きさらぎ駅

水野華奈

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”さんず”から”やみ”へ

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その後すぐに、匠は感覚を頼りに私の手を探してキュッと握り締めてくれた。


深い闇のせいで、近くにいるのに顔が見れないのがもどかしい。


まるで目隠しをされてるみたい。


でも手のひらと僅かに触れる肩から伝わる熱だけはやけにリアルで、これが匠のものだと不思議に安心するのだ。




「ほら、こうすれば少しは怖くない」


「………うん」




小さな返事をして、顔を背けた。


今の顔は絶対赤い。


こんなやり取りをしてしばらく二人で楽しげに歩いていると、匠が神妙な面持ちで言ってきた。




「……沙耶。なんかおかしくない?香織ちゃんは車に乗ったって言ってたのに車の音も何も無音だし、ましてや何にも行き当たらない」


「私もおかしいと思ってた、同じ所をグルグル回ってる感じもないし。匠、やっぱり私の携帯もつけてみよう?一つの灯りだけじゃ…」




使い物になってないよ。
そう言おうとして言葉を濁した。




「ふっ」




微かな小さな笑み。





「じゃあお互い顔確認しようか。顔に直接当てれば顔確認くらいできるだろ?確認しないと沙耶がいつまでも不安だろうし」


「……も~!!ちょっと待ってて」





こごそごそと腰回りを手探りで探す。


光は探しやすいように、私の腰辺りを移してくれてるが全く意味がない。




光が通らない闇。




それが此処。
やみという場所。




「あっ、あったあった!!」




片手を匠の手と繋いだまま探すのは少し難しかったが、離してしまったらきっと……匠を探すのに手間取ってしまう。


もしかしたら二度と繋げないほどの何かが起きるかも知れない。


それが怖くてその小さな温もりを離すことができなかった。


やっと見つけた携帯を開いて、私はその光をぼんやりと自分の顔に近づける。




匠の持つ携帯の光もゆっくり自身の顔に向けて移動してるのがわかった。




う~…今の私。
ぼんやり顔が移って下手なお化け屋さんの脅かし役みたいになってるんだろうな。


懐中電灯の光を子供の時に顔に当てたりしたけど、たったそれだけで十分怖く見えるのだ。



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