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第1章:奴隷契約編
004 一緒に組んでくれる人
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「では、四人グループを作るのはどうでしょう?」
クラインの言葉に「げッ」と声を上げそうになるのを、何とか堪えた。
よりによって……四人グループ、か……。
昔から、こういうグループ作ってとか二人組作って的な指示は苦手だ。
だって、一緒に組んでくれる人がいないんだもの。友達いないから。
とはいえ、流石にこれは戦闘に関わることだし、きっと我らが学級委員長が皆の武器やステータスを見て、バランスの取れたパーティを……。
「じゃあ、仲の良い人同士で適当に組みましょうか」
いいんちょぉぉぉぉぉぉッ!
内心で咆哮しつつ、私はがっくりと項垂れた。
……まぁ、十二人だからちょうど四人で分けれるし、適当に人数が少ないグループに入れば良いか。
一人ガッカリしている間に、他のクラスメイト達はそれぞれ仲の良い人とそれぞれグループを作っていく。
私はその様子を横目に、何度目かになる溜息をついた。
「いッ……猪瀬さん!」
その時、名前を呼ばれた。
パッと顔を上げると、そこには最上さんが立っていた。
彼女の髪は空色に染まっている。目は前髪で見えないけど、きっと同色に染まっているのだろう。
彼女は長い柄に両刃の剣のようなものが付いた武器──所謂、矛のような武器を持っていた。
「最上さん?」
「い、猪瀬、さん……! あ、ああの……よ、良かったら……わ、私と、い、一緒、に……く、組んでくれま、せんか……!?」
矛の柄を強く握り締めながら言う最上さんに、私は面食らってしまった。
別に、最上さんと組むこと自体は構わない。
日本にいた頃は色々な授業でペアになったりしてたし、今更彼女と組んだところで、東雲に目を付けられることも無いだろう。
むしろ、他のクラスメイトに比べれば、最上さんはまだ気心が知れている方だ。
驚いたのは、彼女から声を掛けてきたこと。
今までは、他のクラスメイト達がグループなどを組み終わった後で、余った私と最上さんがなあなあで組むという形が多かった。
東雲に目を付けられる程のコミュ障の最上さんと、生まれてこの方、友達など一人もいなかった私だよ?
お互いに、自分から相手に話しかけるコミュ力など持っていない。
だからこそ、最上さんからの誘いに、私は驚いてしまった。
「えっ……と……良いよ……?」
驚きつつも、何とか声を振り絞って、そう答えて見せる。
すると、最上さんはパァッとその表情を明るくし、掻き消えそうな声で「良かった……」と呟いた。
……そんなに嬉しかったのか……?
そう驚きつつも、何だか照れ臭くて、私は頬を掻いた。
まぁ、女子って基本二人組で行動しているし、余った二人と組めば良いか。
……なんて、暢気に考えていた時だった。
「あの……猪瀬さん、最上さん……」
声を掛けられ、私は顏を向けた。
するとそこには、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべて立っている山吹さんがいた。
装備した盾を指でなぞりながら、彼女は続けた。
「今、三人のグループが二つあって……良かったら、二人にはそれぞれ入って欲しいんだけど……」
彼女の言葉に、私は眼球を動かして、周りの状況を観察する。
そして……絶句した。
なぜなら、その三人のグループというのは……東雲グループと、山吹さんのグループだったからだ。
あぁ、盲点だった。なぜ気付かなかったのだろうか。
この二組は……三人で行動しているじゃないか。
そりゃあ、クラス内で双璧を誇るこの二組の中に入る度胸など、普通はあるはずがない。
私達がグズグズしている間に、他の四人が結託してグループを作ったというわけだ。
こういう数合わせに使われるのは、いつも私達の役目……か……。
冷や汗が頬を伝うのを感じつつ、私は隣にいる最上さんに視線を向けた。
彼女はどこか不安そうな様子で、矛の柄を握り締めて俯いていた。
「……もしも離れるのが嫌なら、私が東雲さん達の班に行くから、二人は私の班に行けばいいよ」
その言葉に、最上さんがパッと顔を上げる。
いや……それもダメだ……。
あの三人は、確か中学からの仲だと聞く。
山吹さん派閥の中でも、あの二人は特に山吹さんのことを慕っている。
