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娘のために良かれと思って
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質が悪いという理由で格安で売られていた紙にこの前の出来事を思い出しながら書きます。
紙がもったいないので毎日は書けないけれど、気になったことや覚えておきたいこと、誰にも言えない愚痴などを記すのが密かな楽しみなのです。
ー社交界なんて滅んでしまえー
行きたくもない伯爵家のお茶会に参加したら、案の定右見ても左見てもパールだらけ。
主催のご令嬢が同年代だったから参加したけれど、大失敗。
『あらぁ、リリアンジェさん。最近の流行は隣国産のパールなのよ……ほら、ご覧になって? この淡い美しい輝きを』今日一番の嫌味はこれに決定。
パールが流行りな事くらい知っているわ。我が家にはパールを購入する資金がなかっただけ。
献上されたパールを王太后様が気に入ったから、皆こぞって取り寄せたようだけど、隣国の思うつぼね。
あまり付き合いのない家だったから知らなかったけれど、あそこのご令嬢、間違いなく性格悪いわ。近所の格下集めてパール自慢したかったから主催したお茶会なんじゃないかしら?
また招待されても行かないように今後は気を付けよう。
ー滅びろお茶会文化ー
書き終わった文章を眺めて、満足したら燃やします。愚痴を書く時は、誰にも見られないように隠滅することにしているの。
「あぁ、でも、子爵家の子のネックレスの方が色艶綺麗だったのは傑作でしたわ」
朝食を終えてのんびりしていたところに、お父様がやってきました。
「おはようリリアンジェ。よい朝だね」
「おはようございますお父様」
立ち上がって軽く頭を下げると、お父様は微笑みながら姿絵を一枚差し出してきました。
「この男性をどう思う?」
「こちらの方はどなた様でしょうか?」
年の若い男性が椅子に座っている絵、これが有名な俳優でないなら、お父様がわざわざ私に見せに来た理由は好ましくない部類の用件でしょう。
「先日お母様と一緒に伯爵家のお茶会にお呼ばれしただろう? なんとそこのご子息がリリアンジェを是非紹介して欲しいと頼み込んできてね、いやぁさすが伯爵子息、見る目がある」
よりによって意地悪パール令嬢の兄。
「小動物のような愛らしさを持つお前の伏せられた紅玉の瞳が金の髪とあいまってとても印象的だったとか」
「お断りしてください」
「なんと!?」
格上の伯爵家からお見合いの打診は、普通ならいそいそと今からお見合いに向け家族一丸となって準備をするくらいの慶事。しかし今回は相手の身内に悪印象がありすぎるのです。
「そもそもなぜわたくしを? あいにく、わたくしはこの方を存じ上げません」
「茶会を開催していると知らず帰宅し、お前を一目見て気に入ったそうだ。緑の騎士団に所属しているそうだよ」
「そうですか。ではお断りしてくださいませ」
「なぜだいアンジェェ!」
「なぜって、妹は意地悪だし、コネ騎士団と呼ばれている緑所属の時点で兄本人にも明るい未来が見えないからですよ」
あぁ、つい心の声が……。
「とにかく、お断りください」
「そんなこと言わずに。お父様のためにも」
「嫌でございます」
うふふ、と笑いながら席を立ち、部屋を出て行こうとすると後ろから声がかかります。
「待ちなさい、まだ話は終わっていないぞ、どこへ行くのだ」
「これから刺繍の仕事がありますの」
支配する土地を持たない我が男爵家の貴族収入では、不足しない生活をしながら住み込みの料理人とメイドを一人ずつ雇うので精一杯。嗜好品を買おうと思ったら内職して自分で稼ぐしかないのです。
「伯爵夫人になれば仕事なんぞせんで好きなものが買える生活になるんだぞ!」
「わたくし、嫌いじゃありませんのよ、労働」
この日を境にお父様が嫌な方向に変質していってしまったので、わたくし、家を出ようと思います。
ー社交界なんて滅んでしまえー
お父様が変わった。
優しいお父様を変えた社交界なんて大嫌い。
お金と地位があっても、努力も実力も半人前と噂される騎士といい夫婦になれる気がしない。
幸せの価値観を押し付けないでほしい。
お茶会に参加するたび嫉妬されて面倒くさい。
ー廃れろお茶会文化ー
紙がもったいないので毎日は書けないけれど、気になったことや覚えておきたいこと、誰にも言えない愚痴などを記すのが密かな楽しみなのです。
ー社交界なんて滅んでしまえー
行きたくもない伯爵家のお茶会に参加したら、案の定右見ても左見てもパールだらけ。
主催のご令嬢が同年代だったから参加したけれど、大失敗。
『あらぁ、リリアンジェさん。最近の流行は隣国産のパールなのよ……ほら、ご覧になって? この淡い美しい輝きを』今日一番の嫌味はこれに決定。
パールが流行りな事くらい知っているわ。我が家にはパールを購入する資金がなかっただけ。
献上されたパールを王太后様が気に入ったから、皆こぞって取り寄せたようだけど、隣国の思うつぼね。
あまり付き合いのない家だったから知らなかったけれど、あそこのご令嬢、間違いなく性格悪いわ。近所の格下集めてパール自慢したかったから主催したお茶会なんじゃないかしら?
