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第3章:水の心臓編
050 変な意味ではない
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「起きろ~」
ユサユサと体を揺すられ、私はゆっくりと瞼を開いた。
顔を上げると、しゃがみ込んでこちらを見下ろすフレアの姿があった。
彼女は私を見てニカッと笑い、口を開いた。
「見張り、交代の時間だぞ」
「あぁ……ありがとう」
フレアの言葉に、私はそう答えつつ目を擦った。
落ち葉で作った簡易布団は、ハッキリ言ってほとんど効果が無かった。
落ち葉はどれだけ重ねてもせいぜい薄いタオル程度の薄さしか無く、結局ほとんど固い地面の上で寝ているようなものだった。
感覚的にはずっと浅い眠りが続いているような感じで、正直まともに眠れた感覚がしなかった。
とはいえ、それでも見張りをしないわけにもいかないので、私は渋々起き上がった。
「ふわぁ……んじゃあ、後はよろしく」
「はいはい」
欠伸混じりに言うフレアに、私はそう返した。
すると、彼女は自分の簡易布団の上に寝っ転がり、瞬く間に寝息を立て始めた。
いや、寝るの早っ……というか、よくこの落ち葉の上で眠れるな。
そう呆れつつ、私は焚火の前に腰を下ろし、少し弱くなっていた火に薪を追加した。
パチパチと乾いた音を立てながら焚火が燃えるのを見つつ、私は息をつき、ゆっくりと口を開いた。
「……眠れないの? リート」
「……」
私の言葉に、こちらに背を向ける形で横になっていたリートは、コロンと寝返りを打ってこちらに顔を向けてきた。
彼女はパチパチと二度瞬きをしてから、口を開く。
「……よく、妾が起きていることに気付いたのう」
「どれだけ一緒に寝てると思ってるの。……呼吸とかで、それくらいは分かるって」
私の言葉に、リートはフッと小さく笑みを浮かべ、「それもそうか」と答えた。
それに私は笑って、続けた。
「隣、来る? ……フレアは寝たみたいだし」
「……あんな奴、別に起きていようが眠っていようが関係無いわ」
リートはそう言いつつ立ち上がり、トテトテとこちらまで歩いて来て、隣に腰かけた。
肩が触れ合うくらいまで密着した彼女は、膝を抱えるようにして座り、ぼんやりした様子で焚火を見つめた。
それに、私は苦笑しつつ口を開く。
「でも、二人仲悪いじゃん。フレアが起きてたらどうせ喧嘩する癖に」
「……否定はせん」
「あはは……出来ればして欲しかったなぁ」
小さく呟くように答えるリートに、私はそう答えながら苦笑した。
ホント、二人の仲の悪さは何なんだろう。
出来れば仲良くして欲しいんだけどなぁ。
「奴とは馬が合わんというか、やかましいのは好かんのじゃ。……イノセのように、大人しい奴の方が良い」
「……自分の言うことを聞かせられるから?」
「何でも言うことを聞いてくれる優秀な奴隷を持って妾は嬉しいぞ」
「それはようござんした」
ホントに彼女はブレないな、と呆れてしまう。
とはいえ、リートが嫌っているからと言って、フレアを追い出すのは気が引ける。
フレアの存在には、色々と助けられている部分がある。
リートをおんぶすることで両手が塞がる私に代わって魔物を倒してくれたり、力仕事を分担出来たりと、彼女がいる利点は大きい。
その代わり、リートと喧嘩するせいで、肉体面で色々と助けてもらう代わりに精神面への負担が増しているんだけど……。
「……やっぱり、二人には仲良くして欲しいよ」
今日一日で削られたメンタルのことを考えると、それが私の本音だった。
ただでさえリートに振り回されて結構疲れるのに、今後はそれに加えて二人の喧嘩が入ると考えると、先が思いやられる。
考えるだけで胃が痛いよ、私は。
「これから三人で旅していくことを考えたら、毎日喧嘩をするよりも、皆で仲良くした方が絶対良いと思うんだけど……」
そこまで言って、私はハッと我に返る。
しまった。少し、説教じみたことを言ってしまったかもしれない。
プライドが高い彼女のことだから、奴隷の癖に出しゃばり過ぎじゃ~とか怒ってきそうだ。
どう言い訳をしたものか、と悩んでいた時だった。
「……イノセは、その方が嬉しいのか?」
ポツリ、と呟くように、リートはそう聞いて来る。
まさかの言葉に、私は彼女を見つめたまま、ポカンと呆けてしまった。
えっと……?