そんな山吹さんが私達の為に別のグループに行ったとなれば、確実に反感を買うだろう。
仮に山吹さんの提案を呑んだとしても、一緒に戦っていく中で、二人との間に壁が出来るのは明白だ。
上手くいかなくなるのが、目に見えている。
けど、東雲グループに最上さんを行かせるわけにはいかない。
ただでさえイジメを受けている上に、東雲はこんな状況下でも最上さんを苛めるような奴だ。
もしも、ここで最上さんをあのグループに入れた暁には、最悪……──。
「……」
私は小さく息をつき、思考を巡らせる。
だからと言って、私があの中に入るのも……嫌だ……。
最上さんよりは最悪の事態になる可能性は低いかもしれないが、あくまで低いだけだ。
一緒に戦っていく中で、イジメの標的が最上さんから私に移る可能性だって、ゼロじゃない。
しかし、だからと言って最も可能性が低そうな山吹さんをあの場に送り込むのも気が引けるし……。
「……猪瀬さん……」
何も言えずに俯いていると、最上さんが、掠れた声で名前を呼んで来た。
それに、私は顏を上げて、「最上さん……」と呟く。
彼女の顔を見た瞬間、グチャグチャに混ざりあっていた思考が、少し落ち着いてくるのが分かった。
……最上さんにはきっと……帰りを待っている家族がいる。
山吹さんだって、クラインに対して堂々と反論できる原動力になる程に大切にしている家族がいる。
何より、彼女は多くの生徒から慕われている。
二人には、自分の帰りを待ってくれている人がいる。
……じゃあ、私はどうだ?
私には、帰りを待ってくれている家族はいる?
私が生きることを望んでくれる誰かがいる?
……いないよ、そんなもの。
だったら、この場でどうすることが最適解なのかは、考えなくても分かる。
私はゆっくりと手を挙げて、そして……──。
「……私、東雲さん達のグループに行くよ」
──……そう続けた。
出来るだけ声が震えないように、丁寧に。
そんな私の言葉に、最上さんは私を見て「えっ……」と小さく声を漏らした。
山吹さんは、私と最上さんを交互に見てから私に視線を固定し、「良いの……?」と聞き返してくる。
それに、私は「うん」と頷いて見せた。
「ホラ、最上さんはさっきの怪我のこととかあるし、山吹さんが傍に付いててあげた方が良いと思うんだよね」
「……でも、猪瀬さんと最上さんは、友達なんじゃ……」
山吹さんの言葉に、私は最上さんに視線を向ける。
すると、最上さんはビクッと肩を震わせ、私を見つめてくる。
「……違うよ」
出来るだけ間を置かないように、私はそう答えた。
私と最上さんの関係は、正直、良く分からない。
けど、少なくとも、この場では否定しておいた方が良いと思った。
だって、ここで私がそれを肯定してしまったら……イジメの標的が私に移る可能性が、高くなってしまうじゃないか。
何か言いたげな様子でこちらを見てくる最上さんに背を向け、私は、東雲達の元に歩いて行く。
すると、髪と目が赤くなった葛西が「いらっしゃい」と笑いながら、手を振って来た。
「……東雲さん、葛西さん、寺島さん。今日から、よろしくお願いします」
込み上げて来る緊張を抑えながら、私はそう口にして、軽く会釈をした。
すると、葛西がケラケラと明るく笑った。
「猪瀬ちゃん堅苦しいなぁ。同級生なんだから、気楽に話そうよ」
「う、うん……あはは、ごめんね」
「ううん。あまり話したことないから、緊張するよね」
ひとまず作り笑いで謝ると、髪と目が紺色になった寺島が小さく笑みを浮かべながらそう言ってきた。
私はそれに「ありがとう」と答えつつ、視線を東雲に向けた。
とりあえず、葛西と寺島の反応は悪くない。
一番の問題は、お前だよ。東雲。
ドクドクと激しく脈打つ心臓の音を聴きながら、私は彼女の反応を待った。
「……よろしく、猪瀬さん」
東雲はそう言って、小さく笑った。
……良かった。少なくとも、不評は買っていないらしい。
私はそれに頷き、「よろしく」と答えた。
クラインの言葉に「げッ」と声を上げそうになるのを、何とか堪えた。
よりによって……四人グループ、か……。
昔から、こういうグループ作ってとか二人組作って的な指示は苦手だ。
だって、一緒に組んでくれる人がいないんだもの。友達いないから。
とはいえ、流石にこれは戦闘に関わることだし、きっと我らが学級委員長が皆の武器やステータスを見て、バランスの取れたパーティを……。
「じゃあ、仲の良い人同士で適当に組みましょうか」
いいんちょぉぉぉぉぉぉッ!
