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第1章:奴隷契約編

011 生存者の捜索-クラスメイトside

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 夕食の時間になり、普段食事をとっている長机の部屋には、八人の生徒達が集まっていた。
 普段のこの時間ならば賑わっているはずの室内の空気は重苦しく、まるでお通夜のような雰囲気が漂っていた。
 ……否、あながち間違っていないかもしれない。
 この空気感の原因は、未だに空いたままの四つの席なのだから。

 食事の時間になっても、とある四人グループだけ帰って来ていないのだ。
 いつもなら、食事の時間になれば全員が揃っているのに、食事の時間からかれこれ一時間が経っても四人が帰って来ていない。
 帰って来ない理由など数える程しか無く、残された生徒達はそのグループの生徒達がどうなったのかを考えてしまい、結果としてこの重たい空気を作り出している。
 彼女等の代表的な存在の山吹柚子がクラインに話をしたことにより、現在指輪の魔力を辿って四人の位置が探索されている。
 しかし、その捜索も滞っている様子で、それが余計にクラスメイト達の不安を煽った。

「み、皆! 元気出そうよ!」

 その重苦しい空気に耐えられなかったのか、柚子のグループのメンバーである望月もちづき 花鈴かりんが立ち上がって言う。
 クリッとした大きくてまん丸い目に、頭の左側で髪をサイドテールにしており、右目の横に泣きぼくろがある少女。
 彼女の髪と目の色は、赤みの強いピンク色に染まっていた。
 花鈴は続けた。

「東雲さん達はきっと大丈夫だって! 私達が信じなくてどうすんの!」
「……」
「こんな時こそ笑顔だよ! 明るく行こうよ!」
「花鈴……今はそう言う空気じゃない」

 空元気で強引に場を和ませようとする花鈴を、隣に座っていた望月もちづき 真凛まりんがそう窘めた。
 彼女は花鈴に比べると少し冷たい印象を受ける目付きで、頭の右側で髪をサイドテールにしており、左目の横に泣きぼくろがある。
 髪と目の色は、青と緑の中間のような感じの、明るい色に染まっている。
 目つき以外は鏡合わせのようにソックリな顔をした双子の姉の言葉に、花鈴はシュンとした表情を浮かべ、席についた。
 その向かい側に当たる席では、最上友子が何も言わずに俯いていた。

「……こころちゃん……」

 友子は誰にも聴こえないくらいの声で小さく呟きながら、服の裾を握り締める。
 彼女にとっては、今いない四人の内、三人のことはどうでもよかった。
 ただ一人。唯一無二の友人の安否だけが、心配だった。

 重苦しい沈黙が続く中、部屋の扉が開き、柚子とクラインが入って来る。
 彼が入ってきた途端、全員の視線が集中する。

「ど、ど、どうだったの……?」
「……」

 隣の席に座る柚子に、友子はどもりながらもそう尋ねる。
 しかし、柚子は俯いたまま、何も答えない。
 それに、友子の表情がサッと青ざめる。
 すると、クラインが前に立ち、八人の顔をそれぞれ見てからゆっくりと口を開いた。

「先程、四人の魔力を辿ったところ……彼女達がダンジョンに行ったことが判明しました」
「……ダンジョン……?」

 小さく呟く真凛に、クラインは「はい」と頷く。

「実は、この近くには、我々の討伐対象である心臓の主……魔女の本体が封印されたダンジョンが存在します。他の心臓も勿論ですが、あまりにも危険なダンジョンの為に、誰かが迷い込まないように土魔法で壁を作って出入り口は封鎖しているのですが……恐らく、故意的に破壊したのか、老朽化して崩れている所に誤って踏み込んでしまったらしく……ダンジョンの中から、魔力の反応がありました」
「よ、四人は無事なんですか!?」

 いつになくハキハキとした口調で尋ねる友子に、クラインは少し驚いた反応を示した。
 しかし、彼は静かに首を横に振る。
 それを見て、友子の表情がさらに青ざめていく。
 クラインはそれに顔を背けつつ、口を開く。

