相当強いはずだ。
それなのに、こんな無残に負けるだなんて……。
「……彼女が強いのは認めるわ。でも、少し強引過ぎるというか、力任せなのよね。能力が強くても、その力の使い方が分かっていなければ意味が無い」
私の疑問に答えるように、リアスが言う。
彼女はフレアの前でしゃがみ込み、目の前で倒れ伏せている少女を見下ろしながら、続けた。
「後は、魔力の相性も悪いわね。火と水では分が悪いわ。……水は、火を消してしまうもの」
吐き捨てるように言うと、リアスはゆっくりと立ち上がり、頭から血を流してぐったりしているリートの前まで歩み寄った。
気を失っているリートを見下ろしながら、彼女は続けた。
「この子はそもそも、貴方に気を取られ過ぎていた。ただでさえ、戦闘力自体は皆無に近いのに……」
「……二人をどうするつもり……?」
淡々と語るリアスに、私はそう聞き返した。
今は、二人の敗因など興味も無いし、聞きたくない。
問題は、二人の処遇だった。
「……ふぅん……?」
そんな私の顔を見て、リアスはどこか悪戯っぽい笑みを浮かべた。
彼女のその声に、どんな意図があったのかは分からない。
ただ、なんだか嫌な予感がして、私は静かに次の言葉を待つ。
すると、彼女はクスッと小さく笑みを浮かべてしゃがみ込み、近くにいたリートの頬を軽く叩いた。
「ッ……」
頬を叩かれ、リートはゆっくりと瞼を開く。
まだ若干虚ろな様子の目に不安になるが、リアスは気にせずに口を開く。
「ねぇ……取引しない?」
「……取引、じゃと……?」
リアスの言葉に、リートは重たい声でそう聞き返す。
すると、リアスは笑顔で頷いて立ち上がり、ゆっくりとこちらに近付いてきて……私の横を通り過ぎ、壁に出来た出っ張りの上に乗っている、リートの心臓を手に取った。
彼女はそれをリートによく見えるように掲げ、笑顔で口を開いた。
「もしも私の出す条件を飲んでくれたら、この心臓をあげるわ」
笑顔のまま放たれたその言葉に、私は「えッ……!?」と声を漏らした。
リートも驚いたのか、血が出ている箇所を手で押さえながらも、目を見開いてリアスを見つめた。
私達の反応に、リアスは満面の笑みを浮かべて、リートの心臓を両手で包み込むように持って続けた。
「元々これが目的でしょう? それじゃあ、悪くない提案だと思うのだけれど……」
「……条件とは、何じゃ……?」
リートが掠れた声で聞くと、リアスは待ってましたと云わんばかりに表情を明るくした。
「心臓をあげる代わりに……この子を頂戴?」
彼女はそう言うと、私の肩にポンッと手を置いた。
「イノセ……こんな、所に……いたの、か……」
リートは荒い呼吸を繰り返しながら、途切れ途切れな言葉でそう言ってくる。
……疲れすぎじゃないか……?
よく見ると、彼女の服は裾が少しボロボロになっていたり、所々に焦げ跡があるみたいだ。
一体何を、と困惑していた時、リートの背後から赤髪の少女が駆けこんできた。
「おいリートッ! 急に一人で行くんじゃ……ねぇ……?」
怒鳴るように言いながら入ってきたフレアは、壁に磔にされている私に顔を向けると、すぐに動きを止めた。
しばらく固まっていた彼女は、やがてパッとその表情を輝かせると、「おぉ!」と声を上げた。
「イノセこんな所にいたのかッ! 心配したんだぞッ!」
「へ? 心配……?」
「全く、あまり心配を掛けるでないぞ。大体なんでこんな……」
言いながらリートがこちらに歩み寄ってこようとした時、私と二人の間に、一人の影が立った。
それが誰なのか理解するより先に、その人は薙刀のような武器をどこからか取り出し、リートに向かって刃先を向ける。
「感動の再会のところ悪いけど……そう素直に通すと思った?」
リアスはそう言いながら、薙刀をしっかりと構え、刃をリートの喉元に突き付ける。
それに、リートはピタッと足を止め、目を丸くしてリアスを見つめた。
しかし、すぐにその目をジトッと細め、続けた。
「……やはりお主の仕業か、水の心臓」
「それは私が守っているものの名称でしょう? 私には、リアスっていうちゃんとした名前があるんだから」
「そんなことに興味は無い。……妾の邪魔をするなら、容赦はせんぞ」
ドスの効いた声で放たれたその言葉に、私は息を呑んだ。
ゾクッとした寒気が背筋を走り、冷や汗が頬を伝う。
……忘れていた。
最近一緒に過ごしていて気を許していたが、リートもリアスやフレアと同じで、元は一つのダンジョンの最奥に巣食うラスボスだったのだ。
リートはリアスを睨みながら、左手に炎を纏わせた。
それに、リアスは薙刀の柄を握り締め直す。
「はぁぁぁッ!」
静寂を破り、先制攻撃を行ったのは……フレアだった。
ヌンチャクに炎を纏わせ、薙刀を構えるリアスに向かって振るう。
それに、リアスはリートから薙刀の刃先を外し、フレアに応戦する。
リアスはすぐさま薙刀の刃に水を纏わせ、フレアが振るったヌンチャクに打ち付けるように振るった。
火と水が二人の間でぶつかり合い、水蒸気を発しながら金属音を響かせる。
二人が激しくしのぎを削っている間に、リートがリアスの隣を擦り抜けて、私の元に駆け寄ってこようとした。
「イノセッ……──ッ!?」
私に手を伸ばそうとしたその時、リアスの持っていた薙刀の柄が、リートの体を殴り上げる。
