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第1章:奴隷契約編
021 反省と譲歩
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「……服を脱げ……って……」
「言葉のままの意味じゃ。何でもするのであろう?」
地面にへたり込んだままの私を見下ろしながら、黒髪の少女はそう言ってくる。
何が何だか分からない。いきなり色々なことが起こり過ぎて、理解が追いつかない。
もう一人の白髪の少女が「ちょっと……」と止めるような声を発するが、黒髪の少女は「お主は黙っておれ」と一蹴した。
しかし、このまま黙っていても許されるとは思えないので、ひとまず私は着ている服に手を掛けた。
「……いや、本当に脱がなくても……」
すると、白髪の少女がそう言ってくるのが聴こえた。
しかし、何でもすると言ってしまった手前、逆らうことも出来ない。
止めてくれるのは有難いが、どうやら二人の間でも上下関係があるようだし、彼女の意思で黒髪の少女の命令が無くなることは無いだろう。
つまり、私は命令に従って、言われた通りに服を脱ぐことしか出来ないというわけだ。
「……あの、脱ぎ終わりましたが……」
ひとまず全ての服を脱ぎ終えてそう言って見せると、黒髪の少女は私の服を手に取り、小さく頷きながらじっくりと観察する。
しばらく観察したところで、彼女はニッと小さく笑った。
「少し傷んでおるが、今着ているものに比べればマシじゃのぉ」
「……あの……」
何の話ですか? と聞こうとした私は、少女が自分の服を脱ぎ始めたのを見て言葉を失った。
呆然としている間に、少女はさっさと服を全て脱ぎ去り、私が脱いだ服を着始める。
着替えを終えた少女は、両手を広げてクルリと一度回り、満足気に頷いた。
「うむ。まぁ、イノセの服に比べれば、まだ妾のサイズに近いのぉ。……おぉ、そうじゃ。服を返せと言っていたじゃろう。もうこれは着んから、着ても良いぞ」
「……今更返されても困るんだけど……」
服を差し出す黒髪の少女の言葉に、白髪の少女はそう言いながら両手で拒否をした。
その会話を聞いていた私はとあることに気付き、ハッと顔を上げた。
「もしかして……猪瀬、さん……?」
「ッ……!?」
私の言葉に、白髪の少女……猪瀬さんは、目を見開いて私を見た。
髪色が最後に会った時と変わっていて、気付かなかった。
薄暗くて顔も良く見えないし、声だけで判別するというのは中々難しい。
けど、先程の会話で彼女がイノセと呼ばれていることを踏まえると、確かに声や顔立ちは似ているように思える。
そして、私の呼びかけに驚いたのが、何よりの証拠だ。
「いや……えっと……私は……」
「おぉ、何じゃイノセ。お主の知り合いか?」
口ごもる猪瀬さんに、黒髪の少女はそう聞いた。
……というか、さっきから気になってたんだけど、彼女の話し方は何なんだろう……。
独特というか、癖が強いというか……やけに古臭い話し方というか……。
いや、今は彼女のことはどうでもいい。
私はフラフラと立ち上がりながら、猪瀬さんに視線を合わせ、口を開く。
「良かった……生きてたんだね……猪瀬さん、私……」
見捨てたことを謝ろうとした時、体がグラリと揺らぐ。
そのまま転びそうになっていると、猪瀬さんが慌てて私の体を支えた。
彼女は私を立たせるようにして、口を開く。
「大丈夫? なんか……フラフラしてるけど……」
「……少し疲れてるだけだよ。それより、猪瀬さん」
私はそう言いながら、なんとか姿勢を正す。
……いや、あの時見捨てたことで、猪瀬さんは死にかけたはずだ。
こんな立っている状態では、あの時の行為に釣り合いが取れない。
少し考えて、私はその場で膝を折って地面に手をつき、固い地面に額をつけた。
「ごめんなさい、猪瀬さん」
「ちょッ、ちょっとッ!?」
「私……猪瀬さんのこと、救えたかもしれないのに……あの時、救おうともしなかった。自分が生きる為に、猪瀬さんを見捨てて、逃げ出した。本当に……ごめんなさい」
