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逃走中
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行き当たりばったりの無計画な家出の第一関門【王女の部屋からの脱出】がこうもあっさり達成できると、拍子抜けしてしまう。この旅の警備責任者は無能なんじゃないかと思わずにはいられない。
無能万歳! ありがとう……そしてごめん。
私がいなくなった後のこの旅の同行者たちの事を考えると鬱になるから、今は考えない。自分勝手とか利己的だとか罵られてもいい。私は自分の未来が大事。
「さて、もうこれは必要ないわね」
不意打ちの用事でメイドが寝室へ戻って来た場合に備えて着ていた寝間着を脱ぎ捨てる。これでもう、どっから見ても平民の少女だろう。ただし、この貸し切り中の宿に平民の少女がいるのは不自然なので、誰かに見つかる前に一階までおりて外にでないといけない。
脱いだ寝間着をソファーの下に押し込み証拠隠滅。
のんびりしている暇はない。外の兵士が戻ってきたら王女の部屋の異変に気付かれて、寝室に私がいないことがバレてしまう。そうなったらもう、この宿から出ることは不可能になってしまう。
「急がなきゃ」
廊下へ続く扉を開けて様子をうかがう。
宿の外から聞こえてくる声のおかげで、多少の音なら大丈夫そうだし、今は人もいないみたいなので、廊下を一気に走ることにした。来た時に三階までのぼった階段がすぐ近くにある。
「ここの階段はダメだ」
「ひゃぁっ!」
「静かに」
ぬぅっと廊下の死角から出てきた男に声をかけられて、寿命が縮んだ。
「この先はサテラス国の騎士が立っている。使用人通路を使うといい」
宿の表の出入り口に呼び集められた兵士とは別に、屋内にはうちの騎士がいるのをすっかり忘れてた。部屋から出られて舞い上がっていたけど、なんだか急に怖くなった。宿の中を警備している騎士は全員私の顔をしっかり覚えているから、平民のワンピースなんてなんの意味もない。
「案内しよう。こちらだ」
「え?」
「見つかれば大変なことになる。さあはやく」
「あ、えぇっと、はい」
男の恰好は騎士でも兵士でも、旅の従者でもない。どちらかというと私と同じ平民っぽい恰好だ。
案内してくれるってことは、この宿の従業員だろう。そして私がこの宿に不慣れなことに気付いている。
……もしかして、表に集まったうちの一人が宿に侵入したって思われているのかな?
それなら確かに、騎士や兵士に見つかったら大変なことになる。王女が泊まっている宿に侵入するなんて、暗殺を疑われても仕方ない。
「ありがとうございます」
「……いや」
廊下の突き当り右にある部屋のカギを開けて入ると、部屋のすみに階段があった。
「客とすれ違わないための使用人専用の階段だ。一階の部屋からそのまま外へ出られる」
「そうなんですね」
部屋の中にあった階段をおりていくと、一階の部屋には扉が二つあった。
親切な男性が外への出入り口を教えてくれた。その反対側にある扉は廊下に出るための扉か。
外へ続く扉のカギを内側から開けてもらって、私はついに宿の外に。
「ありがとうございました。おかげさまで無事外へ出ることができました」
深々と頭を下げて感謝すると、男性は少し戸惑っているように見えた。
「あ、いや。その……気にするな。それにまだ安全とは言えない。騒動の鎮圧に駆り出された警備隊がそろそろ戻ってくる頃だろう」
「え! それは困ります」
バルコニーのシーツが! 風になびいてるだろうシーツが見つかっちゃう!