「これは、四人の位置を探すのに時間が掛かった理由にも起因するのですが……現在、ダンジョンから辿れる魔力は一つしか存在しません」
「……それって……」
「えぇ。恐らく、残りの三人は……」

 クラインはそこまで言って、言い淀む。
 それに、八人の生徒はそれぞれの反応を示した。
 ある者は呆然とした表情を浮かべ、ある者は口を抑え、またある者は静かに顔を背ける。
 皆が言葉を失い、その事実に絶望する。
 その反応に、クラインは重々しく続ける。

「よっぽどのことが無い限り、指輪の魔力が途絶えることはありません。……他の三人が生きている確率は、限りなく少ないでしょう」
「い、生きているのは誰なんですか!?」

 震える声で尋ねる友子に、クラインは視線を向ける。
 しかし、すぐに首を横に振り、「流石にそこまでは……」と答える。

「指輪の魔力だけなら辿れますが、個人は特定できないので……誰が生きているかは、何とも……」
「……」

 クラインの言葉に、友子はクッと唇を噛みしめる。
 しかし、すぐにハッとした表情を浮かべ、彼女は顔を上げて続けた。

「じゃ、じゃあ、今すぐ探しに行きましょうよ! ま、まだ、一人は生き残ってるんですよね!?」
「……いえ、流石にもう遅いですし、外も暗いので……探しに行くにしても、明日になるかと……」
「で、でも……!」
「最上さん」

 食い下がる友子を、柚子は静かな声で窘めた。
 それに友子は「あっ」と小さく声を漏らしながら、柚子を見た。
 柚子は静かに首を横に振り、ゆっくりと続けた。

「焦る気持ちは分かるけど、もうこんな時間だし……こんな暗い中で外に出て、魔物の不意打ちに対応できる?」
「……でも……」
「捜索を強引に決行して、犠牲者が増えるのが一番良くないよ。今は残り一人の生存を待ちながら、休息をとろう」
「……」

 柚子の言葉に、友子は服の裾を握り締めて俯く。
 それに、柚子は小さく息をついて、クラインに視線を向けた。

「明日の生存者の捜索には、私達の班が向かいます」
「……ッ」

 柚子の言葉に、友子はハッと顔を上げた。
 すると、柚子は一度友子を見て優しく微笑み、視線を戻した。

「このクラスの不祥事は私の責任ですし、責任を取らせて下さい。あと、見ての通り最上さんが凄く心配している様子ですので、私達に任せて頂きたいです。……二人も、それで良い?」

 確認を取るように、柚子は花鈴と真凛に視線を向けた。
 それに、花鈴は両手に拳を作りながら、「もちろん!」と答える。

「私も東雲さん達のこと心配だもん! それに、ゆーちゃんが行くって決めたなら、どこへでも行くよ!」
「右に同じ。私達は、柚子に付いて行くよ」

 真凛はそう言いながら、花鈴の肩に手を置く。
 それに、花鈴はコクコクと何度も頷いた。
 柚子は二人の言葉に安堵の笑みを浮かべ、「ありがとう」と答えた。

「ちょっと待ってよ」

 その時、遮るような声がした。
 振り向くとそこには、もう一つの班のリーダー的存在の、黄島きじま けいが立っていた。
 髪と目が少し黄色の強いオレンジに染まった彼女は、真面目な表情で続けた。

「私達の班も行くよ。山吹さん達だけに責任を負わせるなんて出来ない」
「……黄島さん……」

 圭の言葉に、柚子は驚いた表情を浮かべながら呟く。
 それから圭のグループメンバーに視線を向けると、他の三人も真剣な眼差しで柚子を見ていた。
 柚子はそれに頷き、クラインに視線を向けた。

「お願いします。私達全員を、明日、捜索に行かせてください」
「……」

 柚子の言葉に、クラインはしばらく考え込む。
 ローブのフードにより、その表情は伺えない。
 それが緊張を生み出し、空気を張りつめさせる。
 沈黙がしばし続いた後に、彼は一度小さく頷き、口を開いた。

「分かりました。では、明日、朝日が昇る時間に出発しましょう」

 その言葉に、八人は「はい!」と声を揃えて答えた。
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