直後、彼女の表情は痛みに歪み、そのまま後ろに吹っ飛ぶ。
華奢な体がくの字に曲がり、岩の壁にぶち当たって崩れ落ちる。
その光景に、私は言葉を失った。
「リートッ!」
フレアはすぐに戦闘を中断し、リートの元に駆け寄ろうとする。
しかし、リアスが間髪を入れずに薙刀に纏わせた水を鞭のようにしならせて、フレアに攻撃をする。
そのせいでフレアがリートに近付くことが出来ず、迎撃に精一杯となってしまう。
リートは地面に突っ伏したまま、痛みに呻いている。
「リート……ッ!」
名前を呼びながら、私は彼女の元に駆け寄ろうとする。
しかし、手枷や足枷のせいで、磔状態から身動きを取ることが出来なかった。
どれだけ力を込めても枷がギシギシと軋む音を立てるのみで、全く動けない。
「ッ……リート……ッ! しっかりして……ッ!」
壁に磔にされたまま、私はそう叫んだ。
すると、リートはビクッと肩を震わせ、腹を押さえたまま顔を上げて私を見つめた。
痛みに歪んだ彼女の表情に、私は僅かに息を呑んだ。
こんなに苦しそうな彼女の顔、初めて見た……。
一人怯んでいると、彼女は腹を押さえたままフラフラと立ち上がり、ゆっくりと口を開いた。
「大、丈夫……じゃ……この、くらい……掠り傷、じゃ……」
「リートッ! 避けろッ!」
フレアの言葉に、リートは咄嗟にその場にしゃがみ込んだ。
直後、彼女の頭があった場所に、幾つもの氷の刃が突き刺さり壁を削った。
何とか直撃は免れたか……と安堵したのも束の間、リートが肩を押さえて呻いたのが分かった。
「り、リート……!?」
「だ……大丈夫じゃと、言っているで、あろう……! じゃから、そんな……」
リートが何かを言いかけた時、どこからか飛んできた水の球が、彼女の頭に直撃した。
パァンッ! と破裂音のような音を立て、彼女の華奢な体はグラリと大きく揺れ、その場に倒れた。
「リートッ!?」
「……話は済んだ……?」
どこからか聴こえた声に、私はバッと顔を向ける。
そこには、リートの方に手を向けたままのリアスが、緩く笑みを浮かべながら立っていた。
彼女の体には所々に火傷があり、服も至る所に焦げ跡があった。
よく見れば、彼女の前には、氷の刃のようなもので滅多刺しにされて突っ伏したフレアの姿があった。
倒れても尚、彼女の手はヌンチャクをしっかりと握り締めていた。
「……なん……で……」
「流石に二人を相手にすると、骨が折れるわね。……思っていたよりも、苦戦したわ……」
言いながら、リアスは前髪を掻き上げる。
リートはともかく、フレアは相当強いはずだ。
それなのに、こんな無残に負けるだなんて……。
「……彼女が強いのは認めるわ。でも、少し強引過ぎるというか、力任せなのよね。能力が強くても、その力の使い方が分かっていなければ意味が無い」
私の疑問に答えるように、リアスが言う。
彼女はフレアの前でしゃがみ込み、目の前で倒れ伏せている少女を見下ろしながら、続けた。
「後は、魔力の相性も悪いわね。火と水では分が悪いわ。……水は、火を消してしまうもの」
吐き捨てるように言うと、リアスはゆっくりと立ち上がり、頭から血を流してぐったりしているリートの前まで歩み寄った。
気を失っているリートを見下ろしながら、彼女は続けた。
「この子はそもそも、貴方に気を取られ過ぎていた。ただでさえ、戦闘力自体は皆無に近いのに……」
「……二人をどうするつもり……?」
淡々と語るリアスに、私はそう聞き返した。
今は、二人の敗因など興味も無いし、聞きたくない。
問題は、二人の処遇だった。
「……ふぅん……?」
そんな私の顔を見て、リアスはどこか悪戯っぽい笑みを浮かべた。
彼女のその声に、どんな意図があったのかは分からない。
ただ、なんだか嫌な予感がして、私は静かに次の言葉を待つ。
すると、彼女はクスッと小さく笑みを浮かべてしゃがみ込み、近くにいたリートの頬を軽く叩いた。
「ッ……」
頬を叩かれ、リートはゆっくりと瞼を開く。
まだ若干虚ろな様子の目に不安になるが、リアスは気にせずに口を開く。
「ねぇ……取引しない?」
「……取引、じゃと……?」
リアスの言葉に、リートは重たい声でそう聞き返す。
すると、リアスは笑顔で頷いて立ち上がり、ゆっくりとこちらに近付いてきて……私の横を通り過ぎ、壁に出来た出っ張りの上に乗っている、リートの心臓を手に取った。
彼女はそれをリートによく見えるように掲げ、笑顔で口を開いた。
「もしも私の出す条件を飲んでくれたら、この心臓をあげるわ」
笑顔のまま放たれたその言葉に、私は「えッ……!?」と声を漏らした。
リートも驚いたのか、血が出ている箇所を手で押さえながらも、目を見開いてリアスを見つめた。
私達の反応に、リアスは満面の笑みを浮かべて、リートの心臓を両手で包み込むように持って続けた。
「元々これが目的でしょう? それじゃあ、悪くない提案だと思うのだけれど……」
「……条件とは、何じゃ……?」
リートが掠れた声で聞くと、リアスは待ってましたと云わんばかりに表情を明るくした。
「心臓をあげる代わりに……この子を頂戴?」
彼女はそう言うと、私の肩にポンッと手を置いた。
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