「まぁ……嬉しい、けど……」
「……そうか」
私の言葉に、リートはそう呟きながら、膝を抱え直した。
それから膝を抱えた両手の中に顔を埋め、どこか潤んだ感じの目で焚火を見つめながら、ゆっくりと続けた。
「……善処する」
さらなる予想外の言葉に、私は口を開けたまま呆然とした。
……どうした?
今、彼女は……善処すると言ったのか?
フレアと仲良くすることを?
その場しのぎの口約束……とかでは、無いと思う。
いや、約束を守らない可能性は充分あるんだけど……リートは、嫌な物はハッキリ嫌という性格だ。
私がしつこく「仲直りしろ!」とか言ったら、仕方なくその場しのぎで嫌々承知したかもしれないが、今はそこまで強要はしていない。
普段のリートなら、ハッキリ断ると思うのだが……。
「……イノセは」
一人呆けていた時、リートがゆっくりと続けた。
それに、私はビクッと肩を震わせて硬直する。
すると、彼女は一度私を見てから、再度焚火に目を戻して続けた。
「妾とフレアだったら……どっちが好きじゃ?」
「リート」
未だに現実が受け止めきれずに、ほとんど放心状態だった私は、ほぼ反射的にそう答えた。
それに、リートはバッと顔を上げ、目を丸くして私を見つめた。
彼女の反応に、私はハッと我に返り、「いやッ」と慌てて続けた。
「ほら、フレアはまだ昨日仲間になったばかりだし……リートの方が、一緒にいる時間が長いからッ……」
「あ、あぁ……」
「それに、リートには色々、助けられてるし……だから、その……別に、変な意味では……」
そう弁解しつつ、私は頬を引きつらせた。
なんか、慌てて色々言い過ぎて、逆に怪しくなっていないか?
言ったことは全部事実ではあるし、実際変な意味があったわけではないが、言い方のせいで謎の怪しさが出ているのを自覚する。
私の言葉に、リートはしばらくポカンとしていたが、やがてプハッと息を吐くように笑った。
「はははっ! 何を慌てておる!」
「いや、私もなんか、分からなくて……」
「ふふっ……大体、変な意味とは何じゃ? 好きに変な意味も何も無いじゃろうに」
「そりゃあ、恋愛的な意味での好きとか?」
私の言葉に、リートの表情がピクッと強張った。
あれ? 何か、変なこと言ったか?
不思議に思っていると、リートはしばらく目を丸くして私を見つめたかと思うと、やがてギョッとしたような表情を浮かべた。
「なッ……何を言っておる!? お主は!?」
「だ、だから変な意味じゃないって言ってるじゃん! 私は、あくまで、フレアよりはリートの方が好きってだけで!」
「わ、分かったからそれ以上言うな! 馬鹿イノセ!」
「ばッ……!?」
謎の侮辱に、私は固まる。
その間に、リートは縮こまるように膝を抱え、顔を背けた。
「全く……好きとか平気で言うでない。心臓が持たんわ」
「だから、変な意味では……」
「とにかく、フレアにはそういうこと言ったらダメじゃぞ」
ビシッとこちらを指さしながら言うリートに、私は目を見開いた。
いや、まぁ、別に言うつもりは無いけど……。
今回のも、リートに聞かれたから答えただけのことなのに……理不尽だ。
「分かったよ。言わない」
「……ふふっ。それで良い」
私の言葉に、リートはどこか上機嫌な様子で言いながら、どこか楽しそうな笑みを浮かべた。
ホントに、彼女の思考は読めないな。
私はそう呆れつつ、近くに置いてあった薪を手に取り、焚火に追加した。
小さくなっていた炎が強くなり、明るく周りを照らす。
その光景を見ていた時、クイクイと袖を引っ張られた。
「……ん?」
顔を向けた時、リートがこちらにポフッと体を預けてきた。
首筋に顔を埋めるようにして凭れ掛かってくるリートに、私はどうすれば良いのか分からず固まってしまう。
すると、彼女は笑うように小さく息を吐き、続けた。
「妾もお主のこと、フレアよりは好きじゃぞ」
「……急にどうしたの?」
「ふふ、なんとなくじゃ」
そう言って笑いながら、彼女はまるで頭を置くのに良い場所を探るかのように、頭をグリグリと動かした。
全く、本当に自由な人だ。
私はそう呆れつつ、リートの背中に手を回した。
ただ、今は少しだけ、彼女の自由さに救われたかもしれない。
自分の心臓の音が早くなるのを感じながら、そんな風に考える。
これも、別に変な意味ではない……はずだ。
