男爵令嬢の贅沢な悩み

たんぽぽ

文字の大きさ
上 下
1 / 7

娘のために良かれと思って

しおりを挟む
 質が悪いという理由で格安で売られていた紙にこの前の出来事を思い出しながら書きます。
 
 紙がもったいないので毎日は書けないけれど、気になったことや覚えておきたいこと、誰にも言えない愚痴などを記すのが密かな楽しみなのです。

ー社交界なんて滅んでしまえー
行きたくもない伯爵家のお茶会に参加したら、案の定右見ても左見てもパールだらけ。
主催のご令嬢が同年代だったから参加したけれど、大失敗。

『あらぁ、リリアンジェさん。最近の流行は隣国産のパールなのよ……ほら、ご覧になって?  この淡い美しい輝きを』今日一番の嫌味はこれに決定。

パールが流行りな事くらい知っているわ。我が家にはパールを購入する資金がなかっただけ。
献上されたパールを王太后様が気に入ったから、皆こぞって取り寄せたようだけど、隣国の思うつぼね。
 
あまり付き合いのない家だったから知らなかったけれど、あそこのご令嬢、間違いなく性格悪いわ。近所の格下集めてパール自慢したかったから主催したお茶会なんじゃないかしら?
また招待されても行かないように今後は気を付けよう。
ー滅びろお茶会文化ー

 書き終わった文章を眺めて、満足したら燃やします。愚痴を書く時は、誰にも見られないように隠滅することにしているの。
 
「あぁ、でも、子爵家の子のネックレスの方が色艶綺麗だったのは傑作でしたわ」

 朝食を終えてのんびりしていたところに、お父様がやってきました。

「おはようリリアンジェ。よい朝だね」
「おはようございますお父様」

 立ち上がって軽く頭を下げると、お父様は微笑みながら姿絵を一枚差し出してきました。

「この男性をどう思う?」
「こちらの方はどなた様でしょうか?」

 年の若い男性が椅子に座っている絵、これが有名な俳優でないなら、お父様がわざわざ私に見せに来た理由は好ましくない部類の用件でしょう。

「先日お母様と一緒に伯爵家のお茶会にお呼ばれしただろう? なんとそこのご子息がリリアンジェを是非紹介して欲しいと頼み込んできてね、いやぁさすが伯爵子息、見る目がある」

 よりによって意地悪パール令嬢の兄。

「小動物のような愛らしさを持つお前の伏せられた紅玉の瞳が金の髪とあいまってとても印象的だったとか」
「お断りしてください」
「なんと!?」

 格上の伯爵家からお見合いの打診は、普通ならいそいそと今からお見合いに向け家族一丸となって準備をするくらいの慶事。しかし今回は相手の身内に悪印象がありすぎるのです。

「そもそもなぜわたくしを? あいにく、わたくしはこの方を存じ上げません」
「茶会を開催していると知らず帰宅し、お前を一目見て気に入ったそうだ。緑の騎士団に所属しているそうだよ」
「そうですか。ではお断りしてくださいませ」
「なぜだいアンジェェ!」
「なぜって、妹は意地悪だし、コネ騎士団と呼ばれている緑所属の時点で兄本人にも明るい未来が見えないからですよ」

 あぁ、つい心の声が……。

「とにかく、お断りください」
「そんなこと言わずに。お父様のためにも」
「嫌でございます」

 うふふ、と笑いながら席を立ち、部屋を出て行こうとすると後ろから声がかかります。

「待ちなさい、まだ話は終わっていないぞ、どこへ行くのだ」
「これから刺繍の仕事がありますの」

 支配する土地を持たない我が男爵家の貴族収入では、不足しない生活をしながら住み込みの料理人とメイドを一人ずつ雇うので精一杯。嗜好品を買おうと思ったら内職して自分で稼ぐしかないのです。

「伯爵夫人になれば仕事なんぞせんで好きなものが買える生活になるんだぞ!」
「わたくし、嫌いじゃありませんのよ、労働」

 この日を境にお父様が嫌な方向に変質していってしまったので、わたくし、家を出ようと思います。

ー社交界なんて滅んでしまえー

お父様が変わった。
優しいお父様を変えた社交界なんて大嫌い。
お金と地位があっても、努力も実力も半人前と噂される騎士といい夫婦になれる気がしない。
幸せの価値観を押し付けないでほしい。
お茶会に参加するたび嫉妬されて面倒くさい。

ー廃れろお茶会文化ー


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?

新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

あなたはその人が好きなんですね。なら離婚しましょうか。

水垣するめ
恋愛
お互い望まぬ政略結婚だった。 主人公エミリアは貴族の義務として割り切っていた。 しかし、アルバート王にはすでに想いを寄せる女性がいた。 そしてアルバートはエミリアを虐げ始めた。 無実のエミリアを虐げることを、周りの貴族はどう捉えるかは考えずに。 気づいた時にはもう手遅れだった。 アルバートは王の座から退かざるを得なくなり──。

処理中です...