内心で咆哮しつつ、私はがっくりと項垂れた。
……まぁ、十二人だからちょうど四人で分けれるし、適当に人数が少ないグループに入れば良いか。
一人ガッカリしている間に、他のクラスメイト達はそれぞれ仲の良い人とそれぞれグループを作っていく。
私はその様子を横目に、何度目かになる溜息をついた。
「いッ……猪瀬さん!」
その時、名前を呼ばれた。
パッと顔を上げると、そこには最上さんが立っていた。
彼女の髪は空色に染まっている。目は前髪で見えないけど、きっと同色に染まっているのだろう。
彼女は長い柄に両刃の剣のようなものが付いた武器──所謂、矛のような武器を持っていた。
「最上さん?」
「い、猪瀬、さん……! あ、ああの……よ、良かったら……わ、私と、い、一緒、に……く、組んでくれま、せんか……!?」
矛の柄を強く握り締めながら言う最上さんに、私は面食らってしまった。
別に、最上さんと組むこと自体は構わない。
日本にいた頃は色々な授業でペアになったりしてたし、今更彼女と組んだところで、東雲に目を付けられることも無いだろう。
むしろ、他のクラスメイトに比べれば、最上さんはまだ気心が知れている方だ。
驚いたのは、彼女から声を掛けてきたこと。
今までは、他のクラスメイト達がグループなどを組み終わった後で、余った私と最上さんがなあなあで組むという形が多かった。
東雲に目を付けられる程のコミュ障の最上さんと、生まれてこの方、友達など一人もいなかった私だよ?
お互いに、自分から相手に話しかけるコミュ力など持っていない。
だからこそ、最上さんからの誘いに、私は驚いてしまった。
「えっ……と……良いよ……?」
驚きつつも、何とか声を振り絞って、そう答えて見せる。
すると、最上さんはパァッとその表情を明るくし、掻き消えそうな声で「良かった……」と呟いた。
……そんなに嬉しかったのか……?
そう驚きつつも、何だか照れ臭くて、私は頬を掻いた。
まぁ、女子って基本二人組で行動しているし、余った二人と組めば良いか。
……なんて、暢気に考えていた時だった。
「あの……猪瀬さん、最上さん……」
声を掛けられ、私は顏を向けた。
するとそこには、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべて立っている山吹さんがいた。
装備した盾を指でなぞりながら、彼女は続けた。
「今、三人のグループが二つあって……良かったら、二人にはそれぞれ入って欲しいんだけど……」
彼女の言葉に、私は眼球を動かして、周りの状況を観察する。
そして……絶句した。
なぜなら、その三人のグループというのは……東雲グループと、山吹さんのグループだったからだ。
あぁ、盲点だった。なぜ気付かなかったのだろうか。
この二組は……三人で行動しているじゃないか。
そりゃあ、クラス内で双璧を誇るこの二組の中に入る度胸など、普通はあるはずがない。
私達がグズグズしている間に、他の四人が結託してグループを作ったというわけだ。
こういう数合わせに使われるのは、いつも私達の役目……か……。
冷や汗が頬を伝うのを感じつつ、私は隣にいる最上さんに視線を向けた。
彼女はどこか不安そうな様子で、矛の柄を握り締めて俯いていた。
「……もしも離れるのが嫌なら、私が東雲さん達の班に行くから、二人は私の班に行けばいいよ」
その言葉に、最上さんがパッと顔を上げる。
いや……それもダメだ……。
あの三人は、確か中学からの仲だと聞く。
山吹さん派閥の中でも、あの二人は特に山吹さんのことを慕っている。
そんな山吹さんが私達の為に別のグループに行ったとなれば、確実に反感を買うだろう。
仮に山吹さんの提案を呑んだとしても、一緒に戦っていく中で、二人との間に壁が出来るのは明白だ。
上手くいかなくなるのが、目に見えている。