目の前にある地面を見つめたまま、私はそう言葉を紡ぐ。
謝ったところで許されることではないかもしれないが、私はもう、自分の平穏だけを求めて人を切り捨てるような真似はしたくない。
……結局は、自分に返ってくるのが怖いっていうエゴかもしれないけど……でも、どちらにせよ、今は謝っておかなければならないと思った。
「……こやつも、お主を裏切った仲間とやらか?」
すると、黒髪の少女がそう言ってきたのが聴こえた。
私はそれに拳を強く握り締め、続く言葉を待った。
猪瀬さんはそれに、少し間を置いてから、「まぁ、うん」と曖昧な反応を示した。
「ほぉ……お主が、イノセを……」
黒髪の少女の声が、何だか私の体を突き刺しているような錯覚がした。
それに何も言えずにいると、突然……後頭部を踏みつけられた。
「がッ」
「ちょっと! リート!」
猪瀬さんが止める声を聞きながら、私は必死に痛みを堪える。
視界にチカチカと光が走り、脳に直接届くような痛みがビリビリと響く。
必死に歯を食いしばって耐えていると、グリグリと足が捩じられるのを感じた。
「これでも譲歩している方じゃ。……お主、適合属性は何じゃ?」
「やッ……闇と……光……」
「そうか。では、例えば腕や足をふっ飛ばされても、光魔法で治せるのぉ」
「……何をッ……」
「妾がイノセを見つけた時、あやつは片手と片足が千切れた状態じゃった」
その言葉に、私はハッと目を見開いた。
頭の上から足がどかされるので、私は慌てて顔を上げる。
すると、少し離れた場所で、何とも言えない表情でこちらを見下ろす猪瀬さんの姿があった。
見たところ五体満足に見えるが、黒髪少女が治したのだろうか……。
ぼんやりと考えていると、黒髪の少女は続けた。
「お主は、人を殺しかけたのじゃ。……本当なら、腕の一本でも折ってやりたいところじゃが、まぁ反省しているようじゃしのぅ。これくらいにしておいてやるわい」
「……えっと……ありがとう、ございます……?」
「まぁ、本来ならこういうのは本人がやるべきかもしれんがのぉ。イノセは奴隷じゃから、代わりに主である妾が手を下してやった」
「……どれい……?」
聞き慣れない単語に、私はズキズキと痛む額を押さえながら、二人を交互に見た。
すると猪瀬さんは気まずそうな表情で目を逸らし、黒髪の少女は腰に手を当てて謎のドヤ顔でこちらを見下ろしていた。
ひとまず私は猪瀬さんに視線を向け、口を開いた。
「えっと……何があったの……?」
「……まぁ、割と言葉のままの意味というか……」
「イノセの命を救う代わりに妾の奴隷になって貰ったのじゃ」
言葉を濁す猪瀬さんを遮るように、リートさんが言った。
……さっきは猪瀬さんのために怒っていたような口ぶりだったけど、どちらかと言うと、自分の鬱憤を晴らしたかっただけなのでは……。
猪瀬さんも同じことを思ったのか、ジト目でリートさんを見つめている。
……なんか、色々苦労していそう……。
固まっていると、リートさんは「よし」と言って、胸の前で手を打った。
「まぁ、良い。それで、お主はどうしたいのじゃ?」
「……へ……?」
「妾達は、ひとまずこのダンジョンから出るつもりじゃ。じゃが、お主はどうする? もしも出て行くと言うなら、ダンジョンの出口までなら連れて行かんこともないが……」
「でッ……出たいです!」
リートさんの言葉に、私は咄嗟にそう答えた。
すると、彼女はその目を細め、「そうか」と答えた。
「では、付いて来い。……せいぜい、足手まといになるでないぞ」
その言葉に頷き、私は武器である杖で自分の体を支えながら、フラフラと立ち上がる。
疲労のあまりに杖無しでは歩くことすらままならない状態だったが、それでも、全く歩けないわけではない。
私が立ち上がったのを確認し、リートさんはゆっくりと歩き出す。
それに続いて歩き出すと、猪瀬さんが私の隣に並んで、口を開いた。
「……大丈夫? 疲れてるみたいだけど……」
「大丈夫だよ。疲れてるのは事実だけど……これくらい、何てこと無い」
