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第1章:奴隷契約編
008 気になるもの
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翌日。私達はいつものように魔物退治をしていた。
横薙ぎに振り抜いた剣が、目の前にいる、巨大な熊のような見た目をした魔物を切り裂く。
魔物はそれで事切れたようで、ゆっくりと倒れていく。
私はそれに息をつき、剣を鞘にしまった。
その時、少し離れた場所で戦っていた東雲が、こちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「猪瀬さん、そっちはもう倒した?」
「あぁ、うん。ついさっき」
私はそう言いながら、先程倒した魔物の亡骸を指さす。
すると、東雲はそれを見て軽く口笛を吹き、私に視線を戻した。
「……どう? レベルは」
「昨日上がったばかりだし、全然。……東雲さんは?」
「私も全然。林檎がレベル上がったらしいけど、葵はまだみたい」
「そっか……」
東雲の言葉に、私は小さく呟く。
やはり、レベル上げは滞っているみたいだ。
レベルが上がるにつれてそのペースも下がる一方だし、そろそろもっと強い魔物がいる場所に行ったりした方が良いのではないだろうか。
そんな風に考えていると、葛西と寺島もこちらに近付いて来るのが見えた。
「猪瀬さんお疲れ様。HPは大丈夫?」
「あー……少し減ってるから、回復お願いしても良い?」
「了解」
寺島はそう言うと、私に回復魔法を掛けてくれる。
指輪に力を込めてステータスを表示し、HPを確認してみると、もう満タンになっていた。
ひとまず寺島に礼を述べていた時、東雲と葛西がどこかに歩いて行くのが見えた。
「ちょ、ちょっと二人とも! どこ行くの!?」
それを見て、すぐに寺島が慌てた様子で追いかける。
私も彼女に続く形で、二人を追って駆け出す。
二人も私達に気付いたのか、立ち止まって待ってくれていたので、すぐに追いつく。
「もう城に帰るの? まだ明るいけど……」
「いや……林檎がさっき戦っている中で、気になるものを見つけたんだって」
寺島の言葉に、東雲はそう言いながら葛西を指さした。
すると、葛西は満面の笑みを浮かべながらピースをする。
それに、私は「気になるもの?」と聞いてみた。
「うんっ! まー百聞は一見に如かずってことで、とりあえず皆で見に行こうよ!」
明るく笑いながら言う葛西に、私は頷くことしか出来なかった。
このグループの中での私の発言権など、あってないようなものだし。
ひとまず葛西の先導で、私達は少し森の奥まで踏み込んだ。
するとそこには、巨大な壁のようなものがあった。
「これは……崖……?」
寺島はそう呟きながら、目の前に聳え立つ崖を見上げた。
すると、葛西は「こっちこっち」と言いながら近くにいた東雲の腕を引っ張り、さらに崖に近付いて行く。
それに付いて行ってみると、葛西は崖のとある一部の前で立ち止まり、こちらに振り向いて見せた。
「ここなんだけど……分かる?」
「分かるって……何が?」
寺島の言葉に葛西は得意げに笑い、近くの崖に手を当て、東雲に顔を向けた。
「理沙、ここ棍棒でトントンってしてみて?」
「……ここ?」
東雲はそう聞きながら、棍棒で近くの崖をつつく。
すると、ゴンゴンと、響くような鈍い音がした。
まるで、この壁の向こうに空間があるような……。
「ね? 音が変でしょ?」
「うん……この奥に何かあるのかな?」
「壊してみたら?」
首を傾げる東雲に、寺島がそう提案する。
東雲はそれに少し間を置いた後で、「そうだね」と言いながら棍棒を構える。
それに、私は「ちょっと……」と止めようとした。
しかし、私の制止の声が届くよりも前に、東雲は崖の一部に棍棒を振り下ろしてしまった。
「ッ……!?」
バコォッ! と乾いた音を立てながら、崖の一部が粉砕する。
巻き起こる粉塵に、私は咄嗟に顔の前に腕を持っていくことで目を庇いつつ、視界が明けるのを待った。