けど、東雲グループに最上さんを行かせるわけにはいかない。
ただでさえイジメを受けている上に、東雲はこんな状況下でも最上さんを苛めるような奴だ。
もしも、ここで最上さんをあのグループに入れた暁には、最悪……──。
「……」
私は小さく息をつき、思考を巡らせる。
だからと言って、私があの中に入るのも……嫌だ……。
最上さんよりは最悪の事態になる可能性は低いかもしれないが、あくまで低いだけだ。
一緒に戦っていく中で、イジメの標的が最上さんから私に移る可能性だって、ゼロじゃない。
しかし、だからと言って最も可能性が低そうな山吹さんをあの場に送り込むのも気が引けるし……。
「……猪瀬さん……」
何も言えずに俯いていると、最上さんが、掠れた声で名前を呼んで来た。
それに、私は顏を上げて、「最上さん……」と呟く。
彼女の顔を見た瞬間、グチャグチャに混ざりあっていた思考が、少し落ち着いてくるのが分かった。
……最上さんにはきっと……帰りを待っている家族がいる。
山吹さんだって、クラインに対して堂々と反論できる原動力になる程に大切にしている家族がいる。
何より、彼女は多くの生徒から慕われている。
二人には、自分の帰りを待ってくれている人がいる。
……じゃあ、私はどうだ?
私には、帰りを待ってくれている家族はいる?
私が生きることを望んでくれる誰かがいる?
……いないよ、そんなもの。
だったら、この場でどうすることが最適解なのかは、考えなくても分かる。
私はゆっくりと手を挙げて、そして……──。
「……私、東雲さん達のグループに行くよ」
──……そう続けた。
出来るだけ声が震えないように、丁寧に。
そんな私の言葉に、最上さんは私を見て「えっ……」と小さく声を漏らした。
山吹さんは、私と最上さんを交互に見てから私に視線を固定し、「良いの……?」と聞き返してくる。
それに、私は「うん」と頷いて見せた。
「ホラ、最上さんはさっきの怪我のこととかあるし、山吹さんが傍に付いててあげた方が良いと思うんだよね」
「……でも、猪瀬さんと最上さんは、友達なんじゃ……」
山吹さんの言葉に、私は最上さんに視線を向ける。
すると、最上さんはビクッと肩を震わせ、私を見つめてくる。
「……違うよ」
出来るだけ間を置かないように、私はそう答えた。
私と最上さんの関係は、正直、良く分からない。
けど、少なくとも、この場では否定しておいた方が良いと思った。
だって、ここで私がそれを肯定してしまったら……イジメの標的が私に移る可能性が、高くなってしまうじゃないか。
何か言いたげな様子でこちらを見てくる最上さんに背を向け、私は、東雲達の元に歩いて行く。
すると、髪と目が赤くなった葛西が「いらっしゃい」と笑いながら、手を振って来た。
「……東雲さん、葛西さん、寺島さん。今日から、よろしくお願いします」
込み上げて来る緊張を抑えながら、私はそう口にして、軽く会釈をした。
すると、葛西がケラケラと明るく笑った。
「猪瀬ちゃん堅苦しいなぁ。同級生なんだから、気楽に話そうよ」
「う、うん……あはは、ごめんね」
「ううん。あまり話したことないから、緊張するよね」
ひとまず作り笑いで謝ると、髪と目が紺色になった寺島が小さく笑みを浮かべながらそう言ってきた。
私はそれに「ありがとう」と答えつつ、視線を東雲に向けた。
とりあえず、葛西と寺島の反応は悪くない。
一番の問題は、お前だよ。東雲。
ドクドクと激しく脈打つ心臓の音を聴きながら、私は彼女の反応を待った。
「……よろしく、猪瀬さん」
東雲はそう言って、小さく笑った。
……良かった。少なくとも、不評は買っていないらしい。
私はそれに頷き、「よろしく」と答えた。
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