私の言葉に、猪瀬さんは少し間を置いてから、「そっか」と小さく呟いた。
それに私は笑って見せてから、杖を前に突いて、足を前に動かした。
「言葉のままの意味じゃ。何でもするのであろう?」
地面にへたり込んだままの私を見下ろしながら、黒髪の少女はそう言ってくる。
何が何だか分からない。いきなり色々なことが起こり過ぎて、理解が追いつかない。
もう一人の白髪の少女が「ちょっと……」と止めるような声を発するが、黒髪の少女は「お主は黙っておれ」と一蹴した。
しかし、このまま黙っていても許されるとは思えないので、ひとまず私は着ている服に手を掛けた。
「……いや、本当に脱がなくても……」
すると、白髪の少女がそう言ってくるのが聴こえた。
しかし、何でもすると言ってしまった手前、逆らうことも出来ない。
止めてくれるのは有難いが、どうやら二人の間でも上下関係があるようだし、彼女の意思で黒髪の少女の命令が無くなることは無いだろう。
つまり、私は命令に従って、言われた通りに服を脱ぐことしか出来ないというわけだ。
「……あの、脱ぎ終わりましたが……」
ひとまず全ての服を脱ぎ終えてそう言って見せると、黒髪の少女は私の服を手に取り、小さく頷きながらじっくりと観察する。
しばらく観察したところで、彼女はニッと小さく笑った。
「少し傷んでおるが、今着ているものに比べればマシじゃのぉ」
「……あの……」
何の話ですか? と聞こうとした私は、少女が自分の服を脱ぎ始めたのを見て言葉を失った。
呆然としている間に、少女はさっさと服を全て脱ぎ去り、私が脱いだ服を着始める。
着替えを終えた少女は、両手を広げてクルリと一度回り、満足気に頷いた。
「うむ。まぁ、イノセの服に比べれば、まだ妾のサイズに近いのぉ。……おぉ、そうじゃ。服を返せと言っていたじゃろう。もうこれは着んから、着ても良いぞ」
「……今更返されても困るんだけど……」
服を差し出す黒髪の少女の言葉に、白髪の少女はそう言いながら両手で拒否をした。
その会話を聞いていた私はとあることに気付き、ハッと顔を上げた。
「もしかして……猪瀬、さん……?」
「ッ……!?」
私の言葉に、白髪の少女……猪瀬さんは、目を見開いて私を見た。
髪色が最後に会った時と変わっていて、気付かなかった。
薄暗くて顔も良く見えないし、声だけで判別するというのは中々難しい。
けど、先程の会話で彼女がイノセと呼ばれていることを踏まえると、確かに声や顔立ちは似ているように思える。
そして、私の呼びかけに驚いたのが、何よりの証拠だ。
「いや……えっと……私は……」
「おぉ、何じゃイノセ。お主の知り合いか?」
口ごもる猪瀬さんに、黒髪の少女はそう聞いた。
……というか、さっきから気になってたんだけど、彼女の話し方は何なんだろう……。
独特というか、癖が強いというか……やけに古臭い話し方というか……。
いや、今は彼女のことはどうでもいい。
私はフラフラと立ち上がりながら、猪瀬さんに視線を合わせ、口を開く。
「良かった……生きてたんだね……猪瀬さん、私……」
見捨てたことを謝ろうとした時、体がグラリと揺らぐ。
そのまま転びそうになっていると、猪瀬さんが慌てて私の体を支えた。
彼女は私を立たせるようにして、口を開く。
「大丈夫? なんか……フラフラしてるけど……」
「……少し疲れてるだけだよ。それより、猪瀬さん」
私はそう言いながら、なんとか姿勢を正す。
……いや、あの時見捨てたことで、猪瀬さんは死にかけたはずだ。
こんな立っている状態では、あの時の行為に釣り合いが取れない。
少し考えて、私はその場で膝を折って地面に手をつき、固い地面に額をつけた。
「ごめんなさい、猪瀬さん」
「ちょッ、ちょっとッ!?」
「私……猪瀬さんのこと、救えたかもしれないのに……あの時、救おうともしなかった。自分が生きる為に、猪瀬さんを見捨てて、逃げ出した。本当に……ごめんなさい」
目の前にある地面を見つめたまま、私はそう言葉を紡ぐ。
謝ったところで許されることではないかもしれないが、私はもう、自分の平穏だけを求めて人を切り捨てるような真似はしたくない。