数秒程して粉塵が晴れるのが分かると、私は腕を下ろし、目の前にあるものを見て言葉を失った。
「これは……」
「……洞窟……?」
私の言葉に続けるように、寺島が呟いた。
すると、東雲は少し間を置いて、口を開いた。
「これってさ、あのクラインの野郎が言ってたダンジョンじゃない?」
「えっ……」
「へー! てことは、中にあの魔女の心臓とやらがあるってこと!?」
キラキラと目を輝かせながら言う葛西に、私は、なんだか嫌な予感がした。
二人を制止すべきか迷っている間に、東雲がこちらに振り返って口を開いた。
「ちょっと中入ってみようよ」
「だ、ダメだよ!」
ほとんど反射的に、私は否定した。
すると、東雲はムッとした表情を浮かべた。
私はそれに戸惑いつつも、慌てて続けた。
「だ、だって……もしも本当にダンジョンだったら、危ないじゃん。魔女の心臓があるってことは、凄く強い守り人とやらもいるはずだし……魔物だって、外にいる魔物とは比べ物にならないくらい強いはずだよ」
「そ、そうだよ……クラインさんにだって、魔物を倒す時は、危ない所や遠くには行かないようにって注意されたじゃない」
私に続けるように、寺島が言う。
まさか味方してくれる人がいるとは思っていなかったので、私は少し驚いてしまった。
そんな私達の言葉に、東雲の表情が徐々に曇っていくのが分かる。
「……でもさ、外の魔物ばっかり倒していても、レベル上がんないじゃん」
「それは……クラインさんに言えば、何とかしてもらえ……」
「そんなのんびりしてたら、いつまで経っても日本に帰れないよ」
冷たい声で言う東雲に、私と寺島はほぼ同時に口を噤んだ。
葛西は東雲側にも関わらず、そんな東雲を前にして、少し驚いている様子だった。
東雲は私と寺島を冷ややかな目で見た後で、フイッと顔を背けた。
「……私は行くよ。少しでも早く、強くなりたいから……早く、日本に帰りたいから……」
「……東雲さん……」
「嫌なら皆は城に帰れば良いよ」
それだけ言って、東雲は踵を返し、洞窟の奥に向かって歩き出す。
すぐに、葛西が「理沙! 待って!」と言いながら、東雲に続いて奥に駆けていく。
二人がいなくなって、しばらく私達の間に静寂が訪れる。
呆然としていると、先に我に返った寺島が私に視線を向けてきた。
「い、猪瀬さん……どうする?」
「ど、どうするって……追いかけるしかないでしょッ!」
寺島の言葉にようやく我に返った私は、そう言いながら、洞窟の奥に向かって駆け出す。
すると、寺島は「う、うん!」と答え、私に続いて駆け出した。
しばらく走っていると、洞窟の奥には下に行く階段のようなものがあった。
迷わずにその階段を下りて行くと、そこには通路のようなものが広がっていた。
「……ここは……」
私はそう呟きながら、その場で足を止めた。
それに、寺島もすぐ隣で立ち止まった。
辺りの壁や床は紺色の岩で出来ており、天井のみ何やら光を発する素材で出来ているようで、それによって辺りを見渡すことが出来た。
少し見渡すだけで、辺りに魔物の死体が転がっているのが分かった。
「これ……理沙ちゃん達が……?」
「多分、ね……この死体を追っていけば、あの二人に追いつけるかもしれない。まだそんなに遠くには行ってないはずだし」
私の言葉に、寺島は頷く。
それから転がっている魔物の死体を頼りに、私達は歩いて行った。
……ダンジョンと言っても、序盤にいる魔物はそこまで強くないのかもしれない。
東雲や葛西がダンジョンに向かってから割とすぐに追いかけたはずなのに、ここまで倒せているということは、それだけ一匹を倒す時間が短かったということだ。
けど、そうなると二人がどこまで進んだのか分からなくなってしまうな……。
そんな風に考えていた矢先、角を曲がったところで、二人が何やら魔物を倒しているのが見えた。
「はぁッ!」
叫びながら東雲が棍棒を振るうと、それにより目の前にいた魔物の頭が粉砕され、その場に倒れ伏せた。
それ以外に近くに魔物がいないことを確認し、私は飛び出した。