誰かに直接好きとか言われたのが初めてだったから、動揺しているだけだ。
頬に空いている方の手の甲を当てながら、私は小さく口を開いた。
「……あっつ……」
ユサユサと体を揺すられ、私はゆっくりと瞼を開いた。
顔を上げると、しゃがみ込んでこちらを見下ろすフレアの姿があった。
彼女は私を見てニカッと笑い、口を開いた。
「見張り、交代の時間だぞ」
「あぁ……ありがとう」
フレアの言葉に、私はそう答えつつ目を擦った。
落ち葉で作った簡易布団は、ハッキリ言ってほとんど効果が無かった。
落ち葉はどれだけ重ねてもせいぜい薄いタオル程度の薄さしか無く、結局ほとんど固い地面の上で寝ているようなものだった。
感覚的にはずっと浅い眠りが続いているような感じで、正直まともに眠れた感覚がしなかった。
とはいえ、それでも見張りをしないわけにもいかないので、私は渋々起き上がった。
「ふわぁ……んじゃあ、後はよろしく」
「はいはい」
欠伸混じりに言うフレアに、私はそう返した。
すると、彼女は自分の簡易布団の上に寝っ転がり、瞬く間に寝息を立て始めた。
いや、寝るの早っ……というか、よくこの落ち葉の上で眠れるな。
そう呆れつつ、私は焚火の前に腰を下ろし、少し弱くなっていた火に薪を追加した。
パチパチと乾いた音を立てながら焚火が燃えるのを見つつ、私は息をつき、ゆっくりと口を開いた。
「……眠れないの? リート」
「……」
私の言葉に、こちらに背を向ける形で横になっていたリートは、コロンと寝返りを打ってこちらに顔を向けてきた。
彼女はパチパチと二度瞬きをしてから、口を開く。
「……よく、妾が起きていることに気付いたのう」
「どれだけ一緒に寝てると思ってるの。……呼吸とかで、それくらいは分かるって」
私の言葉に、リートはフッと小さく笑みを浮かべ、「それもそうか」と答えた。
それに私は笑って、続けた。
「隣、来る? ……フレアは寝たみたいだし」
「……あんな奴、別に起きていようが眠っていようが関係無いわ」
リートはそう言いつつ立ち上がり、トテトテとこちらまで歩いて来て、隣に腰かけた。
肩が触れ合うくらいまで密着した彼女は、膝を抱えるようにして座り、ぼんやりした様子で焚火を見つめた。
それに、私は苦笑しつつ口を開く。
「でも、二人仲悪いじゃん。フレアが起きてたらどうせ喧嘩する癖に」
「……否定はせん」
「あはは……出来ればして欲しかったなぁ」
小さく呟くように答えるリートに、私はそう答えながら苦笑した。
ホント、二人の仲の悪さは何なんだろう。
出来れば仲良くして欲しいんだけどなぁ。
「奴とは馬が合わんというか、やかましいのは好かんのじゃ。……イノセのように、大人しい奴の方が良い」
「……自分の言うことを聞かせられるから?」
「何でも言うことを聞いてくれる優秀な奴隷を持って妾は嬉しいぞ」
「それはようござんした」
ホントに彼女はブレないな、と呆れてしまう。
とはいえ、リートが嫌っているからと言って、フレアを追い出すのは気が引ける。
フレアの存在には、色々と助けられている部分がある。
リートをおんぶすることで両手が塞がる私に代わって魔物を倒してくれたり、力仕事を分担出来たりと、彼女がいる利点は大きい。
その代わり、リートと喧嘩するせいで、肉体面で色々と助けてもらう代わりに精神面への負担が増しているんだけど……。
「……やっぱり、二人には仲良くして欲しいよ」
今日一日で削られたメンタルのことを考えると、それが私の本音だった。
ただでさえリートに振り回されて結構疲れるのに、今後はそれに加えて二人の喧嘩が入ると考えると、先が思いやられる。
考えるだけで胃が痛いよ、私は。
「これから三人で旅していくことを考えたら、毎日喧嘩をするよりも、皆で仲良くした方が絶対良いと思うんだけど……」
そこまで言って、私はハッと我に返る。
しまった。少し、説教じみたことを言ってしまったかもしれない。
プライドが高い彼女のことだから、奴隷の癖に出しゃばり過ぎじゃ~とか怒ってきそうだ。
どう言い訳をしたものか、と悩んでいた時だった。
「……イノセは、その方が嬉しいのか?」
ポツリ、と呟くように、リートはそう聞いて来る。
まさかの言葉に、私は彼女を見つめたまま、ポカンと呆けてしまった。
えっと……?