……結局は、自分に返ってくるのが怖いっていうエゴかもしれないけど……でも、どちらにせよ、今は謝っておかなければならないと思った。
「……こやつも、お主を裏切った仲間とやらか?」
すると、黒髪の少女がそう言ってきたのが聴こえた。
私はそれに拳を強く握り締め、続く言葉を待った。
猪瀬さんはそれに、少し間を置いてから、「まぁ、うん」と曖昧な反応を示した。
「ほぉ……お主が、イノセを……」
黒髪の少女の声が、何だか私の体を突き刺しているような錯覚がした。
それに何も言えずにいると、突然……後頭部を踏みつけられた。
「がッ」
「ちょっと! リート!」
猪瀬さんが止める声を聞きながら、私は必死に痛みを堪える。
視界にチカチカと光が走り、脳に直接届くような痛みがビリビリと響く。
必死に歯を食いしばって耐えていると、グリグリと足が捩じられるのを感じた。
「これでも譲歩している方じゃ。……お主、適合属性は何じゃ?」
「やッ……闇と……光……」
「そうか。では、例えば腕や足をふっ飛ばされても、光魔法で治せるのぉ」
「……何をッ……」
「妾がイノセを見つけた時、あやつは片手と片足が千切れた状態じゃった」
その言葉に、私はハッと目を見開いた。
頭の上から足がどかされるので、私は慌てて顔を上げる。
すると、少し離れた場所で、何とも言えない表情でこちらを見下ろす猪瀬さんの姿があった。
見たところ五体満足に見えるが、黒髪少女が治したのだろうか……。
ぼんやりと考えていると、黒髪の少女は続けた。
「お主は、人を殺しかけたのじゃ。……本当なら、腕の一本でも折ってやりたいところじゃが、まぁ反省しているようじゃしのぅ。これくらいにしておいてやるわい」
「……えっと……ありがとう、ございます……?」
「まぁ、本来ならこういうのは本人がやるべきかもしれんがのぉ。イノセは奴隷じゃから、代わりに主である妾が手を下してやった」
「……どれい……?」
聞き慣れない単語に、私はズキズキと痛む額を押さえながら、二人を交互に見た。
すると猪瀬さんは気まずそうな表情で目を逸らし、黒髪の少女は腰に手を当てて謎のドヤ顔でこちらを見下ろしていた。
ひとまず私は猪瀬さんに視線を向け、口を開いた。
「えっと……何があったの……?」
「……まぁ、割と言葉のままの意味というか……」
「イノセの命を救う代わりに妾の奴隷になって貰ったのじゃ」
言葉を濁す猪瀬さんを遮るように、リートさんが言った。
……さっきは猪瀬さんのために怒っていたような口ぶりだったけど、どちらかと言うと、自分の鬱憤を晴らしたかっただけなのでは……。
猪瀬さんも同じことを思ったのか、ジト目でリートさんを見つめている。
……なんか、色々苦労していそう……。
固まっていると、リートさんは「よし」と言って、胸の前で手を打った。
「まぁ、良い。それで、お主はどうしたいのじゃ?」
「……へ……?」
「妾達は、ひとまずこのダンジョンから出るつもりじゃ。じゃが、お主はどうする? もしも出て行くと言うなら、ダンジョンの出口までなら連れて行かんこともないが……」
「でッ……出たいです!」
リートさんの言葉に、私は咄嗟にそう答えた。
すると、彼女はその目を細め、「そうか」と答えた。
「では、付いて来い。……せいぜい、足手まといになるでないぞ」
その言葉に頷き、私は武器である杖で自分の体を支えながら、フラフラと立ち上がる。
疲労のあまりに杖無しでは歩くことすらままならない状態だったが、それでも、全く歩けないわけではない。
私が立ち上がったのを確認し、リートさんはゆっくりと歩き出す。
それに続いて歩き出すと、猪瀬さんが私の隣に並んで、口を開いた。
「……大丈夫? 疲れてるみたいだけど……」
「大丈夫だよ。疲れてるのは事実だけど……これくらい、何てこと無い」
私の言葉に、猪瀬さんは少し間を置いてから、「そっか」と小さく呟いた。
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