「東雲さん! 葛西さん!」
「……猪瀬ちゃん?」
私の声に、葛西が反応しながらこちらを見てくる。
それに、東雲も不思議そうな顔をしてこちらに視線を向けてくる。
ひとまず私は二人の前まで行き、口を開く。
「こんな場所にいた……探したよ」
「いやー、思ってたより魔物が弱かったから、つい」
悪びれることも無く言う葛西に、私は嘆息する。
まぁ何はともあれ、怪我も無さそうで良かった。
人を苛めるようなロクでもない連中ではあるが、一応は仲間だし、死なれたら後味が悪い。
私は東雲に視線を向け、口を開く。
「東雲さんも、無事で良かった」
「……アンタに心配される筋合いはない」
私の言葉に、東雲はそう言いながら顔を背けた。
……コイツ、素直じゃねぇな……。
小さく溜息をつきつつ、私は続ける。
「まぁ、確かに私と東雲さん達はただ同じグループになっただけの関係だけど……それでも、一緒に戦ってきた仲間でしょ?」
「……」
「……ごめん。そう思ってたの私だけだった?」
無言で目を背ける東雲に、私はそう聞いてしまう。
すると、葛西が「そんなことないない!」と否定してくれる。
よ……良かった……。
「……だからさ、こんなことで死なれたら、流石に後味悪いよ。東雲さんにだって、帰りを待つ家族とか……東雲さんが死んだら悲しむ人とか、一人くらいいるでしょ?」
「……」
私の言葉に、東雲は何も言わないまま、チラッと葛西に視線を向けた。
すると、葛西は両手に拳をつくって「そうだよ!」と、私に賛同してくれる。
「猪瀬ちゃんの言う通りだよ! 皆で帰ろう!」
「……林檎……」
葛西の言葉に、理沙はそう呟く。
彼女は私と寺島にもそれぞれ視線を向け、一度大きく息をつく。
それから改めて私を見て、「分かった」と頷いた。
「……帰るよ。もう無理はしない」
「よしっ……じゃあ、とりあえずダンジョンから出て……」
私がそう言った時、誰かの足元からボコッと鈍い音がした。
何事かと不思議に思ったのも束の間、私達を囲うように、地面に魔法陣のようなものができた。
魔法陣は青白い光を放ち、瞬く間にその光は私達を包み込んだ。
驚く間も無く、一瞬で私達は光に包み込まれ……消えた。
横薙ぎに振り抜いた剣が、目の前にいる、巨大な熊のような見た目をした魔物を切り裂く。
魔物はそれで事切れたようで、ゆっくりと倒れていく。
私はそれに息をつき、剣を鞘にしまった。
その時、少し離れた場所で戦っていた東雲が、こちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「猪瀬さん、そっちはもう倒した?」
「あぁ、うん。ついさっき」
私はそう言いながら、先程倒した魔物の亡骸を指さす。
すると、東雲はそれを見て軽く口笛を吹き、私に視線を戻した。
「……どう? レベルは」
「昨日上がったばかりだし、全然。……東雲さんは?」
「私も全然。林檎がレベル上がったらしいけど、葵はまだみたい」
「そっか……」
東雲の言葉に、私は小さく呟く。
やはり、レベル上げは滞っているみたいだ。
レベルが上がるにつれてそのペースも下がる一方だし、そろそろもっと強い魔物がいる場所に行ったりした方が良いのではないだろうか。
そんな風に考えていると、葛西と寺島もこちらに近付いて来るのが見えた。
「猪瀬さんお疲れ様。HPは大丈夫?」
「あー……少し減ってるから、回復お願いしても良い?」
「了解」
寺島はそう言うと、私に回復魔法を掛けてくれる。
指輪に力を込めてステータスを表示し、HPを確認してみると、もう満タンになっていた。
ひとまず寺島に礼を述べていた時、東雲と葛西がどこかに歩いて行くのが見えた。
「ちょ、ちょっと二人とも! どこ行くの!?」
それを見て、すぐに寺島が慌てた様子で追いかける。
私も彼女に続く形で、二人を追って駆け出す。
二人も私達に気付いたのか、立ち止まって待ってくれていたので、すぐに追いつく。
「もう城に帰るの? まだ明るいけど……」
「いや……林檎がさっき戦っている中で、気になるものを見つけたんだって」
