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第三王女、口説かれてる?
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「メロディア様のその優秀な頭を、陛下はとても求めておいでです」
「……そうですか」
「ところで、遊牧の民との婚姻が嫌なのは、もしや思い人がいらっしゃるからではありませんか?」
「はぁ?」
「もしそうなら、隠さず私におっしゃってください。王女殿下の夫になるに相応しい身分ならば我が国から交渉し、掛け合ってさしあげますし、身分が低い者でしたら、我が国の爵位を与えここで夫婦仲良く暮らせるように手配します」
「……いませんよ、そんな人」
私にばかり都合の良い話を語るのは大国の陛下直属の騎士、それも高位貴族確定の王族血縁者。多分実行しようと思えば可能でしょう。ただ、目的は私の頭、と言ったからには、私個人の自由は存在しないかもしれない。箱庭で飼われるおままごとみたいな夫婦生活が待っている可能性だってある。
もし結婚したほど好きな人がいたら、この甘い罠にひっかかっていたかもしれないけど。
「本当ですか? ではなぜ、あのように危険なことを? 運良く下の階へおりられましたが、物音一つにでも驚けばあっという間に落ちたかもしれないんですよ?」
命がけで逃げたくなるほど結婚すること自体が嫌なのかと問われた。
「それは少し違います」
別に政略結婚でもかまわない。結婚することだってかまわない。ただしその相手が遊牧民なのは嫌。それだけ。
「遊牧の民がそこまで憎いですか」
「それもちょっと違います」
穀物や家畜だけでなく、抵抗した村人の命すら奪っていく遊牧民の蛮族を好きかと言われたら嫌いだけど、過去の行いが原因で遊牧民の族長と結婚したくないってわけじゃない。
「では、どのような理由です?」
「それは……言えません」
生活水準が下がるのが嫌なんです。
贅沢に慣れ切ったこの体で、朝の水くみから掃除洗濯、朝と夜の食事作りに衣類作成、定期的にテント自体を移動しての遊牧生活。
無理。考えただけで無理。洗濯が洗濯機に放り込んで、脱水されたやつを干すだけならいいけど、一から全部手動とか……。料理だって、パック詰めされた肉を調理するのとは違う。それにレトルトもないから味は全部自分で作らなきゃならないし、そもそも調味料がどれだけあるのかもわからない。
うちの国で普及しはじめたコンロもない生活。火おこしが楽しいのはキャンプの時だけであって、それが毎日になったら苦痛でしかない。お父様にわがままと言われたっていい。
わがまま第二王女の実の妹なんだから、私がわがままなのは王家の血のせいに違いない!
「理由はお伝えできませんが、遊牧民の妻になるのが嫌なのです。結婚自体が嫌というわけではありません。もちろん、他の男性でも、嫌な場合はあるでしょうけど」
私が求める生活水準を最低限用意できるのは貴族か裕福な商人くらい。
うちの国の平民男性と結婚しろと言われても、私は逃げるかもしれない。
「……ちなみにこの国の王太子はどうですか?」
「お会いしたことはありませんけど、逃げたりはしないと思います」
むしろ生活水準上がるし、よっぽど酷い男性じゃなければ全然おっけーです。
「ふむ」
「そういえば、王太子殿下との婚約をうちに提案するんですか?」
王女本人がここにいる時点で、うちの国にとっては提案というか脅しに近いけど。
「私ならどうです? 逃げますか?」
「……それ答える必要がありますか」
「是非。本気で考えてきちんとした答えをください」
正直、アシュラスの見た目は最高にいい。金髪で青い瞳の長身イケメン。私を抱き上げて歩いても平気なほど鍛えられた体。しかも王や王太子と濃い血のつながりがある高位貴族。
メイドも執事もいるだろうから、私が家事をすることもない。お菓子だって食べ放題。私は宝石とか装飾品にあんまり興味ないけど、まあ望めばくれるだろう。
性格は少し難ありかもしれないけど、暴力的ってわけでもないし……。
「私に自由をくれるなら別に相手があなたでも逃げませんよ」
「自由、とは、どの程度の?」
「馬車に閉じ込めたりせず、お友達と文通したり、お茶会したり、ボートに乗って川で遊んだり、っていう自由です」
「なるほど。それなら大丈夫です。結婚しましょう」
「はい?」
「では、急いで書類の作成と……陛下への連絡と、あと神殿へ婚儀の予約と……あぁ、招待状と衣装の手配、サテラスへも一応連絡しなければなりませんね。うーん。すみません、どう考えても準備に三か月はかかりそうです」
「ちょっと待ってください。なんで結婚する方向で話が進んでるんですか! 今のは返事じゃなくて、聞き返すときのハイ? ですよ!」
アシュラスの顔の前に手のひらをひろげ、ストップをかける。
「でも私、メロディア王女のことを好きになってしまいましたし。王女に思い人がいないなら、私でいいじゃないですか……王太子がいいなら諦めますけど」
いろいろ話の流れに追いつかないけど、本当に私のこと好きなら「諦めます」って笑顔で言えるものですか? あなた、また、なにか突発的に予定変更したんじゃないでしょうね?