「この時間、左へまっすぐ進むと裏の勝手口の警備が手薄になっている。カギはかかっていないから、そこから出るといい」
「何から何まで、本当にありがとうございます」
さすが王女が宿泊する宿の従業員。私が知らない警備体制や交代時間までしっかりと把握しているらしい。
「夜道はあぶないので気を付けて」
「はい!」
「……中途半端な案内は逆に危険か。俺も勝手口まで行こう」
「え? いいんですか?」
こちらとしては道を知っている人がいると心強い。なによりこの人は宿の従業員だからもし誰かに見つかってもなんか言い逃れできそうだし。
親切な人を利用しまくって申し訳ないけど、背に腹は代えられない。
無能万歳! ありがとう……そしてごめん。
私がいなくなった後のこの旅の同行者たちの事を考えると鬱になるから、今は考えない。自分勝手とか利己的だとか罵られてもいい。私は自分の未来が大事。
「さて、もうこれは必要ないわね」
不意打ちの用事でメイドが寝室へ戻って来た場合に備えて着ていた寝間着を脱ぎ捨てる。これでもう、どっから見ても平民の少女だろう。ただし、この貸し切り中の宿に平民の少女がいるのは不自然なので、誰かに見つかる前に一階までおりて外にでないといけない。
脱いだ寝間着をソファーの下に押し込み証拠隠滅。
のんびりしている暇はない。外の兵士が戻ってきたら王女の部屋の異変に気付かれて、寝室に私がいないことがバレてしまう。そうなったらもう、この宿から出ることは不可能になってしまう。
「急がなきゃ」
廊下へ続く扉を開けて様子をうかがう。
宿の外から聞こえてくる声のおかげで、多少の音なら大丈夫そうだし、今は人もいないみたいなので、廊下を一気に走ることにした。来た時に三階までのぼった階段がすぐ近くにある。
「ここの階段はダメだ」
「ひゃぁっ!」
「静かに」
ぬぅっと廊下の死角から出てきた男に声をかけられて、寿命が縮んだ。
「この先はサテラス国の騎士が立っている。使用人通路を使うといい」
宿の表の出入り口に呼び集められた兵士とは別に、屋内にはうちの騎士がいるのをすっかり忘れてた。部屋から出られて舞い上がっていたけど、なんだか急に怖くなった。宿の中を警備している騎士は全員私の顔をしっかり覚えているから、平民のワンピースなんてなんの意味もない。
「案内しよう。こちらだ」
「え?」
「見つかれば大変なことになる。さあはやく」
「あ、えぇっと、はい」
男の恰好は騎士でも兵士でも、旅の従者でもない。どちらかというと私と同じ平民っぽい恰好だ。
案内してくれるってことは、この宿の従業員だろう。そして私がこの宿に不慣れなことに気付いている。
……もしかして、表に集まったうちの一人が宿に侵入したって思われているのかな?
それなら確かに、騎士や兵士に見つかったら大変なことになる。王女が泊まっている宿に侵入するなんて、暗殺を疑われても仕方ない。
「ありがとうございます」
「……いや」
廊下の突き当り右にある部屋のカギを開けて入ると、部屋のすみに階段があった。
「客とすれ違わないための使用人専用の階段だ。一階の部屋からそのまま外へ出られる」
「そうなんですね」
部屋の中にあった階段をおりていくと、一階の部屋には扉が二つあった。
親切な男性が外への出入り口を教えてくれた。その反対側にある扉は廊下に出るための扉か。
外へ続く扉のカギを内側から開けてもらって、私はついに宿の外に。
「ありがとうございました。おかげさまで無事外へ出ることができました」
深々と頭を下げて感謝すると、男性は少し戸惑っているように見えた。
「あ、いや。その……気にするな。それにまだ安全とは言えない。騒動の鎮圧に駆り出された警備隊がそろそろ戻ってくる頃だろう」
「え! それは困ります」
バルコニーのシーツが! 風になびいてるだろうシーツが見つかっちゃう!
「この時間、左へまっすぐ進むと裏の勝手口の警備が手薄になっている。カギはかかっていないから、そこから出るといい」
「何から何まで、本当にありがとうございます」
さすが王女が宿泊する宿の従業員。私が知らない警備体制や交代時間までしっかりと把握しているらしい。
「夜道はあぶないので気を付けて」
「はい!」
「……中途半端な案内は逆に危険か。俺も勝手口まで行こう」
「え? いいんですか?」
こちらとしては道を知っている人がいると心強い。なによりこの人は宿の従業員だからもし誰かに見つかってもなんか言い逃れできそうだし。
親切な人を利用しまくって申し訳ないけど、背に腹は代えられない。
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