寺島の言葉に、東雲はそう言いながら葛西を指さした。
すると、葛西は満面の笑みを浮かべながらピースをする。
それに、私は「気になるもの?」と聞いてみた。
「うんっ! まー百聞は一見に如かずってことで、とりあえず皆で見に行こうよ!」
明るく笑いながら言う葛西に、私は頷くことしか出来なかった。
このグループの中での私の発言権など、あってないようなものだし。
ひとまず葛西の先導で、私達は少し森の奥まで踏み込んだ。
するとそこには、巨大な壁のようなものがあった。
「これは……崖……?」
寺島はそう呟きながら、目の前に聳え立つ崖を見上げた。
すると、葛西は「こっちこっち」と言いながら近くにいた東雲の腕を引っ張り、さらに崖に近付いて行く。
それに付いて行ってみると、葛西は崖のとある一部の前で立ち止まり、こちらに振り向いて見せた。
「ここなんだけど……分かる?」
「分かるって……何が?」
寺島の言葉に葛西は得意げに笑い、近くの崖に手を当て、東雲に顔を向けた。
「理沙、ここ棍棒でトントンってしてみて?」
「……ここ?」
東雲はそう聞きながら、棍棒で近くの崖をつつく。
すると、ゴンゴンと、響くような鈍い音がした。
まるで、この壁の向こうに空間があるような……。
「ね? 音が変でしょ?」
「うん……この奥に何かあるのかな?」
「壊してみたら?」
首を傾げる東雲に、寺島がそう提案する。
東雲はそれに少し間を置いた後で、「そうだね」と言いながら棍棒を構える。
それに、私は「ちょっと……」と止めようとした。
しかし、私の制止の声が届くよりも前に、東雲は崖の一部に棍棒を振り下ろしてしまった。
「ッ……!?」
バコォッ! と乾いた音を立てながら、崖の一部が粉砕する。
巻き起こる粉塵に、私は咄嗟に顔の前に腕を持っていくことで目を庇いつつ、視界が明けるのを待った。
数秒程して粉塵が晴れるのが分かると、私は腕を下ろし、目の前にあるものを見て言葉を失った。
「これは……」
「……洞窟……?」
私の言葉に続けるように、寺島が呟いた。
すると、東雲は少し間を置いて、口を開いた。
「これってさ、あのクラインの野郎が言ってたダンジョンじゃない?」
「えっ……」
「へー! てことは、中にあの魔女の心臓とやらがあるってこと!?」
キラキラと目を輝かせながら言う葛西に、私は、なんだか嫌な予感がした。
二人を制止すべきか迷っている間に、東雲がこちらに振り返って口を開いた。
「ちょっと中入ってみようよ」
「だ、ダメだよ!」
ほとんど反射的に、私は否定した。
すると、東雲はムッとした表情を浮かべた。
私はそれに戸惑いつつも、慌てて続けた。
「だ、だって……もしも本当にダンジョンだったら、危ないじゃん。魔女の心臓があるってことは、凄く強い守り人とやらもいるはずだし……魔物だって、外にいる魔物とは比べ物にならないくらい強いはずだよ」
「そ、そうだよ……クラインさんにだって、魔物を倒す時は、危ない所や遠くには行かないようにって注意されたじゃない」
私に続けるように、寺島が言う。
まさか味方してくれる人がいるとは思っていなかったので、私は少し驚いてしまった。
そんな私達の言葉に、東雲の表情が徐々に曇っていくのが分かる。
「……でもさ、外の魔物ばっかり倒していても、レベル上がんないじゃん」
「それは……クラインさんに言えば、何とかしてもらえ……」
「そんなのんびりしてたら、いつまで経っても日本に帰れないよ」
冷たい声で言う東雲に、私と寺島はほぼ同時に口を噤んだ。
葛西は東雲側にも関わらず、そんな東雲を前にして、少し驚いている様子だった。
東雲は私と寺島を冷ややかな目で見た後で、フイッと顔を背けた。
「……私は行くよ。少しでも早く、強くなりたいから……早く、日本に帰りたいから……」
「……東雲さん……」
「嫌なら皆は城に帰れば良いよ」
それだけ言って、東雲は踵を返し、洞窟の奥に向かって歩き出す。
すぐに、葛西が「理沙! 待って!」と言いながら、東雲に続いて奥に駆けていく。
二人がいなくなって、しばらく私達の間に静寂が訪れる。
