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誘拐されたようです
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地揺れがしたような気がして目が覚めました。
住み込みのメイドがおらず、いつも自分でカーテンの開閉をしている我が家では、朝起きても部屋は薄暗いものです。
ですが今日は何かが違いました。
視界が真っ暗で、何も見えません。
真夜中に起きたのかと思いつつ、小さく揺れ続ける感覚に驚き、暗闇の中で手を動かしたことで、自分がベッドの端にいることに気付きました。
急に動いて落ちたら危ないと、冷静になった頭で考えゆっくり上半身を起こします。
するとその時、私以外いないはずの部屋で男の声がしました。
「起きたのか?」
「え!?」
男の手が一瞬早く私の口をふさぎましたけど、私の悲鳴はとまりません。
「きゃぁーっ」
くぐもった悲鳴でもなんでもいいから父か母の耳に届けと、必死に声を出します。
「やぁーーーーっ」
女性の悲鳴というより子供の甲高い奇声になってますけど、口をふさがれているため出せる音は限られているので必死です。
私の口を手でふさぐという蛮行を繰り広げている男は、私が力尽きるまで悲鳴を聞き続けました。せめて途中で怖い言葉で脅してくれたら諦めもつくというのに。
「落ち着いたか?」
全然落ち着いてません。必死に声を出し過ぎて息が苦しいだけです。
「もう少ししたら目的地に着く。そしたら好きなだけ騒いでいいから、今はちょっと抑えて欲しい。さすがに耳が痛い」
その言葉で、揺れ続けるベッドが馬車の中にあるという事実に気が付きました。
口元から手を外そうとして男の手首を掴んでいた自分の手で、ベッドをポフポフ叩いてみて確信しました。私はベッドごと馬車に乗っています。
しばらくの沈黙後、男の手が口元から離れたと安堵した瞬間、先ほどポフポフ叩いた場所に男が座った気配が。
「もう少し辛抱してくれ。目的地に着いたら目隠しもとってやるから」
「めかくし……」
真っ暗だったのは、目を布でおおわれていたせいでした。
目元の布の存在に気付いてそれを手で触っていると、男が突然私の頭を無許可で撫でてきました。
今度はあまりの近さと驚きと恐怖で声もでず固まる私。
これから何が起こるのだろうかと、考えただけで涙が止まりません。
「大丈夫。今は何もしない」
今は、ってことは、いつか何かするんですか!?
普段ならすぐ口に出していたでしょう。
命の保証があって、身の安全が確保されている普段なら……。
今はただ震えることしかできません。
「目的はなんですか?」そう問いかけることすらできない無力な自分を情けなく思う勝気な心、でもそんな勝気さが鳴りを潜めて全面降伏しまうほどこの状況が恐ろしい。
「大丈夫。何も怖いことはない」
すでに十分恐ろしい思いをしている私に対して、男はなんの慰めにもならない言葉を紡ぎ続ける。
「大丈夫、大丈夫だ」
震える肩に無遠慮に手を置く男が怖い。
目隠しの下で、目をきつく閉じて夢なら覚めてと願う。
「屋敷に着いたら美味しい朝食が食べられるぞ。お姫さんが大好きな甘いジャムもたっぷり使っていい」
子供をなだめるみたいに優しい声でそう言う男は、現在進行形で誘拐犯。
「ごめんな、お姫さん」
私の知り合いの中で、私のことを「お姫さん」と呼ぶ男が一人いる。
よく聞いてみると、誘拐犯の男の声はどことなくその男に似ている気がする。
その可能性に気づいたら、恐怖も少し落ち着いてきた。
そして今度は疑問が浮かぶ。
なんで私、自分の家の護衛兵士に誘拐されてるの?
住み込みのメイドがおらず、いつも自分でカーテンの開閉をしている我が家では、朝起きても部屋は薄暗いものです。
ですが今日は何かが違いました。
視界が真っ暗で、何も見えません。
真夜中に起きたのかと思いつつ、小さく揺れ続ける感覚に驚き、暗闇の中で手を動かしたことで、自分がベッドの端にいることに気付きました。
急に動いて落ちたら危ないと、冷静になった頭で考えゆっくり上半身を起こします。
するとその時、私以外いないはずの部屋で男の声がしました。
「起きたのか?」
「え!?」
男の手が一瞬早く私の口をふさぎましたけど、私の悲鳴はとまりません。
「きゃぁーっ」
くぐもった悲鳴でもなんでもいいから父か母の耳に届けと、必死に声を出します。
「やぁーーーーっ」
女性の悲鳴というより子供の甲高い奇声になってますけど、口をふさがれているため出せる音は限られているので必死です。
私の口を手でふさぐという蛮行を繰り広げている男は、私が力尽きるまで悲鳴を聞き続けました。せめて途中で怖い言葉で脅してくれたら諦めもつくというのに。
「落ち着いたか?」
全然落ち着いてません。必死に声を出し過ぎて息が苦しいだけです。
「もう少ししたら目的地に着く。そしたら好きなだけ騒いでいいから、今はちょっと抑えて欲しい。さすがに耳が痛い」
その言葉で、揺れ続けるベッドが馬車の中にあるという事実に気が付きました。
口元から手を外そうとして男の手首を掴んでいた自分の手で、ベッドをポフポフ叩いてみて確信しました。私はベッドごと馬車に乗っています。
しばらくの沈黙後、男の手が口元から離れたと安堵した瞬間、先ほどポフポフ叩いた場所に男が座った気配が。
「もう少し辛抱してくれ。目的地に着いたら目隠しもとってやるから」
「めかくし……」
真っ暗だったのは、目を布でおおわれていたせいでした。
目元の布の存在に気付いてそれを手で触っていると、男が突然私の頭を無許可で撫でてきました。
今度はあまりの近さと驚きと恐怖で声もでず固まる私。
これから何が起こるのだろうかと、考えただけで涙が止まりません。
「大丈夫。今は何もしない」
今は、ってことは、いつか何かするんですか!?
普段ならすぐ口に出していたでしょう。
命の保証があって、身の安全が確保されている普段なら……。
今はただ震えることしかできません。
「目的はなんですか?」そう問いかけることすらできない無力な自分を情けなく思う勝気な心、でもそんな勝気さが鳴りを潜めて全面降伏しまうほどこの状況が恐ろしい。
「大丈夫。何も怖いことはない」
すでに十分恐ろしい思いをしている私に対して、男はなんの慰めにもならない言葉を紡ぎ続ける。
「大丈夫、大丈夫だ」
震える肩に無遠慮に手を置く男が怖い。
目隠しの下で、目をきつく閉じて夢なら覚めてと願う。
「屋敷に着いたら美味しい朝食が食べられるぞ。お姫さんが大好きな甘いジャムもたっぷり使っていい」
子供をなだめるみたいに優しい声でそう言う男は、現在進行形で誘拐犯。
「ごめんな、お姫さん」
私の知り合いの中で、私のことを「お姫さん」と呼ぶ男が一人いる。
よく聞いてみると、誘拐犯の男の声はどことなくその男に似ている気がする。
その可能性に気づいたら、恐怖も少し落ち着いてきた。
そして今度は疑問が浮かぶ。
なんで私、自分の家の護衛兵士に誘拐されてるの?
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