「……そうですか」
「ところで、遊牧の民との婚姻が嫌なのは、もしや思い人がいらっしゃるからではありませんか?」
「はぁ?」
「もしそうなら、隠さず私におっしゃってください。王女殿下の夫になるに相応しい身分ならば我が国から交渉し、掛け合ってさしあげますし、身分が低い者でしたら、我が国の爵位を与えここで夫婦仲良く暮らせるように手配します」
「……いませんよ、そんな人」
私にばかり都合の良い話を語るのは大国の陛下直属の騎士、それも高位貴族確定の王族血縁者。多分実行しようと思えば可能でしょう。ただ、目的は私の頭、と言ったからには、私個人の自由は存在しないかもしれない。箱庭で飼われるおままごとみたいな夫婦生活が待っている可能性だってある。
もし結婚したほど好きな人がいたら、この甘い罠にひっかかっていたかもしれないけど。
「本当ですか? ではなぜ、あのように危険なことを? 運良く下の階へおりられましたが、物音一つにでも驚けばあっという間に落ちたかもしれないんですよ?」
命がけで逃げたくなるほど結婚すること自体が嫌なのかと問われた。
「それは少し違います」
別に政略結婚でもかまわない。結婚することだってかまわない。ただしその相手が遊牧民なのは嫌。それだけ。
「遊牧の民がそこまで憎いですか」
「それもちょっと違います」
穀物や家畜だけでなく、抵抗した村人の命すら奪っていく遊牧民の蛮族を好きかと言われたら嫌いだけど、過去の行いが原因で遊牧民の族長と結婚したくないってわけじゃない。
「では、どのような理由です?」
「それは……言えません」
生活水準が下がるのが嫌なんです。
贅沢に慣れ切ったこの体で、朝の水くみから掃除洗濯、朝と夜の食事作りに衣類作成、定期的にテント自体を移動しての遊牧生活。
無理。考えただけで無理。洗濯が洗濯機に放り込んで、脱水されたやつを干すだけならいいけど、一から全部手動とか……。料理だって、パック詰めされた肉を調理するのとは違う。それにレトルトもないから味は全部自分で作らなきゃならないし、そもそも調味料がどれだけあるのかもわからない。
うちの国で普及しはじめたコンロもない生活。火おこしが楽しいのはキャンプの時だけであって、それが毎日になったら苦痛でしかない。お父様にわがままと言われたっていい。
わがまま第二王女の実の妹なんだから、私がわがままなのは王家の血のせいに違いない!
「理由はお伝えできませんが、遊牧民の妻になるのが嫌なのです。結婚自体が嫌というわけではありません。もちろん、他の男性でも、嫌な場合はあるでしょうけど」
私が求める生活水準を最低限用意できるのは貴族か裕福な商人くらい。
うちの国の平民男性と結婚しろと言われても、私は逃げるかもしれない。
「……ちなみにこの国の王太子はどうですか?」
「お会いしたことはありませんけど、逃げたりはしないと思います」
むしろ生活水準上がるし、よっぽど酷い男性じゃなければ全然おっけーです。
「ふむ」
「そういえば、王太子殿下との婚約をうちに提案するんですか?」
王女本人がここにいる時点で、うちの国にとっては提案というか脅しに近いけど。
「私ならどうです? 逃げますか?」
「……それ答える必要がありますか」
「是非。本気で考えてきちんとした答えをください」
正直、アシュラスの見た目は最高にいい。金髪で青い瞳の長身イケメン。私を抱き上げて歩いても平気なほど鍛えられた体。しかも王や王太子と濃い血のつながりがある高位貴族。
メイドも執事もいるだろうから、私が家事をすることもない。お菓子だって食べ放題。私は宝石とか装飾品にあんまり興味ないけど、まあ望めばくれるだろう。
性格は少し難ありかもしれないけど、暴力的ってわけでもないし……。
「私に自由をくれるなら別に相手があなたでも逃げませんよ」
「自由、とは、どの程度の?」
「馬車に閉じ込めたりせず、お友達と文通したり、お茶会したり、ボートに乗って川で遊んだり、っていう自由です」
「なるほど。それなら大丈夫です。結婚しましょう」
「はい?」
「では、急いで書類の作成と……陛下への連絡と、あと神殿へ婚儀の予約と……あぁ、招待状と衣装の手配、サテラスへも一応連絡しなければなりませんね。うーん。すみません、どう考えても準備に三か月はかかりそうです」
「ちょっと待ってください。なんで結婚する方向で話が進んでるんですか! 今のは返事じゃなくて、聞き返すときのハイ? ですよ!」
アシュラスの顔の前に手のひらをひろげ、ストップをかける。
「でも私、メロディア王女のことを好きになってしまいましたし。王女に思い人がいないなら、私でいいじゃないですか……王太子がいいなら諦めますけど」
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