呆然としていると、先に我に返った寺島が私に視線を向けてきた。
「い、猪瀬さん……どうする?」
「ど、どうするって……追いかけるしかないでしょッ!」
寺島の言葉にようやく我に返った私は、そう言いながら、洞窟の奥に向かって駆け出す。
すると、寺島は「う、うん!」と答え、私に続いて駆け出した。
しばらく走っていると、洞窟の奥には下に行く階段のようなものがあった。
迷わずにその階段を下りて行くと、そこには通路のようなものが広がっていた。
「……ここは……」
私はそう呟きながら、その場で足を止めた。
それに、寺島もすぐ隣で立ち止まった。
辺りの壁や床は紺色の岩で出来ており、天井のみ何やら光を発する素材で出来ているようで、それによって辺りを見渡すことが出来た。
少し見渡すだけで、辺りに魔物の死体が転がっているのが分かった。
「これ……理沙ちゃん達が……?」
「多分、ね……この死体を追っていけば、あの二人に追いつけるかもしれない。まだそんなに遠くには行ってないはずだし」
私の言葉に、寺島は頷く。
それから転がっている魔物の死体を頼りに、私達は歩いて行った。
……ダンジョンと言っても、序盤にいる魔物はそこまで強くないのかもしれない。
東雲や葛西がダンジョンに向かってから割とすぐに追いかけたはずなのに、ここまで倒せているということは、それだけ一匹を倒す時間が短かったということだ。
けど、そうなると二人がどこまで進んだのか分からなくなってしまうな……。
そんな風に考えていた矢先、角を曲がったところで、二人が何やら魔物を倒しているのが見えた。
「はぁッ!」
叫びながら東雲が棍棒を振るうと、それにより目の前にいた魔物の頭が粉砕され、その場に倒れ伏せた。
それ以外に近くに魔物がいないことを確認し、私は飛び出した。
「東雲さん! 葛西さん!」
「……猪瀬ちゃん?」
私の声に、葛西が反応しながらこちらを見てくる。
それに、東雲も不思議そうな顔をしてこちらに視線を向けてくる。
ひとまず私は二人の前まで行き、口を開く。
「こんな場所にいた……探したよ」
「いやー、思ってたより魔物が弱かったから、つい」
悪びれることも無く言う葛西に、私は嘆息する。
まぁ何はともあれ、怪我も無さそうで良かった。
人を苛めるようなロクでもない連中ではあるが、一応は仲間だし、死なれたら後味が悪い。
私は東雲に視線を向け、口を開く。
「東雲さんも、無事で良かった」
「……アンタに心配される筋合いはない」
私の言葉に、東雲はそう言いながら顔を背けた。
……コイツ、素直じゃねぇな……。
小さく溜息をつきつつ、私は続ける。
「まぁ、確かに私と東雲さん達はただ同じグループになっただけの関係だけど……それでも、一緒に戦ってきた仲間でしょ?」
「……」
「……ごめん。そう思ってたの私だけだった?」
無言で目を背ける東雲に、私はそう聞いてしまう。
すると、葛西が「そんなことないない!」と否定してくれる。
よ……良かった……。
「……だからさ、こんなことで死なれたら、流石に後味悪いよ。東雲さんにだって、帰りを待つ家族とか……東雲さんが死んだら悲しむ人とか、一人くらいいるでしょ?」
「……」
私の言葉に、東雲は何も言わないまま、チラッと葛西に視線を向けた。
すると、葛西は両手に拳をつくって「そうだよ!」と、私に賛同してくれる。
「猪瀬ちゃんの言う通りだよ! 皆で帰ろう!」
「……林檎……」
葛西の言葉に、理沙はそう呟く。
彼女は私と寺島にもそれぞれ視線を向け、一度大きく息をつく。
それから改めて私を見て、「分かった」と頷いた。
「……帰るよ。もう無理はしない」
「よしっ……じゃあ、とりあえずダンジョンから出て……」
私がそう言った時、誰かの足元からボコッと鈍い音がした。
何事かと不思議に思ったのも束の間、私達を囲うように、地面に魔法陣のようなものができた。
魔法陣は青白い光を放ち、瞬く間にその光は私達を包み込んだ。
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