「まぁ……嬉しい、けど……」
「……そうか」
私の言葉に、リートはそう呟きながら、膝を抱え直した。
それから膝を抱えた両手の中に顔を埋め、どこか潤んだ感じの目で焚火を見つめながら、ゆっくりと続けた。
「……善処する」
さらなる予想外の言葉に、私は口を開けたまま呆然とした。
……どうした?
今、彼女は……善処すると言ったのか?
フレアと仲良くすることを?
その場しのぎの口約束……とかでは、無いと思う。
いや、約束を守らない可能性は充分あるんだけど……リートは、嫌な物はハッキリ嫌という性格だ。
私がしつこく「仲直りしろ!」とか言ったら、仕方なくその場しのぎで嫌々承知したかもしれないが、今はそこまで強要はしていない。
普段のリートなら、ハッキリ断ると思うのだが……。
「……イノセは」
一人呆けていた時、リートがゆっくりと続けた。
それに、私はビクッと肩を震わせて硬直する。
すると、彼女は一度私を見てから、再度焚火に目を戻して続けた。
「妾とフレアだったら……どっちが好きじゃ?」
「リート」
未だに現実が受け止めきれずに、ほとんど放心状態だった私は、ほぼ反射的にそう答えた。
それに、リートはバッと顔を上げ、目を丸くして私を見つめた。
彼女の反応に、私はハッと我に返り、「いやッ」と慌てて続けた。
「ほら、フレアはまだ昨日仲間になったばかりだし……リートの方が、一緒にいる時間が長いからッ……」
「あ、あぁ……」
「それに、リートには色々、助けられてるし……だから、その……別に、変な意味では……」
そう弁解しつつ、私は頬を引きつらせた。
なんか、慌てて色々言い過ぎて、逆に怪しくなっていないか?
言ったことは全部事実ではあるし、実際変な意味があったわけではないが、言い方のせいで謎の怪しさが出ているのを自覚する。
私の言葉に、リートはしばらくポカンとしていたが、やがてプハッと息を吐くように笑った。
「はははっ! 何を慌てておる!」
「いや、私もなんか、分からなくて……」
「ふふっ……大体、変な意味とは何じゃ? 好きに変な意味も何も無いじゃろうに」
「そりゃあ、恋愛的な意味での好きとか?」
私の言葉に、リートの表情がピクッと強張った。
あれ? 何か、変なこと言ったか?
不思議に思っていると、リートはしばらく目を丸くして私を見つめたかと思うと、やがてギョッとしたような表情を浮かべた。
「なッ……何を言っておる!? お主は!?」
「だ、だから変な意味じゃないって言ってるじゃん! 私は、あくまで、フレアよりはリートの方が好きってだけで!」
「わ、分かったからそれ以上言うな! 馬鹿イノセ!」
「ばッ……!?」
謎の侮辱に、私は固まる。
その間に、リートは縮こまるように膝を抱え、顔を背けた。
「全く……好きとか平気で言うでない。心臓が持たんわ」
「だから、変な意味では……」
「とにかく、フレアにはそういうこと言ったらダメじゃぞ」
ビシッとこちらを指さしながら言うリートに、私は目を見開いた。
いや、まぁ、別に言うつもりは無いけど……。
今回のも、リートに聞かれたから答えただけのことなのに……理不尽だ。
「分かったよ。言わない」
「……ふふっ。それで良い」
私の言葉に、リートはどこか上機嫌な様子で言いながら、どこか楽しそうな笑みを浮かべた。
ホントに、彼女の思考は読めないな。
私はそう呆れつつ、近くに置いてあった薪を手に取り、焚火に追加した。
小さくなっていた炎が強くなり、明るく周りを照らす。
その光景を見ていた時、クイクイと袖を引っ張られた。
「……ん?」
顔を向けた時、リートがこちらにポフッと体を預けてきた。
首筋に顔を埋めるようにして凭れ掛かってくるリートに、私はどうすれば良いのか分からず固まってしまう。
すると、彼女は笑うように小さく息を吐き、続けた。
「妾もお主のこと、フレアよりは好きじゃぞ」
「……急にどうしたの?」
「ふふ、なんとなくじゃ」
そう言って笑いながら、彼女はまるで頭を置くのに良い場所を探るかのように、頭をグリグリと動かした。
全く、本当に自由な人だ。
私はそう呆れつつ、リートの背中に手を回した。
ただ、今は少しだけ、彼女の自由さに救われたかもしれない。
自分の心臓の音が早くなるのを感じながら、そんな風に考える。
これも、別に変な意味ではない……はずだ。
誰かに直接好きとか言われたのが初めてだったから、動揺しているだけだ。
頬に空いている方の手の甲を当てながら、私は小さく口を開いた。
「……あっつ……」
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