また招待されても行かないように今後は気を付けよう。
ー滅びろお茶会文化ー
書き終わった文章を眺めて、満足したら燃やします。愚痴を書く時は、誰にも見られないように隠滅することにしているの。
「あぁ、でも、子爵家の子のネックレスの方が色艶綺麗だったのは傑作でしたわ」
朝食を終えてのんびりしていたところに、お父様がやってきました。
「おはようリリアンジェ。よい朝だね」
「おはようございますお父様」
立ち上がって軽く頭を下げると、お父様は微笑みながら姿絵を一枚差し出してきました。
「この男性をどう思う?」
「こちらの方はどなた様でしょうか?」
年の若い男性が椅子に座っている絵、これが有名な俳優でないなら、お父様がわざわざ私に見せに来た理由は好ましくない部類の用件でしょう。
「先日お母様と一緒に伯爵家のお茶会にお呼ばれしただろう? なんとそこのご子息がリリアンジェを是非紹介して欲しいと頼み込んできてね、いやぁさすが伯爵子息、見る目がある」
よりによって意地悪パール令嬢の兄。
「小動物のような愛らしさを持つお前の伏せられた紅玉の瞳が金の髪とあいまってとても印象的だったとか」
「お断りしてください」
「なんと!?」
格上の伯爵家からお見合いの打診は、普通ならいそいそと今からお見合いに向け家族一丸となって準備をするくらいの慶事。しかし今回は相手の身内に悪印象がありすぎるのです。
「そもそもなぜわたくしを? あいにく、わたくしはこの方を存じ上げません」
「茶会を開催していると知らず帰宅し、お前を一目見て気に入ったそうだ。緑の騎士団に所属しているそうだよ」
「そうですか。ではお断りしてくださいませ」
「なぜだいアンジェェ!」
「なぜって、妹は意地悪だし、コネ騎士団と呼ばれている緑所属の時点で兄本人にも明るい未来が見えないからですよ」
あぁ、つい心の声が……。
「とにかく、お断りください」
「そんなこと言わずに。お父様のためにも」
「嫌でございます」
うふふ、と笑いながら席を立ち、部屋を出て行こうとすると後ろから声がかかります。
「待ちなさい、まだ話は終わっていないぞ、どこへ行くのだ」
「これから刺繍の仕事がありますの」
支配する土地を持たない我が男爵家の貴族収入では、不足しない生活をしながら住み込みの料理人とメイドを一人ずつ雇うので精一杯。嗜好品を買おうと思ったら内職して自分で稼ぐしかないのです。
「伯爵夫人になれば仕事なんぞせんで好きなものが買える生活になるんだぞ!」
「わたくし、嫌いじゃありませんのよ、労働」
この日を境にお父様が嫌な方向に変質していってしまったので、わたくし、家を出ようと思います。
ー社交界なんて滅んでしまえー
お父様が変わった。
優しいお父様を変えた社交界なんて大嫌い。
お金と地位があっても、努力も実力も半人前と噂される騎士といい夫婦になれる気がしない。
幸せの価値観を押し付けないでほしい。
お茶会に参加するたび嫉妬されて面倒くさい。
ー廃れろお茶会文化ー
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