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第三王女、出立!

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 できることなら、大々的なパレードの前に城を出てしまいたかった。
 私だって十数年この国で王女として生きてきて、王族としての役割や役目というものを理解しているつもりだし、今回の政略結婚は間違いなくこの国のためになる。

 私が姿を消せば、一度縁を結んだ国と遊牧民の一族との関係はまた変化するだろう。けれど、相手は私の顔を知らない。この国には、嫁入り前の王女があと一人いるから、そっちを差し出せばいい。

 病院や小さな村々への慰問という王族の仕事を一切しない、第二王女。

 行きたくないと騒ぐだけ騒いで面倒ばかり起こすからそういう仕事を一切任されなくなった第二王女は、そのわがままっぷりで、今回の嫁入り候補にならなかった。

 第一王女が嫁に行ってからは、彼女と二人で分け合うはずだった細々とした地方への訪問活動はいつの間にか私の仕事になっていた。
 
 それはまあ、いい。別に地方を巡るのは嫌いじゃなかったし、お姫様が来たとちやほやされるのは楽しかったから。それに第二王女が嫌がる分、素直に出かける私はとても評判良かったし。

 でも、わがまま王女を嫁がせて面倒になるよりは、従順な王女を嫁がせてしまった方がいい、という父王と重役たちの判断には納得できない。

 わがまま王女の方にこそ、原始的で野性的な生活に対応できるたくましさが備わっている可能性があるだろうと私は思う。
 誰になんと言われようが「うふふ」と笑って受け流し「おほほ」と笑みを浮かべたまま王族の権力を行使して敵を排除する第二王女の方が、下々の評判を気にする私なんかよりよっぽどメンタル強いだろう。

 けれど残念ながら、パレードの前日までに城から抜け出すことは不可能だった。

 そもそも、城下にお忍びで出かけるなんてどっかの将軍様みたいなこと、常に周囲に護衛がいる私には無理な話だったわけで。

「メロディア、頼んだぞ」
「お父様、お元気で」

 王と王女、父と娘、私たちの最後の会話はたった一言だった。

 あとはもう、嫁入りお披露目出国パレードの進行役から選ばれた司祭があれこれと私の輝かしい過去の行いを並べ立て、今後は遊牧民と共にありながらこの国のために祈りをささげてくれるだろう、とかわけのわからない理想を語ってる間、私はいつ抜け出すか、どう出し抜くかだけを考えて顔に笑みを貼りつけて集まった民衆に手を振った。

 笑顔で送り出してくれる者、泣いている者、王家万歳と叫ぶ者など、様々な顔が見える。

 彼らには悪いと思うけど、今まで私は王女としてこの国のために尽くしたつもりだから、今後の人生は私のために使わせてもらう。
 
『第三王女殿下、ご出立!』

 民衆の歓声と楽団が奏でる演奏の中、私を乗せた馬車は動き出した。

「さようなら」

 通り過ぎる景色の中で、何度も目に入ってくる均等に設置されている街灯は、昔私が提案したもの。闇夜の中でランプ片手に巡回する城の兵士たちのために、固定の光があればいいと思って。

 最後の街灯を通り過ぎ、城下の町から出たことがわかった。 
 
 数日後には、族長が待つ草原と我が国の境目に到着してしまう。それより前に、この馬車の中から逃げ出さなくては。 
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