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アルフレド

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「順を追って話すから説明させてくれ!」

 うちの国も隣の国も、基本的に貴族は金髪か茶髪。
 平民は茶色や黒髪、まれに色素のうすい髪を持って生まれてくるらしいですけど、どちらの国も、いいえ、近隣のどの国にも、赤髪は生まれません。

 もし生まれたとしても、不吉だからと打ち捨てられるでしょう。

 それくらい、赤髪の狂王は近隣諸国では有名な話です。

「お姫さん、お姫さん!」

 がくがくと肩を揺さぶられて、我に返りました。
 隣国の第3王子が赤髪だからなんだと言うのです。

 平民のフレッドが大変珍しく赤髪で生まれてきて、その両親が迷信よりも我が子を慈しんで黒髪に染めて育て上げた、その可能性の方がどう考えてもあり得る話ではありませんか。

「ごめんなさい。少し、気が動転してしまったわ。さあ、全て話してちょうだい」
「俺の名はローリエンタ・メティウス・アルフレド。ローリエンタ帝国第3王子という肩書があった」

 背中に冷たい汗が流れます。
 聞き間違いかと思って視線をあちらこちらへ巡らせ、部屋の片隅に佇むシリアと目が合いました。

「お姫さん?」
「……いいえ何でもありませんわ。続けて、続けてください」
「赤髪で生まれてきて、ちょっと不貞腐れていた時期もあった。だから、そのうっぷんを晴らすために戦に明け暮れる日々を送って……まあ、それが原因で更に周囲に遠巻きにされてたわけだが」

 恥ずかしい、と笑っていますが、聞かされてる私としては鳥肌が立ちます。うっぷんを晴らすために、どれだけの命が散ったのでしょうか?

 戦好きの第3王子が将として出兵した戦では、残酷なまでに一方的にローリエンタが勝利すると言われています。ここしばらくローリエンタが戦争をどこにも仕掛けていないのは第3王子が病に倒れたからだと噂が回るほどに、戦といえば第3王子、でした。

「いい加減うっとおしくなって、国を出た。完全に身分を捨てるには血が濃すぎるし、監視付きという条件を飲んでな」

 それでうちの護衛になったと?

「我が家で働く必要ありましたか?」
「一般家庭がどのようなものか興味があった」
「なるほど?」

 高貴な血筋の方の考えることはわかりません。
 とりあえず、私はソファーから立って床にひれ伏すべきでしょうか?

「どうしたお姫さん」
「私が床に座りますから、王子さまはソファーへどうぞ」
「お姫さんが床に座ったらあっという間に風邪をひきそうだ。そこに座ってろ」
 
 出会ったばかりの私ならともかく、今や健康そのものの私が床に座ったくらいで風邪をひくことはありません。そう伝えてみても、フレッドは立ち上がりませんでしたし、私も立たせてはもらえませんでした。

「あっという間にお姫さんは子供から大人になってしまったし、そろそろ潮時かなと思って、国に戻る準備をしていたんだが」

 そこで言葉を切ったフレッドは持っていた仮面を軽く顔に当てて言いました。

「病弱なお姫さんが平民の嫁になると聞いて、居ても立っても居られなくなって……つい持って帰ってきた」
「はい?」

 私に平民に嫁ぐ予定はありませんし、そんな話は聞いていません。

「平民の嫁になる……とは、誰からの情報ですか?」
「屋敷に忍ばせていた影が聞いた」
「我が家に勝手に忍ばせないでください!」

 この3年のうちで新しく雇った通いのメイドも庭師も馬番も、全てフレッドの手先だと知って私はもう倒れそうです。

「数年平民の生活をしてみたが、お姫さんに耐えられるとは思えない」
「いえ。そもそも平民に嫁ぐという話は聞いたことがありません。仮にもしそうだとしても、富豪と呼ばれる部類なのでは? そうであるなら、男爵家と同等かそれ以上の待遇であったと思いますし、ご心配頂くようなことはなにもありません」

 勝手に心配して、無理矢理さらって、その責任を押し付けることもできない雲の上の存在に成り上がってしまったフレッド。

 アルフレド様に責任をとってもらうには、私の身分が足りません。

「とにかく、話はなんとなく理解しました。もう大丈夫なので、家に戻してください」

 誘拐された瑕疵付きの娘でも、貴族の端くれ。
 相手が平民であればどうにかなるでしょう。貴族との繋がりが欲しいだけの相手を見つけてもらえば良いのです。

「すまんお姫さん。それはできない」

 
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